表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十章 君級魔法使い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/176

第九十一話 最悪

 虹剣1688年9月7日。


 西黎大陸、レナセール王国。

 王都西口前にて、一人の君級魔法使いが二人の魔王側近と相対していた。


「俺を殺したいって……そりゃ困ったな」

「あなたの首がほし〜」


 天戒(てんかい)、レスト・バレットメア。

 歳は七十四歳と高齢ではあるが、

 彼は魔族であるためまだまだ若者である。


 青い髪がくるくるとしており、桃色の瞳が綺麗だ。

 彼は好青年という感じで、身長も高い。


 だが魔法使いとしては天戒を冠するほどの実力者、

 メインは使役魔法でありながらも、属性魔法なども扱える。


「俺は首をやるファンサまではしてない。

 やれてそうだな……爪とか?」


「きったない会話ね。

 あなたがくれなくても首はもらっていく。

 私たちは魔王側近ですもの」


 嫉妬のレアルトがそう言った。


 彼女は普通の人族と変わらない見た目だ。

 人族と魔族(黒蛇(こくじゃ)族)のハーフであり、

 真っ黒な瞳と真っ黒な髪の毛でショートヘア。


 見た目自体は人族と見間違えるもの。

 だが彼女の舌は蛇のように裂けており、人ではないことがわかる。


 そしてレアルトの隣にいる強欲のユーラル。


 人族と魔族(妖狐(ようこ)族)、狐の耳と九本の尻尾を生やし、

 黄金の瞳と黄金の髪の毛を持ち、

 口調に似合う少女の姿をした彼女。


 この二人がどう戦うかは情報が回っている。


 嫉妬のレアルトは魔法使いとして、

 最も必要とされる想像力がずば抜けて高い。


 魔法使いにおいて想像力は才能だ。

 ここに関しては何をしても才能次第である。


 彼女は即興で魔法を作り上げる。

 一度使った魔法は二度と使わない戦い方。


 それが意味することつまり、常に初見の技を対応しなくてはならないということ。


 故に彼女は300年もの間、嫉妬の名を有している。


 そして強欲のユーラル。

 彼女は120年ほど生きている魔族であり、現存する魔王側近の中でもトップレベルで若い。


 過去の文献からわかっていることだが、

 ユーラルは召喚魔法を常に発動しながら、軍勢をたった一人で作り上げ、草魔法と風魔法を扱う。


 彼女の一番の強みは、技巧技である多重発動だ。


 多重発動、それを極めたが故に召喚を行いながら属性魔法を放てるのだろう。



「……やっぱ一人でいるもんじゃないな」


 レストは頭をかきながらそう言い、

 砂の上にて突き刺す日差しの中、体が震えていた。


「私はあなたが羨ましいけどね。

 一人は気楽でいいじゃない?」

「なんだ皮肉か?俺だって友達はいるぞ!」

「案外捻くれてるのね」


 レストは横に手を突き出し、黒い渦を発生させると、その中から赤い手が伸びてきて真っ赤な体を持つ者が出てくる。


焦土星(アレルミー)


 黒い渦から全身が出てくると、手足と背中が激しく燃え上がり、戦闘態勢へと移行する。


「それじゃあ、楽しく行こう。

 楽しい楽しい説教だ。お前たちを戒めてやる」


 小さな魔法に杖を取り出してそう言うレスト。



 レストの得意な魔法は二つ、使役魔法と氷魔法だ。


 そして彼が今現在所持している使役個体の数は、

 1345体。標準的な使役数は100だ。

 将級でも500体ほどであり、彼の異常なまでの才能の高さが垣間見える。


 レストは焦土星を筆頭に大量の使役個体を顕現し、

 二対一の差を埋めようとした。


「百鬼夜行一幕、御祭り騒ぎ〜」


 だが、対するのは召喚魔法にて軍勢を作り上げる強欲のユーラル。

 召喚魔法と使役魔法じゃ規模の差が大きすぎる。


 魔力さえあれば召喚は行うことが可能であり、

 無限に補充が可能となる。


 溢れ出すように両者の軍勢が顕現され、

 砂漠にて小さな戦争が始まる。


「……焦土星、お前はあの狐の女を頼んだ」


 焦土星は無言で頷き、レストは手に氷を纏わせ、

 レアルトへと体を向ける。


「あなた、確か使役魔法使いなんでしょう?

 属性魔法での戦いで私に勝てるとでも?」

「あぁそうだな。一応勝つつもりとは言っておく」


 レアルトはそれを聞いた瞬間、

 大量の魔法陣を展開して臨戦態勢となった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 焦土星、元君級邪族最強。

 知性なしの中では明らかに別格だった。


 剣塵が暴食を討った防衛戦争時、

 焦土星を倒すべく、レストはガルダバ、ユマバナと共に戦った。


 怪物と呼ぶに相応しい強さ、

 焦土星を使役できたのは奇跡に近い。


 魔王側近、個々が一騎当千の七人。

 現在は五人しかいないが、それでも脅威なことに変わりはない。


 だが焦土星は、強欲のユーラルという自身で戦うことをあまり考えていない者からすれば、かなり強い相手だ。


 勝ち目はある。

 レストだからこそ、この戦い方ができる。


 焦土星は腕に剣状の火を纏わせ、

 ユーラルが召喚した大量の召喚体へと突っ込み、

 爆発を起こしながらユーラルへと切り掛かる。


 ユーラルは呆気なく肩から腰へと斬撃を喰らい、

 そのまま少し後ろへと吹き飛ぶ。


 焦土星はそれに対して大量の火の斬撃を放ち、

 こちらへと寄ってくる軍勢を駆逐しながら追撃を行った。


 少し煙が上がってユーラルが見えなくなった時、

 煙を貫いて風の斬撃が焦土星へと飛んでくる。


 やはりだ。ユーラルは自身で戦うことが得意じゃない。


 焦土星は軽く斬撃を弾き、また地面を一気に踏み込んでユーラルへと急接近したのちに、火の斬撃を放って至近距離で爆発を起こす。



 焦土星が圧倒する中、

 レストの方でも戦いが始まっていた。


土変(ドザイア)


 レアルトがそう呼称すると、大量の魔法陣から鋭く尖った岩石が出現し、一気にレストへと放たれる。


 レアルトの魔法はこの土変だけだ。

 だが毎回内容が変わる。


 小技でも大技でも同じ呼称。

 即興で魔法を作り上げる規格外の想像力。


 魔王側近らしい常軌を逸した強さだ。


 レストは氷魔法を発動し、

 岩石へと氷塊を当てて相殺する。



 こいつ……本当に即興で魔法を作るんだな。

 どうするか、俺は属性魔法を極めたわけじゃない。

 となると勝利の鍵は焦土星……

 あの狐の魔王側近に一瞬で負けるはずもない。


 魔王側近の倒し方は魔力を枯渇させること。

 狐の方はあんなに召喚したんだ。潰すならあの狐から……さてどうやってこの蛇女を乗り切るか。



 レストは思考を巡らせていると、

 レアルトが空に浮かばせる魔法陣が光った。


土変(ドザイア)


 その呼称と共に魔法陣から岩石が伸びてきた。

 それはレストの横を通り過ぎると、そのまま軌道を変えて再びこちらへと向かってくる。


 なるほど、追尾型か。

 岩石に当たったら、そのまま別の岩石に挟まれて一瞬で勝負が終わるな。


 レストはそのリスクを考え、

 氷魔法にて岩石を破壊しようとした瞬間。


土変(ドザイア)

「!?」


 レストはすでに、岩石を作り出すのに使っている魔法陣から、魔法が放たれる瞬間を目にした。


 魔法陣から放たれた岩石が、超高速でレストへと襲いかかる。


 間一髪致命傷は避けたものの、

 レストの肩が少し抉れた。



 追尾型の岩石は魔法陣から放たれたものじゃない?

 まさか……魔法陣の前から無陣魔法で、あたかも魔法陣を使っているように見せかけたのか?



「予想は当たってるわよ。

 魔法陣から出てたとしても、

 それが魔法陣本来の魔法とは限らない」


「ははっ、なんで当ててくるんだ?

 まぁ考えてることなんて大体わかるか。

 そんな技見たらこう考えるもんな」


 レストは魔法陣を展開する。


氷山礫(カルユラバス)!」


 巨大な氷塊を大量に召喚し、レアルトへとぶつけるように放ち続ける。


 それをレアルトは走りながら避けていき、

 また同じ呼称にて魔法が発動された。


土変(ドザイア)


 次は岩石でできた槍が大量にレストへと飛んできた。だがそれはレストが放つ巨大な氷塊が壁となって防がれる。


 レアルトはそこで違和感を覚えた。


 レストの周りを囲うように氷塊が積み上がっている。ちょっとした氷山のようだった。


氷散塵(アルスジャ)!」

「っ、しまっ!」


 レストがそう呼称したのは、氷を爆散させる魔法。

 大量に置かれた氷塊が爆発すればどうなるか。


 爆散した氷塊が棘のように辺りを襲い、

 レアルトはそれによって脇腹を貫かれる。


 レストは追加で氷を作り出し欠片を防いでおり、

 まともに喰らったレアルト見て少し口角が上がる。


「っ!?」


 ゾワっとした感覚がした。

 それと共に爆音も聞こえ、思わず焦土星の方を見る。レストは見えた光景に絶句した。


「なんじゃぁ弱っちいのう。

 もしや妾が戦えぬとでも?」


 焦土星が敗れていた。


 色々と情報量が多い。

 戦っていた狐の少女が大人になっている。



 なんだ?あの姿は……

 それにさっき召喚された邪族もいない。

 召喚魔法をやめて自身の強化に回したのか?


 どちらにせよ焦土星が倒されたのはしくじった。

 まだ死んでいないはずだ。

 顕現を解除して俺の魔力で回復させて一緒に戦う。


 大丈夫だ。焦るな……まだどうにかなる。


「お主を殺せばよいのかう?」

「……え?」


 気がつけなかった。

 背後に立っている強欲のユーラル。

 レストの背筋が凍りつき、咄嗟に体が動いて背中から氷柱を出現させる。


 ユーラルはそれを避け、レアルトの横に歩いて戻ると、レストは驚いた表情で二人を見続けていた。


「そうかお主、理解できぬか。

 それもそうじゃ、妾がこの姿になるのは久しい。

 妾はユーラルの歓喜を司る姿じゃ」


 なにを言ってるんだこいつは?

 喜びを司る姿……?そんなの知らないぞ。

 じゃあ、あの小さいのはなんだ?


「先までの姿は恐怖を司る姿……

 どうせ死ぬじゃろうから親切に話しておいてやる。

 妾には九つの姿がある。

 歓喜、憤怒、驚嘆、悲嘆、

 恐怖、嫌悪、敬愛、関心、

 そして最後に虚無」


 待て待て待て、じゃあまさか……

 こいつ九回も戦い方が変わるのか?


 ふざけんな最悪だよ。

 ……実力が足りない。魔王側近がもし一人で来てくれたら……もしかしたら倒せたかもしれない。


 なんで二人で来るんだよ。

 しかもどっちも戦法が多彩なタイプだなんて……

 焦土星がやられたってことは、

 恐れの状態は召喚魔法特化、喜びは本人特化か?


 考えてもわからない……

 まぁ勝ち目が限りなく薄いことはわかった。



 さて……ここからどうしようか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ