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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第九章 恋する魔法使い 恋情編

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第八十七話 幸福論

 虹剣1688年9月17日、午前9時47分。


 私はライメの腕の中で目を覚ます。


「ん……」


 ライメはまだ寝ている。

 相変わらず可愛らしい顔つきだ。


 さて、ついに結ばれた二人。

 フラメナは満足そうにライメへと距離を詰めて抱きつく。


 こんなにも清々しい朝はいつぶりだろうか。

 なんだか健康的になった気がしてしょうがない。


 やっと、人並みの幸せを手に入れることができた。


「……おはようフラメナ」


 ライメは目を覚ましてそう言ってくる。


「えぇ、おはようライメ」


 二人はそう挨拶を交わすと、ライメが問うてきた。


「よく寝れた?」

「うん、ぐっすり寝れたわ」

「今日はなにかしたいことでもある?」

「特にないけど……強いて言うならライメのそばにいたいわ」


 そんな言葉に少し微笑むライメ。

 ライメはフラメナを抱きしめて起き上がり、

 ベッドの上で向き合う。


「朝食作るけど、何か食べたいものはある?」

「ライメのだったらなんでもいいわよ!」


 フラメナは腹を空かせているのか勢いよくそう言うと、ライメはベッドから降りて立ち上がる。


「なら、特別にフラメナ好みの朝食を用意するよ。

 僕のセンスを見せてあげる」

「ふふっ、期待してるわ」


 そう言ってベッドから離れてキッチンへと向かうライメ、ライメの背中を見ながらもフラメナもベッドから降り、部屋の中を歩き窓へと近づく。


 窓を開ければ涼しい空気が部屋を駆け巡り、

 フラメナの髪を抜けて靡かせていた。


 ゼーレ王国王都。

 過去の王都とは全く違う景色。

 それでもなぜか魅入ってしまう懐かしさがあった。



 私はこの街が大好きだ。

 エルトレたち、お姉様、クランツ。

 そしてライメ。

 

 私はもう二度と失いたくない。

 そのために強くなったの、だから絶対に次こそは失わない。この街も、友達も家族も師も愛する人も。


「わっ!」

「っ!?」


 ライメがいきなりフラメナへと抱きついて驚かせてきた。


「景色を見るのもいいけど、顔洗ってきたら?」


「もうっ驚かす必要ないでしょ!」

「ごめんごめん」


 少し笑いながらそう言うライメ。

 フラメナは優しく微笑み、顔を洗いに洗面所へと向かう。



 こうして二人きりで過ごす時間も悪くはないが、

 せっかく南大陸に帰ってきたんだ。


 ライメは魔法教師を目指すという目標があり、

 フラメナもなにかすることを見つける必要があった。


 フラメナは考える。

 今自分がするべきこと。


「……」


 濡れた顔をタオルで拭き、鏡を見つめる。



 フラメナは自分の魔法について気になった。


 魔王側近にのみ特効があることや、

 見る者たちを恐怖させてしまうことなどだ。


 一体なぜ?確かに未知の魔法は怖いだろうが、

 あそこまでの拒絶反応が出るのもおかしな話だ。


 フラメナは今でこそ君級魔法使いとして認められ、

 彼女の白い魔法を拒絶する者は少ないだろう。


 だが、誰であろうと恐怖している。

 以前のような絶許な姿勢はないだろうが、

 心の中では拒絶している者が多くいるはずだ。


 私は自分をまったく知らない。

 今一度、向き合ってみるいい機会なのだろうか。


 フラメナはそう思いながらも身なりを整え、

 洗面所を出ていきライメの下へと戻る。


「私の魔法って……ライメはどう思う?」

「急だね……フラメナの白い魔法は好きだよ。

 普通の魔法と違って真っ白で綺麗だから」


 ライメは料理をしながらそう言う。


「……なんで私の魔法って拒絶されるのかしら?」

「みんな慣れてないだけだと思うよ。

 いつだって生物は新しいものに恐怖するからね。

 慣れていくしかない。僕は小さい頃から見てきたからあんまり恐怖とか感じなかったけど……」


 確かに、慣れなのだろうか。

 現に親しい関係の人物たちに、フラメナの魔法を拒絶する者は一人もいない。


 こんなに頭を悩ましてはいるが、

 正直、万人に好かれるつもりもない。


 ただ気になっているだけ、この魔法を好きだと言ってくれる人がいるならそれでいい。


「まぁ……ライメが好きって言ってくれるなら、

 どう思われたっていいわね!」



 朝食が完成した。

 二人は向き合って机を挟んで椅子に座った。



 その日は二人で過ごし、夜にフラメナが一度研究所に帰ったのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 フラメナたちが幸せを謳歌する中、

 他の大陸ではある脅威に直面していた。



 この出来事はのちに大陸新聞に載り、

 フラメナたちも知ることとなる。



 ″君級三名が戦死したのだ″



 北峰大陸にて。


「リ、リルメット様!海岸から魔王側近がっ!!」

「皆は下がっていろ、無駄に死ぬことは避けたい。

 俺が相手をしてやる」


 北峰大陸、魔城島側の海岸はその日騒がしかった。


 原因は明白、誰もが恐れる邪族、魔王側近。


 色欲のエルドレ・メラデウス。

 怠惰のフェゴ・ガルステッド。

 

 この二人が軍勢も連れずにやってきたのだ。


 斬嵐、リルメット・アグラスト。

 彼は内心この状況に絶望している。


 そして魔王側近が襲来したのは、

 なにも北峰大陸だけではない。



 西黎大陸にて。


「それで俺になにか用?」


 天戒、レスト・バレットメアはレナセールの王都を背にしてそう言うと、二人の魔王側近が話し出す。


「魔理様からのご命令。私たちはあんたみたいな君級戦士を殺せって言われたの。だから死んで」

「こよなく愉しもう〜御祭りだ〜」


 先に話したのが嫉妬のレアルト・デルデアン。

 そしてもう一人は強欲のユーラル・マルモンだ。


 レストはあまりにも強大な力を持つ二人に、

 苦し紛れのような苦笑いを見せる。


「さすがにキツいかもな……」



 中央大陸にて。

 王都から離れた平原には何個か村が存在する。

 基本的に君級たちは用事がなければ王都に滞在しているが、今日は少し違った。


 断罪のガルダバと不視のパラトアは、

 手合わせをするために平原へと赴いていた。


「っ!?」

「まさか死ぬまでに見れるとはのう……」


 二人が少し先から放たれる強大すぎる魔力に気付き、思わず視線をその方向へと向けた。


 憤怒、ドラシル・メドメアス。

 魔王側近最強と言われる魔族だ。


「君級が二人か、少し手間だが……どちらも剣士、

 この我と戦おうじゃないか、絶対に逃さんぞ」


 ドラシルは氷の双剣を両手に作り上げ、

 一気に辺りに冷気が漂い始める。



 この襲撃で三名が戦死した。

 戦いは激しいなんて言葉で表せるものではない。


 北峰大陸では海岸が消え、

 西黎大陸では山脈の一部にクレーターが作られ、

 中央大陸の平原が凍てついたそうだった。


 魔王側近と呼ばれる者たちは、基本的に強すぎる。

 フラメナが戦った傲慢のシルティは最弱だ。


 そう、あの強さが最弱なのだ。

 確かに、傲慢のシルティは戦い方が単純である。

 なにも難しい小細工はない。だが小細工をせずとも無敗を誇れるほどの素の力が強すぎる。


 魔王側近は過去400年間の間で五回しか討伐された記録がない。


 傲慢が二回、暴食が一回。

 強欲が一回、嫉妬が一回。

 

 こう見ると案外倒せていると思えるが、

 400年の間でこれだけしか倒せていない。

 それに加えて空席となった場には、新しくまた補充される。


 しかも一度も撃破されたことがない三名。

 憤怒、色欲、怠惰は未だ強さの底が見えていない。


 此度の君級三名の戦死、

 それは時期に世界中に伝わる。


 君級という頂点に立つ者が一気に亡くなれば、

 不安というのはあっという間に充満する。


 意外にも早く、戦争の火種は燃え上がろうとしているのかもしれない。


 四名の君級の戦いは、後に語られる。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 虹剣1688年9月29日。


 フラメナはライメと一緒に昼食を外で食べていた。

 他愛のない会話が続いていたが、フラメナの方から少し真剣な話題が出てくる。


「そう言えば、結婚はいつにする?」

「ぶっ!ゲホッ……け、結婚?」


 ライメは飲み物を飲んでいる時にそう言われ、

 吹き出しそうになるがなんとかグラスで堪えた。


「そんな驚かなくてもいいでしょ?結婚よ結婚。

 それとも結婚はするつもりじゃなかっ」

「違う違う!結婚はするつもりだよ。

 あっ……いや、その急に言われたからさ」


 少し照れるライメ、フラメナは結婚する上での話を始めた。


「私一応王族なの、それで今エイトール家は私とお姉様だけ、言っちゃえば名を継ぐ人がいないのよ。

 だから……結婚したら私の名がライメに入ることになると思うんだけど……それでも大丈夫?

 嫌だったら嫌でいいわよ。結婚しなくても私はライメが好きだから」


 王族ゆえの問題。

 エイトール家の名は絶やすわけにもいかない。

 ライメが結婚を承諾すれば、ユーラパラマという名はこの世から消える。


「結婚するよ」


 即答だった。


「でも、ライメの名は……?」

「いいんです……昔亡くなった父さんが言っていたんですよ。好きな人の願いは叶えてやるべきだって。

 こんなところでそれを出すのは都合が良いかもしれませんが……僕はフラメナの願いは聞いてあげたい」


 ライメはそう気持ちを伝える。


「なら……結婚しましょ!」


 フラメナはその気持ちに応え、結婚が決まった。


 幸せの裏で蠢く負の事象。

 南大陸へとそれは襲いかかるのだろうか。

第九章 恋する魔法使い 恋情編 ー完ー


次章

第十章 君級魔法使い 

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