第八十一話 新生活
明日は二話投稿です!
14時と18時に投稿されます!
いつぶりだろうか。
誰かに抱きつきながら泣いたのは。
フラメナはフリラメとクランツに再会し、
感極まって涙を流していた。
しばらくの間涙を流し、
三人とも落ち着いたのか涙が止まる。
フリラメはフラメナから離れ、
少し赤い耳のまま話し出す。
「噂は聞いてるわよ。君級魔法使いになったんでしょう?すごいわ……そこまで強くなっちゃうなんて」
「もうわたくしを超えてしまったようですね。
さすがのフラメナ様です……」
ベタ褒めされるフラメナ、クランツの言葉にフラメナは否定するように言い返した。
「でも、まだ私はクランツを超えられてないわ!
旅をして改めて感じたの。クランツはすごいって」
そう言うフラメナにクランツは優しく微笑む。
「そう言ってもらえて嬉しいですよ。
……そう言えばお仲間の皆さまは?」
「ほとんどついて来てるわよ!
もうメンバーは知ってるわよね」
フラメナがそう言うと二人は首を傾げる。
「いえ、新聞の方にはフラメナ様の記載しかなかったので……パーティー名は知ってますが……」
「えぇ!?ならきっと驚くわよ!
ちょっと待ってて呼んでくるわ!!」
フラメナは嬉しそうにそう言って走り出し、
研究所を出て行った。
「相変わらずの勢いね」
「はい、勢いは健在ですね……」
しばらくして、足音が聞こえてくると、
クランツとフリラメのところに皆がやって来た。
「クランツ先生……!!」
開口一番そう発するのはライメだ。
クランツはライメのことをよく覚えている。
フラメナほどではないが、成長した姿を見てすぐにライメだと分かる程度には記憶に残っていた。
「ライメ様っ!?」
クランツが大きく驚いた。それもそうだ。
まさかあの転移魔法を扱うのはライメであり、
滅亡時に転移魔法で生き延びていたとは、普通は考えられるはずがない。
クランツへと飛びつくライメ。
「クランツ先生……!」
「生きていたんですね……
よかった……本当によかった」
ライメにとってクランツは父親に近しい人物だ。
幼少期、ライメを支えたのはクランツだ。
憧れの存在でもあり、ライメの先生だ。
そうしてフリラメが後の者たちを見ると、
ルルスがニコニコとして立っているのが見えた。
「ルルスさんと合流したのね」
フラメナへとそう顔を向けてそう言うフリラメ。
ルルスはエルトレとラテラを連れてフリラメに近づき、軽く挨拶出来るよう環境を作る。
緊張した様子でエルトレとラテラは、
フリラメへと向けて自己紹介する。
「あ、えと、ラテラット・ミシカゴールです……
フラメナさんのパーティーで治癒担当でした」
「……エルレット・ミシカゴールです。
ラテラットはラテラって呼ばれてて、あたしはエルトレって呼ばれてます……」
ガチガチの二人にフラメナが思わず笑い出すと、
エルトレが「笑わないで」と頬を赤くしてそう言う。
するとフリラメはニコッと笑顔になり手を差し出す。
「フラメナをありがとうございます。
私はフリラメ・カルレット・エイトール。
今後関わることもあるかもだし緩くいきましょ?」
エルトレが先に握手すると、
その後にラテラが握手した。
エルトレとラテラは思った。
これがフラメナのお姉さん?
全然似てない……けど笑った時の顔は一緒。
フラメナとフリラメは一見似てない姉妹だが、
顔つきは似ており、どちらも美形と言える。
その後ライメもフリラメと挨拶を交わし、
皆これにて知り合いとなった。
「ガルドンちゃん?お店の予約を取ってきてくれるかしら?もちろんガルドンちゃん含めて八人よ」
「あてくしもよろしいのでしょうか!?
ありがたき幸せェ!!今すぐに予約を取って参りましょう!店名の指定はありますでしょうか!」
大きな声のガルドン、フリラメは目を瞑り、
少し悩んだ末にこう言った。
「ガルドンちゃんのセンスで頼むわ」
「御意!このガルドン、センスは神に勝ります故、
皆さまご期待くださいませ!行ってまいります!」
そう言い走り出して研究所を出ていくガルドン。
ライメがクランツに彼の詳細を聞いた。
「……あの人って?」
「最初は戸惑うでしょう……ですが良い人ですよ。
元はヴァイザー王国の民だったんですが、大遠征にてゼーレ王国へとやって来た者の一人です」
ガルドンは大遠征にて救われた人の一人であり、
それ故にエイトール家に忠誠を誓っている。
「お姉様ってお家はどこなの?
お城とかないじゃない」
ガルドンが研究所を出ていき、少しするとフラメナはそんなことを聞いた。
「ここに住んでるわ。二階が私の部屋よ」
そう言うフリラメ、自分のことを後回しにするのはフリラメらしいと言える。
「フラメナは南大陸に帰って来たのだから、
一つ家でも建ててみない?」
フリラメが家を建てることを提案すると、
フラメナは自身の理想を言葉として発した。
「建てるなら大っきいお家が良いわ!」
「お金は……いや無駄な心配ね。
たくさん稼いだんでしょ?」
フリラメがフラメナの肩を少しつつくと、
フラメナは頷き、「まぁね」と言う。
稼いだ額としてはかなりの物。
メンバー全員で分け合ってもフラメナの手元には、
まだ大金が残っている。
砂塵の撃退、傲慢の討伐。
その他諸々の報酬。
大きい家を建てることくらい、今のフラメナからすれば出来なくはないことだ。
「お家ができたらお姉様も私と一緒に住みましょ!」
「あらいいの?ならお家ができるまでは私の部屋に泊まっていいわよ」
そんなことを言うフリラメ。
フラメナはそれを聞いて嬉しそうだった。
「クランツ先生とかも家を持っているんですか?」
ライメがそう言うと、クランツは答える。
「定住型の宿に住まわせてもらってますよ。
なにせわたくしあまりお金がないので……」
どうやらクランツの懐は寂しいようだ。
「お姉ちゃん。僕たちは家どうする?」
「あたしは酒場を開きたいからさ、二階建てにして上に住まない?」
ラテラはエルトレのその提案に大賛成のようで、
何度も頷き賛成する。
そしてライメはクランツと同じように定住型の宿に住むことを決めた。
「ルルスさんはどうするんですか?」
「自分ですかぁ〜?自分は〜……」
ライメがルルスへとそう聞くと、
ルルスはフラフラと体を揺らしながら答える。
「定住型の宿ですかね〜。
自分は多分家を持つのは向いてませんし〜」
新生活へと向けて各々が住まいの形を決めた。
まあこれからのことはまた明日考えれば良い。
しばらくしてガルドンが帰って来ると、八人で食事へと向かった。
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虹剣1688年9月9日。
新生活が始まった。
昨日は皆がその場で解散した。
クランツと同じ宿に泊まることになったライメとルルス。酒場が出来るまではエルトレとラテラも定住型の宿に泊まるそうだ。
フラメナはフリラメとガルドンと共に研究所へ帰宅し、ガルドンは二人を研究所へと送った後、自身の家へと帰宅した。
今朝は快晴であり、窓から日差しが差し込んでフラメナの目元を照らし、自然と体を起き上がらせた。
フラメナの横にはいたはずのフリラメがおらず、
既に起きて一階にいるようだった。
二人は昨夜、ベッドが一つしかないので仲良く一緒のベッドで寝た。フラメナは覚えてないだろうが、よくこうして一緒に寝ていたものだ。
少し寝癖がついた髪でフラメナは立ち上がり、
眠たそうに一階へと降りていく。
一階へと降りればフリラメが机の上に食事を用意していた。
「おはようフラメナ、調子はどう?」
「うん〜、ちょっと食べすぎたわ……
朝ごはんはちゃんと食べるわよ!」
「もう少しで出来るから顔でも洗ってきなさい」
そう言われてフラメナは洗面所へと向かい、
顔を洗って髪の毛を整えて、リビングへと戻って来る。
研究所とは言うがかなり生活感が強く、
住みやすいお家という印象を受ける。
席に座って二人は向かい合うと、
手を合わせて食事を始める。
今朝の料理は軽いものばかりだ。
野菜を切って冷やしたものと、
半熟の卵焼き、それに加えて暖かいスープと、
パンを焼いたものが皿に乗っている。
美しい料理の面々だ。
標準的な健康な朝食。
肉ばかりだった旅の食事を思えば、
こういう料理も悪くない。
みんなは今、どうしているだろうか?
こうして食事をしている中でも、
ライメやエルトレたちの今が気になってしまう。
2年も一緒に過ごせばこう思うのも仕方ないのだろうか?
「フラメナは、これからどうするの?」
「まだあんま決まってないのよね……
お姉様とかが手伝ってほしいこととかあったら私が手伝うわよ!」
「ふふ、それは嬉しいけど、フラメナもやることは決めなきゃダメよ?」
これからどうしようか。
新生活は始まったが、意外にもやることはない。
今までは旅というものがあったので、別に生き方など決めなくても自然に生きていけた。
だがここからはちゃんと考えて生きていかなきゃいけない。
やることがなくなってしまうと、
何をすれば良いか悩むものだ。
焦る必要はない、ゆっくり探せば良い。
まだ新生活は始まったばかりだ。




