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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第八章 純白魔法使い 北峰大陸編

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第七十六話 思い出

 危機を脱した六人、余韻がまだ少し残る中、

 ルルスはフラメナ以外へと自己紹介を始める。


「初めまして〜、ルルス・パラメルノですぅ〜」


 緩い喋り方で物腰が柔らかい印象を感じさせるものでもある。ルルスはかなり若く見え、筋肉も太くなく、女性的な雰囲気を纏う男性だ。


 ルルスの自己紹介に対し、

 フラメナを除いた四人も名を名乗る。


 そうして軽い挨拶が終われば、フラメナは早速ルルスへと大量の疑問をぶつける。


「ルルスが出れなくなるほどの迷宮ってことは……

 どこかで詰まってるのよね?」

「はい〜、詰まってるのはこの階層なんです〜」


 ルルスは困ったような表情を見せ、フラメナが困っている理由を探るように予想を口にした。


「昔みたいな転移魔法陣のせいかしら?」

「種類だけ言えばそうなんですけど〜、昔入った迷宮とは違って理不尽なものじゃないんです〜」


 ルルスはこの迷宮について語り出した。


「転移魔法陣は確かに存在します。

 魔法陣は壁に書かれていて、

 壊せるものは何個か壊してきました〜。

 でも一つだけ、魔法でしか壊れない魔法陣があるんです〜。自分は魔法がまったく使えないので、帰ろうとしたら帰り道に転移魔法陣が出来てたんです」


 まず、今いる階層がルルスの到達した中で、

 最も深く、最も長く滞在した階層だと言う。


 この下の階層に行くには魔法でしか壊れない転移魔法陣を破壊する必要がある。

 だがルルスは魔法が放てないので、一度迷宮を離れて魔法使いを雇って連れて来ようとした。


 ここで想定外のことが起きる。


 帰り道に転移魔法陣が突如現れ、

 下層へと送り返されてしまうのだ。

 転移魔法陣を破壊したとて、またすぐにそれは出現し、ルルスを転移させる。


 ここはもしかしたら罠迷宮なのかもしれない。


「でも……フラメナさんがいるのでもう大丈夫ですね〜。パパッと攻略しましょ〜」


 ルルスがそう言うと、フラメナは紫の瞳を持つ霊族について聞いた。


「ルルス、結局ここに紫の瞳の霊族はいたの?」

「……まだ見かけてません。

 お気遣いありがとうです〜、自分の問題なのでフラメナさんは気にしなくていいですよ〜」


 そんなことを言うルルスに、

 フラメナは不機嫌そうに答える。


「気にするわよ!せっかく再会したんだからちょっとは私を頼りなさい!」


 ルルスはそんな言いつけに懐かしさを感じ、

 ニコニコとしながら頼ることを決めた。


「フラメナ、私じゃなくて私たちだよ。

 あたしたちも協力する気あるし」


 エルトレがそう言う。


 フラメナは笑顔でその言葉に反応し、

 ルルスへと目配せをすると、ルルスはフラメナの仲間たちにニコニコとした表情の顔を向けた。



 そこから一行は、休憩を少し挟んだ後に移動を始め、ルルスの言う転移魔法陣の前へと向かう。


 何十分か歩くと魔法陣の前に到達した。

 その魔法陣は黒かった。


 わかりやすい罠だが、魔法が扱えなければ壊せないというので、ルルスからすれば極悪非道な罠である。


 フラメナは魔眼を使い、その転移魔法陣の先に何か待ち伏せしている邪族がいないかを確かめる。

 魔眼で壁の向こうを見てみれば、全くオーラはなく、いきなり襲われることはなさそうだ。


 フラメナは魔法陣を展開し、手を壁へと向ける。


 ルルスを除く五人に、特別な感情などはなかったが、ルルスからすればこの光景は感慨深いものだ。


 ついに先へ進められる。

 この迷宮の奥に行けるのだ。


 フラメナの放った白い火は壁と直撃し、

 壁が音を立て崩れ、下へと続く階段が現れる。


 ルルスは少し真剣な表情で階段を見つめている。


「行きましょうか〜」


 ルルスは錆びた剣を取り出し、警戒した状態で下へと降りていくと、ルルスを先頭にフラメナたちも後ろからついていく。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 第二十四層。

 ここだけ雰囲気が違った。


 階段を降りれば真っ直ぐな通路が続き、道の果てには紫の扉があり、奥から大きな魔力を感じる。


 間違いない。ここが最下層、主の住む階層だ。


「……この奥にいますね〜」


 扉の先からは魔眼を持たずとも感じられるほどの、

 大きな魔力と威圧感が感じ取れた。


 ルルスは扉に手を当てて、五人へと一度振り返ると、表情を伺った後扉へと向き直し、扉を開ける。




 扉の先は大きな空間だった。

 かなり大きく薄暗い空間で、邪族の姿は見えない。


 扉が閉まり、鍵が掛かって逃げられなくなる。

 迷宮の主の部屋は大体こう言う構造だ。


「……あれなんだ?」


 リクスが目を細め、少し先で光る青色の光を見てそう言うと、皆もそれに集中する。


 すると次の瞬間、六人は状況を把握する。


 邪族がいないというのは勘違いだ。

 実際にはちゃんと目の前にいる。


 大きすぎるのだ。


「あれが……主?」


 ライメが驚いたようにそう言う。

 邪族は巨大な蜘蛛であり、全長は20メートルはあると考えられるサイズ感だ。


 黒く紫の模様が入る体は、非常に禍々しかった。


 その蜘蛛が動き出した途端、部屋中が青く光り、

 薄暗い空間は明るく照らされた。


 青い結晶がそこら中に存在していて、

 蜘蛛の体からも大量に突き出している。


「……結晶の中に人がいるわよ!」


 フラメナは大きなオーラの中で、

 小さく立ち上る蜘蛛とは別のオーラを見つけた。


「ルルス!あれが探してる相手なんじゃないの!?」


 フラメナが興奮したようにそう言うと、

 ルルスは既にその場から離れており、扉のそばでしゃがんで何かを見ていた。


 フラメナが探すように振り返ると、

 他の四人もルルスへと視線を向ける。


「ルルス……?」

「……」


 ルルスが見ているのは綺麗なネックレスをつけた白骨死体。


 フラメナに嫌な予感が走る。


「……ルルス、それって」

「そうですね……自分の″育て親″です」


 死亡していた。

 それもそうだ。もう何年も会えていない。

 この世界じゃいつ死んでも不思議じゃないのだ。


 加えて戦士ともなると、何十年も生きるのは稀である。ルルスの育て親はここで敗北したんだ。


 何箇所か骨が砕け、ひび割れている。

 おそらく実力不足だったのだろう。

 あの蜘蛛に負けたのだ。


 思えば名はなんだろうか?

 ルルスはネックレスを手に取り、裏面を見ると隷属の言葉で名が書かれていた。


 ノクテマ・パラメルノ。


 笑顔が素敵な女性の人族と霊族のハーフ。

 ルルスは過去の記憶が蘇る。



 彼女はルルスのことを溺愛していた。

 そんなルルスもノクテマが大好きだった。


 毎日無理して苦手な料理をする姿。


 焦げたパンにバターを塗ってそれを食べるノクテマ、ルルスには新しくパンを焼いたようだった。


 家事もあまり得意ではないのだろう。

 いっつも失敗ばかりしていた。


 でもルルスはそんなノクテマが大好きだった。

 自分のために頑張ってくれている。

 幼いながらに感動し、一緒に家事をするようになって失敗も減っていった。


 彼女はいつだって笑っていた。


 村の人から罵られても、怪我をして帰ってきても。

 何もうまくいかない夜だって笑っていた。


 ノクテマは辛い時ほど笑うという考えで生きていた。だが苦し紛れの笑顔は少なかったのだ。

 なぜなら辛いなら心からの笑みは生み出せない。


 本当に幸せだったのだろう。

 養子としてルルスを迎え入れ、名もつけてあげ、

 世話もちゃんとする立派な女性だ。


 それを幸せと感じられるほど立派な女性だ。



 でももうそんな彼女の笑みは見られない。



 頭蓋骨が笑っているように見えるのはなぜだろうか?ルルスは震えが止まらなかった。


 生まれて初めての激情。

 感情が抑えられなかった。


 覚悟ができていなかったわけじゃない。

 でもいざこうして現実を目の前にし、仇とも言える相手がいる状況。


 血管が浮き上がりルルスの息が荒くなった。


 彼の表情は憎しみに塗りたくられた怒りというよりは、それを必死に押し殺すような無表情。



 ルルスは立ち上がり、ネックレスをフラメナに渡して言う。


「あの蜘蛛は自分が殺します。

 少し待っていてください……

 それとこれを頼みます」


 ルルスの声はいつもの緩いものではなく、

 少し怒りを感じられる声だった。


 あの蜘蛛を一人で倒すなどという危険な行為は、

 普通なら止めている。

 だが今のルルスに言ったところで無駄だ。


 フラメナはネックレスを受け取り頷くと、

 ルルスは蜘蛛へと向かってゆっくり歩いていく。


 ルルスから放たれるオーラが一気に強まった。


 激しい怒り、悲しみ、憎しみ。

 それら全てがルルスを包んでいる。


 やることは決まっている。

 ただあの蜘蛛を殺すのみだ。


 これより仇と表した八つ当たりが始まる。

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