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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第七章 純白魔法使い 西黎大陸編

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第六十七話 黄金事変 Ⅲ

 黄金の煌めきと純白の輝き。

 戦場にて二人の戦士が向き合っていた。


 ここからが本番と言わんばかりに、

 フラメナは白炎を指先に灯して構え、

 シルティは首を鳴らしながら歩を詰める。


 両者いつでも触れられるほどの間合いに接近すると、先に動いたのはシルティだった。


 一瞬にして横から飛んでくるシルティの拳。


 それをフラメナは後ろへとステップして避けると、

 右手から白い火を放出し、右手の白炎を一閃で剣形に固め、間合いを詰めるとその剣をシルティへと向けて振り下ろす。


 一撃が致命傷となり得るこの斬撃をシルティは素早く横へと避け、反撃のように黄金の拳を召喚し、フラメナへと向けて放った。


 それをフラメナはまたしても完全に避け切り、

 シルティの腹部へと左手で触れ、一気に白い火を放ち吹き飛ばす。


 膨大な毒性に侵され吐血しながらも、即座に再生で白炎を打ち消し、再び視線をフラメナへと戻す。


 シルティは違和感を感じていた。


 なんだ、我の攻撃が全て読まれているような……

 全て予測されているような動きだ。


 なんなのだ?この小娘に一体何が……

 魔理様の記憶では天理は白を纏うとされている。

 この小娘は酷似している……

 先ほどから我が宿す″欠片″がこの小娘を殺せと全細胞に命令している。


 正面突破で敵わぬなら死ぬべき恥……

 予測しているのならばそれを上回ってこそ強者であり王の器……面白い……


「久しく興が乗ったァッ!!

 見えているのだなァ?この我の攻撃がどこに放たれているのかッ!」


 フラメナの魔眼、魔彩(まさい)の目は、

 相手の持つ属性や魔法の種類。

 それらがオーラとして分かる非常に優れた魔眼だ。


 オーラ、それは魔力量によって変わる。

 魔力量が多ければ大きくなり、自身より圧倒的に多いオーラは認識が出来なくなってしまう。



 フラメナはシルティのオーラを見続けていた。


 フラメナが攻撃を完全に避けれた理由。


 それはシルティが攻撃を行う際に筋肉が動き、

 それによってオーラの形がほんの少し変わったところを見て、攻撃を予測し回避していたからである。


金乱連(エブン・リラー)ァッ!」


 魔法陣を展開し、その場でシルティは立ち止まって両手をフラメナへと向けると、大量の黄金の拳が召喚され、空を埋め尽くすほどの量が豪速で飛んでくる。


 金乱連は金星群と比べ、

 前方を制圧することに特化したタイプ、

 それ故に拳の密度は先の魔法よりも大きい。


 避けは不可能。

 そう判断したフラメナは反撃するように魔法陣を展開し呼称する。


白雷獄(ホルトラフ)!」


 迫る大量の黄金の拳へと放たれた白き雷撃を纏いし白炎、それは迫る攻撃と相殺し、じりじりとシルティが押され始める。


 だがシルティは何も最初からこの攻撃でダメージを与えようとはしていない。

 規格外の強さ故に、この攻撃は前座である。


 フラメナは背後に大きな気配を感じた。

 咄嗟に振り返った瞬間、フラメナの腹部へとシルティの拳が迫っており、防ぐことも避けることも間に合わない状況。


「うぐっ!」


 フラメナは少し体をずらしたが故に、

 脇腹がシルティの拳によって貫かれ、豪速で吹き飛び、地面に転がるフラメナ。


 そんな光景をライメは意識朦朧とする中で見ており、声を出そうにも掠れた声しか出ない。


 力なく長い瞬きをすると、腹を貫かれ倒れたはずのフラメナが、シルティへと向かって歩いていたのだ。



「ほう……完全に染み込んでいるのだなァ」

「……ほんと、よくも吹き飛ばしてくれたわね

 痛すぎて気絶するかと思ったわ」


 フラメナは脇腹が貫かれたにも関わらず、

 傷口は塞がり、彼女は平然と立っていた。


 このことからフラメナも魔王側近と同じく、

 選ばれし規格外の存在だということがわかる。


「確かに貴様は強い。

 だが……我を殺すにはあまりにも弱き実力よ」


 シルティはそう自信満々の笑みでそう言うと、

 フラメナは白い火を纏い、鋭い目つきで睨む。


「そう言うなら早く私を殺してみなさいよ。

 ほら、私って弱いんでしょ?」

「この王たる我を挑発する度胸は認めよう。

 ……望み通り殺してやるぞ、小娘よ!」


「小娘じゃない、私はフラメナよ!」



 ライメはフラメナとシルティの戦いを見ていた。

 実力は若干シルティの方が上だろうか、フラメナは押されながらも確実にダメージを与え続けていた。


 白い火を纏いながら近接戦を行うフラメナ。

 拳を避け、蹴りを躱し、黄金の拳を相殺する。

 最小限の傷のみで戦いを続け、君級と遜色ない動きを見せる。


 白き雷撃が放たれ、シルティがそれを横に走って避けると、フラメナは避けた先へと白い火を放つ。


 それを走って突き抜けるシルティ、纏うオーラによって一瞬であれば白い火を打ち消し、無傷の状態で攻撃を乗り切る。



 二人の戦いは獣同士のぶつかり合いのようだ。


 もちろん知性があるが故に正面衝突ばかりではないが、魔法と拳がぶつかり合い、大きな怪我を負おうとすぐさま再生して戦う。


 命を燃やし無理矢理にでも戦う。


 もはや意地だった。

 フラメナは大量の魔力を存分に使い、シルティという圧倒的格上と一時的ではあるが渡り合えている。


 ライメが聞かされたフラメナの発言。


『剣塵が来たら転移魔法をお願い』


 それがフラメナの狙いだった。


 剣塵は着実とこの場へと向かってきている。

 もしかしたら剣塵でさえ敗れるかもしれない、それでも彼が来れば多少の勝機は見える。


 フラメナが自身に課した役目。


 それは時間稼ぎ。


 見ての通り、フラメナはシルティに勝てる確率が極めて低い。おそらく敗北するだろう。

 ならば全力を出して燃え尽きるよりも、バトンを繋ぐために出来るだけ灯り続けることの方が賢明だ。



 だがそれを許すほど、傲慢のシルティは弱くない。

 フラメナは限界を迎えた。


 八割の力で耐え切る算段だったが、

 あまりの猛攻に全力を使うしかなかった。


 それ故にフラメナは地へと手をつき、膝をついて吐血する。


 酷く震える体は、四つん這いを保つのが精一杯だ。

 手足や瞳、髪の色も元に戻り、遂に切り札も尽きてしまった。


「……もう一度言おう。

 貴様は強い、だが我を倒すにはまだまだ足りん。

 だが、ここまで手応えのある戦いは久しいものだ。

 我へと戦いの興奮を沸かせたことは褒めてやる。

 散れ、天理の欠片を宿す小娘よ」


 ……生き残れない。

 負けた。勝てない。想定を軽々しく超えてくる。

 これが魔王側近、まったく敵わない。


 詰みね……


 

 ライメは微かに残る魔力によって転移魔法を発動し、他の四人全員と自分を含め、戦場から離脱しようとした。


「誰が許可した?」


 魔法陣を展開した途端、シルティがそう言ってライメの眼前へと黄金の拳を召喚する。


「っ……くそ」


 僕が短縮発動で転移魔法を使えれば……

 皆んなでまた時間を共にすることも出来たのに……

 ダメだ……救えない。僕じゃ、こいつを前にして誰かを救うことができない……


 シルティが四つん這いのフラメナへと近づき、

 拳を振り上げると、高速で振り下ろし、

 フラメナの命を刈り取る瞬間。


「?」


 水飛沫が辺りに舞い、シルティの目の前からフラメナが消えた。


「なるほど、遂に加勢が来たというわけか」


 フラメナはボヤける視界で自身を担ぐその者を見た。


「魔王側近……この俺が相手だ」


 閃滅(せんめつ)、ユルダス・ドットジャーク。

 彼が戦場に現れた。


 フラメナを地面にゆっくり降ろし寝かせると、

 ユルダスは剣を抜きそう言う。


「……君級ではないな。

 よくもまあ、そう自信満々に出てこれるな。

 見よ、狼狽える戦士ばかりだ。

 こうも戦っていたというのに、

 貴様が来るまで誰一人として加勢に参じなかった。

 賢明なことだ。弱者が戦いに出ようと死ぬだけ、

 貴様は自分を恥じよ。弱者故になぜ出て来れる?」


 シルティは狼狽える戦士たちを賢いと褒め、

 ユルダスを愚かと罵る。


「恥に溺れてたって戦うことは出来る。

 俺が逃げる理由にはならないだろ?」


 シルティは口角を上げる。


「まったく理解出来んな。

 一度きりの人生、何をそう死に急ぐ?

 まぁ良い、戦うというのならば応えてやる」


 ユルダスは龍刃流特有の素早い動きで、一気にシルティへと接近し、剣を横に振って切り掛かる。


 かなり早い動き、故にシルティを捉えるに至る。

 だが威力が足りなかった。黄金の皮膚に弾かれ剣が押し戻された。


「硬っ……!」


 そう驚くユルダスへとシルティが拳を突き出す。

 直撃する寸前、ユルダスは水の魔力で大量に水を足から放出し、その拳を躱すとそのまま距離を取って構えを直す。


「面白いやつだな。

 戦い方が洗練されていることがわかる。

 貴様、師が強いのだろう?」


 シルティはそう言うと、ユルダスは返す。


「俺の師匠は剣塵、イグレット・アルトリエだ」

「剣塵か、良い師を持っているなァ!

 我としても一戦交えたい相手だが、生憎今は不在のようだな」


 シルティは足に力を入れると、ユルダスはそれを合図とし、一気に警戒を高め攻撃に備える。


 だが警戒が意味を成さないほど、

 シルティはユルダスがまったく認識出来ない速度で正面から突っ込む。

 ユルダスがそれに直撃すると、吹き飛びそうになったところをシルティに腕を掴まれ、空中へと投げ飛ばされる。


 鼻血を流しながら空を舞うユルダスへと、

 大量の黄金の拳が放たれた。


 ユルダスは痛む体を動かし、空中で回転して舞うように拳を切りつけながら着地する。


 一瞬にして一気に怪我を負ったユルダス。


 それでもユルダスとて将級の剣士、

 シルティは一通り攻撃を終えて気がついた。


「拳を切ったか……土壇場でよくやる方だとは褒めてやりたいところだなァ」


 シルティの拳が切られており、どうやらユルダスが土壇場で切り裂いたようだった。

 だがそんな攻撃無意味だと言うように一瞬で再生し、すぐさま振り出しに戻る。



 ユルダスはシルティの強さに驚いていた。


 まったく避けられなかった……もし空中で意識を失ってたら多分死んでた……こんなバケモノとフラメナたちは戦ってたのか?


 はは……フラメナもライメもちゃんと強くなってんだな……まだ置いてかれたくない……イグレット様が帰ってくるまでそう時間はない。


 耐えろ。

 勝つことは考えるな、耐えろ。

 耐えて耐えて、バトンを繋ぐんだ。



 ユルダスはそう考えながら剣を握る手に力を入れると、再びシルティへと視線を向ける。


 先に仕掛けたのはユルダス。

 水の斬撃を放ち、それに続くように走るユルダス。

 斬撃をシルティが弾いた瞬間、ユルダスは姿勢を低くし足首へと剣を横薙ぐ。


 シルティはその剣を後ろへと跳んで避け、

 ユルダスがそれに乗じて一気にシルティへと迫る。


 剣をシルティへと一気に押し付けると、シルティが拳でそれを弾き、そこから張り詰めた糸を切ったようにユルダスが一気に連撃を繰り出す。


 水の斬撃を纏いし剣は、多少威力が上がったといえどシルティの体を傷つけるには至らない。


 シルティは少しずつ下がりながら攻撃を弾き続けると、ユルダスの攻撃の合間を縫って拳を突き出し吹き飛ばす。


 崩壊した建物の瓦礫へと倒れるユルダス。

 たった一撃で骨が砕け、激しく出血する。


「っ……クッソ」


 ふらふらとしながらも立ち上がり、

 ユルダスは前へと足を踏み出す。


 実力差は天と地よりも離れている。


 ユルダスはそれを理解した上で走り出し、また剣をシルティへと向けて振り下ろす。


 シルティは実につまらなそうな表情でその剣を掴み、少し傷が入ったのか血が地面へと落ちる中、ユルダスの胸ぐらを掴んで言う。


「実に必死なのだな。心底つまらん、失せよ」


 ユルダスはされるがままにシルティに持ち上げられ、全力で投げつけられるとあまりの速度に抵抗することもなく、崩落した建物へと向かっていく。


 この速度でぶつかったら即死だろう。

 だが今際の際というのにも関わらず、ユルダスは口角を上げた。



 シルティは自身の体毛が風でなびく感覚を覚えた瞬間、吹き飛ばしたはずのユルダスを担ぐある者の姿が見えた。


「ユルダス、よく耐えたな」

「俺ひとりの踏ん張りじゃないです……」


 シルティは口を開くこともなく、ただひたすらにユルダスを地面へと降ろす姿を見つめていた。


 茶髪であり、髪を後ろで結ぶ中年ほどの男性。

 瞳は薄緑で右目が傷によって閉じている。

 黒の着物を着るその者は、立ち姿だけでシルティへと実力を示した。


「貴様が″剣塵″か?」


「そう聞かれれば答えてやろう。

 俺は剣塵、イグレット・アルトリエ。

 随分と愛弟子と故郷が世話になったな」


 名乗るは世界最強の剣士。


 風向きが変わる。


 シルティへと黒い風がなびき始め、

 希望が戦場に風として現れた。

明日、例外的ではありますが二話投稿です!

14時18時を予定しています

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