第六十二話 強者共が夢の地
虹剣1688年3月7日、午前7:30。
フラメナ達はオラシオン王国へと向かう馬車の前で、エルメダとリルダに別れを告げていた。
「何度も言うが、助けに来てくれてありがとな。
オマエらが来てなきゃ砂星は全滅だった。
正直まだまだ感謝し切れてねえが、オマエらは先に進むんだろ?名が聞こえてくるのを待ってるぜ」
エルメダが手を差し出すと、フラメナはそれを握りエルメダの目を見て話す。
「お礼は私たちを覚えておくことで良いわ!
またどこかで会いましょ!」
するとリルダがフラメナに聞く。
「魔王側近に狙われてるらしいけど、大丈夫なの?」
砂塵から逃げる転移魔法を阻害したレグラ、
彼は魔王側近の傲慢の部下だと言う。
それらのことから狙われているのは確実だろう。
でもフラメナはそのことに対して一切の不安はなかった。
「全然大丈夫じゃないわよ!
でも足を止めるくらいなら私たちは進むわ」
「……なんでだろうね。
砂塵を追い払ったあの姿を見たせいなのか、
絶対に生きてられないような状況でも駆け抜けそうな雰囲気がある……貴方達なら大丈夫よ。
いつまでも名が聞こえてくることを祈ってるわ」
そうしてフラメナ達の大成を願う二人を後ろに、
五人は馬車に乗ってレナセール王国を発った。
オラシオン王国には十二日間かかる。
馬車で移動しては、小さな村などで宿に泊まる。
それを繰り返してオラシオン王国へと向かった。
オラシオン王国。
そこは多くの剣士が訪れる地であり、古くから剣の国として知られている。
また現代では剣塵、イグレット・アルトリエが滞在する国でもある。
オラシオン王国は武芸や演劇が栄える王国であり、
料理なども美味揃いで砂漠地帯ではレナセールに次いで人が多く集まる王国だ。
そんなオラシオン王国には最近、黒い噂が回っている。
それはガレイルにて依頼を受けたパーティーが行方不明になると言うもの。
ここ一ヶ月のうちでニ星級が二つ、四星級が一つと
三パーティーが行方不明となっており、ガレイルが調査隊を出せば、その者たちが向かった先の地域には、多くのクレーターが残っていたという。
原因は不明、オラシオン王国のガレイルはこの事態に危機感を覚え、国王に他国から君級の戦士を迎えるよう要求。
だがこの要求は却下され、少しガレイルではピリついた雰囲気が漂っているようだ。
オラシオン王国には剣塵がいる。
そう焦る必要はない、それがおそらく国王の考えだ。だが何も君級は無敵じゃない。
その考えが後の悲劇を生むこととなる。
オラシオン王国、砂漠地帯南部にて。
「……やはり将級の剣士となれば傷は付くか。
だがどれも軽傷、実につまらん。
チラテラを殺した剣塵という人族……
純白の後に我のデザートとしてぜひ一度戦い、殺してみたいものだ!」
クレーターが多く残るその地で、その身に黄金の輝きを宿す、傲慢のシルティ・ユレイデット。
彼は余興と言って何人もの戦士や邪族などを殺している。彼は本気でフラメナを殺そうとしているのだ。
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虹剣1688年3月19日。
フラメナ達は道中邪族を討伐しながらも、遂にオラシオン王国に到着し、賑わう街へと足を向ける。
「やっぱり西黎大陸は移動が大変ね〜」
体を伸ばしながらそう言うフラメナ、
エルトレなどは首を傾けたりして凝りを取って話す。
「そのせいか、国はやっぱりどこも繁栄してるよね。移動しづらいからこそなんだろうけどさ……流石にここ栄すぎじゃない?」
エルトレが言うように、オラシオン王国の第一印象は栄過ぎと言うもの、建築は中央大陸のエテルノ王国に引けを取らないもので、民の量もレナセールより多く見える。
そんな光景にラテラやリクスが反応する。
「ここってまだ王都の入口ら辺ですよね?」
「まるで西の中央国…楽しくなってきた。
街を探索するだけで何日もかかりそうだぞ」
するとライメがフラメナに問う。
「ガレイルで登録を済ませたら、
今日は宿に泊まって明日はどうする?
魔王側近に狙われている以上、あんま依頼は受けない方がいいと思うけど……」
「魔王側近も暇じゃないわ、それに前にあったあの金ピカの虎なら絶対長くは待てないはずよ!
相手が仕掛けてくるまで、オラシオン王国の王都内でのんびり生活ね」
フラメナはシルティという邪族が、辛抱強く待てないだろうと予測する。
それに対してライメや他の三人も肯定的であり、
フラメナ達はとりあえずガレイルへと向かった。
今まで通り再登録を済ませる。
唯一違う点と言えば、自分たちが四星級なことと、
周りの視線が少し集まっていることくらいだ。
フラメナ達は既に西黎大陸では名の知れたパーティーであり、見かければ自然と注目も集まるだろう。
そうして何事もなく、
再登録を終えて宿へと向かう。
フラメナ達はレナセールで稼いだ陸貨でこれから生活を送る。
正直言って何年も余裕で暮らせる程度には稼いでおり、金銭面での心配はなかった。
その日の夜。
「あーっ!なんで私たちが魔王の側近に狙われなきゃいけないのよー!」
宿では基本的に二部屋取っており、
男部屋と女部屋に分かれている。
寝巻きの姿でベッドに倒れるフラメナ。
足をバタバタさせながらそう言うと、髪を解かしながらエルトレが話す。
「まぁその白い魔法でしょ。
なんか色々秘密があるんじゃないの?」
「知らないわよ〜……白い魔法なんて生まれつきなんだから……」
エルトレがくしを机に置いて、氷属性の魔力が詰まった魔法石が入っている箱から、飲み物を二つ取り出してフラメナに近寄る。
「よく考えたらこれが原因かもってないの?」
エルトレは黄色く光る液体が入った瓶をフラメナの顔の横に置くと、フラメナは起き上がりそれを取ってベッドの上であぐらをかく。
その飲み物は金酸美と呼ばれる甘酸っぱい飲み物。
美容効果もあると言われているが、正直そんなことはどうでもいいくらいには美味しい飲み物だ。
「うーん……なんかあるとすれば……
あいつら魔王側近だけなのかわかんないんだけど、
私の魔法がとんでもないくらい効くらしいのよね」
フラメナは過去の色欲のエルドレとの戦闘や、
傲慢のシルティとの戦いで魔法が当たると、必ず相手はその部位を切断する。
その時口にする言葉は毎回″毒″というもの。
「毒らしいのよね……それが理由で殺しに来てるのかしら?でも私たちから向かって行ってるわけでもないし、関わってこなきゃいいのに……!」
「魔王側近は個々で王じゃないし、それこそ魔王から命令されてるとかなんじゃない?
それくらいしか正直考えられない」
フラメナは瓶をベッドの横にある机に置いて、仰向けになって天井を視界に映しながら話す。
「エルトレって剣塵に会ってみたい?」
「そりゃ会いたいけどさ……会う方法なんてないよ。
直接行ってもどうせ門前払いされるだけだし」
フラメナはそれを聞いて言う。
「ダメ元で明日行ってみない?
案外受け付けてくれるかもよ!」
「えー?でもあたし強い龍刃流剣士じゃないし、
なんなら魔刃流だよ?」
「それでも行くのよ!エルトレも帥級剣士並みにはもう強いんだから大丈夫!」
1年半の期間で強くなったのは、何もフラメナだけではない。
エルトレは帥級剣士ほどに強く、ライメやリクスなども帥級上位ほどには強くなっている。
ラテラもここ最近は魔法の使用回数が増えて、
治癒魔法の練度も高くなった。
「あたしでも会えるかな……?」
「暁狼唯一の剣士なんだから胸張りなさい!
剣士が弱気じゃ前線が不安よ!」
女子部屋がそんな話をしている中、
男部屋では他愛のない会話をしているようだった。
「ライメさんはほんとフラメナさんと仲良いですよね。前からですけどいっつも会話してません?」
「僕から話しかける雑談は少ないんだよね……
それに仲が良いのは小さい頃から関わってるからだと思うよ。」
そんなライメにリクスはなんの躊躇いもなく言う。
「フラメナのこと好きなのか?」
「っぅええ!?別にそんなことは……!」
ライメはとても驚いてそう言うと、ラテラが言う。
「それにしてはこの前のパーティーの時、二人でずっと話しちゃってたじゃないですか〜、あれはなんだったんでしょうね〜!」
ラテラはそう茶化すように言うと、ライメは耳が赤く染まり始め、必死に弁解し始める。
「あれはその……中が少し暑かったから涼んでただけだよ!」
「でもフラメナにスーツをかけてたじゃないか。
寒かったらもっと早く入ればよかったのに」
リクスがド正論を言う。
「うっ……あーー!もう聞かないでくれ!
僕はもう寝るよ!おやすみ!」
自暴自棄のようにそう言い、ベッドの中へと潜るライメ。
ラテラとリクスは少しクスクスと笑いながら、
リクスが呆れたように言う。
「早く付き合っちゃえば良いんだぞ」
その日の夜の男部屋は騒がしく、途中でエルトレとフラメナが注意しに来たようだ。
翌日、五人は身支度を終えてある場所へと向かう。
向かう場所とは剣塵が住まう屋敷である。
まだ誰も知らない。
オラシオンへと迫る黄金の煌めきは、
着実とフラメナへと向かってきていた。




