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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第五章 純白魔法使い 邂逅編

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第五十話 また会えたね

 君級がぶつかり合う中、その場からフラメナ達は逃げ出し、馬車を捕まえて足早に街を去ろうとした。


 目指す場所は西黎大陸と中央大陸を繋ぐ港。

 ルドレ港、そこは世界一大きな港町として知られている。

 南部にもう一つ港があるが、そこは少しフラメナ達からは遠いため、今回はルドレ港にした。


「……大丈夫かしら」


 フラメナはレストの心配をしていた。

 なにせあそこまで親切にしてくれた相手だ。

 短い関わりながら心配もするだろう。


「レストさんはああ見えても強いから大丈夫」


 レスト・バレットメアは優しい雰囲気を纏う君級魔法使いだが、戦いは数と質両方で押すタイプであり、

 彼一人で国一つは守れるとも言われている。


「なら良いのだけど……」


 するとエルトレが先のパラトアについて話す。


「あんな強そうな剣士まで来るんだね……」

「悪いことしてないのに……」


 疲れたようにそう言うフラメナ。


 少し脱力するフラメナだが、ふと気になることがありトヘキへと聞く。


「そう言えば……ついてきちゃって大丈夫なの?

 トヘキも私と関わってるってバレたら何か言われるんじゃないの……?」

「あー……その勝手に決めちゃったんだけど……

 フラメナの旅に加わろうかなって……」


 それを聞いてフラメナは嬉しそうに言う。


「ほんと!?大歓迎よ!」


 だがそう言った途端、フラメナの表情は凍りついた。


「……お金が足りないわ!

 西黎大陸に渡るお金が一人分足りないわ!」


 焦ったようにそう言うフラメナを四人がニヤニヤとしながら見つめる。


「な、なによ?」

「あたし達は今だけ大富豪だよ」


 エルトレが袋を鞄から取り出して中を見せる。


 眩しい光沢に失明しそうになるフラメナ。

 実際にはそう光り輝いていないが、今のフラメナにはそう見えたようだ。


「こんなに……盗んだの?」


 ドン引きしたようにそう言うフラメナだが、

 エルトレが肩を少し手で押して否定する。


「盗むわけないでしょ?」


 小さく笑うエルトレ、フラメナも冗談で言ったそうで二人は仲良さそうに笑いあっていた。


 中央大陸の王都を抜けるまではおよそ馬車で二日。

 宿に泊まる余裕はないので、馬車を変えながら移動し続ける。


 問題は特になかった。

 なにせフラメナが追われている情報はまだ広く知れ渡っておらず、周りの目もあまり集中することはなかった。


 そんなこんなで王都を抜けたフラメナ達。


 少しずつ平原などが見え始め、人気も薄れてきた。


 フラメナ達が逃げ始めて五日目。

 ルドレ港には今日中に到着する予定だ。


「なんだかんだ、何も起きないわね」

「まぁ……最速で逃げ出してるからね」


 フラメナはトラブルのない逃亡劇の終演に安心感を感じながらも、何もなさすぎることへ少し不安を抱いていた。


「何もないのは良いですけど……不安になりますね」


 ラテラが言う通り、五人は不安を抱いていた。

 もしかしたら実は追われているのでは?


 すると馬車がゆっくりと止まった。


 馬車を持つ男が降りてきて、布を開けて五人へと止まった理由を話し始めた。


「あー……お客さんなんだか中のチェックだとさ。

 道の真ん前に人がいてよぉ、協力してくれねえか」


 困ったようにそう言う男に五人は快く協力した。


 そうして大人しく座って待っていると、足音が聞こえてきて五人の前に顔を見せてきた。


「え?」


 思わず声を発する。

 見えた顔は七色のメッシュを持ち、吸い込まれるような紫の瞳を持つ、世界最強の魔法使い。


 虹帝(こうてい)、ネル・レルスタミッド。


 その瞳はじっくりとフラメナを見つめ、少しの間を開けて話す。


「……馬車はどこまで向かうのですか?」


 そう聞くネル、馬車を持つ男はルドレ港へと向かうことを伝えると、ネルは続けて話し始めた。


「この五人は私が預かりますので、どうぞ貴方は街へお戻りください」

「で、でも」


 馬車の男がそう言った瞬間、ネルが一気に魔力を放出し、とんでもない圧が辺りへと満ちると、七色のメッシュが輝き出して風が拭き始めた。


「い……ぁその!どうぞどうぞ!俺は帰るんで!

 お客さんそう言うことらしいんで!

 何したか知らんすけど……またどこかで!」


「ちょっちょっと!そんないきなりすぎるでしょ!」


 フラメナがそう言うも気がつけば五人は、

 馬車の外へと放り出されていた。


 一瞬にして風が五人を持ち上げて外に放り出したんだろう。ネルは馬車の男へと目をむけると、それにビクッと反応しその者はそこから去っていく。


「さて……大人しくすれば痛い思いはしないよ」


 ネルは黒い杖を手にしてそう言うと、空中に七個ほどの魔法陣を浮かび上がらせる。


「ご投降願います」

「……嫌よ!」


 フラメナはそう言って魔法陣を展開した瞬間。

 七個の魔法陣が一気に魔法を放出され、七色の光線がフラメナへと迫る。


 それを横からトヘキが氷の壁を作り出して防ぎ、

 崩れそうになればリクスが土の壁で防ぐ。


 そのサポートを受けてフラメナは、自身の渾身の魔法を放つ。


白雷獄(ホルトラフ)!」


 手から放たれる白い火は大きく膨れ上がり、大量の電気を纏いながらネルへと向かっていく。


 明らかに威力であれば将級に並ぶフラメナの魔法。

 ネルはそれに対して魔法陣を向け、大量の岩石を作り出して防ぐ。


 岩の後ろ以外全てが真っ黒に焼き焦がれる様子から威力としては申し分ないのだろう。


 だが岩は崩れずに残っていた。ネルの強さは言わずもがな七個の属性全てを極めているところ。


 一つの属性が君級レベルであり、魔力の扱い方も極まっている。そんな彼女には真正面から魔法が通用するわけがない。


「トヘキさん、その者に味方することはどう言うことか理解していますよね」

「……そんなことわかっています」

「貴方にとってそんなに大事な存在なのですか?」


 トヘキはそう言われて答える。


「僕は……記憶を失う前の自分を知らない。

 もしかしたらフラメナが言う人とは別人かもしれない、それでも記憶を取り戻したいんです。

 たった一つの可能性があるのならば、僕はフラメナについていきたい。

 僕は自己中です。自己中になると決めたからには、ネルさんだろうと邪魔はさせません」


 ネルは話を最後まで聞くと少し呆れたように言う。


「だからとて″邪族″につくなど愚行ですよ」


 ネルのその言葉に五人全員が困惑した。


「え?フラメナさんが邪族……?」


 ラテラがそう言えばフラメナが畳み掛けるようにそれを否定する。


「なんでそうなんのよ!私は何にも悪いことなんてしてないわ!それにどうして悪いことなんかする必要があるの!」


「私もそう思いたいよ。まだ若い貴女みたいな魔法使いが邪族だなんて信じたくない。

 最初は国王のみの言い分かと思えば……街の皆が次々と貴女の名を口にして恐れていた」


 ネルがそう言えばフラメナは続けて聞く。


「なんて言ってたのよ……!」


「あの者が使う魔法で生活がまともに出来ない。

 怖くて外も出歩けない。

 邪族と関わってるところ見た。

 あの者はよく盗みをしている。

 これの他にもたくさんと聞かされた。」


 ネルは再び杖を構える。


「これだけの証言があると、貴女がそれを上回る証拠を出さない限り、疑いは晴れません」

「だからって……!」


「邪族を見逃して後々被害を受けるケースは多々あります。邪族にかけた情は仇で返ってくる。

 この世界はおとぎ話のように優しく都合良くできてないのです。」


 そんなことを聞かされフラメナは心底悔しかった。

 あらぬ噂が事実のようになってしまい、それを否定し認められるほどの力もない。


 つくづくフラメナは思う


 世界は残酷だ。


 もう戦うしかない、証拠なんてないし示し方も知らない、でも対するのは世界最強の魔法使い。

 なら魔法で示せば良い。


 たとえここで終わっても、負けるなら魔法で負けてやりたい。


「なら示してやるわよ……純白魔法(私の魔法)で!」


 フラメナは再び魔法陣を展開すると、大量の火球を短縮発動で放出しながら、魔法陣を使ったメインの魔法を作り上げていく。


 ネルは一瞬で魔法陣を展開すると、火球を水を纏わせたツタによって弾き、加えて雷魔法と火魔法を発動して合わせると、巨大な爆発性のある火球を放つ。


 一瞬にして四つの属性が使われる異常さに少し、怯みながらもトヘキとリクスが二人で壁を作り出して防ぐと、崩れる壁の後ろからフラメナが魔法を放つ。


白靂火(ホフラメス)っ!」


 白い火が一直線に伸びると、伸びた跡をなぞる様に雷が発生し始めネルへと近づく瞬間、一気に威力が跳ね上がる。


 眩しい光が辺りを包み爆音が平原に響き渡る。




 ーーーーーーーーーーーーーー


 ライメ・ユーラパラマ。

 南大陸に生まれた霊族と人族のハーフ。


 両親は北峰大陸で出会い、そこで結婚した。

 母親は人族で父親は霊族。


 霊族は足が半透明で少し揺らいでおり、

 瞳は青いのが特徴的だ。


 霊族は人族の亜種とされており、知性なども全く同程度で、唯一違うところと言えば、基礎的な体力が人族よりも下であること。


 霊族が生まれた経緯としては人族にて魔力適正の低い者同士が子を授かり、低い者同士が子を授かり続けて生まれたとされている。


 詳細は未だ不明であるが、有力な説としてはそれが有名だ。


 霊族は400年前の魔王討伐作戦時に魔王に使役され、

 多くの被害を討伐隊へともたらした。

 それを仕方ないと済まされることはなく、今でも差別として根強く各地に残っている。


 両親は差別されていた。

 父は人族と交わった不純な存在として霊族から。

 母は霊族に付き添う愚かな女性として人族から。


 北峰、西黎、中央、東勢、南。

 各地を転々として一番差別が薄かったのは南大陸だった。それ故にそこを住む場所として生きることにしたのだろう。


 多少マシなだけで差別は存在する。

 それでも軽い差別のみで二人は安心していた。


 でも父は死んだ。


 父はガレイルで稼ぐ剣士だった。

 上級ほどだった。

 父親は仲間に見捨てられたのである。


 想定外の敵の量に、父親を置き去りにしてパーティーメンバーは逃げてしまった。


 父は死ぬ時どんな思いだったのだろうか?


 ライメは幼いながらもそう考えることが何度かあった。


 父親を亡くして母親は病弱、金銭は父親が貯めていたものでどうにか食い繋いでいた。



 僕は幸せを知らない子供だった。

 学校、友達、遊び。

 全てが無縁の生活。


 でも、不幸続きなんてことはなくて、僕には一人の友達が出来た。


 フラメナ・カルレット・エイトール。

 一個上の女の子ですごく頼もしい子だった。


 僕は彼女に憧れて、ひたすらに一緒に魔法を学んだ。置いてかれたくない、失望されたくない。


 そんな思いが僕を動かし続けていた。


 僕が九歳の頃、彼女は旅に出てしまった。


 結局別れる時まで自分が男だと言うことは言えなかった。少し怖かったんだ。


 フラメナが旅に出てからユルダスという三つ上の友達とよく話す様になった。

 最初こそ少し緊張したが、次第に緊張もほぐれていつの間にか仲良しになっていたのは驚きだ。


 そこからは順調に歳を取り続け、お金も自分で稼げる様になって生活は少しずつ安定し始めた。


 でも十一歳の時、領土戦争が始まった。


 前線は南防山脈、それでも避難と言われ王都から少し離れた村へと僕たちは避難した。



 少し肌寒い朝、僕とユルダスは魔法を一緒に学びながら休憩がてら外を眺めていた。


 何が起こるかわからない日々だったけど、出来事ってのは一瞬のうちに起こるらしい。


 外から差し込む眩しい光。


 光は破滅を表していて、

 その日に南大陸は滅亡した。


 咄嗟にまだ使えない転移魔法を使ったけど、

 どうなったのかわからない。

 なんでこうして今も意識があるのか、ここはどこなのか?自分は死んだのだろうか?


 考えれば考えるほど複雑な気分になる。



 違う。

 僕は死んでなんかいない。


 生きている。僕はなんて名前で生きていた?




 ーーーーーーーーーーーーーー


「……ここは……」

「あっ、トヘキ!起きたのね」


 目を開ければ広がるどこかの天井。

 そして視界の端に映るフラメナ。


 ネルは?戦いは?何が起きた?


 そんなことを思いながら、トヘキは起き上がった。


「戦いは……?」


 外を見ると夜になっていた。

 フラメナはトヘキの問いに答える。


「結局あの後、五人全員コテンパンにされちゃってさ……もうダメかもって思ったらユマバナさんが助けてくれたのよ」

「師匠が……?」


 聞けば五人が気絶した後、全員を連れて行こうとするネルの前にユマバナがやってきたそうだ。


 ユマバナは実はこっそりついて来ていたらしく、

 ネルの誤解を一戦交えながら解いたそうだった。


「まぁ勘違いなら仕方ないけど……

 正直めちゃくちゃ迷惑だったわね」


 フラメナは戦いの時とは違い切羽詰まった顔ではなく、緩い表情でそう語る。


 トヘキは先ほどから頭に靄がかかった様で、上手く考えを伝えることが出来なかった。


「フラメナ……僕の名前って何?」

「また記憶喪失……?そんなわけないわよね」

「あぁ……トヘキはわかるよ。

 違う方……ってなんだっけ」


 フラメナはそう聞かれ答える。


「″ライメ・ユーラパラマ″」

「……ライメ……ってフラメナにとってどんな人物だった?」


 そんな問いにフラメナは少しも迷わず即答する。


「急にどうしたのよ……ライメは大事な友達よ!」


「……そうか、やっぱり夢じゃないんだ」

「トヘキ……?」


 トヘキは涙を流してうずくまる。


「やっと……霧が晴れた。

 頭の中でずっと……なんで忘れてたんだろう

 僕は……!」


 トヘキは顔を上げて言う。


「僕は″ライメ・ユーラパラマ″

 久しぶり、フラメナちゃん……」


 その呼ばれ方によりフラメナの脳裏に過去が蘇る。


 なぜ思い出したのか?何がきっかけだったのか?

 そんなことは今はどうでも良い。


 ライメだ。ライメなんだ。

 女の子じゃないけどライメなんだ。


 聞きたいことなんて山ほどある。

 だが今はただーー


「やっと……会えた」



 再会。

 二人はあの日の別れから5年、遂に再会した。


 トヘキとしてではなくライメとして。


「でも……男の子じゃないの」

「本当は男だよ……でも怖かったんだもん。

 言ったら失望されるかもって……」


「そんなわけないでしょ……!

 ライメはわたしの友達なんだから!」


 フラメナは鼻を啜りながらライメに抱きつく。


「でも良かった……生きてて良かった……!!」

「待つ側だったのに……待たせてごめん」

「急すぎなのよ!!もっとゆったり思い出すとかないの?」


 フラメナはライメの肩に顎を乗せて涙を落としながら、そう強く抱きしめる。



 ライメ・ユーラパラマ。

 あの場所での再会ではないが、二人は生きている。


 どちらも生きている。

 ただ今はその事実をひたすらに噛み締め、二人は再会の喜びに浸るのであった。

第五章 純白魔法使い 邂逅編 ー完ー


次章

第六章 純白魔法使い 砂塵編

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