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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第五章 純白魔法使い 邂逅編

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第四十七話 白と紫

 虹剣(こうけん)1686年7月18日。


 中央大陸王都に出現した迷宮が崩壊。

 現場に居合わせた断罪、ガルダバ・ホールラーデが対処にかかった。


 君級剣士の中でも一対一を得意とする彼だが、

 敵が多かろうとあまり関係はない。


 老体未だ全盛期、目を閉じて刀を一振りすれば、

 軍勢とも言える邪族が切り裂かれていく。


「ガルダバ様……何か手伝えることは」


 若い剣士や魔法使いがガルダバへとそう尋ねる。


「お主らが成すべきことは、ここから退くことのみ……

 若者はまだ死に急ぐでない、死に急ぎはワシで十分じゃからぁのう」


 ガルダバはそう言うと手でシッシっとジェスチャーし、再び刀を鞘に納めて構える。


 ガルダバがそう言うのであれば従うしかない。

 若い戦士たちは退いていき、前線にガルダバのみが残る。


「はて、カッコつけたはのは良いが、耐えれるかのう?」


 迷宮崩壊。

 それは何らかの原因で迷宮内の空間が崩壊し、

 中にいる邪族が爆発的に地上へと湧き出る災害。


 この巨大迷宮は史上類を見ない超巨大迷宮。

 階層はおよそ五十階とされており、下層部では帥級や将級レベルが彷徨いている。


 帝黎(ていれい)が攻略した階層は現在二十七層までであり、その階層には最大帥級程度の邪族が滞在していた。

 中層でその程度の強さ、のであれば下層は平均的な等級が帥級でもおかしくない。


 帥級は上級の一つ上の等級であり、

 言わずもがな天才の領域。


 それが一般レベルとして戦場に加わり始めれば、

 いくら君級剣士のガルダバであろうと、一匹も逃さず討伐し切るのは不可能だ。


 だが彼の脳内では思考が巡っていた。

 迷宮付近に住んでいる君級が一人存在する。


「ユマバナが来るまでの辛抱じゃぁのう」


 枯星(こせい)、ユマバナ・アルマレット。

 彼女が揃えば封殺は可能だ。


 そこから何分かノンストップでガルダバは邪族を討伐し続け、そろそろ来るであろうユマバナに期待を寄せていた。


 思い通りに事が運べば被害はない。


 だが、こう言ったトラブルに想定外は付き物。


「!」


 最前線で邪族を切り裂くガルダバは思わず後退し、

 目を見開いて前方の存在を認識する。


「ガルダバ様……あれが主ですか?」

「そんなわけがなかろう……

 今湧き出てるのは中層の敵じゃ。

 まさか中層にあれほどの邪族がいるとはのう……

 迷宮とは難解じゃな」


 姿を現したのは将級の中でも限りなく君級に近い魔力を持つ、全長6メートルほどの大きなゴブリン。

 ゴブリン族は基本的に等級が低いが、特殊個体として単独行動するゴブリンが稀に存在する。


 そのゴブリンは時間と共に強くなり続け、

 過去には君級のゴブリンが発見されたこともある。


「お主ら、出来ればここも全て任せろと言いたかったのじゃが……雑魚どもを倒すのは任せた。

 ワシがあのデカブツを切り裂いてくれるわ」


 ガルダバはそう言った瞬間、一気に地面を踏み込んでゴブリンへと突っ込んでいく。


 人刃流。

 それは基礎的な動作を極限まで鍛える流派。

 故に足捌きや振り方などは基本的なものが多く、

 対人戦では動きが読まれやすい弱点がある。


 それでも人刃流が比較的扱われる事が多いのは、

 カウンターが出来るからだ。


 人刃流の強みは基礎を固めたことによる、圧倒的な応用力によって引き起こされる防御力。


 受け流し、弾き、避け。

 三つを極めてしまえば、どんな攻撃でも対応できる。



 ゴブリンは手に持った石の棍棒を、ガルダバへと振り下ろしてくる。


 巨体故に動きが遅いかと思えば遅くはなく、

 俊敏に動くゴブリンの棍棒がガルダバへとまさに直撃する瞬間、真っ赤な火が飛び散り、棍棒が弾かれ、ゴブリンが少し後退する。


「ちと、鈍いのう」


 ゴブリンはそれを聞き、挑発されたと感じたのだろう。怒れるその巨体は先ほどよりも加速し、一気に棍棒でガルダバへと攻撃を繰り出す。


 嵐のような殴打、災害とも言えるその猛攻を、

 たった一人の老人が全て弾いている。


 ガルダバの断罪という異名。

 これは彼の戦い方に由来している。


 カウンターを極めしガルダバ。

 攻撃を弾くたびに火魔法を刀に蓄積させ、

 あらゆるものを切り裂く斬撃を放つ。


 戦い方故に意表を突くその斬撃は、

 相手へと命中する事が非常に多い。

 それに加えて威力も桁違いだ。


 故に断罪。

 彼の一太刀は悪を滅する。


 ゴブリンは自身の攻撃が全く通じない状況に、

 焦燥感を感じ始めて必死に攻撃を続ける。


 限界を超えて速度を早めようとガルダバは弾く。


 ひたすらに弾くガルダバ、

 そしてゴブリンは目にした。


 老人とも言える風貌のガルダバの刀が真っ赤に光り、大量の魔力が溢れ出した。


 鳥肌が警告するように立ち始め、ゴブリンは足を一歩後ろへと引いた。



獄門(フゼイメウト)


 放たれるは赤黒い巨大な斬撃。

 衝撃を蓄積し続けた斬撃は豪速でゴブリンに迫り、

 咄嗟に石の棍棒でそれを真正面から防ぐゴブリン。


「判決は出とる。悪足掻きはちと見苦しいのう」


 ガルダバがそう言いながら刀を鞘へと納める。

 その瞬間、ゴブリンの棍棒は切断され、正面から縦に真っ二つに切られる。


 一撃で勝負が終わった。

 ゴブリンは倒れ、火が燃え上がり塵と化した。


「ぜぇ……ちと老体にはキツい」


 ガルダバは体力が限界だった。

 溢れ出た邪族はとうに三百を超えている。

 その量を一体も逃さず討伐し切っているのは、

 さすがは君級というものだ。


 ガルダバの体力切れで処理が追いつかなくなり、

 周りにいる魔法使いや戦士たちにも怪我が見え始めた。徐々に劣勢になり始め、遂には邪族がこの場から立ち去ろうとしていた。



「へばってんね。(わっぱ)にしては早い息切れじゃな」


 現れるのはユマバナを先頭にし、フラメナ達加え背後に五人、計六人が戦場へと姿を現す。


「人族じゃ老いぼれらしいですぞ」

「なんだ。随分と人族は早い命じゃな」

「分かっておられるくせによく言いますのぉ」


 二人が会話してる中、邪族は相変わらず溢れ続けている。


 ガルダバの動きが完全に止まり、制限が無くなった邪族達、今まさに辺りを呑み込む瞬間。


闇星(ブロアエビカ)


 ユマバナはそう呼称する。

 辺りを包む異様な空気、静寂を感じたと思えば、邪族達の溢れ出てくる場所が黒い闇に呑み込まれており、次の瞬間轟音が鳴り出す。


 その轟音と共に、邪族達は次々と闇に呑まれて消えていき、とんでもない量の邪族は一瞬にして一匹残らず闇に包まれた。


「相変わらず……規格外じゃ」


 ガルダバがそう言うと、ユマバナは口角を上げて自信満々に言う。


「これでも長く生きてるんじゃ、

 強くないとダメじゃろ?」


 君級魔法使い、枯星、ユマバナ・アルマレット。

 彼女は二番目に強い魔法使いだ。


 フラメナなどはユマバナの背後から、邪族が一方的に消えていく状況を見て、彼女の強さを実感する。


 ユマバナが加わった事で形勢は逆転。

 なんの苦労もなく邪族達を処理していき、

 遂には主の登場である。


「ガルダバ、流石にお主最後くらいは戦うんじゃぞ」

「言われずとも……」


 ガルダバは休憩を終え、鞘へと手を当てると、

 前方の迷宮入り口が光の柱を作り出し、光が晴れると現れるのは迷宮の主。


 紫の鎧を着用する騎士。

 フラメナとリクス以外は特に何も感じなかったが、

 二人だけはあの邪族を知っている。


「待ってそいつは……!!」


 鎧を着た邪族、それは今でも存在はしている。

 だがこの手のタイプは従来の邪族とは違い、何らかの細工が仕込まれている可能性が高い。


 フラメナの嫌な予感が的中する。


「ッ!!」


 その騎士は神速が如く、ガルダバへと突っ込み、

 剣で切り裂こうとした瞬間。間一髪、刀でそれを受け止めたガルダバ。


 規格外の速さに驚いていると、金属音が響き、

 火花が激しく散るとガルダバに対して猛攻が始まる。ガルダバの反応速度は高い、だがそれを上回るほどこの邪族は攻撃の間隔が短かった。


 ここまで追い詰められると、

 もはやカウンターなんてのは夢のまた夢。


 ユマバナはその状況を見て、闇属性と草属性の魔法を合わせた死のツルで邪族へと触れようとする。

 だが、邪族の間合いに入った瞬間、ツルは切られ斬撃がユマバナへと飛んできた。


 トヘキが前へと出てその斬撃を氷魔法で打ち消す。


「師匠、あの邪族……」

「異常に強いのう、あのまま行けばガルダバが死ぬ。

 妾たちでどうにかサポートする」


 ユマバナがそう言うと、フラメナが真っ先に前へと出て魔法を放つ。

 唐突な攻撃にユマバナは注意を行おうとすると、

 その白い火は騎士の迎撃用の斬撃を破壊し、

 騎士の肩へと直撃する。


 その瞬間、騎士はドロっと体が崩れ、猛攻が止まった。それをチャンスとし、息を切らしながらもガルダバが真っ二つに騎士を切り裂く。


「助かった……じゃがあの魔法……」

「お主……本当に真っ白な魔法を使うのじゃな」


 フラメナは多くの目がある場で、

 白い魔法を使ってしまった。

 危機を救ったことは褒められるべきことであるが、

 中央大陸はやや難しい大陸、多くの者達がフラメナへと畏怖の目を向ける。


「……主はあれで終わり?」


 フラメナが静かにそう聞くと、ユマバナは頷く。


「なら良かったわ……」


 フラメナは少し安堵の表情を浮かべ、

 震える手に残る白い残火を見ながら、一足先にその場から立ち去り始めた。


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