表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第五章 純白魔法使い 邂逅編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/176

第四十五話 敵前逃亡

 中央大陸の王都から離れた西部の森にて。


「まっ!待ってくれ本当に勘弁してくれ!

 命だけは……!頼む!」

「貴様、我を誰と知る?」


「まま、魔王側近!傲慢のシルティ・ユレイデット!知ってる、知ってるさ!」


 傲慢のシルティ・ユレイデット。

 魔王側近の彼は3年前に南大陸へと向かっていた。

 だが、色欲のエルドレ・メラデウスによって先を越されてしまい、魔城島へと帰るしかない中、新たに仕事を与えられた。


 誰にも気づかれないように中央大陸に潜伏しろ。


 それが彼の受けた仕事。


 今彼は目の前で腰を抜かす剣士の前にて、

 圧倒的なまでに有利な命のやり取りを行なっていた。


「そうか……ぶはははは!!我を知っておるか」


 大笑いするシルティに少し安心感を覚えた剣士。


「ならばなぜこの王たる我に指図した?」

「え……そんな頼んだだけ」


「口答えまでするなど言語道断!死ぬがいい!!」


 剣士が理解する間もなく、シルティの黄金に輝く拳が剣士の横腹へと突き刺さり、木を何本か破壊しながら吹き飛んでいく。


 即死だった。


 シルティは強化魔法を解除し、その黄金に輝く体を静まらせ、大量の屍を背後にその場を立ち去る。


 ーーーーーーーーーーーー


 とある地、空の花園にて。


「盤面は揃い始めた」


 花園に立つ、三人の影。


 黒い花、白い花、赤い花、紫の花、金の花。


 紫と白の花の上には誰もいない。


 執理政(しつりせい)

 この世界を管理していたとされる伝説上の存在。


 などと言う情報は誤っている。


 実在し現在も管理を怠らない者達。

 それが執理政、この者達を知る存在は地上にはいないであろう。

 執理政は五人の理、管理者がいる。


 天理 魔理 運命 生命 時空


 そのうち、天理は死亡し、魔理は行方不明。



「盤面ね〜……でもその盤面、崩れるかもしれないわ〜。魔理の配下が彼女達を追ってる。

 運命がそう言ってるのよ」


 そう言い、金の花の上に立つのは、

 執理政、運命を冠する女性。

 ″シノ″


 彼女は黄金の髪の毛を持ち、金色の球体を常に自身の前に浮かせている。


「生きるか死ぬか……死なれては困るが、無理に生かせばそれは天理に反する」


 赤の花の上に立ち、赤と緑の目を持つ執理政。

 生命を冠する女性。

 ″ウィータ″


 生死と生命を管理する彼女が、

 天秤を手に持ちながら言う。

 すると厳格な印象を与える声をした男性が話す。


「死なんはずだ。なぜなら彼女は天理の最後の希望であり、全てが込められた存在。時がそう言っている」


 黒の花の上に立つのは、

 時空を支配する執理政。


 ″ホロフロノス″


 彼は砂時計と黒い球体を自身の周りに浮かべており、砂時計を片手で触りながら話す。


「いつも気になるのだ。今の族どもが、

 魔王軍を本気で潰しにかかれば、潰せるのか?」


 ウィータがそう言うとシノが否定する。


「絶対に無理だわ〜。

 君級十二名全員で攻めても負ける。

 エルドレやドラシル、その二名だけで半壊まで持ってけるのだから、加えて残る四名の側近に有象無象の邪族達、勝ち目なんてないわ」


「全く……魔理はとんでもない配下を作り上げた。

 生命を侮辱するかのような強さ、理に反している。やはり奴は早急に裁くべきだ」


「ならん。裁きを下すのは天理のみ。

 だが天理の欠片を宿す者がいる……

 その者に託すしかないのだ」


 ホロフロノスがそう言うとシノが聞く。


「もし、その子が魔王軍と関わらない運命を辿ったらどうするの?」

「絶対にない話だ。

 魔理とて、もはや引けぬところまで関わっている。

 だがもし、関わらぬ運命を辿るとなれば、何がなんでも辿らせる。」


「それじゃあ運命を冒涜する行為よ?」


 そうシノに言われるとホロフロノスのは、

 白い花園を眺めながら口を開く。


「良い、たとえこの身が滅びようと魔理だけは裁いてもらう。裏切り者は徹底的に時間をかけて追い詰める……天理の無念を晴らすためにも……」



 ーーーーーーーーーーーー


 虹剣(こうけん)1686年7月17日。


 フラメナ達は朝のうちからガレイルに集合し、

 トヘキを待っていた。


「あっ、ここよ!」


 フラメナが手をあげて振ると、トヘキはそれを見つけて近寄ってくる。


 もちろん周りの目は集中している。


 あの転移魔法を扱う帥級の魔法使いが、ガレイルへと現れたのだ。一切今まで姿を見せなかったトヘキ。

 それ故に周りの視線は、真新しいものを凝視するような目つきであった。


「待たせたかな……?」

「全然待ってないわよ!」


 笑顔でそう言うフラメナ。

 他の三人もそれを肯定するような表情であり、

 トヘキは少し安堵の表情を浮かべる。


 ガレイルのパーティーというのは、

 他地域に存在するガレイルにもパーティーが引き継がれる。

 だが四星級までなら可能であるが、

 五星級はそのガレイルにて″再び″認められなければいけない。


 暁狼(ぎょうろう)、それはフラメナをリーダーとしたパーティーであり、一時的ではあるが今日からトヘキが加わった。


 これにより、

 火帥級(かすいきゅう)氷帥級(ひょうすいきゅう)

 土上級(どじょうきゅう)、治癒魔法専門として癒一級(ゆいっきゅう)魔法使いが揃い、

 剣士には風一級(ふういっきゅう)と、全体的に見てもハイレベルな、

 少数精鋭の五人パーティーが出来上がった。



 早速、暁狼は依頼を受ける。


 =================

       ニ星級依頼

     テポコト村の邪族討伐

          (一級)

     報酬金 金貨15枚

       (報酬金提供

        エテルノ王国ガレイル) 

     場所・エテルノ王国

        テポコト村北部の平原

     依頼者 テポコト村


 特に長く言うことはないです。

 ただ一言、助けてください。

 救世主をお持ちしております。

 ==================


 この依頼は先日追加されたもので、内容に対してかなり金貨の量も多く、今やらなければ取られてしまうだろう。


「この依頼で良いわよね?」


 四人が承諾するとフラメナは依頼紙を手に取り、

 受付の者へと渡すと受注完了だ。



 五人は早速、馬車に乗って目的地へと向かう。

 あまり時間はかからずに到着し、早速全員が各自武器を取り出した。


「それじゃあ行くわよ!」


 森へと入った途端、鳥が森から離れていった。

 そんなことは気にせず五人は、邪族を討伐するべく進んでいく。


 邪族の詳細としては猪族で、非常に獰猛らしく、

 知性の欠片もないのだと言う。

 一際大きい個体が主だと書いてあるが、それは森の奥にいるのだろう。


 五人は何十分か森の奥へと進むが、まだ一体も猪は現れず、少し疑いが見え始めていた。


「これ他の誰かが勝手に倒したとかじゃないの?」


 エルトレがそう言うとトヘキがそれを否定する。


「そんなことはないと思いますけど……

 多分、まだ奥にいるとかじゃないんですかね」


「待て……何かくるぞ」



 リクスがそう言うと前方から魔力圧が襲ってくる。

 その圧は凄まじく、明らかに一級などが放てるものではない。

 むしろ、この圧の強さはーー


「″君級″……!」


 君級だ。フラメナは一発でそれを見抜き、意識を集中させてオーラーを目視しようとする。


 金……?


 次の刹那、フラメナの顔に迫る黄金の拳。

 それをトヘキだけが認識し、氷の魔法で柱を作り出して、フラメナを咄嗟に横へと突き飛ばす。


「ぶははははは!!まさか本当に来るとは思わなんだ!やはりあのお方は最強よォッ!」


 黄金に輝く虎の巨体、知らぬはずがない。

 圧倒的な力、それを象徴する如くついた異名。


 名を傲慢、シルティ・ユレイデットと言う。


「なんで……!」


 トヘキがそう言葉を漏らすと、シルティは口角を上げて大きな声で話し始める。

 五人の間合いに入ったにも関わらず、悠長に喋り出す姿はまさに傲慢。



「なぜいるか、とは貴様の脳で考えるべきだ。

 我は王であり教師ではない、それに考えればわかることだろう。なぜ知ろうとしない?

 我は貴様らが理解できんな……まったくもっーー」


 エルトレが剣を変形させて斧へと変え、

 一気に背中を切り付ける。


 手応えはあった。

 だが傷がつかなかったのだ。


「嘘っ!」


 エルトレは自身の攻撃は全く効かないことに驚き、

 少し下がるとシルティは呆れたように言う。


「……まったくもって、傲慢であるな。

 我こそ唯一の傲慢の王だぞッォオ!!」


 シルティは体を動かし、その黄金の拳をエルトレへと向けて放つ。

 エルトレは武器を盾にしてそれを防ぐと、

 一気に吹き飛ばされて木に叩きつけられた。


「うぐぁっ……」


 魔王側近にも強さの序列が存在する。


 憤怒や色欲は言わずもがな最上位。

 その下に暴食、怠惰、強欲、嫉妬、傲慢。


 傲慢は最下位の強さである。


「ぬるいぬるい!200年前の剣士であればこの一撃を受け流し、我が肉体へとかすり傷の一つでもつけていたものよ」


 シルティは続けて動き、魔法陣を展開するリクスへと拳を突き出すべく踏み込む。


硬固堅(ガンドロア)!」


 中級魔法にて最硬度の土の壁。

 それはシルティの拳を止めるに至らず。


氷鋭(アイクスル)!」


 リクス庇うべく、トヘキが氷柱を作り出し、

 シルティの拳を止めようとするが、それはほぼ無意味に終わる。


 まさに今、リクスを絶命させるその拳。

 白き火が燃え上がり、傲慢を焼き尽くす。


白炎弾(ホフライト)!」


 フラメナは無陣魔法にて短縮発動を行い、

 手から高速で放出される火球がシルティの拳に直撃し、咄嗟にシルティは拳を引いて五人から距離を取る。


「……!」


 エルドレが言っていたように……やはり猛毒かァ!


 シルティの黄金の拳はヒビが入って剥がれ始める。

 それを見た瞬間、シルティは自身の腕を叩き切り、

 即座に腕を丸々と再生する。


「治癒魔法にしてもレベルが高すぎる……!」


 ラテラがそう言うと、どれだけのことをしているかが皆に伝わった。


「やはり毒であるな、我らは特に効く。

 これも″呪い″の代償か……まぁ良い。

 貴様じゃ鈍すぎて我にはもう二度と……

 魔法を当てれんからなァ」


 そう言い切るとシルティは一気にその場から踏み込んで、フラメナへと突っ込んでくる。


 一直線の猛攻、ならば迎え撃てば良い。

 フラメナの魔法はなぜか魔王側近によく効く毒であり、少しでも当てれば体が崩壊する。


 なら適当にでも当ててしまえばいい。


 シルティの速さ故に短縮発動にて、

 白い火を前方へと大量に放出するフラメナ。


 あの速度で突っ込んで方向転換が出来るはずがない、フラメナはそう思っていた。

 だがなぜ考えなかったのだろう。


 跳躍力は等しく誰もが持ち、

 相手は体を強化する君級の敵。

 シルティは地面が割れるほどの衝撃を放って跳び上がり、火を超えて地上から30メートルほど離れる。


金隕拳(エブン・パクト)ォオッ!」


 木にもたれかかり、ノックダウンするエルトレを除き、四人は空を見上げる。


「何よあれ……!!」


 空に浮かぶは巨大な黄金の拳。

 それが何属性の魔法なのかはわからない。

 どうやってそんなことを成しているかもわからないが、一つ確実にわかることがある。


「これ……逃げられないわよ!」


 逃亡不可、いわゆる詰みだ。



「逃げれる……!僕がいる!」



 トヘキの響き渡る声、その瞬間他の三人は言ってることの内容を即座に理解し、エルトレの元へと走る。


転移(エクリプス)!」


 間一髪だった。五人はトヘキの魔法によって転移し、あの巨大な拳を避けたのだ。

 転移先はユマバナの家、いきなり転移してきたユマバナは驚きながら水を飲む。


「なんじゃ、随分と疲れた顔し……

 一人は随分とボロボロじゃな!」


 エルトレはかなり酷い怪我で、

 背中や後頭部から血が流れている。


 だがここまで来れば大丈夫だ。

 エルトレはすぐさま、将級の治癒魔法使いが滞在する病院に連れて行かれる。



 クレーターのような地形破壊を起こしたシルティは怒っていた。


「敵前逃亡……!!屈辱なり!!」


 その日、中央大陸から森が一つ消えた。


 圧倒的なまでの強さ。


 これが魔王側近、

 フラメナ達は死を感じた瞬間であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ