第三十七話 病躯の憧憬
フラメナ、エルトレ、ラテラは、ガレイルの受付前にてパーティーを結成していた。
「パーティー名はどうなさいますか?」
そう聞かれフラメナが悩みながらも言う。
「究極怒涛の最強パーティとかどうかしら?」
「センス悪すぎでしょ……」
エルトレがそう言うとフラメナは、
不満そうに肩を下げ、ため息をつく。
そんな二人を横目にラテラが提案する。
「暁狼とかどうです?」
「また娯楽小説で変なの覚えたでしょ……?」
「別に変なのじゃないもん、意味もあるし」
「意味って?」
エルトレがそう聞くとラテラが言う。
「夜明けに現れる狼達、それが暁狼」
「待って、私がいないじゃない!」
フラメナがそう言うと、ラテラは人差し指を立てて言う。
「僕とお姉ちゃんを照らしてくれたフラメナさん。
それに照らされる僕たち狼……犬だけど。
この意味を含めての暁狼ですよ!」
「なるほど……ラテラ凄いわね!
こんな想像力豊かな人、私見たことないわ!」
フラメナがそう言うとラテラがわかりやすく調子に乗り始め、胸を張り出す。
それにエルトレが苦言を呈した。
「小説読んだだけでしょ……?
そんな調子乗ったら逆に恥ずかしいよ」
「う、うるさい!」
どうやら図星のようでラテラは少し耳を赤くしてエルトレに怒りをぶつける。
「あの〜……結局″暁狼″で良いですよね?」
受付の者が気まずそうにフラメナに話しかけると、フラメナがそれに返答する。
「ええ、暁狼で良いわ。
早速依頼を受けたいのだけど、一星級の邪族討伐はないかしら?」
「あー……最近はほとんど依頼がこなされちゃって……心当たりありますよね」
「あっ……あははは!私たちが倒しすぎた?」
「そうですよ……」
フラメナは毎日パーティーを探しては加入し、
そして追い出されることを繰り返していた。
そのため元々依頼数の少ないフィエリテ王国のガレイルから、一星級の依頼が消えていた。
「でも級を確認したところ……帥級と一級のお二人がいますし……特例とはなりますがニ星級の依頼を受けますか?」
「特例なんてあるの……?
それって、そんな勝手に使っていいの?」
フラメナが心配するように言うと受付の者は頷き、
理由を話し始める。
「本来、五つの星で区別されてるのは、命の保障がされないので星級で区別されてるだけです。
貴方達のように負けるわけがないと思った方々には特例として、こうして級外の依頼を出すことが許可されているのです。
ガレイルの目的は本来、邪族を狩り一般の方々を危険に晒さないこと。
それを踏まえるとこう言う特例は、
非常に理に適っているとは思いませんか?」
受付の言う事は正しい。
現にフラメナもそれには賛成だ。
だが、過去に一星級からコツコツ頑張った自分が、少し可哀想に思えてしまう。
クランツがいるのなら飛び級くらいしても良かったはずだ。
過ぎたことを長く考えるのはやめよう。
フラメナはそう思い、過去の事を記憶の片隅に追いやり、今からのことへと意識を向ける。
「ちなみにニ星級のその依頼ってどれくらいの等級の邪霊が出るのかしら?」
フラメナがそう聞くと受付の者は三枚の紙を出して見せてくる。
「どれもニ星級ですが、邪霊の等級が一番高いのはこれですね」
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ニ星級依頼
剣王山脈麓洞窟の邪族討伐
(二級~一級)
報酬金 金貨10枚
(報酬金提供
フィエルテ王国ガレイル)
場所・フィエルテ王国
西方の剣王山脈麓の洞窟
依頼者 ルテラドン村
村の戦士が何人も怪我しました。
勝てない。このままじゃ村が滅びる。
そんなのは嫌なんです。
お願いします誰かあの邪族達を、
討伐してください。
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「等級は二級と一級ですが、
一級が多めと聞いてはいます」
一級が多めの依頼。
フラメナからすれば大したことのない依頼だ。
一緒に戦う中で見てきたエルトレなども、
一級の強さとは思えない。
安全は保障されている。
これくらいがちょうど良いだろう。
「ならそれにするわ!」
「かしこまりました。ではご武運を」
受付の者がそう言うと、三人はその場を離れる。
外に出れば馬車を呼び止め、目的の場所を指定しそこまで運んでもらうこととなる。
「緊張してる?」
フラメナが膝に手を置いてもじもじとするラテラを見て、そう言うとラテラは言い返す。
「ち、違います!」
「緊張してなきゃこんなに肩に力入んないでしょ」
エルトレが横からラテラの肩を揉むと、ラテラはくすぐったそうに首を振って手を振り払う。
「も、やめてよお姉ちゃん!別に緊張してないから!」
「なんだただの強がりじゃん」
笑うようにそう言うエルトレ。
この二人は本当に仲が良いようだ。
親を戦争で失ってもエルトレがラテラを支え、ラテラはそれに感謝している。
誰がどう見たって非常に良好な関係だ
「ふふ、貴方達の仲良しなのね!」
「別に仲良しじゃない!」
「別に仲良しじゃありません!」
「あ、あははは、仲良しね……」
そうして30分ほどもすれば目的地に到着する。
そこから少し歩けば、邪族がいると思われる洞窟の前の三人は辿り着く。
「この洞窟よね?」
フラメナがそう聞いて振り返ると二人は頷く。
そうしてエルトレが布で巻いている武器を手に持ち、布を取って自身の腕に巻き付ける。
エルトレが先頭になり、その後ろにフラメナとラテラが続く。
「暗いですね……」
「誰も使ってない洞窟らしいからしょうがないわね」
フラメナは白い火を出して辺りを照らす。
ラテラはその火に少し驚きながらも、エルトレと同じくあまり恐怖は感じていないようだった。
当たり前のように魔法を使ってしまい、フラメナは少しラテラを心配して声をかける。
「私の魔法とか大丈夫?気分悪くないかしら……?」
「少し驚きましたけど……そう何も感じませんよ」
ラテラは魔法学校に通っていた。
魔法学に無知なはずがない。
それにも関わらず彼がフラメナの魔法を拒絶しないのはなぜだろうか?
「二人とも、前方に敵」
エルトレがそう言うと前の道から歩いてくる緑の肌を持った人でありながら人とは思えない容姿。
魔族の中で唯一知性持ちが存在しない種族。
ゴブリン族だ。
「バギャァッ!!ヒャッハァ!!」
何を言ってるかはわからない。
だがその声を合図にぞろぞろと目の前にゴブリンが現れ始める。
「反治癒魔法ってどんな風に使うのよ」
フラメナがそう聞くとラテラが答える。
「相手に触れることで出来ます……それと、言い忘れてたんですけど……その一日に一回しか使えなくて」
それを聞いてフラメナが振り返って聞き返す。
「本当?」
「本当です」
「……ゴブリン族は親玉がいるって私の先生は言ってたわ。その時まで取っておきなさい!」
ラテラが頷くとフラメナは手から真っ白の火を作り出し、エルトレの武器へと火を纏わせる。
その白い火を纏ったエルトレの武器が斧状へ変形。 エルトレの斧は地面を切り裂きながら下から上へと切り上げられ、巨大な白い火を纏う風の斬撃が放たれる。
風属性の強み。
それは他属性と混ざり合い、その属性の規模を肥大化させる。
故に前方の道全てを白い火と一つの斬撃が埋め尽くし、ゴブリン達を焼き尽くし切り裂いていく。
派手な攻撃が晴れれば目の前には塵のみが残っていた。
「さ、行きましょ!」
こんなの慣れてるという感じでフラメナとエルトレは道を進んでいく。
今のゴブリンは二級程度だろう。
それにしても圧倒しすぎだ。
ラテラは唖然としながらも追いつくように走ってついていく。
しばらく歩けば見てくるのは大きな空間。
何体かゴブリンがいるが、それをフラメナが短縮発動した火球で討伐してしまう。
フラメナの強みはその短縮発動。
無呼称は将級の魔法使いがやっと出来る所業だ。
無陣に関しては将級上位か君級でもない限り、非常にこなすのが難しい技術。
毎日エルトレがフラメナの魔法のことを、興奮しながら話していた理由がラテラは理解できた。
「ニ星級も大したことないじゃん」
「エルトレ、油断は良くないわよ」
「……ま、それもその通りだね」
そうして三人は苦戦という言葉を知らないが如く、
洞窟を進み続けると、フラメナの魔眼が強く反応する。
「この奥に青いオーラが見えるわ。おそらく親玉よ」
そう言われエルトレがラテラに目配せをする。
「私とエルトレで隙を作るから頼んだわよ!」
ラテラは無言のまま頷き、非常に緊張した面持ちで二人の後ろに立つ。
二人が歩いて通路を進めばラテラもそれについていき、出るのは一際大きな空間。
「エルトレ、いけそう?」
「あたしは余裕」
そう言われてニコニコするフラメナ、奥に見えるには石で作られた玉座に座るゴブリン。
体格は通常個体より三倍ほど大きく、大きな棍棒を持っている。
「ラテラは私が合図したら走って、そしたら絶対大丈夫だから」
「……わかりました」
「フラメナ、行くよ」
「いいよ」
フラメナが白い火をエルトレの武器へと纏わせる。
エルトレは武器を振り回して斧や剣に連続で変形させながら接近していき、跳び上がって火の斬撃を撒き散らしながら親玉を切り付ける。
その斬撃は親玉を大きく切り裂き、後方の壁へと叩きつける。
エルトレは武器を地面に刺し、それを掴んで華麗に着地すると武器を蹴り上げ、手に持つ。
「白縛植」
フラメナが魔法陣を展開し呼称すると、白い草が大量に親玉の背後から生え、完全に手足を拘束する。
それと同時にフラメナがラテラへと手を向けると、
ラテラはそれを合図と確信し走り出した。
ゴブリンの親玉の等級は、基本一級か上級。
だがエルトレはもはや一級などの強さではない。
そこにフラメナが加われば、一方的な戦いとなる。
「反治癒魔法……!」
ラテラは走って親玉に接近すると跳び、
ギリギリ手を親玉の腹部へと触れさせる。
着地してラテラが呼称する。
「復壊!」
そうラテラが叫んでも親玉に変化は訪れない。
静寂がこの空間を包み込もうとした瞬間、眩い光が親玉の腹部から溢れ出し、次第に体が崩壊していき塵が辺りに舞い始める。
最終的に親玉は跡形もなく塵となり消滅する。
「……えっと」
「すごいわね!!」
フラメナが走ってラテラへと向かってくる。
「本当に消えちゃったわ!ラテラの魔法すごいじゃない!」
「そ、そうですか?えへへ、そうですか……」
「だから褒めすぎると調子乗るって……」
後ろからエルトレもやってきてそう言う。
だが顔はホッとしているようで、ラテラもそれを見て特に言い返さなかった。
「これって、合格……?」
「合格に決まってるじゃない!
一回きりでもこんなに強いなら十分よ!」
フラメナが手を握りぶんぶんと振ってくる。
「決まりね。これで正式に私たちはパーティーよ!」
ラテラは合格した。
遂にパーティーが完成する。
フラメナの旅の計画もやっと進み始める。
さぁ旅を再開しよう。目指すは中央大陸。
三人は良い雰囲気の中、パーティー結成初仕事を終えた。




