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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第三章 少女魔法使い 南大陸編

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第三十二話 欲まみれ

 ノルメラはフラメナとルルスより年上だ。

 なぜ彼がルルスに先輩と付けて名を呼び、年上に対する言葉遣いをするのか?


 それは彼が敬うべきと思った人には

 先輩と付けるのが自分ルールだからである。


 フラメナにも先輩を付けたかったそうだが、

 本人に拒否されたのでお嬢様呼びにしている。


 ノルメラはいつしかの討伐作戦の時、フラメナの魔法とルルスの手助けによって命を救われている。

 もちろんノルメラも最初はフラメナの魔法に恐怖した。

 だがそんなことで怯え、命の恩人に嫌な思いをさせることなど、ノルメラの心が許さない。


 あの時の恩を返すなら今だ。


「ルルス先輩!」

「ノルメラさん……!?」


 ノルメラは全身傷だらけのルルスの脇に手を入れて引きずる。


「やっぱり俺は見捨てて逃げるとかできねえっす!」


 そのままエルドレとヨルバの元から少し離れた後、ルルスを持ち上げて担ぎ、急いでその場から離れていく。

 これによりヨルバの不安が消えた。

 思う存分戦いに集中できる。


「……さぁて、僕ちゃんも本気出そうかな」


 エルドレの得意な魔法は不明だ。

 彼の情報はほぼ存在しておらず、

 ヨルバは警戒を高める。


血水(ブラアルテ)


 エルドレは足元に青い魔法陣を作り上げてそう呼称すると、真っ黒な角や翼、尻尾が一気に赤く染まる。

 加えて赤い水が彼の周りを漂い始めた。


「水属性魔法か」

「と言っても僕ちゃんのオリジナルだけどね」


 エルドレはそう言うと周りに漂う水を指先で触れ、

 そのまま水を動かしてヨルバへと向ける。


「水属性は応用力が一番高いのは知ってるかな?」


 突如、指先の水は変形。

 赤い槍だった。

 赤い水は槍へと形を変え、それが放たれるとヨルバは刀で真っ二つに切り裂き攻撃を阻止する。


 エルドレは微笑みながらその攻撃を繰り返す。

 ヨルバには依然槍が当たることはないが、

 この行動によって両者が動かない状況が続く。


「長期戦に持っていくつもりだな」


 ヨルバが槍を切り裂き一気に前へと踏み込んで突っ込むと、刀が振り下ろされエルドレの肩に切り込みを入れる瞬間。


「!?」


 ガキンと大きな音を立てて刀が止まり、

 何が起きたかと思って見れば、エルドレの肩の前にある空間で刀が静止していたのだ。


「空間魔法くらい知ってるよね?」


 無呼称、無陣は当たり前かのようにエルドレは空間魔法を短縮発動。

 エルドレはそのまま尻尾を突き出し、

 ヨルバを貫こうとするが、空間魔法によって具現化された空間に挟まった刀を支えにバク宙し、刀を引き抜いてエルドレの後ろへと着地する。


「っ!」


 後ろへと着地した瞬間、エルドレの翼が一気に広げられ、それに叩かれるようにヨルバは一歩後ろに下がると、先の赤い槍が飛んでくる。


 この距離……できれば触れたくなんてないが


 ヨルバはそう思いながらも槍へと手を向けると、

 眼前に迫る槍を間一髪掴んで止め、すぐさま地面へと投げつけ破壊する。


「……やはり毒か」

「あぁわかる?」

「一瞬だが……ピリピリする」


 ヨルバが槍を掴んだ左手は少し赤くなっており、

 致死性の毒ではないがエルドレの水属性魔法には毒が含まれていることを理解する。


 ヨルバは刀を握り直し、構えを即座に行うとその場から空間を切り裂くような斬撃を放つ。


「そんなの避けるの簡単……っ!?」


 ヨルバは土属性魔法を扱う。

 土の壁をエルドレのすぐ横に作り出すと、

 右側に逃げる選択肢を無くし、自身が動くことによって左から刀で切り裂く。


 巨大な斬撃を囮にするのではなく、

 ヨルバはそれを本命として動いたのだ。


 エルドレはその動けない状況にて手に光が宿る。


雷冥(ハラデレット)


 そう呼称すれば光がバチバチと音を鳴らし、

 光が鎌状に変形していき、エルドレはそれを手にして左から迫るヨルバへと鎌を振りかざす。


 ヨルバは咄嗟にそれを防ぐ。

 それによりエルドレは迫ってくる巨大斬撃を避け、

 水の槍を作り出しながらヨルバと距離を取り、ある程度離れた時に一気に槍を発射する。


 ヨルバはそれを避けながらもどんどんと近づいてきて、エルドレは水による赤い槍が彼には通用しないことを理解し、雷の鎌で近接戦へと挑む。


「な〜んてね!近接なんてするわけないんじゃん!」


 エルドレは鎌を投げつけてくると、それを弾こうとヨルバは刀を振り上げる。

 だが鎌は刀に触れる瞬間爆散し、鎌に込められていた雷属性が放出される。


「っぅっぐっ!」


 それによってヨルバは感電した。

 その隙を見て一気に突っ込んでくるエルドレは、

 実に楽しそうな顔でヨルバの腹へと尻尾を突き出す。


「は?」


 エルドレが思わずそう言うと、

 突き出した尻尾が真っ二つに切られていたのだ。


 その状況にエルドレは急いで後方へと下がり、

 尻尾を即座に再生させる。


「っ……治癒魔法まで使えるのか」

「治癒魔法っちゃそうだけど……そんなことよりなんで動けてんの?感電してたはずじゃん……!」


 エルドレはヨルバが何をしたか分からず必死に聞き出す。


「……根性」

「ッチ……全く男らしいね。なら根性で耐えれないくらいの電撃を浴びせてあげるよ」


 ヨルバは刀を振り上げ構えを取る。


 エルドレは毎度思っていた。

 このヨルバという男のこの構え。

 圧倒的に無防備なのにも関わらず、全く隙がない。


 あれ……なんでだろ?

 僕ちゃん今、この男に恐怖した気がする。


「一つ聞きたい、お前はなぜ邪族となった」

「……だって楽しいからさ」

「楽しいから……知性ある生命を殺すのか?」


「あははは!随分と価値観が違うみたい。

 三代欲求ってさ食欲・睡眠欲・性欲ってあるでしょ?その中で一番強いのはなんだと思う?」

「……睡眠欲?」

「素直に答えてくれて嬉しいな。

 普通の考えじゃそれが正解だよ。

 でもね僕はいっぱい殺して気づいたんだ」


 エルドレはいやらしい笑みを見せながら言う。


「生命はね。元々子孫を残すことしか考えてないの、

 本能にそう刻まれちゃってるんだ。

 瞬間的な強さじゃ性欲、快楽が一番なんだ。

 知性ある者は全てが快楽を求めて生きている。

 野生とは違う……僕ちゃんたち知性がある存在は欲に塗れてるんだ。だからこそ言うよ。


 一番強い欲は性欲さ。

 だから僕ちゃんは何かを殺す。

 それが快楽だから」


 自論を展開するエルドレ、真面目に最後まで聞いたヨルバは少し呆れたように言う。


「欲に従い続けるにはあまりにも低知能と見えるぞ」

「欲に素直じゃなきゃ人生は豊かじゃないよ」

「……やっぱりダメだ。邪族とは分かり合えない」

「それは残念、悲しいなぁ」


 ヨルバは話を聞いている間も構えを取り続けており、今もそれが続いている。


 圧がどんどん高まり息が詰まるような状況。

 エルドレは口角を上げながら雷の鎌を再び作り出して手にすると、水の槍を後方に作り出す。


「お喋りは終わり、僕ちゃんも本気で殺しにいくね」


 エルドレは翼を広げ、飛ぶようにヨルバへと左右に揺めきながら接近していき、惑わすように動く。


 ヨルバの目はエルドレをしっかり捉えている。

 そしてエルドレがまさに攻撃を仕掛けてくる瞬間、

 ヨルバは刀を振り下ろすとエルドレの鎌に直撃。

 そのまま鎌を破壊して切り裂いた。


 エルドレは下がりながら水の槍を放ち、

 繋げて魔法陣を空中に展開して雷属性の矢を放つ。


 それにより水の槍へと雷が混ざり、

 強烈な感電性能を帯びた槍が完成する。


 ヨルバは一気にそれを巨大な斬撃で相殺しようと考え、刀を振り上げる。

 エルドレも追撃を仕掛けるためにヨルバへと接近しようとした。


 その瞬間だった。


白爆天(ホワルボルフ)!」


 水の槍と雷の矢の真下から大量の白い火が溢れ、

 天へと昇っていくと、ヨルバとエルドレは目を見開き困惑していた。


 エルドレは特に困惑していた。


「閉じ込めた空間には僕ちゃんの空間魔法と土属性魔法を張ったんだぞ……なんで?」


 フラメナは白い火が残る中、

 穴の中から風魔法で飛び出てくる。


 フラメナはエルドレの顔を見た後、ヨルバを見て大体状況を把握する。


 フラメナは躊躇なく手をエルドレへと向けて白い火を放出すると、エルドレはその火を左腕に喰らう。


 白い火は腕へと絡みつき激痛を伴い始めると、

 エルドレは鎌を即座に作り出し腕を切り落とす。


「なんだ……マジで毒じゃん」


 フラメナは地面に足をつけて着地する。



 なぜフラメナは出てこれたのか?


 ヨルバとエルドレが戦っている中、フラメナは閉じ込められた空間内で魔法を何度も天井に放っていた。


 何度もそれを行ったが故に、エルドレが固めた空間をも破壊して出てきたのだ。


 力業、それが脱出の理由。


 この点においてはエルドレの想定を上回った。



「自分で腕切るなんて頭おかしいじゃない……!」


 フラメナはそう言いながらも魔眼でエルドレを見つめる。


 こいつ……オーラが二重?

 黄色と青色……オーラがたまに消えるぐらいには強い相手……!


 するとエルドレは翼を広げて飛び始める。


「折角君級殺せそうだったのに……″天理の欠片″を宿す魔法使いは流石に相手したくないね」


 エルドレが逃げるのは当然だろう。

 ヨルバとの戦いでは必ず隙が生まれる。

 そこにフラメナの白い魔法が入れば確実に敗北するのはエルドレだ。


 ヨルバも刀を納め、エルドレが逃走することを悟りただ飛ぶエルドレを見ているだけだった。


「降りてきなさいよ!!」

「やーなこった。また会う時殺し合いしてあげるよ」


 フラメナの声にエルドレはそう返答する。

 エルドレは高度を上げて自身で張った結界を崩壊させ、そそくさとその場から去っていった。


 フラメナは逃げられたことに腹を立てながらも、

 その場に座り込むヨルバに声をかける。


「大丈夫かしら……?」

「ありがとうございますフラメナお嬢様……危うく殺されていました。」

「ヨルバが殺されるって……そんなに強いの?」

「あの者の名前は、

 魔王側近、色欲のエルドレ・メラデウス」


 フラメナは魔王側近と聞いて体が恐怖を思い出す。


「魔王側近って……」

「私との戦いでエルドレは本気を出していない……本気を出されていれば私は負けていたでしょう」

「そんな……」

「でも……フラメナお嬢様を酷く恐れている。

 そのおかげで相手が逃げてくれて助かりました。」


 フラメナは手を差し出す。


「私はなんにもしてないわよ。

 ほら早く立ち上がって!」

「……もう私は嫌いではないのですね」

「嫌いなんて言ったことないわよ!」


 ヨルバは苦笑いしながらもフラメナの手を、歴戦の証とも言える傷が付いた手で握り立ち上がる。



 その後、ルルスとノルメラを見つけると、それ以外の隊員達を探し出す。


 今回の討伐作戦は最悪の結果だった。

 総勢四十九名の隊員は二十三名まで減り、負傷者も多く当分討伐作戦は行えない。


 タルワットがエルドレに利用されてしまったことを知る者はおらず、特にあの者達の名に泥がつくことはなかった。


 あれから二日。


「ルルス〜?怪我はどう?」


 フラメナはルルスの部屋へと訪れると、

 疲れた顔でベッドに横になりながらも、ニコニコといつもの表情を見せてくる。


「完治まではもう少しかかりそうです〜」

「一方的にやられちゃったの?」

「そうですね〜」

「やっぱり強かった?」


 ルルスは外を見ながら言う。


「強かったです。太刀打ち出来ないくらいに」

「……なんだか世界って広いわね」

「あんなのと戦える人もいますからね〜」

「私がいつかぶっ倒してやるわ!ルルスの怪我の分やり返してやるのよ!」


 フラメナが大きな声でそう言う姿を見てルルスは笑いながら見守る。


「いつか……なってくださいよ〜」



 一方東勢大陸のどこかにて。


「貴様エルドレ!!なぜ先に攻撃したァア!!」

「だってどうせならって思ってさ」

「貴様ァア!!我がここまで来た意味がないではないか!殺されたいのかァ!!?」


 エルドレは舌を少し出しながら言う。


「ごめんって〜」

「大体、強者を誰も殺せてないとはどういうことだ」

「でもシルティだったら死んでたよ」

「なんだと?」


 エルドレは真面目な顔をして言う。


「君級の剣士がいたんだけど、シルティじゃ死闘の末に敗北って感じ、強いよあの剣士は」

「貴様……我をどこまで侮辱すれば気が済むのだ」

「南大陸に行くのはオススメしないよ。」

「……貴様いつか覚えておけよ」

「はいはーい」




 四季が流れ、特にトラブルもない日々が過ぎた。

 時は経ち続けて、人は成長する。


 フラメナは十五歳になった。

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