第二十九話 相容れない魔法
虹剣1684年2月15日。
フラメナはルルスと共に街中を歩いていた。
「昨日のパーティは楽しかったわね!」
「美味しいものがたくさんでしたぁ〜」
どうやら昨日はフラメナの誕生日だったらしく、
フラメナは余韻を感じ、まだ興奮している。
誕生日はパーティをするもの、
それが貴族の常識である。
パーティにはフリラメやクランツ、
ルルスはもちろん、ヨルバや討伐隊で知り合った者達などが参加していた。
「もう一回昨日を味わいたいですねぇ〜」
「また来年すれば良いのよ!」
「それもそうですね〜」
フラメナは十三歳になった。
討伐隊は初回の作戦以降大きな被害もなく、順調に討伐を進めている。
フラメナも魔法を使うことに抵抗はなくなり、作戦時にはバンバンと使っていた。
討伐隊の皆がそれを受け入れてくれているかと言われれば、そうとは言えない。
依然、フラメナの魔法は酷く不気味で拒絶されるようなものだ。だがそれを踏まえてもフラメナという人間性は好かれやすい。
クランツが率いる討伐隊は総勢二十七名。
平均の級は一級ほどで、フラメナは今や主戦力だ。
誕生日から一ヶ月、二週間に一回行われる討伐作戦へとフラメナは参加する。
「やっお嬢様」
「ノルメラ!」
ノルメラ・イルデルス。
二十一歳の彼は火上級の魔法使いだ。
「今日も頑張るわよ!」
「お嬢様は今日も突っ走るんすか?」
「当たり前じゃない、近接で魔法を使うのが私の強みだからね!」
フラメナの魔法の使い方は奇抜だ。
魔法使いとは基本的に敵から離れて戦う。
剣士などがいれば尚更だ。
だがフラメナは必ず前に出る。
そんな戦い方を可能とさせているのは、彼女が手から魔法を放つことと、無呼称・無陣で魔法を発動できるのが理由だろう。
「ほんと面白い戦い方っすね」
「ノルメラなら真似しても良いわよ!」
「はは、出来ねぇっす」
そう話していると後ろからルルスが二人へと話しかける。
「おはようです〜」
「おはようルルス!今日は少し眠そうね」
「バレましたぁ〜?娯楽小説が面白くって寝れなかったんですよぉ〜」
「それって……私が貸したやつ読んだの?」
ルルスが頷くとフラメナは興奮したように聞き出す。
「やっぱり良かったわよね!ああ言うのってすごく応援したくなるの……!」
「確かに主人公の女の子が何度もアプローチする姿は応援したくなりますね〜」
ノルメラが困惑したように聞く。
「その娯楽小説ってなんすか?」
「知らないの!?中央大陸ですっっごく売れてる恋愛ものの小説よ」
「オススメですよぉ〜」
ノルメラはそう聞いて顔を引き攣らせる。
「いやぁ、俺はそう言うのはパスで」
「なによ、良い小説なのに」
そう話しているうちにクランツがやってくる。
「皆様おはようございます」
三人はそう挨拶してきたクランツへと挨拶を返すと、クランツがフラメナへとあることを聞く。
「フラメナ様、朝食は食べたのですか?」
「食べたわよ……ちょっとだけ」
「寝すぎですよ」
クランツはそう言って鞄からパンを取り出すと、フラメナへとそれを手渡す。
「いいの?ありがとうクランツ!」
「お腹が空いている状態では戦えませんので」
そうしてフラメナがパンを食べ終わる頃、メンバーが全員集まり討伐隊は出発する。
移動は馬車であり討伐作戦を行い始めてから三ヶ月経った平原は、雪解けが始まり徐々に緑の草を見せ始めていた。
フラメナを含めた、ルルス、ノルメラ、クランツは馬車の中で目的地まで会話していた。
「だいぶ邪族減ったわよね」
「そうですね〜」
「結局あの邪族ってなんなんすか?
クランツはそれに答える。
「召喚魔法による召喚体の可能性が高いんですよ」
「ええ?でもヨルバ隊長が君級レベルに会ったって言ってましたよ。召喚で君級とか聞いたことないっすよ。」
ノルメラは至極真っ当なことを言う。
「確かに普通じゃあり得ない。
でも南大陸が滅亡したのもあり得ないことです。 もはや今の南大陸は何が起きててもおかしくない」
「それじゃあこの前言ってた説通りなんです〜?」
「魔法の可能性って話ですね。
今も変わらず魔法の可能性で研究を進めてます。
ですがほとんど進捗がありませんね……仮説を建てては何度も立証ならず……謎が多すぎるんですよ」
クランツは頭を悩ませるようにしてそう言う。
これに関しては当然の結果と言える。
全くと言って情報がないのにポンポンと結果が出るわけがない。
今わかっていることはたった二つ。
・執理世伝説によると空が赤く光る時裁きが降る。
南大陸滅亡時も空が赤く光っていた。
・災害では起きない規模の被害
フリラメやクランツ、その他の学者を集めても全く研究が進まない。クランツの目元は少し疲れているようにも見えた。
そうして討伐隊は二時間もすれば目的地に辿り着き、少し先に何体か邪族が見える。
「早速何体かいるわね」
「んじゃ今日も討伐頑張りますか」
体を伸ばすフラメナとノルメラ。
ルルスはブレード状の剣を抜いて片手に持つと、他のメンバーたちも各々構え始める。
邪族の平均の級は最初の頃より下がった。
今では二球ほど、将級や君級並みの邪族も最初以来接敵していない。
こうもいきなり弱くなると戦いというより、一方的な制圧。
戦いが一旦終わるとフラメナは手を振って白い火を消し、息を整える。
「いやぁ流石っすね。お嬢様の火は強えっす」
「ふふ、当然よ。火力は売りなんだから」
「最初の頃は怖くて仕方なかったっすけど、命助けられてから全く怖くないっすわ」
「ノルメラは珍しいタイプよ。命を救っても怖いって言う人は怖いって言うから」
フラメナは慣れたようにそう言う。
「まぁでも……やっぱりまだ受け入れられないもんっすね」
ノルメラが小声でフラメナにそう言うと、二人は何人かの視線が集まっていることに気づく。
「……別に良いのよ!」
フラメナはそう言って笑顔をノルメラへと見せた。
一方討伐隊の中ではフラメナの魔法を拒む者たちが陰口のように会話を交わしていた。
「タルワットさん、やっぱり俺……あの魔法耐えれないですよ。見るだけで怖いっすよ」
「そんなん誰もが思ってんだよ。王族だがなんだか知らねえが、あんな魔法使ってるやつと一緒に討伐作戦なんてしたかねえよ……」
タルワット・ジデラバル。
二十五歳で人刃流水上級剣士の男。
元々パルドシ港に住んでいる彼は、
王国再建という目的より、自分を強くしたいがための修行として参加していた。
「正直、王族だからあんま色々言えねえですけど、モチベに関わってくるもんですね」
「マルビアもやっぱそう思うよな。
モチベに関わる問題だぜ……」
マルビア・エストラーダ。
二十三歳の風一級魔法使いだ。
二人はフラメナの魔法に不満を感じる者たちの筆頭だ。
フラメナの魔法はどの属性でも真っ白だ。
魔法の属性は七種類のみ。
氷や雷よりも稀有な属性として闇が存在するが、
今はそれを属性魔法という括りにはせずに、
闇魔法というものとして区別している。
闇魔法もかなり不人気であるが、
フラメナの魔法のように見るだけで悪寒を感じ、
生理的嫌悪が起こるものではない。
フラメナの真っ白な魔法は見れば見るほど吸い込まれそうになるような不安感がある。
そして彼女自身が魔法の天才という点もあり、
強者が異常という状況は、それ以下の者たちからすれば、常に不安が纏わりつくもの。
不安を抱える者もいるが今回も作戦は成功。
大きな被害もなく軽傷者だけで済んだ。
パルドシ港に帰ればフラメナはノルメラに手を振りながら、ルルスとクランツと共に宿へと帰る。
フラメナは別に視線を気にしていない訳じゃない。
だがそれに意識を向けるくらいなら、自分を思ってくれている人に向けた方が良いと気づいただけだ。
彼女は成長したのだ。
「クランツ、今日は久しぶりにレストランでも寄りましょうよ!」
「良いですね。まだ夜も浅いですしお店も開いてるでしょうから食べに行きましょうか」
「今日もクランツさんの奢りです〜」
「ちゃんとルルスさんには払ってもらいます」
「うへぇ〜……」
三人は月明かりが道を照らす中、レストランへと向かい店内に人がいることを確認すると入店する。
「三名ですけど大丈夫ですか?」
「問題ないですよ。お席にご案内しますね」
店員がそう言ってテーブル席へと案内すると、
三人は席に座ってメニュー表をフラメナが取る。
「タルワットさん……!アレ!」
「おいおい……なんで飯時にも会わなきゃならねえんだよ。マジで不運じゃねえか」
タルワットとマルビアは、討伐隊の仲の良い者たちと夕食としてレストランに訪れており、偶然通路を挟んで隣の席となってしまった。
「どうする……店変えるか?」
「でももう注文しちゃいましたし……」
「飯の時くらい不安じゃねえところで食いてえだろ」
「そりゃそうですけど、キャンセル料とかかかりませんかね……一応貧乏ですし」
席に座る者たちもそう頷く。
「クッソ……我慢するしかないか?」
そんな葛藤を露知らず、フラメナ達は楽しそうに会話し、料理を注文してそれがテーブルに置かれたのであれば食事を始める。
その光景に少しイライラしながらもタルワット達は、不安に駆られながら食事をするのであった。
一方、近頃中央大陸などで男性のみが襲われる事件が多発していた。
「おま……え!」
「あはっ、女の子だと思った?残念、男の子だよ。
でも僕は君みたいな男の子が大好きなんだ」
色欲のエルドレ・メラデウスは全裸の剣士の男の首を掴んで持ち上げながらそう言うと、次第に顔が青白くなっていく剣士を見て恍惚な表情を浮かべながら話す。
「恋愛は楽しかった?でも今日でさよならさ、
次はもっと僕好みの強い子に生まれてきてね。
何度君が生まれ変わろうと追いかけ続けるから」
それを聞いて剣士は絶望したような顔になると、
エルドレの尻尾が腹を貫きその生涯を終える。
「シルティは上手くやってるかな?南大陸は男が多いって聞くから行くのもアリ……今から行こっかな」
色欲のエルドレ・メラデウスは非常に自由だ。
行動全てが自己中心的で己の愉悦のためだけに生きる存在とも言える。
不運ながらもこの気まぐれが、後にフラメナ達の障壁となることはまだ誰も知らない。
「行っちゃお、良い男一人食って帰れば良いや」
エルドレは乱れた服を整えて着直し、
窓に足をかけて翼を広げて夜空に消えていく。
傲慢に加えて色欲が南大陸を目指して動き始めた。




