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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第三章 少女魔法使い 南大陸編

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第二十五話 拒絶と感謝

 平原はかなり雪が積もっており雪原と化していた。


 討伐隊がパルドシ港から離れていくと、

 辺りからどんどんと足跡が消えていく。

 視界に映るのは曇天の下に広がる白銀世界、

 討伐隊は雪に足跡を残しながら進んでいく。


 今の南大陸の邪族は、基本的に騎士の魔族しか存在しない。

 知性のない種族もあの爆発で消えたのだろう。


 出会う邪族は四色の鎧を着る魔族のみ。

 討伐隊はまだ苦戦せずに狩りを続けている。


「……報告と違って邪族の級が低いですね」

「二級と中級レベルの騎士ばかり、楽しくないですね〜」


 出会う邪族はほとんどが低級であり、平均的な上級レベルの邪族はまだ出てきていない。


「クランツさん、あれ……なんですか」


 一人の魔法使いが指差すのは葉を枯らした森。


 黒い影のようなものが森に見え、全員がそれを凝視し始める。



 まさかあれ全部……

 黒いオーラがここからでも見えるくらい多い……!


 フラメナは警告するように叫んだ。


「あの黒いの全部騎士魔族よ!!」

「なんですって…!」


 クランツは驚いたようにそう言って再び黒い影を見れば、それは鎧を纏う騎士達だと分かった。

 何体かが走り出してこちらへと向かってくる。


「皆様戦闘に備えてください!」


 クランツがそう伝えると、魔法使いの者たちが下級や中級程度の魔法を呼称し放ち始める。


「嘘だろ!?」


 魔法使いの男が思わずそう声を漏らす。

 十を超える魔法が騎士に直撃し、塵となって何体かが消えるが、その後ろには大量の騎士。



 数が多すぎる……


 クランツがそう思いながらも短縮発動で風の斬撃を放ち、また何体か消滅するが全く数が減らない。


 遂に騎士達は討伐隊へと近づくことに成功し、剣士達が前へと出て前線を維持する。


「ダメだ数が多すぎる……ぐあぁっ!」


 大量の騎士が雪崩のように向かってくる故に、低級剣士達は歯が立たずに後ろへと吹き飛ばされる。


「クランツさぁん〜これマズいです〜……っ!」


 ルルスは距離を上手く保ちながら一体ずつ減らしていくが、それでも間合いを詰められ少しずつ傷が増えていく。


「……大三風(ウィルテルトラ)!」


 クランツは三つの魔法陣を展開してそう呼称する。

 水属性の竜巻を前線よりも少し奥へと放ち、

 騎士達を巻き込むと次に、火属性の竜巻を合わせて大爆発を起こす。

 そして電気を纏う竜巻が水を伝って広範囲へと電撃を放ち、一気に数が減った。


 だが次の刹那。

 一際大きな魔力を放つ騎士が、黒い何かへと乗って一気に此方へと向かってくる。


「ルルス様!」


 ルルスはその声で弱い騎士から離れた。

 そして突っ込んできた騎士へと剣を向ける。

 その騎士はその黒い何かの上から剣をぶつけた。


 剣をぶつけた瞬間、ルルスが姿勢を低くしたの見て 黒い何かから降りて着地する。


 ルルスはその黒い何かを切り刻んだ。


「何です?これ?」


 黒い何かは球体であり、もはや生命なのかもわからない、だが切り刻めば塵となって消える。

 しかし、その謎に包まれた者のせいで、困惑したルルスは隙を見せてしまった。


「っ!」


 ルルスは着地した黒い騎士が一瞬で間合いへと入ってきて、そのまま横に騎士の剣が流れ、同時に腹を薄く切られ思わず後ろへと下がる。


「強いですね〜……」


 ルルスは剣を持つ騎士を見てそう言い、自身もブレード状の剣を構え見つめる。



 一方、フラメナは一人葛藤していた。


 ルルスの戦ってる騎士は多分帥級レベル。

 クランツは大群を相手にしてるし……

 でも処理が間に合ってない。

 戦わなきゃ。

 私が魔法を使わなきゃ……


 フラメナは騎士達へと手を向けるが、震える手が魔法を拒み、手が体の方に戻ってくる


 出来ない……!



 ルルスは黒い騎士と至近距離での切り合いを続けていた。

 若干ルルス劣勢と言ったところだろう。


 騎士の剣がルルスの首元に迫れば、

 ルルスはそれをしゃがんで避ける。


 そのまま騎士の足を切ろうとすると、

 騎士が跳んでそれを避ける。


 空中へと跳び上がった騎士に、草魔法でツタを放って拘束しようとすると、騎士は回転してそれを切り裂く。


 そして着地したと思えば高速でルルスの眼前へと剣を滑らせる。


 しゃがんでいる状態のルルスは後ろへと転がると、 

 そのまま勢いをつけて立ち上がる。


 そして剣を騎士へと投げた。

 騎士はそれを首を傾け避ける。


 ルルスの剣は騎士の背後へと飛んでいった。

 その柄にツタが絡んでいるとも知らずに。


 剣の持ち手にツタが巻き付いていたのだ。

 それはルルスの手から伸びており、ルルスが腕をグッと動かすと剣が高速で戻ってくる。


 その攻撃は騎士の想定を超え、胸を剣が貫き騎士は塵となって消えた。


「……少し強かったですね〜」

「ルルス様っ!」

「!」


 ルルスはクランツの方を向いた瞬間。

 クランツが大量の風魔法の斬撃を放ちながらも、

 抑えきれていない状況を見る。

 その光景に少し危機感を感じたと思えば一瞬にして何かが此方へと迫ってくる。


 咄嗟に剣を立てて防ぐが、大きな衝撃でルルスは後ろへと少し飛ばされた。

 追撃かのように剣がルルスの眼前へと迫ってきて、

 それを間一髪転がって避けるルルス。


 頬に少しの切り傷ができるとルルスは立ち上がって、視界に攻撃してきた者を捉えた。


「こいつがこの大群のボスですね〜」


 ルルスは直感で察する。

 この黒い騎士はさっきの騎士よりも強い。

 そして自分よりも強い。


 クランツさんが大群を狩り尽くすのは時間の問題。

 他の魔法使いや剣士も交戦中……なら自分がすることは耐えることですね〜



 皆が戦う中。

 フラメナは戦場の中で立ち尽くしていた。


 魔法が怖いのだ。


 この真っ白な魔法を使ってどう反応される?

 恐怖、この魔法を使って自分へと向けられる視線、それを思い出して彼女はただ何も出来ない。


「フラメナお嬢様!」


 一人の剣士がフラメナへと迫った黒い騎士の攻撃を防ぐ。


「!……ありがとう」

「無礼を承知で申しますが、ここは戦場です……!

 気をしっかりと保ってください!」


 そう言って迫ってくる騎士と剣を交える剣士。


 フラメナは何も言えなかった。


 無力感、戦場で何も出来ない。

 こんなことなら来ないほうが良かった。

 そう思っていても時はすぎて戦況は悪化していく。



 ルルスは格上の敵と剣を交えるが、

 僅かながらも相手の方が強い。

 それにさっき負った腹の傷も少しずつ響き始めている。


 耐えれば良い。

 その思いでルルスは剣を振るうが、

 騎士は容赦なく殺しにかかってくる。


 ルルスは不思議と自分に違和感を感じていた。


 なんでこんなに戦いが拙いんです~?

 いつもなら出来ることも出来ない。

 ……もっと自由に


 ルルスは騎士の剣を弾き、

 一気に突っ込むと腹部へと蹴りを放つ。


 少し後退した騎士に対して、剣を逆手に持って一気に接近し、下から上へと切り上げ鎧に傷をつける。


「やっぱ硬いです?ね〜」


 騎士は剣を突き出し、ルルスの喉元を貫こうとするが、ルルスはそれを後ろに倒れてかわす。


 倒れ掛かる瞬間に横へと体を動かし、

 地面に転がりながら騎士の背後へと回り込む。


 そのまま背中を切り上げるように剣を振うが、

 騎士はそれを予測し剣を横に跳んで避けた。


 すると鎧の色が突如変わって赤色へとなり、

 突如ルルスを無視して一気に討伐隊のメンバーへと襲いかかる。


「っ……!?」


 ルルスが騎士の意味不明な行動に驚く。


 討伐隊のメンバーの一人が、

 他の騎士と相手しているところに、

 ルルスが相手していた騎士が突っ込んでいく。


 そして騎士は不意打ちとして剣士へと剣を振る。

 防げるはずもないその凶刃は、剣士の背中を切り裂いてしまった。


「え……ぁ?」

「?……嘘っ!」


 切り裂かれた剣士を見て魔法使いが戦慄すると、

 騎士が次々に剣を振るって討伐隊を攻撃し始める。


 ルルスは既に動いておりどうにかして止めようとするが、それでもこのままでは何人かやられてしまう。


 クランツは大群の処理に集中しており、

 止められる者はルルスくらいしかいない。



「たすけ……!」


 次々と切り裂かれていく。もう三人はやられた。

 最低でもあと二人はやられてしまう。


 フラメナは手が震えている。

 フラメナ程度の魔法なら足止めくらい可能だ。


『胸張りな!良い魔法なんだからさぁ』


 それはエクワナの言葉。

 フラメナはその言葉を精神的な支柱として、

 これから起こることへの覚悟を決める。


 これ以上人が死ぬくらいなら……!


「退いて!」


 フラメナは魔法使いを手で押し退けると、

 震える両手を迫る騎士に向け、ピタッと震えが止まった瞬間に短縮発動によって放たれた純白な火が、騎士へと直撃し動きを止める。


「ナイスですぅフラメナさぁ〜ん!」


 ルルスは完全に無防備となった騎士を、袈裟に切り裂いて塵と化し惨劇を終わらせる。


「ぇ……あ」


 フラメナが退かした魔法使いは腰が抜けており、フラメナを見ながら震えていた。


「っ……」


 フラメナはその視線から目を逸らすと、

 逃げるようにそこから離れる。


 そこから戦況は討伐隊側へと軍配が上がり、

 全滅することなく戦いを終えた。



「なんとか、倒しきれましたね」

「流石にヤバかったです〜」


 フラメナは少し離れたところに座って手を見つめていた。


「……あの」


 フラメナは声をかけられて振り返る。

 その声の正体はさっき助けた魔法使いだ。

 手が震えている。

 それが寒さなのか恐怖なのかは分からない。


「……」


 わざわざ話しかけてきて何のつもりなんだろう。


 そう思うフラメナは魔法使いの発した言葉に少し驚いた。


「その……助けていただいてありがとうございます」

「……!」

「では……失礼します」


 そう言ってそそくさと立ち去った魔法使い。


 フラメナは今感謝されたのだ。

 まだ拒絶されている感じはあるが感謝された。


 依然、自分に対する視線は畏怖や拒絶、だが感謝されたという事実がフラメナの心に報いを与えてくれた。


 死傷者含め十七名。

 死亡者も出た今回の討伐作戦。

 少し暗い雰囲気の中、雪が降り始めた雪原を後にして討伐隊はパルドシ港へと戻った。

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