第二十三話 エイトール家
フリラメ・カルレット・エイトール。
歳は十七歳で中央大陸にてエデル大学に十年通っている。
そんな彼女は大学を辞めた。
理由は自身の故郷であるゼーレ王国が滅亡したと聞いたからだ。
原因不明の大爆発によって南大陸は壊滅状態、領土戦争中だったと言えど、一気に大陸を壊滅させるのほどの魔法なんて存在しない。
フリラメの側近には王国騎士団長であり五名しかいない君級剣士のうちの一人。
ヨルバ・ドットジャーク。
歳は今年で四十歳を迎える。
「ヨルバさん……ゼーレ王国は、もうないのですよね……」
中央大陸から東勢大陸に渡り、馬車で移動してウラトニ港から南大陸へと向かう中。
フリラメは波が立つ海面を見ながら、ヨルバにそう少し震えた声で話しかけていた。
「ないです。もう、どこにも……」
ヨルバにも家族がいた。
妻に息子、とても良く出来た二人だった。
息子は真面目で人を見捨てない。
妻は優しく、勤勉でいつだって支えてくれた。
「……誰もいないのです」
「……ごめんなさいヨルバ、少し船内に戻ってくれるかしら」
「かしこまりました」
ヨルバは察した。
フリラメの目は潤んでいた。
現実を受け入れるのだろう。
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虹剣1683年11月25日。
私はクランツと共に、王国の再建についての話を聞いていた。
「南大陸に残る数少ない人たちを集め、一つの国を作るべきでしょう」
クランツがそう言うと、難しい顔をして大人たちがそれを否定する。
「だが……今や南大陸は超危険地帯。南方山脈を中心に爆発が起きて三国が滅んだ今、広大な平原には大量の魔族が湧いてるぞ」
「昨日も一人襲われたらしい……どうにか死なずに済んだみたいだけどよ」
「そもそもなんで邪族がいきなり湧き始めるんだ?あいつらも一応生命だろ?親が居なきゃ生まれねえはずだ」
南大陸は私が住んでいたころよりも危険らしい。
話を聞き続けていると、平均的な邪族の級が一級。確認された中で一番強いのが将級レベル、魔族らしいけど見た目は、騎士だって言っている。
黒、赤、紫、白。この四種類が今見つかってる色。
騎士の魔族は仮面を被っているようで、色によって仮面も違うらしく、クランツが迷宮で騎士の魔族と同じ見た目だったと伝えてきた。
「……となると邪族を狩らないといけませんね」
クランツの発言に再建に協力する者が言う。
「だが相手は一級以上だ。そこら辺のやつじゃ敵わねえし、ガレイルも吹き飛んで剣士や魔法使いだって多くない。金もなきゃ雇うことも出来ねえ、どうやってあの量倒すんだよ。クランツさんやフラメナお嬢様が強いことは再建派は熟知してる。でも……それでも何年かかる?」
この男の人が言ってることは正しい、私もクランツも強いしルルスも入れればかなり強いと思う。でも敵は何も一体だけじゃないから、三人だけで戦っていたらどこかで大怪我しちゃうわ。
この時期に大怪我なんてしたら場合によっては死ぬ。
クランツ以外に帥級以上の治癒魔法を使える人は今南大陸にいない。
「……フリラメお嬢様を護衛しているヨルバ騎士団長がやはり頼りでしょうか」
クランツがそう言うと皆は頷いた。
ヨルバ騎士団長は土君級剣士、一人で邪族壊滅なんて多分余裕なのよね。
会議のようなものは終わって、私はルルスとクランツと共に街を歩きながら、今後のことだったり日常的な平凡な会話をしていた。
「最初会った時から怪しいとは思ってましたけど~フラメナ様がまさか王族だなんてびっくりです~」
「そう?案外バレないのね」
「周知されるよりはマシですよ」
すると大きな船が港に向かってくるのを三人は見かける。
「あれって~」
「フラメナ様のお姉様ではないでしょうか?」
「……うん、絶対そう」
やっぱり魔法使いじゃないから色のオーラは小さめだけど……
とんでもない存在感ね……
フラメナはそう思いながらも船を見ていると少しして停船し、中から身長の高い中年の男と長い黒髪を持つ成人間近の女性が歩いて出てきた。
ガヤガヤと人が集まりその二人の姿が見えなくなっていく。
「こっちに来てますね~」
ルルスが言ったとおりに二人はこちらへと向かってきていた。
人が退けて二人の姿が再び見える。
「……貴女がフラメナ?」
「そうよ!」
フラメナはそう言うと黒髪の女性は自身に抱きついて来る。
「良かった!無事に生きてる。貴女のお姉ちゃんよ……!」
「……お姉様」
フラメナはフリラメを全く知らない。
だが唯一残った家族、抱きつかれて伝わってくる温もりに酷く心が落ち着き、自然と手をフリラメの背中に回していた。
「フラメナ。手紙で貴女がどうやって生きてきたかは知ってるわ。でも手紙で知れるのはほんの一部だけ……お姉ちゃんに色々話を聞かせてはくれないかしら?」
「……良いわよ!でもお姉様も中央大陸で何してたか聞かせてね!」
「ふふ、当然よ」
ルルスはクランツに肘でつつきながら話していた。
「姉妹って感じがしますね~」
「同感ですが……なんでつついてるんですか」
「うへへ~ぎこちないフラメナさんが珍しくって~落ち着かないんだぁ~」
「なんでルルス様が落ち着かないんですか……まぁああ言うフラメナ様はわたくしも初めて見ますが」
そう話しているクランツに騎士団長のヨルバが話しかけてくる。
「クランツ殿、フリラメ様の妹様を長い間、護衛感謝いたします」
「ヨルバ様ですよね?そんな感謝されるようなことは……」
「いえ……その実は……このヨルバ、フラメナお嬢様に嫌われておりまして」
「……え?聞いたことありませんよ」
ヨルバは目を伏せながら言う。
「顔が怖くて嫌いと言われてしまって……護衛を自ら断り続けていたのです。挙句の果てにはフリラメお嬢様に護衛としてついていくとなった時は、内心ホッとしていました。だからこそ、クランツ殿を尊敬しているのです」
「……多分本人はもう覚えてませんし……そんなことでわたくしに感謝など……」
「いいのです……これは感謝と言うより懺悔でもありますから」
「そ、そうですか」
ヨルバ・ドットジャーク。
この騎士団長、かなり几帳面で心配性だ。
「フラメナ、早速色々お話しましょ。宿はあるのよね」
「あるけど……お城みたいに広くないわよ?」
「あのねフラメナ……私はそこまで箱入り娘じゃないわ」
「そうなの……!?」
フラメナはもう少しフリラメが贅沢しか受け入れないタイプだと思っていたが、全然そんなことはなく少し安心していると、自分の妹にそう思われていたフリラメは、自身に対する偏見の量が凄まじいことを見抜き、少しため息をついた。
実の妹であるフラメナと十年ぶりに再会したフリラメ。
彼女はフラメナのように旅をしたことがない。
それ故に日が昇りきっていた頃から日が沈み、月が出てくる時間までフラメナの人生談を夢中で聞いていた。
定期的にクランツやヨルバが二人を見に行っていたが、どちらがいつ見てもその二人は仲良く会話している。フリラメがフラメナに合わせる性格なのだろう。長い時間がかからずとも二人は打ち解けた。
ーーーー南大陸、南防山脈にてーーーー
南防山脈は、南大陸滅亡事件で起こった原因不明の爆心地。
特に地形に変化はないが、岩肌は灰色に変色し、邪族も湧くようになった。
「やはりあやつは放棄したな」
「これが彼女の決めたことですか……」
南防山脈に立つ二人の人影。
「何人死んだ?」
「200万人中ほぼその全てが死にましたよ……」
「腹立たしい……あやつは役目をなぜ放棄した」
「処罰はどうします……?」
怒っているような口調の者は、語気を強めて言う。
「必要ない、直に裁かれる」
「……やはりあの子ですか」
「純白を宿す少女だ」
「楽しみですね。早く運命の全貌を見たいわ」
二人の影は滅びた南大陸を山頂から見下ろしながら、どこかへと消えていくのであった。




