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48話 クランマスターの使命や責務

 コロリンのクランメンバー登録のために冒険者ギルドへと凱旋した5人。


 まばらに散らばり混雑しがちなプレイヤーの山にも今や慣れ、堂々とした佇まいで受付嬢の所へと歩む時。


「お、おいあいつ! おまえ覚えてるか? 陰殺チームにあんなアルカイックスマイルのやついた記憶があるんだが……」

「んなことあるかい。じゃあ周りにいる奴もレッドネームの一味ってか?」

「そうなるよな……俺の記憶違いだったかなぁ」

「何がどうあれ、レッドネームじゃないならこっちから手を出すわけにはいかねぇし……」


 影を落とす存在たるコロリンのことを訝しげに見つめ、ヒソヒソと囁く冒険者達の姿。ただこうした陰口など慣れっこのコロリンなので、このアルカイックスマイルは別の原因から来ている。

 かつて陰殺チーム時代ではクランのことはマスターが一任しており、コロリンは冒険者ギルドに入ったことすらご無沙汰だからだ。


 ただ、ギルドにたむろするプレイヤー達のそんな話題も、移り変わりは早いもの。


「エッッッなんだあのロリィタ!? すっげぇかわいい……」

「どこの国の貴族令嬢なんだ? それとも、どこの店で売ってる自律人形なんだ?」

「あれは絶対俺に気がある目だ! よし結婚してこよ」

「馬鹿座れ! てめぇなんかがお近づきになれるわけねぇだろ!」


 続いては、高嶺の花的な存在たるマリーに移る。


 今日は優雅なクラロリスタイルをバッチリ着込んだマリーが「ふふん」と微笑む度に、その上品な美貌とアンニュイさに射抜かれた男性から黄色い声援が起こる。


 誰もが目の保養となりながらも、やがて一行の中心にいる背の低い人物に注目してゆく。


「おおあれは! 真ん中のちっちゃいのは……! なんかここ最近現れたやべぇチビ!」

「先週デスゲームあっただろ? その陰殺チームのマスターを倒して収束させた功労者なんだとよ」

「カムイの規格外の爆発力には、あのユロクさんからも一目置かれてるらしいんだぜ!」

「俺の娘より小さいのにとんでもねぇな。こりゃもっと伸びるかもな」


 奇跡と可能性の塊たる存在のハグたんが持て囃されとなり、外野は輪をかけて噂話に花を咲かす。

 褒められているにも関わらず、おどおどしながら友達の背に身を隠そうとする辺り、まだまだ恥ずかしさに堪らなくなるうぶなところがあるようだ。


 ハグたんが完全に隠れてしまったところで、次にプレイヤー達はまるで見てはいけないものを目にしてしまったかのようにざわめきだつ。


「あっ! あいつ! あの有名なマサムネじゃないか!?」

「いよっ! 皆の衆お目が高いぜぃ!」


 前列を歩くマサムネが、心の中でも「待ってました!」とでも調子よく言いたげなのは御愛嬌。


 評判を囁かれる前から既に照れ笑いが隠せなくなっているマサムネだったが、突き刺される目線はどれも棘棘しいものばかり。


「本人降臨やんけ。ふてぶてしすぎて草」

「こっわ、近寄らんとこ」

「あいつさぁ、罵倒スキル人間業じゃねえよ……いっそ笑わせにきてるだろ」

「マジでカスすぎるんだわあいつ。俺のフレンドも発狂したみてぇな暴言連発された挙げ句、ふりそでまめもちだの意味不明なあだ名つけられたし」

「マサムネぶちのめせるならレッドネームになってええわ。いや冗談だけど」

「冗談でもやめとけ! やめとけ! あいつ負けそうになると『こいつ女の子いじめてきました〜』だの嘘泣きしてくるんだぞ」


 マサムネのこれまでの所業を総括するかのような悪評、誹謗、中傷、批判、エトセトラエトセトラ。

 まさに、悪名が無名に勝るところをこれでもかと再現されている構図だろう。


 これらは全面的に自業自得でしかないのだが、それを聞き捨てならないのが、マサムネという短気さの拍車がかかった乱暴者。


「文句こくなら黙って見てろやこの下痢便マサイ族共! 今からテメーらの家に八頭身のシロアリ送り込んで家をゴミにするぞこのボケ歯磨き粉大将軍が!」

「貴様これからって時になに喧嘩買っておるのだ!!」

「ちい待ちクーちゃん! こういう売られたケンカは据え置き価格でボコボコにすんのがウチ流のいだだだだ! ギブ! ギブウウウウ!」


 命中しない程度に刀を振り回し始めた危険人物に対し、クロは情け無用の十字固めで関節を極め、強制的に大人しくさせた。

 念を押すがクロは関節技ではなく魔法系アーツ中心の構成だが、ゲーム外ではこれと同じことをしているのだろうか。


 ちなみに、クロへの声援はついぞ起こらなかった。

 目立ちにくい裏方ポジションがだいぶ定着してきたのかもしれない。


 せいぜいあるとするならば、1人のプレイヤーがクロの胸元辺りを埃一つ見逃さないほど入念に観察していると。


「お、こいつだけ女装してる男か」

「グアアアア! なぜ我だけいつもこんな役回りなのだ!」

「クーちゃんどうどう、あんなやつほっとけ」


 捨て置けられなかったマサムネなんかに言われても偉ぶるなとしか感想が出ないが、別の見方をするならばマサムネに言われればしょうがないと矛を収めたのであった。


 ともかくとして、着実に知名度を稼いでいることが十二分に伝わったハグたん御一行は、クランの受付嬢にコロリンの加入手続きを済ませると。


「おめでとうございますカムイ使い様。クランメンバーが5人になりましたので、本登録の条件を満たしました」

「いんやぁ、アニメ半クール分くらいの長い道のりでやしたなぁ」


 よほど一息つけたのか3枚目口調となったマサムネの表情筋が蕩ける。

 他4人もマサムネほどではないにしろ、友達の人数に感慨深さに浸っていた。


 当然、本登録に頷いたが、たったそれだけですぐさま完了とはならない。


「まず始めに、クランの『マスター』をどなたにするか、1人決めてください。メンバーの賛同を得る以外の条件はございません」

「えっ?」


 陰殺チームにもマスターと呼ばれるプレイヤーがいたことはご存知の通り。


 どんな組織にも、大抵の場合はトップがいるものだ。

 このゲームのクランシステムも同様であり、クランマスター無しなどという甘えた選択は出来ない必須事項。


「ええっと、誰がマスターやるんですか……?」


 そうハグたんは、友達4人の顔をゆっくりと一瞥。


 ハグたんの低い目線からすれば、友達4人とも長所に差があれどどれも頼れる年上という認識なので、自分という選択肢を除外してはいるものの、誰か1人となれば甲乙つけがたい。

 そのため最初から選択を委ね、決定に従うつもりであった。


 ならば、ハグたん以外の内心はどうだろうか。右から順に明かしてみれば。


(まあ、我だろうな)


 5人の中で最も他者の世話を焼けるクロは、そう神妙となっている。


(このあたししかいないわね)


 5人の中で一番の常識人を自認するマリーは、そう確信している。


(みんながやらないなら、コロリンがやるしかないかな)


 5人の中で正式なクランに身を置いていたこともあり、このゲームの経験豊富なコロリンが、そう責任感を持つ。


 なお考えるよりも先に手も口も出すマサムネは、相変わらず真剣さに欠けた態度で耳をほじりながら即座に口を開き。


「クランマスターなんてハグたん一択っしょ」

「ハグたんさんがやるんですね……いやそれって、私っ!?」


 ポップコーンみたいにはじけてしまいそうなほど吃驚仰天のハグたんだが、マサムネ以外の3人もハグたんと同じ表情だ。


「こらマサムネ! 貴様またそうやって皆が真面目に決めている時にもおちゃらけるつもりか!」

「あんた、ハグたんの名前出しとけば逆転の発想ぶれる気になってるとこあるわよね」

「いやいや、だってさ、このクラン元々ハグたんのためのクランだしさぁ、何がそんなに問題あんの」


 朗らかな雰囲気が一気に紛糾。

 いくら何でも、クランマスターの責務を小学生のハグたんが背負える重荷ではないとは共通認識だ。


「私なんかみなさんの中で一番リーダーシップがないですって! そもそもまず、クランマスターなんて何すればいいかすら分からないし……」


 マスターに指名されたハグたん本人でさえ、異議を唱え出したが。


「ん? 何もしなくてもいいんじゃねの?」

「ふえっ?」


 型破りな発想とはこのことだと、眠気も吹っ飛ぶ衝撃が皆に走る。


 そうとも、クランマスターはメンバーの賛同を得る以外の条件は必要ないと、確かに受付嬢は包み隠さず説明した。

 そこに使命や責務などは一切無く、極端な話、永久にログアウトしていてもクランマスターとしては成立しても構わないのだ。


「それならコロリンも賛成だころす」

「わあっコロリンさんも賛成派に!?」


 コロリンは他人の意見の咀嚼が早い。

 それに何しろ、ハグたんがきっかけにこのクランに入ったのだから願ったり叶ったりだ。


「適当な雑務から重要な案件まで、センターポジションたるハグたん以外の皆が担当する、か。フッ、まさに我々らしいクランになるだろう」

「クロさんまで!」


 自分以外の誰かがマスターをやると完全に思い込んでいたハグたん。

 だが友達みんなが、マスターの座を譲り出すという逆さまの世界に迷い込んだような流れには、ただただ驚く口ぶりしか呈していない。


「けど意外ね、あんたのことだから自分こそがマスターになるとかギャンギャン騒ぐって思ったんだけど」


 マサムネの性格に反した案をマリーなりに賞賛しているのか。無論マサムネ自身もハグたんのマスターに不満ない様子。


「ヘッ、分かってねぇっすねぇ〜。有能副官キャラの良さってあるじゃん? 劉備を補佐する諸葛亮みたいな、ノービートくんを助けるドラムもんみたいなさぁ」

「なんの漫画の話か知らないけど、あんたみたいな馬鹿にその枠が務まるわけないでしょ」

「おおっ? 張飛枠にゃ難しすぎたっすかぁ〜? ドラムもんならスネアかジャアーン枠が(笑)」

「なんの漫画の話か知らないけどそれ絶対あんたの枠よ!」

「ウチのことバカって言いてぇのかこのゴマ! ゴミ! ゴム! ゴリラ!」

「ら行にワープすんな!」


 今回は比較的会話が成立していると思われた矢先に、見慣れた口喧嘩が勃発。


 こんな調子では、仮にマサムネがマスターになったが最後、マリーのことを執拗に冷遇させるのは目に見えているため、補佐役4人組の1人に落ち着くのはこれはこれで良いのかもしれない。


「賛同を得る、の条件はクリアだ。さてハグたんよ、我らがマスターよ、後はそなたがメンバー表の一番上に記入するのみだ」

「は、はい!」


 クランマスターの決定に内心高揚しているため堂に入ったクロは、そうハグたんに促し、またハグたんも整備不良を起こしたロボットのようにぎこちなく進み。


「でででっ、では、みなさん、お言葉に甘えて、私が、このクランのマスターになりますっ!」


 まだ実感が沸かず、緊張により途切れ途切れの言葉になりながらも、ハグたんはこの新生クランのマスターに就任することを冒険者ギルドに宣言したのだ。


 能力、統率力、立場や年の功。

 リーダーに求められるべき要素は数あれど、それらが最も不足している代わりに“友達思い”が最も優れているハグたん。

 そうとも、この人が神輿ならば全力で持ち上げたいと思える人物、ハグたんこそクランマスターの適正が最大限に持ち得ていると認められたのだ。


 いつしかこの冒険者ギルドの場には、心優しいプレイヤー達の拍手が鳴り響いていた。


「いいっすねいいっすねぇ〜、なんかこれだと傀儡政権みたいになっちったけども」

「貴様はめでたい時にも不吉な言い方をぬけぬけと……」


 滑った舌をそのまま「テヘペロ」と可愛こぶったジェスチャーで誤魔化したが、マサムネがやればただの煽りである。拍手が鳴り止んだのは言うまでもない。


「では次に、カムイ使い様のクラン名を設定して下さい」

「あっあれっ、まだ決めなきゃいけないことあったんですか」


 受付嬢は事務的に――定型文以外の無駄な会話をしないよう設定されている故だが、マスターハグたんはすぐにまた戸惑う。


 クラン名のことは、やはりハグたんは頼るために友達に目を向けたのだが。


「ハグたんは何もしなくていいって言っちゃったけどさ、クラン名の決定権くらいはハグたんのもんだよね」

「い!? いや私なんか皆さんのお気に召すようなネーミングセンスなんて……」

「ひねって考えるよりも、無難なネーミングでいいんだころす。死とか殺とかつけなければ何でも自由って」

「それは流石につけないですけど……」


 名前が持つ印象には、加点がなくても減点はあるものだとコロリンは特に理解していた。


 なおハグたんが決めるといっても、悩んでいる以上任せっきりにはしない。


「そうね、ハグたんはかわいいんだから、ハグたんが思うかわいい感じの名前でいいんじゃないかしら」

「ウチにいい候補がありまっせ! ソウ! ゲーム未経験ぼっち少女のSTR極振りオワタ式自爆アーツ無双譚、ってな感じで」

「雑にタイトル回収じみたことしたつもりか」


 友達があれよあれよと案を出すが、聞くほどにハグたんはますます堂々巡りに陥り出す。


 そうしている内に、名前一つまともにまとまらない不甲斐なさには、案の定いつもの自己嫌悪モードとなって口も心も閉ざされてゆく。


 名ばかりでもマスターなのに情けない自分自身の姿、だったが、これはなんの奇跡か。

 頭をかかえる手に花飾りが触れた途端、どうしたことか却ってインスピレーションが舞い降りたのだ。


「『リトルフラワー』なんて……」


 そう、何となく浮かんだ2つの単語を繋げた名前を口に出した。


「いいじゃない! ハグたん、それにしましょ!」

「まあ無難だころす。けど一番いい無難だころす〜」

「いやちょっとまずくね? だって休載×休載のグレートマイランド編に出てくるガンスルーの能力にそんなのがあったような」

「水さすな。ハグたん、このバトル漫画脳が無闇に騒がぬ内に確定せよ」


 ひとまず賛成多数ということで、背中を押されたハグたんは受付嬢に伝える。


「クラン・リトルフラワー、設立の手続きは完了いたしました」

「へへへっ……、なんか、嬉しい……ひょおっ!?」


 ちょっとした音でも驚けるハグたんは、鳴り響く祝福の音色に一段と甲高い鳴き声で反応していた。


「いいぞー嬢ちゃん! 今の嬢ちゃんは誰よりも輝いてるぜ!」

「クランのマスターはきついこともあるかもしれんが、ほどほどに頑張れよ!」

「やっぱり人の成長物語の主役はこんくらい小さな女の子がやってこそだな」

「ノホホホホ、こりゃ楽しみが増えたわい!」

「リトルフラワー、名前だけは覚えておきますか」


 そう、今度は拍手だけではなく、ハグたんを讃える歓声までがあがっていた。

 冒険者ギルドにいたプレイヤー達が、心の中でクランマスターのハグたんの選択を応援していたことの表れ。他の友達がマスターだったらまずそうならない、小さなハグたんだけの魅力所以。


 隣に顔を寄せたマサムネも、同じ温かみのある気持ちだ。


「どうハグたん? クランマスターになって良かったっしょ?」

「良かったかはまだあんまり……けど、とりあえずみなさんがこうしてサポートしてくれるなら、逃げずにやりきれそうです」


 応援されることはプレッシャーかもしれないが、こうして様々な人からおだてられるのも悪くはないなと、朗らかな笑顔が灯らせていた。

 マサムネは正史より演義で育った派

 次回より、ドキワクワクドキのクラン活動が始まる

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