4話 爆弾発言
かくして、はじまりの草原のど真ん中まで逃げおおせ、せしめた51万ゴールドもの大金を平等に分かち合ったマサムネだったが。
「ハグたんはかわいいねぇ、髪の毛もふもふしてるねぇ。よしよし、でれでれぇ」
HPを回復させたハグたんに密着し、頭を撫で回しては首ったけとなっていた。
「貴様、幻滅したぞ。まさかこんな事案な趣味に目覚めるとはな」
「あ? 男の娘自称してリスナーに媚びてた誰かさんよかマシ」
「やかましい! ハグたんも嫌ならば嫌と告げても良いのだぞ」
「えっと、大丈夫です……えへへへ」
これまで人と触れ合わないでいたせいで人恋しさも感じていたハグたんはまんざらでもない反応であったが。
「来い、神威」
唐突に呟き、頭を爆弾化させる。
「おっ、今度はつるつるとした肌触りに火薬の香り……ほへ?」
「私、なんか幸せすぎてもう……自爆して死んでも悔いはありません」
「うわあわわわ勝手に爆破やめえええ!」
「ハグたんよ落ち着けぇ! 鎮まれぇ! カムイを解除させろおおおっ!」
いきなり全滅必至の大騒ぎとなったが、戻れ、神威とハグたんに唱えさせ、間一髪のところで爆弾を解除し元の頭部に戻させた。
「ごめんなさいぃ、調子に乗りすぎました……」
「いいっていいって。ハグたんみたいな小さなイノチは、あっしが責任もってお世話するって決めたんでやすから」
「なんだその三下のような一人称と口調は」
ハグたんの爆発力にキャラクターを見失うほど骨抜きにされているマサムネをよそに、クロはあることを思い返していた。
果たし合いの決め手となった自爆、その寸前に起こっていた出来事。
自分達が最後まで破れなかった蜘蛛の糸を、ハグたんは内側から千切りながら自爆していたのだから。
「ハグたんにひとつ問う、今のレベルはいくつだ」
「はっはい、まだ10です」
そう距離間のある関係性が拭いきれないながらも答える。
レベルアップのための経験値テーブルは全プレイヤー共通。
特に序盤の経験地テーブルは非常に緩く、レベル10まではどんぐりこぞうだけを倒し続けていても割と早期に到達するほど。
これだけならば、そこまでおかしな話ではなかったが。
「ならば、ステータスポイントはどれにいくつ割り振っている。答えよ! 我が最も気がかりなのはそれだ!」
「ひええっ!」
「いやん♡」
色気皆無なマサムネの嬌声。ハグたんは怯えるあまり隠れてるつもりなのか、マサムネにハグをしてその柔らかいお腹に顔全体をうずめていたからだ。
「もぉ、クーちゃんってば小さい子怖がらせるなんて、おとなげねー。ね、はぁぐたん♡ 答えたくなかったら嫌だって言っていいからね」
「貴様、意趣返ししたつもりか!」
「というかハグたんって名前、もしかしてそういう意味?」
マサムネがそう予想したが、実際鋭いところを突いていた。
精神が限界まで摩耗された際、親や教師といった心許す相手に咄嗟に抱きついてしまうという幼少期からの癖があるため、いつしかハグたんとあだ名がつけられたのである。
「でもウチもハグたんのステ気になってんだわ。お願ぁい、みせてみせて」
「はっはい、えっとこうすればいいんでしたっけ」
ハグたんはハグの姿勢を保ったまま自身のステータスの項を開くため、空中に浮いたウィンドウを指で操作する。
そして共有モードに指を置くと同時に、ハグたんは顔を上げ2人に目配せ。
「すみません、驚かないで見て下さい」
「おっと、あっしにそんな前フリさせても……ふぁ?」
「なっ!? なんだこれは!?」
言われた側から目を点にしたマサムネと、衝撃的な数値に言葉を失うクロ。
PN∶ハグたん
レベル10
HP20/20
STR200(10PT、自動割り振り中)
DEF0
AGL0
INT0
LUK0
そう、常識的な思考では至るはずがない、あまりにも極端な割り振りが表示されていたのだ。
「正気の沙汰ではない! これではリスクが高すぎて真っ当なゲームプレイどころではないぞ!」
「待って、じゃあ今ウチそのSTRでハグされてるってこと? そう思うとなんか苦しいようなあだだだだ」
「ああっすみません!」
ハグは咄嗟、離す時も咄嗟。とはいえもう少し遅ければマサムネは腰の骨のヒビが割れて大ダメージを受けていただろう。
「てかハグたんどしてそうなってんの。ほらさ、おすすめ割り振りとかあるのに」
バグとも異常とも言える【自爆】の火力に得心のいったところで、ようやく質疑応答に入る。ハグたんに安心感を与え続けるためハグさせたままに。
「すみません、間違いすぎてすみません! 本当はじっくり考えてから決めたかったんですけど、初めてモンスターに襲われちゃった時に倒さなきゃ倒さなきゃって慌ててしまって……」
人との会話そのものが苦手ながらもまとまらない言葉を声にして綴る。
ハグたんが初めてログインする事前に聞いた情報は、CCOはモンスターや敵プレイヤーを倒すゲームであること。敵を倒すにはダメージを与えるための攻撃力が必要、それだけだ。
とりあえず突飛な発想ではないと判明したが、まだまだハグたんのブラックボックスは完全には明かされない。
「じゃじゃ、爆弾のカムイにしたのも、ハグたんなりに偉大な理由があったりして」
「それは……キャラメイクしてる時に、お任せにしていいって紹介されたので、つい……」
「そっちはお任せするんかいっ!」
選ばなければ話が進まない場合は他人任せにしてでも決めてしまうが、いつでも決めていい選択は重要とも思わずずるずると後回しにしがち。
それが、ハグたんという人物のサガであった。
「それでSTR極振りのオワタ式危険物が爆誕しちゃいましたチャンチャン、ってこと。まあステがどうとかは人それぞれだけども、やっぱ他のゲームでも攻撃力特化のキャラ中心に選んじゃう系?」
「いいえ、その、私、ゲーム自体はじめてでして……うぅ」
「うそ、マジ!?」
マサムネは素直に面食らい、クロも憐れみの目を向ける。
「原因は不馴れに尽きる、か。ハグたんの貧しい家庭環境が目に浮かぶ……」
「さよか、アゴクエもボッケモンもツーカーエリオのカートもやったことねーの?」
「コマーシャルでしか聞いたことが、はい……」
またしても2人は虚を突かれる。ハグたんはゲーム初心者どころの話ではなかったからだ。
これまでハグたんは毎日のように自宅で暇をつぶすように勉強をして過ごし、両親のついでのようにテレビを眺め、自分から何かするといっても宿題や両親の手伝いといったことが大半で趣味が無い、意思薄弱。
ずっと殻に閉じこもるような、酔生夢死とした生活ばかり過ごしていた。
爆弾発言の連発により動転が収まらないまま、マサムネはクロと振り向いて心配そうに顔を合わせる。
「ぶっちゃけVRMMO自体、初心者がやるにはハードルが高いよね」
「そうだと言わざるを得んな」
「うーん、なんか変な子だとおもってたけども……」
「不憫すぎる子であったとは……よくも見つけてくれたなマサムネ」
「もう手つけちゃったし、今から大自然にお返しするのもなんかねぇ」
2人はお手上げとなる、何から何まで次元が違う後輩を引き当ててしまったと。
更に本作CCOは、VRMMO既プレイ者を想定しカムイシステム周り以外のチュートリアルを省略している節があるので尚更。
どこまでも選択ミスの不運に見舞われていたハグたんだが、数あるVRMMOの中で本作CCOをわざわざ始めたには、極めて切実な理由があった。
「あの、私、幼稚園でも学校でもずっと1人で、友達も作れないままで……来年中学生になるんですけど、このままじゃいけないと思ってこのゲームを始めたんです」
「ふむ、その身空で立派な志を秘めていたとは……だが、所詮はゲームなのだぞ」
クロは念押しするかのような言い方だ。
ゲームでいくらレベルをあげようと、現実で強くはなれない。無論ハグたんも分かっている上で理由がある。
「ゲームの中なら何回失敗しても大丈夫そうだし、あ、あと『友達』を作る練習にもなりそうで……でも結局ゲームの中でもやっぱり人と話すだけでもダメだったので……」
「もういい、もうでもでもしなくていいんだよハグたん。だって――」
自己否定の言葉が止まらなくなってゆくハグたんのことをマサムネはぎゅっと抱きしめ返す。
締め殺す一歩手間だったハグたんの不器用なハグと違って、程よく緩めている腕の力からは、気弱な少女を慰める優しさが伝わる。
次には温かい言葉を投げかけてくれると期待させるような包容力であったが。
「友達っていうのは、作るんじゃなくて出来るものだから!」
「へ? そっちですか!?」
「そうだ、こやつはこういう奴だった」
物事を斜めに構えるマサムネだ。
うけ狙いの物言いだが、自分から友達を作ろうとする人間は悪人のターゲットにされるだけだと伝えたかったらしい。
されど話のオチはまだついていない。
「というかもうウチとハグたんって友達じゃないの? 少なくともウチはそう思ってるんだけどねー」
「友達……になってくれてたんですか!?」
マサムネの単純だがさっぱりとした性格は、こうした時には美点となるだろう。
パーティに誘った時のようなごり押しと違う、伝え合う間でもなく友達になる過程を修了させていた。
「一生ひとりぼっちだった私なんかと! 本当に!?」
まさしく憧れの間柄が出来上がっていたことに、ハグたんは声を高くする。
「ハグたんがひとりぼっちならウチらだってふたりぼっちだったさ。さっきは一緒に戦ったし、借金地獄の危機からも救ってくれたし、ここまでされたらもう友達で間違いないじゃん?」
「あ、ありがとうございますっ!」
マサムネは初めて、ハグたんの満面の笑顔が見ることが出来た。
また、ハグたんの方も歳こそ離れているだろうが、人生で初めて友達が出来たのだ。
「ハグハグ〜幸福ホルモン受信中〜」
「うへへへ……お母さんとのハグよりリラックスできる気がます……」
その後も、微笑ましくも初々しい恋人同士もかくやのハグでのスキンシップコミュニケーション。
これまでのような恐怖から逃れるためでなく友情の証として温かく交わしていたが、それを羨ましく見つめているプレイヤーが1人。
「な、なぁハグたんよ。我のことは仲間外れにしてもよいのか」
「おやおやぁ〜」
そこには、クールで苦労人な印象から一転して、わざとらしく咳払いしてはあざとく頬を赤らめているクロがいた。
「いやあ残念だったね男の娘きゅん。あっしとハグたんはズッ友でございやすけど、男女の友情なんてドラマだけの話でやんすからねぇ」
「貴様二度と掘り返すな! ええい、我も友達にさせてもらう。クロノワール(以下略)の名において断らせはせんぞ!」
「クーちゃん照れてるぅ! きゃわいい〜」
「ふ、ふへへっ。クロさんも、ハグお願いしていいですか」
正面はマサムネに取られていたため、クロはハグたんの背中から手を回してその友情の輪に加わった。
かくして、ハグたんはこの1日だけで、2人目の友達までも加わる快挙を成したのである。
まだたった2人ではあるものの、ハグたんにとっては大きな2歩を踏み出せたのだ。
「おふたりが友達になってくれた思い出は一生忘れません! それでは、さようならっ!」
「ほいバイバイ〜、ってちょおおおっと待てええい!!」
どこかへ旅立とうとするハグたんをマサムネは大急ぎで食い止め、勢いのままに押し倒した。
「まーー! まだ御用がございますでしょうかーー!」
「変な敬語! じゃなくて、冒険者ギルドでクラン作んなきゃ今生の別れになっちゃうっしょ!」
「へ、クラン?」
聞き慣れない単語、ハグたんにはそんな単語ばかりなのだが、とにかく。
「良案だな。クランさえ組めば我ら3人の繋がりはより強固となるだろう」
「うんうん。このままパーティ維持して、のんびりレベリングしながら第二の街に厄介になりに行くよ!」
「別の街!? あ、足引っ張らないようにしなきゃ……」
3人は次なる目的のために、はじまりを終える意気を高めた。
遠くなってゆくはじまりの街の門を振り返りつつも、新たな街を目指してハグたんを中心に友達同士仲良く並んで往く。
ちなみにはじまりの街にも冒険者ギルド自体はあるが、新規登録は不可能。
第二の街への道のりを踏破し、初心者を卒業したプレイヤーだけが、クランという誉れ高きグループシステムを設立することが出来るのだ。
次回、早いですが掲示版
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