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30話 ハグたんISハグ

「んんんんんっ!!」


 糸に持ち上げられ体勢を立て直されたマリーは、マサムネをデスせんとする猛烈な勢いで一心不乱に連打する。


 操り糸の最後の1本だけは、何としてでも断ち斬らせないため。

 たとえその対象が当人ではなく物言わぬ人形だとしても、守るべき者として誰にも冒させないために――手段をカムイと一致させている。


「まだよくわかんないけど信じるよハグたん!」


 マサムネが刀に力を込めないように注意して反撃。

 これにより、如何なる攻撃にも過敏に反応するマリーが躱した一瞬をつき、刀を納めてハグたんへと疾走。


 当然マリーも両足が上半身を置き去るような形で猛追する。

 生命の限界までタガが外されている以上、その速度はマサムネよりも圧倒的に上だったが。


「【闇の禍球(イン・ザ・ダーク)】」


 クロが魔法アーツを発動。言うまでもなく躱されたが、これで相手に回避を強要させ追走を中断させる。


 本体を支配する側となった操り糸は、いかなる状況であれ本体への回避行動を最優先するアルゴリズムだ。

 本体にも糸にも命中させない闇の球の軌道ではあるものの、これでマサムネとマリーの距離を引き剥がし、ついでに攻撃対象はリセット。


「離脱しろマサムネ! 上手くハグたんの方へ走らせた!」

「了解道中膝栗毛っ!」

「クロさんマサムネさん、ありがとうございます!」


 自分の作戦のために補助してくれたことに感謝し、意を決する。


「マリーさん、私が絶対に何とかしますから」

「んんん……ぷはっ」


 その時、マリーの閉ざされていた口が開かれ、息継ぎするような声を発する。


 マサムネの切られた糸の中に、口を縫い付けていた糸があったのだろうか。それが緩んだために、口の中に送り込んだ酸素を声に帰る。


「うっさいうっさい! どうせ分かんないわよ! あたしのパパのこと、あんた達なんかに分かって欲しくもないんだからっ!」


 ハグたんに対してまでこの口ぶり。

 自死宣言もせず、それなのにまだ葛藤でもしてるかのように大粒の涙を溢れさせる。


 最早自暴自棄だが、マリーのこれまでを鑑みれば当たり前だ。

 何故ならばこの騒乱は今回だけでなく、過去にもパパへの侮辱に耐えきれずに幾度となくこうなり、その度にマリーはクランメンバー達から手に負えないと追放処分を下されている。

 味方であれば偏愛が仇となり、敵に回せば死してなお厄介。だからこれまでずっと相互理解も受け入れもされなかった。


 マリーにも、自分が悪いと自覚はあるのだろう。

 当初、審査する側と称してクラン加入を避けていたのもそのためか。


 だがそれ以上に一歩も譲れない使命感故に、理解や共感を望みたがっているために、ずっと解決を投げ出し続けていた。 


「パパを傷つけるやつなんか、みんな消えちゃえええっ!」


 操られるがまま、されど涙声でハグたんの鳩尾を殴りつける体勢に入る。


 何がどうあれハグたんは一撃でも攻撃されれば死あるのみ。

 だが幸い現在のマリーは武器を使っていないため、僅かばかりの猶予がある。


 よって、友達から遠すぎず、攻撃を受けない程度の絶妙な距離まで引き付け、そしてハグたんはあるアイテムをインベントリから取り出していた。


「これで、きっと!」


 これも、目の前の友達がくれたもの。

 ハグたんを守る誰かを立ち直らせるためにと預けくれた、回復用ポーション。その蓋を開く。


 勝ち負けではなくただ友達を助けたい一心で、中の液体をマリーに降りかかるように放物線を描くように放り投げたのだ。


「ああっ、これじゃ体が……動けちゃう……」


 やはり攻撃でなければ反応は遅れるようだ。

 中の液体は狙い通りマリーに浴びせられ、効果によりHPが少しだけ回復。


 これはつまり。

 マリーを吊るしていた糸が地に墜ち、攻撃寸前だった本体も膝をたたんでその場でへたり込む。

 HP0の時のみ発動する【死敗者綾釣り人形マリーアンデッドネット】の発動条件が満たされなくなったからだ。


 だがむしろここからが最もデリケートとなる箇所。


「マリーさんっ!」


 作戦の成功を喜ぶ間も置かず、すかさずハグたんは急いでマリーへと駆け寄り、()()

 アーツのコントロールから外れて降ってきたもの――パパと呼んだあの人形も一緒だ。


「気づいてあげられなくてすみません! マリーさんのこと傷つけちゃってごめんなさい!」

「嘘よ、背が小さいくせに知ったふうな口きかないで!」


 自由の身となってもなお拒絶の意を込め、ハグたんを遠ざけようと腕ずくで引き剥がそうとする。

 それでもハグたんは、自らのSTRを有効活用し、力ずくでも頑として密着して離れない。


「お見通しなんだから! あんたにとっちゃ、赤の他人でしかないあたしのパパなんて……」

「いいえっ! マリーさんのお父さんはすごく素敵な人だってことは伝わってます。でもっ、私はっ、マリーさん自身がどんな人なのかが、分かってたつもりで少ししか分かってなかったんです!」

「っ……!」


 ハグたんの視線は、事のはじまりから最後までずっと友達へ向き続けていた。


 それにハグたんの意見も真っ向から核心を突いている。


 本当は傷つけられれば傷つけずにはいられなくなるほど弱い人間だというのに、強がるために自信に満ち溢れた完璧超人だと偽っては弱々しい相手に羽振りよくしているだけ。

 そうでない相手には何かにつけて皮肉ったり敵視すると、各方面においてコミュニケーションが一方的。


 これはもう、あれだけ唾棄していた不誠実へ手を染めていたことに他ならない。


「あたしを分かったところで、どうにもならないわよ……」

「分かるとかじゃなくて、分かち合いたいんです。友達っていうのはまだ勉強中ですけど、きっとそういうのだと思うんです」

「何でこういう時だけちゃんと喋れるようになるのよ……ずるいわよそれ」


 マリーはどうしても振るいきれなくなる。食いしばっていた歯も緩め、引き剥がそうともしなくなる。


 一足遅れたが、居ても立ってもいられなくなった他2人もそばへと駆けつける。


「ごめんよぉ。ウチが年長者としてみんなを気遣いしなきゃなんなかったのに、そっちの言う通り馬鹿なところあったせいでさ」

「我も一概に非があった。マリーの大切な父を奪おうとしてしまって、申し訳もない……」

「見てください。私の友達も、友達の友達とかじゃなく、出来ることならマリーさんと直接もっと仲良くしたいはずなんです」


 2人とも、マリーを囲むようにしてハグたんに倣ったハグ。

 抑え込むなどではなく、最も近く密着するため。


 マリーにこれ以上殴られないと確信しなければ到底出来ない、いや、殴られたとしても構わない。ハグこそ最も信頼の証となる行為だろう。


「許してくれだなんて言いませんから、どうか、私の友達(クランメンバー)になってくれませんか。もっとマリーさんの良いところまで知っていきたいんです!」


 ハグたんはやっと見つけられた。マリーをただの都合の良し悪しなだけの友達ではなく、もっと深い関係を築きたい理由に、マリーが受け入れられるための言葉を。


「なんでそんなに優しいのよ……あたし、さんざん最低なことばっかりしちゃったのに……」


 心打たれて懺悔するように言ったが、それでもハグたんは答えを待つために声を出さずにハグを続ける。


 そうとも。ハグたんはこれまで友達がいなかっただけであり、生まれついて誰よりも友達思いの性格だ。


「言うことなしよ。そこまで優しいお願いされたら、ハグたんのクランに入るしかなくなるじゃない!」

「わあぁっ……!!」


 思いが通じた瞬間だ。

 ぶっきらぼうに応えられたが、マリーも自分自身の心境の変化に心が間に合ってないのだろう。


「本当に、クランに入ってくれるんですね」

「ああほんとハグたんってば不器用ね! そんなにしつこく聞き直さなくっても、このあたしが全力で友達を守ってあげるんだからよく覚えときなさい!」

「しっ、失礼しましたぁ……!」

「……ふぅ。こんなあたしだし、頭冷やせるまでもうちょっとハグさせてよね」

「へへっ、いいですよ」



 心の傷は継ぎ接ぐしかなくても、心の汚れは水で洗い拭くことは出来る。

 心が真っ二つに割れようとも、元の形となるよう、再び二つに分かれなくなるまで抱きしめ続けられる。


 それがハグたんの思いやり。ハグたんのハグの力。



「ふふん♪ さっきの今で疲れさせちゃったみたいだし、あの街への第一歩はこのあたしにエスコートさせてよね」

「はいっ! マリーさんの手、安心します」


 パパ人形を腰に留め直しつつ操り糸のカムイを解除し、指と爪の間から伸びるものがなくなった手をハグたんと繋いで前へと行く。


 それらを今回も遠巻きから眺めるしかなかった幼馴染2人。


「ヒューヒュー! いい雰囲気のアツアツカップルにゃ、リア充撲滅委員会たるウチの本能が挟まりたくなる〜けど、ウチは空気読める人間だしぃ? お手々はクーちゃんで代用しよ」

「なあっ!? なんだ気色悪い!」


 羨ましさ余って奇行に転じたか。マサムネから逃げるようにクロは前2人の元まで合流しに向かった。



 こうして名実ともに、マリーが友達に、クランの一員に加わった。

 正式登録まではあと一人。


 傷つけ合いを乗り越え絆を固くした4人とパパは、第三の街へと到着したのであった。

 ボケ一人

 ツッコミ二人

 ハグたんを護る者三人


 今後の参考のため評価感想ドシドシお待ちしております。

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