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27話 人形の人間

「やあやあ、われこそはダーティーなマサムネ! 見た目はチュンリで心はザンギのデキたてチヤホヤ家系女子! ウチとキャットファイトしたがるネコ科共は、遠慮せずに前へと出たまえ〜!」


 敵から注目を集めたいのか、マサムネは刀を何度か地面に刺しながら即興の啖呵を切る。


 その甲斐があったかは定かではないが、まず正面2体のサーベルサーバルがマサムネ目掛けて襲来。


「うげぇ容赦ねぇ〜。食らいついてきたのはいいけど、もうネバーがギブアップしそうっすわ」

「それでも粘ってくれマサムネ! 防具を換装したのなら頼むぞ」


 マサムネは全速力での逃げに徹する。

 だが人間の足で四足獣から逃げ切れるわけもないので、時折攻撃を刀で防ぎ止めながら別のモンスターへと向かう。


 逆にクロは視線を集めないようにするために最小限の動きに徹する。だがそれまでの間、残る2体の猛攻に晒されるのはハグたんだ。


「ひぃん、来ないで下さぁい……」


 ハグたんは少しでも敵を近づけさせまいと木の槍を振り回すが、STRの高さと速度は別。その鈍さで追い払えるのはせいぜい蝿くらいだろう。

 敵は脚力を最大限生かしたフットワークで翻弄し、ハグたんが目で追えなくなったタイミングをついて急速接近。


「くっ。【味方代わり人形(スケープゴードール)】」

「ああっ! お人形さんが、また!」


 4体目が身代わりとなり、インベントリへと吸い込まれる。繋ぎ止めるものが全滅した操り糸は垂れて落ちる。


 ここまでマリーはマサムネの指示を忠実に遂行していたのだが。


「よしっ、あと1匹、もうちょい! うぇ?」


 ハグたんを襲う最後の1体を見た途端、マサムネは一瞬心臓が止まるような思いに駆られる。


 マリーの腰にある男性の人形に、操り糸のカムイが触れてすらいなかったのである。


「ちょい守れや! 敵ハグたんに来てる!」

「ダメ……出来ない……パパ……」


 それはつまり、人形を犠牲にしてハグたんを守り抜くこと、マサムネの指示の放棄に他ならない。


 それでも、責めるよりも優先すべきことのため、機転を働かせる。


「ぬおおおお! ウチらのハグたんを……踏ん張り不発弾にすんじゃねえぜぃ!」


 吶喊しつつ刀のカムイを投擲し、モンスターの前足に直撃。

 付け焼き刃ながらハグたんに一瞬の猶予を作らせる。


「3匹でいい! クーちゃんハグたん行っけえええっ!」

「本当に良いのか!? 【蛮勇引力(ヘヴィグラビティ)】」


 折り重なって倒れ伏せる3体。起き上がるのに難儀する形であったのが功を奏し、ハグたんの走りでも間に合うだろう。


 マサムネの刀が刺さったままのサーベルサーバルもハグたんを追おうとするが、そこはマサムネ自らが体を張って食い止めている。あるいは食われ止めてるともいう。


 よって、自爆に憂い無し。


「【自爆】!」

「うっし決まった! でもこの先のシナリオどうしよ」


 ハグたんのアーツで3体同時に討伐。ただし作戦は理想通りとはいかず、爆破範囲外に1体を残してしまった。


 ただし連携力という武器を失った1体だけのサーベルサーバル、これなら与し易くなるもの。


「KOさせてやったよみんな……」


 マサムネが息を切らしながらも殴り合いの末撃破。


「すごい目が回る戦いでした……」

「だが、終わりよければ全て良しだ」


 本人のダメージも深刻な状態でありながらハグたんを回復する献身。絆を深め合う。


 それに反して、マサムネの絆は深刻な問題を抱えていた。


「おいこらクソッタレファザコン! さっきなんでハグたん見捨てようとしたん!」


 戦闘終了してもなお口数少なくなったマリーに対して、抜き身の刀を片手に強引に詰め寄る。


「出来るわけないわよ……だってあたしのパパなんだから」

「いやさぁ、おめーがアブねー意味でパパっ子なのは死ぬほど理解されたけどさ、一番肝心なエリアボス戦くらいは公私分けてよさぁ」


 マサムネからすれば、勝利のために合理性を追求しなかった姿勢に納得いかないと、正論で主張しているようである。


 とりあえずは、理性的でもっともな意見かもしれない。

 仲間の生死の分かれ目において公私混同をかなぐり捨てるのは基本中の基本。


 現にマサムネ自身も、あれだけ毛嫌いしていたマリーに対して的確に指示を与え、大事なダメージ源であり最年少であるハグたんを護らせるという大役まで託した。


 それでもだ。どうしても非情な選択に踏み出せない場合があるのもまた正論だ。


「だから無理なのよ! この人形だけは、パパだけは! 戦わせたり傷つけたりするためのものじゃないの!」

「……しなびた人形とハグたんの命、どっちが大事なんだよテメー!」


 苛立ち紛れに、マサムネはそのカムイを纏った刀を振り上げた。


 なお一応脅かすためなのでマリーには命中していない。非常識なフレンドリーファイアなど以ての外。

 ただ、当たりどころが悪いとはこのことだ。


「ちょっとあんた……あたしのパパになんてことしてくれてんのよ!!」


 マリーに当たらずとも、その腰の人形には縦へと裂け目が生じていたのだから。


「やべやっちった、ごめんごめん申し訳ない。でもま、こんなのよりもっとイカしてる人形、おめーさんの大好きなパパにまた買って貰いなってぇ」


 そうマサムネは、いつも幼馴染とやるような距離感でにこやかに笑う。


 しかし、クロは確かに街で言っていた。友情とは相互で成り立つもの。


 死闘を乗り越えさ絆を築けたつもりのマサムネだったが、最早マリーの方からは隔絶されし天と地ほどに遠のききった距離が生じていた。


「【人形復修劇(リペアオペ)】」


 クールタイムこそ非常に長いが仮死状態の人形全員を再起させるアーツを発動すると、パパ人形を含めてインベントリに避難中の人形全員の傷跡が操り糸によって縫われる。


 そうして現れた4体どれもが、マサムネの方を向いて降り立っていた。


「なんだ自分で直せるじゃん。というかそんな便利なアーツがあるなら最初から使っとけば……」


 言いかけて、マサムネは急にバックステップを取りつつ刀を3度振るった。


 そうとも、マリーの操る人形がマサムネを襲い始めたのである。

 脅しではない。間違いなくキルする威力であった。


「うそうそうそ、そのチビたち明らかにバグ起こしてるくない! ファザコンさぁん!?」

「うっさい黙れ。あたしのパパを馬鹿にする奴なんか、みんな死んじゃえばいいのよ!」


 制止も聞かず、マリーの人形達がその小柄さと数の力でマサムネを圧倒する。


 豹変したマリーに困惑中のマサムネはただただ立ち向かわず、どうしたらいいかわからず、


 この唐突に起こりし混乱の渦中を、ハグたんは遠巻きから察知した。


「クロさんクロさん! マサムネさんが……!」

「あの馬鹿なにをした! 我が目を離している間に……!?」


 幼馴染へと駆けようとしたクロだったが、しかし苦悶の声を漏らす。


 ショートランスを構えた人形が2体、マサムネに加担したクロをも敵性と判断し穿とうとしていたからだ。


「あんた達は『敵』よ! パパの敵は、このあたしの敵なんだからっ!」

「うおぉ落ち着いてぇ、アンガーマネジメントォ……」

「貴様ぁこれ以上余計なこと喋るな! このままでは収拾つかなくなるぞ!」


 マサムネもクロも、敵意を露わに本気で仕留めてくる人形達を避け、反撃しないよう細心の注意を払いながら思案する。

 もし謝るにしても、下手に軽い態度では逆効果だろうし、地に頭をつけるかすれば今度は無抵抗となるため、もしそれで鎮まれなければ自分達は第二の街に送還されるだけ。


「や、喧嘩っ、喧嘩はっ!」

「来るな! マサムネの不始末は我の不始末、ハグたんまでとばっちりを被る必要はない!」

「ひうっ」


 ハグたんは思い返しながら立ち止まった。

 マリーを宥めなければ2人が危ういが、これはマサムネが発端となって引き起こした事件。ハグたんにとっては、どちらの肩を持てばいいか戸惑うしかない問題だ。


 そんな中で、いい意味でも無神経な意味でも思い切りの良さを見せたのはやはりマサムネ。


「いざやり合ってみて思ったよ、やっぱそのチビ人形共は弱っちい!」


 マサムネは彼我の体格差を利用して人形達を大きく飛び越え、刀を構えながらそのままの勢いでマリーへと肉薄する。


「ちょいと大人しくしてもらうよっと!」

「まっ、きゃあっ!」


 真一文字に刀を振り、マリーのHPを0に削りきったのだ。

 操り主の仮死状態により、他の人形達はその場で静止。


「ええっ!? マリーさん倒しちゃったんですか!?」

「貴様ときたら、見損なったぞ! 何かにつけて強硬手段でしか解決せんのか!」

「いやこれ流石に正当防衛! こうでもしなきゃ、まずHP0にしなきゃごめんなさいもやれる状況じゃないってぇ! ねっねっ」


 どうやら謝罪の下準備だったようだ。

 いくら生粋の喧嘩番長マサムネでも罪悪感は抱いているのだろう。


 そうなってしまえば行為の善悪を責められなくなるハグたんは、この砂漠地帯の砂にまみれてしまったマリーへと今一度目を向ける。


 ところが。


「あの、マサムネさん、本当にマリーさん倒しちゃったんですよね」

「ん? 逆に倒してなかったら今頃人形にカウンターされてるはずだし」

「で、ですよね」


 このタイミングでマサムネがわざわざ凝った嘘を言う理由もない。


 なのでハグたんは、見間違いではないかと目をこすってもう一度マリーを観察する。


 それでも、やはり、そこには予想以上の事が起こっていることに変わりない。


「マサムネ……念の為我からも問うぞ。本当にマリーのHPを0にしたのだな」

「クーちゃんまでどうしたん? そんなホラー映画のクライマックスシーンを直視してる顔して」


 和やかに幼馴染同士の思い出話、などに花を咲かしている場合ではない。


 仮死状態となった以上は自分の意思で動けなくなっているはずのマリー。その小指がひとりでに持ち上がっていたからだ。


「よく効いたわ、あんたの刀のカムイ。鬱陶しいくらい威張ったほどには強いのねぇ」

「そんな褒めるなってぇ……なんだそれ……なになになにいっ!?」


 信じがたき不気味な光景にマサムネは後退りながら狼狽え、生唾を飲みこんだ。


 マリーの全ての指が、両手が、腕が、上空から垂れ下がっている操り糸のカムイにより、引っ張られるように持ち上がってゆく。


 伸びる操り糸の先、そこに留まりながら風船のように浮遊していた5体の人形。

 それら左右の手で一本ずつつ摘んだ糸を弄り、それぞれが眼球部を不規則に蠢かし、まるでカムイの支配から解き放たれた歓喜の笑みをあげている。


「けどお生憎様、斬るだけしか能のないあんたじゃ、これからこのあたしに自ら償いを乞うだけになるわ」


 糸に吊るされしマリーは怒りを通り越して無表情となりながらも、目だけは瞼もなくなったかのように大きく見開いている。


「だって人形達も、操り糸のカムイも、このあたしも、ここからが大詰めだから!」


 あらぬ方向に曲がり出す関節はさしずめマリオネットの可動域、そのゾンビよりもぎくしゃくと。

 死せるマリーを生ける人形達がカムイを用いて()()()()()()()


 確かにマリーを倒し、話し合うために仮死状態で留めてしまったマサムネだったが、それこそ相手の思う壺であったのだ。


「マリーさん、どうして……まだ怒っているんですか……」


 隣の2人が声すら出せないほど恐ろしがる事態だったが、ハグたんは決して目を背けない。


 どんな現象だろうと、どんな未曾有のアーツが来ようと。


「【死敗者綾釣り人形マリーアンデッドネット】。まだまだ収まる気がしないわ」


 HPが0になることで発動条件を満たすアーツがハグたんにあるように、マリーそのアーツが同様の発動条件を満たしていたのである。

 マリーさんはたとえ人形でも傷をつけられない性格ですが、カムイの能力も駆使しなければ戦えないことも承知の上だったりします。

 なので自分自身を模した人形に戦わせているそうです。

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