26話 エリアボス、だけじゃない
「あのケモってるやつがエリアボスなん? 女性ウケ狙ってるんかな」
対峙するエリアボス、サーバルキングと呼ばれる全長3メートルに達するその大型の四足獣が悠然と立ち上がる。
眼前に、侵入した4人の挑戦者を見据え威嚇しながら。
「見つかっている! 打ち合わせ通りにゆくぞマサムネ。貴様の嫌がらせ能力と戦略性を見せてみろ!」
「イェイイェス! 生きてる間はウチが指揮るからね! フォーメーションB!」
「わ、私を守って下さい!」
耐久力が比較的高いマサムネを先頭に、最も打たれ弱く不発弾となってはいけないハグたんを三角形に囲む陣形を組む。ハグたんファーストを表しているだろう。
だが、敵はそれだけではなかった。
「ちょっ何よ! どっからよ! このあたしの甘ロリ買い替えたばっかなのに!」
正面からを待ち構える陣形となった隙をつくように、エリアボスを半分ほど縮ませたお供モンスター・サーベルサーバルが左右から4体、奇襲をしかけてきたのだ。
「伏せていろマリー! 【暗黒の貫光】!」
反応の早かったクロが先日新しく習得したアーツを発動して反撃。
禍々しい暗黒のエネルギーが集約し、真っ直ぐに伸びる太いレーザーとなって雑魚モンスター1体を貫いた。
HPを7割ほど削ったものの、それでも群れの勢いは止まず。
「こいつら、あの馬鹿の次にウザいわね!」
「いやいや普通にウゼェ! 大将が4体も部下けしかけてくるとか反則! やっぱこの虎もファザコンだったりする?」
「それがどこに関係するのよ!」
獣の王に統率されし高機動の波状攻撃をマサムネは刀で捌く。マリーは人形に指示伝達するための操り糸を切断されるが、カムイの特性上ノーリスクで糸が伸びて再結合。
それでも、犬猿コンビがいがみ合う余裕すり噛み砕かれているほどには激しく畳みかけられている。
この猛獣達の最大の脅威こそ、息をつかせぬ連携力と俊敏性に尽きる。
縦横無尽に駆け抜けて錯乱し、ハグたんを中心とした陣形をかき乱す。
AGIの大小では足の速さは変化しないのがこのゲームなのだが、モンスターに関しては話が別。モンスターの決まった種族それぞれにもっぱら見てくれ通りの移動速度が定められてある。
「わわ! ひいっ! 自爆は、自爆はいつ使えば……」
「タイミング難しいよねハグたん。けどここは堪え時だよ!」
勇気づけられる声に応えてハグたんは槍を固く握りしめて平静へと心を冷ます。
自爆しようと動きたがっていたのは手持ち無沙汰だからではなく、自分を守るため皆が傷ついてゆくのが痛々しくて見ていられないからだ。
「堪えると簡単に言ってくれども、ジリ貧だがな」
「向こうの連携ミスを祈るしかないわね……」
爪の一撃で切り裂きつつ走り抜ける一撃離脱の嵐。代わる代わるの怒涛の連携により、迂闊に自爆しても一度の自爆に巻き込める数は1〜2体が限度。回復完了する前に別のサーバルに狩られる危険性まで孕んでいるジレンマ。
まさに爆弾のカムイと相性の悪いボスとその同胞だ。実際に過去にいた爆弾のカムイの契約者の大半はここで限界を悟っている。
ただし、そんな逆境でこそ燃え上がり、乾坤一擲へと踏み込めるのがマサムネ。
「こうなりゃ被弾覚悟でハグたんとボス爆撃に行ってくる! 雑魚はクーちゃんとファザコンに任せたよ!」
「流石、馬鹿は決断力あるわね。けどこのあたしも同じこと思いついていたけど?」
「意地の張り合いしてる場合か。ともかくハグたん、我らの命運を託すぞ!」
「はい! マリーさんクロさん、私の後ろはお願いします!」
左右からの獣の唸り声に迫られながらも、護衛のマサムネが先陣を切り一歩後ろからハグたんが追走。
「そんじゃハグたん、さっき覚えた新しいアーツあったよね、ぶちかます準備しといて」
そう敵に聞こえないよう耳打ち。もっともキングサーバルは人語を解しないが、マサムネは漫画のようなオサレ感だかライブ感を重視する性質なので仕方ない。
2人の接近に感づいたボスは、機先を制すべくハグたん目掛けて想像を絶する飛距離から跳び掛かる。
「ハグたん危ね! 乱暴するから許してね」
「あっ! マサムネさんっ!」
すんでのところでマサムネはハグたんを肩で突き飛ばし、自分だけがボスモンスターの牙を首元に突き立てられる。
「ぐげげげエサにされる……ハグたんはやく……」
マサムネの身とHPがガリガリ削られてゆく最中、ハグたんの新しく習得したアーツの発動準備がようやく整った。
「いきます! 【奮迅爆発】!」
NEW! アーツ【奮迅爆発】
効果∶3秒間力を溜め、広範囲にSTRの1111%の炎属性ダメージを与え、その後周囲を【炎上】させ自身のHPは0になる。(CT777秒)
アップグレードした爆音が砂漠の彼方まで轟々と届く。
この新しいアーツこそ。単なる自爆しか攻撃アーツがなかったハグたんの新たな自爆攻撃。
自爆のほぼ上位互換であるが、その分相応の欠点が付きまとう。とはいえ、マサムネを夢中で食事していたサーバルキングには直撃。
「ワンパーーーーン!!」
「や、やった、やりました!」
マサムネと一緒に吹き飛ばされたサーバルキングはポリゴン粒となり、爆音に驚いた後方のサーベルサーバル達は一時退散。
またもや一撃必殺。ハグたんの爆弾とSTRは強敵相手にもまだまだ通用するのだ。
この直後にハグたんを囲むように地面から炎が燃え盛り、これに振れるとダメージとなるものの、少なくとも砂漠地帯ではすぐに鎮火するので大した問題ではない。
「褒め称えようハグたん、芸術は爆発だを地でゆく美麗な技であったぞ。【小回復】」
「あんた達の狂気的な特攻戦法に慣れた自分が恐ろしいわ……はいポーション」
クロがマサムネに回復魔法を、マリーがハグたんに回復用ポーションを口に流し込み、真っ黒に燃え尽きていた2人は無事回帰。
「いえ、自爆はいつものことですから……」
「いつものことでも、一番命がけなんて偉いわね……っ! 【味方代わり人形】!」
マリーが突然アーツを発動し、ハグたんへの不意の攻撃を人形が庇い、結果ハグたんの無事と引き換えに首から綿を噴いて項垂れる形で倒れる。
これこそ人形1体が他者への攻撃を肩代わりし、その後仮死状態となる防護系アーツ。
「うわわわ!? マリーさんの人形さん!?」
「これくらい後で縫い直しちゃえばいいのよ! ハグたんの無事には代えられないわ」
カムイに繋がれた人形にはHPや仮死状態の概念がある。もう一度その奇襲者からの攻撃を食らえばロストなので、マリーはすぐさま自分のインベントリに避難させた。
「マサムネ、ボスさえ始末すれば取り巻きは尻尾を巻いて逃げおおせると睨んでいただろうが……」
「いやぁ、攻略情報には従うべきでしたわぁハハハ……」
攻略サイト曰く、サーバルキング単体ならば倒しやすいボスだが、取り巻きから順に処理しなければ痛い目を見る。
まさに今の状況こそ、痛い目に合うようなもの。
この戦場に戻ったサーベルサーバル4体が、ボスの仇を討たんと双眸を紅く光らせステータスを強化した状態となっていたのだから。
「一度の自爆だけで何でも解決するわけじゃないのね」
「自惚れてましたぁ! ごめんなさい!」
先程は爆音に驚いて一時退散しただけ。虎視眈々と狙い定め、全員が油断したところをハグたんは急襲されたのだ。
エリアボス戦は、まだ終わっていなかったのである。
「作戦決めた!」
更なる逆境だからこそ、マサムネの神算鬼謀が冴え渡る。
「ウチがどうにか引きつけて一箇所にまとまらせるから、4体クーちゃんの重力でまとめて押しつぶして! そんでハグたんが自爆で一網打尽、以上!」
「妙案だが、そうなればハグたんの守備が甘くならざるを得んぞ」
パーティの要だけは失えないと、また散々に翻弄されて味わった彼我の力量差ゆえの反論。
そこでマサムネ、マリーのまだ立てている3体の人形と腰のくたびれた男性の人形を今一度確認し、作戦を伝える。
「ファザコンさぁ、人形あと4体いるっしょ? さっきのアーツ連発してどうにかハグたんを生き残らせてやって」
「4体……っ違う、違うの! 4体じゃない、お願い考え直して!」
「えー呼び方の問題? じゃあ4人で守って。癪だけどハグたんの命預けたよ」
「だから……! 【味方代わり人形】」
酷く恐怖したまま抗議の声を上げようとしたが、今や談話するほどの予断を許さない状況。
「へっへぇ、掃討戦じゃあ! サバンナには敗者復活戦なんてないって思い知らせようぜい!」
立案者マサムネは囮役を買い、猛獣達の前へと躍り出た。
操り糸は切られたらダメージフィードバッグされそうですがノーダメ
ただし指と爪の間から糸が伸びてるので、引っこ抜かれると大ダメージを受けます。痛そう。




