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2話 お待ちかねのカムイバトル

 ハグたんはごり押しで頼まれたら断れなくなる性格だ。

 もっとも、人がいいのではなく断る勇気がないだけ。そのせいで得てして厄介事に巻き込まれ、もっと大きな勇気を求められる事態に発展することもしばしばだが。


「らんりるんれろ〜♪ ハッピーけんぴ〜果たし合い〜♪」

「ひょえ、ひょえ……」


 結局断る勇気が出せなかったハグたんは、そんなに嬉しいのか素っ頓狂な鼻歌を口ずさむマサムネによってとうとうはじまりの街の広場に連れられてしまった。

 大規模な運動会が開けそうな広さと遮蔽物などを取り除かれたアウェーな場所。


 そんな広場に待ち構えている三人の男性プレイヤー。


「よぉ、逃げずに来たことだけは褒めてやるぜぇ」

「覚悟は出来たんだなコラ。シメてやんよコラ」

「守る必要もない約束を履行してくるとは、馬鹿は馬鹿でも馬鹿正直なのだよ」


 前方でがんを飛ばすツッパリが2人と、その後衛で真面目に分析する大人しそうな男性が1人。

 それぞれ高校生前後だろうか。これら果たし合いの相手、特に前2人の三白眼は明確に血走っており、今にも殴りかからんとするほどの刺々しい雰囲気だ。


「お、お姉さんいいですか……」

「出来れば別の呼び名にしてくれると助かる。『お姉さん』だけではあやつと区別がつかん」

「す、すみません。じゃあクロさん、えっと、果たし合いってほんとに果たし合いだったんですか……」

「ああそうだ。昨日こやつが挑発に乗って果たし合いを申し込んだ挙げ句、明日までに人数を揃えるだとか宣ったのが事の発端なのだ」


 そうクロは、トラブルメーカー真っ盛りな幼馴染に呆れ果てていた。


 ハグたんがそんな果たし合いに誘われた理由も、ただ単に誘いやすかっただけに他ならない。

 はじまりの街の近く、ソロプレイヤー、最低限アタッカーができて、自分達より年下そうで、指示待ち人間な性格そうなイメージだったがために哀れにも巻きぞえにされたのだった。


 こうして、頭数に加えさせられているハグたんへ相手3人の注目が集まった後。


「ギャハハハ! 1日の猶予の成果がこれとはなぁ! もうちょい強ぇ奴雇った方が良かったんじゃねぇか?」

「こりゃ勝負は見えたな。降参するならさっさとしとけコラ」

「ふん、見かけで判断するなど馬鹿のすること。だが負けた方が問答無用で50万ゴールド支払う、忘れたのではないだろうな」


 ハグたんを下と見た、いや、どちらかといえばマサムネの人望の無さに対するニュアンスが強い嘲笑が広場全体に溢れんばかりであった。


 だがどんぐりこぞう一匹まともに勝てないほど弱すぎる自覚だけはあるハグたんは自分のせいだと受け止め、返す言葉などなくプルプル震えているのみ。


「訂正してよ」


 そんなハグたんに代わって、マサムネが一歩前に出る。

 その声からは、不満や熱がこもっているように聞こえた。


「訂正だって? どこを? 紛うことなき事実をどう訂正すりゃあ――」

「負けた方が51万ゴールド払うに訂正してよ!」

「そこかよ! しかもみみっちい!」


 相手は肩透かしを受ける。先程まで昂っていた熱いものは嘘であったのか。

 ちなみに最初にアンティを提示したのはマサムネの方であるため、これは相手の方が不当に貶されているに過ぎない。


「だって50万は3で割れないじゃん。チミたち算数もできないの? もしかして、取り分で仲間割れさせる作戦だったり? プクク小賢しぃー!」


「ぶっ殺されてぇのか! 昨日もそうだったが本当にムカつかせる天才だな!」


「すまない。こやつはこういう奴なのだ」


「喧嘩っ早い盆暗の相手には慣れているのだよ」


 煽りこそが生き甲斐とばかりに口が回るマサムネに、最早クロとカタブツの間に苦労人同士の理解の輪が繋がったほど。


 目上の人間達の威圧感によりずっと喋れず震えていたハグたんだったが、耐えられず動き出す。


「あ、あのっ、喧嘩は良くないんじゃないでしょうか」

「うんうん、やっぱハグたんもそう思うよね」


 そのか細い声に反応したマサムネが、いたいけな少女を宥めるように両肩に手を置いた。


「ウチも生まれてこのかた平和主義者17年目なんだけどもね、そっちのザンギリあたま三人衆が聞く耳もたないもんでさぁ」

「てめぇの方が喧嘩売ってきたんだろうがボケェ!」

「変なまとめ方すんなや! 言うなら後ろの石頭だけにしろコラ!」

「おいそこ、後で覚えているのだよ」


 マサムネの語調だけ優しげかつ歯に衣着せぬ物言い。ここまでくると我が国のコミュニケーションは挑発とばかりの滅茶苦茶な態度であり、当然の結果として相手の怒りは頂点に達する。


 かくして融和虚しく交渉決裂。喧嘩とは思想に関係なく起こるものだと、クロとハグたんはほとほと痛感する思いであった。


「もう完全にブチギレたぜこいつはよぉ! 絶対ブチのめして、その身ぐるみごとぶった斬ってやる。来い! 神威(カムイン・カムイ)!」

「串刺しにやるぞオラ。来い! 神威(カムイン・カムイ)!」


 そう相手2人は聞き慣れない横文字を宣言すると、何もない空間から切れ味鋭い長剣が、貫けそうな十文字槍がそれぞれに握られていた。


 これこそが、CCOにおける基本にして独特なシステム『神威(カムイ)』。


 キャラメイク時に1プレイヤーに必ず1つ選び契約する意思無き武装。

 それは相手2人が召喚した剣や槍といった装備以外にも、生物や属性エネルギーなどまさしく森羅万象の具現化とも言える概念であり、その種類は未だアップデートで新規に追加されるほど多岐に渡り底も知れない。


 来い神威(カムイン・カムイ)の合言葉で召喚することで、カムイを武器に一体化させて攻撃力を増加したりカムイ専用の能力や技を駆使させたりと戦闘を優位に進める事ができるのだ。


 これに対して、マサムネとクロも自分が契約したカムイを顕現させる。


来い!神威(カムイン・カムイ)! か弱い大和撫子をいじめるドゥクシィ男子達は、キンタ◯引っこ抜いて中古リサイクルショップ・テンペストに下取りに出してやんぜぃ!」

「もうどうにでもなれ……来い!神威(カムイン・カムイ)!」


 三枚目じみた口上でマサムネは腰に携えた長い木の棒をひき抜くと、光輝くエフェクトに包まれた鋭利な日本刀へと変化。

 またクロの得物である杖の先端にある深緑の宝石は、黒い雲に包みこまれて禍々しく変色。


 有り体にいえば、マサムネはどんな物体も名刀に変化させる刀のカムイ、クロは宇宙に由来する暗黒のエネルギーを司る闇のカムイ。


「おい、あっちでカムイバトルが始まるみたいだぞ!」

「おぉ、お楽しみのカムイバトルか! こっちまで血が滾ってくるなぁ」

「今回はどんな珍しいカムイを見せてくれるんだ?」

「よーし、俺はあっちの強そうな男3人パーティに1000ゴールド賭けた!」


 一方で、広場にいるNPCもプレイヤーもあれよあれよと果たし合いの観戦を始めていた。

 それほどまでにカムイで戦う姿とは好奇心を刺激し、見物人達を惹きつけてやまないのだ。


「そんじゃもうバトルスタートでいいな! まずは一番おもしれー女してるてめぇからだ!」

「速攻でくたばれコラ!」


 機先を制したのは相手の方であった。

 刀を正眼に構えるだけの不動のマサムネに殺到するが。


「フッ、かかったな! 【蛮勇引力(ヘヴィグラビティ)】!」

「何!? くそっ、体が重っ!」


 突然、相手2人の勢いが止まり、地面に膝をついて圧し潰されているように苦しみはじめる。


 これこそクロが発動したカムイ専用のアーツ。相手がマサムネの目の前接近したタイミングを見計らい、指定した空間の重力を大幅に増加させたのだ。

 ダメージを与える能力ではないにしろ、足止めとしての効果は抜群。


「クーちゃんナイッシュ! これでボッコンボッコンのギッタンギッタンのミックンミックンにしてやれんぜぃ!」

「いいからさっさと勝負を決めろ。長くは維持できん」

「りょ! 【三舞遠呂智(トライトゥドライブ)】!」


 自分の手柄のように誇りながら、マサムネは刀のカムイのアーツを発動。これはアーツで一時強化した脚で駆け抜けつつ、横一文字に攻撃するだけで3回分のダメージを与えるというシンプルにして強力な刀技だ。


 重力の増加により立つのがやっとの相手にとって、避けようのない攻撃であったが。


「おっと、たったこれっぽっちか?」

「げげっ、全然効いてない」


 確かに直撃はした。だが相手はさほどの気にも留めてない。

 レベル不足、装備の不足、経験不足、ダメージを与えるには全てにおいて不足していたからだ。


 そう、マサムネはあれだけ相手を小馬鹿にしておきながら、クロもそうだがこのゲームを始めて二週間弱と初心者に毛が生えた程度の実力しかなかったのだ。

 その戦闘者としての青さは、判断の遅れにも表れる。


「うぎぎぃ……でも効くまで攻めれば負けじゃないし」

「熱くなるな! 一旦退け! しまっ!?」

「クーちゃんどったん? おろ、おろろろろろ」


 後衛からのクロの鬼気迫る怒声も虚しく、もう1人の相手、つまりもう1つのカムイ、その能力が死角から迫っていたことに気づくのが間に合わなかった。


 回避や防御に関するアーツがない2人には、一瞬だろうと判断の遅れが致命的だ。

 マサムネとクロは、白く粘着性のある糸によりたちまち体を巻き取られてしまったのだ。


「だああっ! よくわかんないけど卑怯だこんにゃろ!」

「油断した。これが汝のカムイか……!」


 いくら喚いていても、簀巻きにされる状況は変わらず慈悲もない。

 この首から下を縛りつける糸こそが、相手プレイヤーの1人の両手から放たれたカムイのアーツ。


「俺のカムイは蜘蛛(くも)のカムイ。生半可な力では、貴様達のカムイもろとも身じろぎ1つできん」

「クモぉ? スパイダーメェン? マジで陰キャが好きそうなカムイで草だわ〜」

「負け惜しみ、手立てがない証左と受け取っておこう」


 掌から伸びる蜘蛛の糸を切り外し、雁字搦めに巻き取った2人に本当に打つ手がないかどうかの観察をする。

 ダメージは無いものの、これ一つで勝敗を左右するには十分であった。


 マサムネとクロの持つカムイは、手で装備するもの。よって手も腕も動けなければどんなアーツも不発に終わる。


 そしてクロが拘束されたことにより、アーツが維持できず重力から解放された2人も戦列に復帰した。


「よくやったカタブツ! おかげで勝ち確だ。そんじゃ遠慮なく」

「待て馬鹿、その2人は拘束した以上いつでも引導を渡せるのだよ。優先すべきはそれではない」


 冷静に、マサムネ陣営の動けるプレイヤー、残りの1人に目を向ける。


「そこのお前、何故戦おうとしない、奴らとは仲間ではないのか? どうしてカムイすら出さずに傍観しているだよ」

「あばばば、ひゃばばばばぁ……」


 状況的にも精神的にも崖っぷちに追い込まれたハグたんは、既に泡を吹いており気を失う寸前であった。

次回12時更新

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― 新着の感想 ―
果たし合いというか煽り合いのプロ、マサムネ 実質メスガキみたいなとこある、負けないが? 相手の三人見た目怖い、でも悪い人じゃなさそうで好感がもてる ついにカムイが出てきたな! この能力がどうなってい…
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