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19話 屍山血河の敗者復活戦

 残り時間17分。

 既に最悪なこの敗者復活戦で何よりも最悪なことを挙げるとするならば、タイムリミットによる全員脱落こそが相応しいだろう。


 なお20分という制限時間にも意味があり、それは決勝戦開始の予想時刻なのである。敗者への当たりは獄卒のように厳しい。


「こんなん振り子より早く走っちまえば……ほわああああっ!!」

「この俺のカムイで防ぎ止めればああああっ!!」


 勇敢な選手が1人、2人とその生ける振り子に挑み、報われずに散ってゆく。


 されど3人目に試練へ挑んだ選手は、前の犠牲者から振り子の攻略法を見抜いたのだ。


「みんな見たか! 匍匐前進すれば振り子にぶつからずに通れるぞ!」

「うおぉ! あいつ頭いいな!」


 これが敗者復活戦だということを忘れて歓声をあげる選手達。


 確かに振り子の速度は緩急自在、だが振り子の糸そのものは伸び縮みがしなかったのだ。

 理不尽なるギミックにも、冷静に観察すれば必ずや突破口は目で見つかるもの。


 この調子で第二の試練も突破、したかったが調子の良さだけではいとも簡単にふるい落とされるが摂理。


「あづづづづあああああっ!!」


 彼は振り子を越えたのも束の間、第二の試練であるバーナーの紅蓮の炎が真っ白になるほど火力が上昇。全身が焼かれてふらふらと穴へ吸い込まれていった。


 一瞬見えた希望がものの数秒で灰燼に帰し、ガラスの道へと足を踏み入れていた選手達はみんな絶望感を土産に踵を返す。


「こんなんやってられるか! 俺はストライキするぞ」

「ひゃっ!? えぇストライキとかアリなんですか!?」


 進路上にいたハグたんを横切りながら、へそを曲げてしまった選手の1人は草原の方へ走り去ろうとする。


 その背後に忍び寄る他の選手の気配に気づかずに。


「……そんなことしてる暇あんならよぉ、ちょっと付き合ってくれや」

「てめ、何すんぎゃあああああ!!」


 ガラスの道とは反対方向からの悲鳴に、皆思わず声の主へと振り向く。


「あいつ、気でも狂ったか!」


 ポリゴンの粒となって脱落した選手と、その選手をデスさせた剣を引き抜く選手。


「なんだ、てめぇらの化け物を見るかのような目は。これはルール無用なんだぜ?」

「にしてもやっちゃいけないこともあるだろ! ゴールに辿り着けっつう趣旨はどうした!」

「自分以外潰して生き残れっていう趣旨もある。一番ぶっ倒せた奴が決勝へと進めるなんて、理に叶ってるじゃあないか? 死ね!」

「ぐああっ!!」


 断末魔の悲鳴がまた1人分木霊した。

 二人を殺めたこの選手は裏のルールに気づき、敗者復活のより確実性の高いだろう手段へと足を踏み入れたのだ。


 これは競走であって障害物戦争でもある。最後の1人となって生き残っても決勝戦進出である。


「てめぇ死ねええっ!!」

「とっとと死ねええっ!!」

「てめぇこそ死ねええっ!!」

「いやてめぇが死ねええっ!!」

「いやいやてめぇも死ねええっ!!」

「死ねって言うほうが死ねええっ!!」


 最早こうなると、生存本能に駆られた者から無法の渦巻くバトルロイヤルへと突き進むだけだ。


 やられる前にやり、穴へと放り投げる者まで現れるという阿鼻叫喚の蠱毒の壺。そこには障害物戦争のことなど眼中になくなるほど。


「とりあえず、弱そうな奴からサヨナラさせなきゃなぁ!」

「うひいいいっ!」


 交わらず喋らず、存在感を消そうと縮こまっていたハグたんも、とうとうターゲットの1人として迫られた。


「なんとかなんとか……来い!神威(カムイン・カムイ)!」

「あ? いや危ね! そういやこのチビ例の爆弾じゃねぇか!」


 咄嗟に距離をとる。選手の理性は残っていた。

 1回戦で派手に自爆して敗退しただけあって、ハグたんの能力を目に入れた選手も少なくない。


 おかげでその凶刃はハグたんに向けられることなく「最後にしてやる」と呟かれる。ハグたんは結果的に見逃される幸運を拾ったのだ。


 それでも醜き争いは留まる所を知らない。


 敗者復活戦の真に恐ろしき試練も、ここまでまだ現れてはいなかった。


「死ね死ね死ね死ね……ん?」

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……おぉん?」


 段々と少なくなってゆく選手達は、またしても迫りくる何かへ虫の知らせのように反応し手を止めた。


 鳥のように小さくはなく、飛行機のように無生物でもない。だが1つ羽ばたく毎にその途方もない存在感を発揮する生命体。


 その存在は、命犇めく生態系の頂点から矮小なる人間を食い荒らすべく、地鳴りを起こして選手達の前に舞い降りた。


「どっ、ドラゴンだああああっ!!」

「ええええっ!? なんですかこれえええ!?」


 恐竜さながらの体躯に強靭な緑の鱗を纏う、第10の障害物となるはずだったドラゴンのモンスターが、蹂躙開始の合図となる咆哮を轟かせた。


「これに勝てっていうのかおのれは! 無茶振りなあああ!!」


 挨拶代わりの爪の振り下ろしに、不幸にもそこにいた選手はたった一撃で脱落となる。


 なおこのドラゴンは野良モンスターではなく、試練の一つとして暴れるようトーナメント側が調教しているペットのようなもの。


 そのため難を逃れた選手達にも、鋭く凍てついた眼光が見下ろされる。


「もう二度と悪いことしません。いいいいっ!」

「いだっ! おいっお前何で、何で今俺を攻撃した!」

「だまれ雑魚! みんな死ななきゃ、俺がドラゴンに殺されるだろうが!」


 誰から誰まで混沌の一部に取り込まれる。

 他の選手を始末して1人の生き残り勝利を図ろうとする者や、ガラスの道へと逃げようとしたが振り子に突き落とされる者まで。


 この障害物戦争は、まさに選手側の敗戦だ。


「あ……あ……あばあば……」


 ハグたんは、何もしなかった。


 地獄絵図から少しでも楽に終わって帰りたいとだけを願い、成り行きに身を任せた。


 ハグたんには障害物をのり越える勇気も、他者を脱落へと追いやるしたたかさも持ち得ていない。

 ましてやこんな小さな自分にこんな大きな脅威をどうにか出来るものはないという無力感がニヒリズムを生んでいる。


 だが全員が諦めたわけではない。


「いい加減にしやがれこのタマナシ共おおっ!!」


 選手の1人による鶴の一声により、残りが数人だけとなった他選手らが一斉に振り向く。


 その声の主こそ、上半身裸で野性味溢れる少年のプレイヤー。


「考えてみろ! これはどうせ金持ち共がワインの肴に眺めているショーだ! 俺達がギャーギャー喚くほど、高みから悪魔がせせら嗤うってそろそろ気づけ!」


 そう敗者復活戦の裏側の存在を声高に演説する。まるで反骨心を刺激するような物言いだ。


 その最中もドラゴンを引きつけつつ、距離を取りつつ、及び腰だった選手全員に問う。


「あのドラゴン討伐のために、一致団結しようぜ? 弱さよりも、強さで決勝に進みたいだろ。なぁ、野郎共!」

「……やるぜ俺は。陰険な奴のオヤツとして嗤われたくはねぇ!」

「うっうおお! こうなりゃヤケクソだ!」

「あのドラゴンを倒した奴が決勝、いや、もう優勝までつっ走れちまうんじゃねえのか!」


 選手達皆の心でしぼんでいた希望の花が息を吹き返し、それぞれ武器をとり、カムイを召喚し、次々に臨戦態勢へと移行する。


 今や数えるほどしか残されていない選手達の闘志に火を着けるこの一連の光景は、最期を待つだけだったハグたんにも多大な影響を与えた。


 自分だけうじうじしている方がよほど恥ずかしいと。見られているならば、胸を張って友達に見せられることをしたいと。


「あのっ、私に出来ることはありませんか……!」


 残り時間11分。ハグたんは呉越同舟の乗組員となる。

 すみませんが更新する気が失せている

 とはいえ次回は昼か夜

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