15話 バトルトーナメントブロンズカップ、開幕
「フッ、トーナメントか。己の闇と光を見つめ直す機会、悪くはなかろう」
クロは前向きに気取りながらも参加を表明する。
前日2度も黒星をあげられたにも関わらず、その自信に翳りはない。
卒倒から復帰したハグたんもそんな2人に続くようにし、賛同するため顔を出す。
「私も、お2人と一緒に戦えるなら……」
「いやこれ個人戦だから無理」
「ほえっ!? やめますやめます逃げます!」
ハグたんは猛烈な勢いで首を横に振り逃げ腰となる。
自爆しか決め手がないことは重々承知。これでは負ける以前に自滅するだけになると、ハグたんには想像に容易かった。
「まぁやるだけやってみようよ、折角なんだしさ。参加は無料だし、負けてもペナルティないし、優勝すれば最後に表彰台でインタビューまでされちゃうもんで……」
「涎出てるぞ貴様」
夢に夢見る年頃のマサムネなので、キャッチーなことにはとにかく目がない。
「そう、優勝者は一番注目されるんだよ! だからこれで、ハグたんが優勝すればそれだけ目立てて新しい友達がわんさか増える増える〜」
「えっ、友達……」
その甘美な響きに、ハグたんの心が明るい方へ傾く。
友達はマサムネとクロだけでも十分信頼こそすれど、昨日のような事態に直面した時には頼れる背中を見せてくれる友達だってもっと欲しいところ。
孤独な戦いに投じる覚悟を決めるには十分な見返りであった。
「有り得ないとは思うが、マサムネが優勝すればインタビューはどうなのだ」
「もちろん、ハグたんの友達募集中ですって答える!」
「本当は?」
「クーちゃんは男の娘です、ホントウデス。って試しに言ってみる」
呆れ果てて閉口したクロは、それ以上マサムネの声を聞きたくなくなっていた。
▽▽▽
本作CCOにおいてプレイヤーの目的は、冒険の傍らにモンスターをハントし、カムイと共に修練を重ね、来たるべき未曾有の災禍に備えて力を蓄えろ、と専守防衛的。
夢のない言い方をすれば、未曾有の災禍とはエンドコンテンツのことなのだが。
ただ、期間などが特別指定されてはおらず、未曾有の災禍との戦いそのものを延々と避けていても咎められたりはしないので、目的を忘れて息抜きだけしようとも自由。
3人が参加するバトルトーナメントも、その息抜きの一環として人気のコンテンツである。
紆余曲折ありマサムネに連れられたハグたんらは、第二の街の一大施設『コロシアム』の受付に到着する。
「アニョハセヨ! 最強優勝候補のウチら3人、エントリーさせてくださーい」
「貴様どこからその自信が沸いたのだ」
「エントリー完了致しました。選手となった3名様はこちらの紙を受け取り、控え室でお待ち下さい」
流石に男装ではなかった受付の女性から事務的に対応され、右手側の通路へと進む。
なお受付の促進に反し、実際は自分の番に出場が間に合うのならばどこで待機しようとログアウトしようと自由だ。
とはいえ3人は敵情視察も兼ねてその選手控え室へと向かったのだが。
「げえっ、思ったより参加者いっぱい!」
「ううむ、しかし我らは彼等と同じ地平で競い合わねばならぬのか」
汗の匂いが鼻を刺すその広間には、まさにボクシングやレスリングで場数を踏んでいるような好漢らがあちこちに居座っており、まだまだ自分達3人が場違いに思えてしまうほど。
もっともレベル20以下制限なので彼らとの実力自体は同等かそれ以下なのだろうが、それでも自然と声量が小さくされるほどには気圧される。
特に、全参加者最年少であろうこの少女が。
「せめてハグたん用にジュニアとかレディース部門があったらなぁ……んでハグたん、やっぱり恐い?」
「コワイ……ヒトソノモノガコワイ……」
「ま、当たって砕けて、のんびりやろうぜぃ?」
ハグしたまま硬直状態となったハグたんに、そうマサムネはマサムネらしく気楽な声を掛けたのであった。
なお、もう一度一瞥してみれば、プレイヤーのみならずNPCの人間も何人か参加している。
カムイを持たない彼らはトーナメントの穴埋め要員にしかならないだろうが、それでも各々が研鑽あるいは策を備え、優勝を目指さない者は1人もいない。
敵情視察は済んだことにし、3人は受付で頂いた二つ折りの小さい紙を開いた。
「ウチがNo.03、ああこれトーナメントの番号ってやつ? 結構すぐだね」
「私は36番です……」
「我は64、ほう、悪運だな。どうやら第一試合のトリは我となるらしい」
そこには参加者合計64人の組み合わせともなる数字が記されていた。
この大会はトーナメント方式だが、1組ずつ順番に戦わせてはせっかちなお天道様の顔が沈むのは明白なので、第1回戦はバトルフィールドを8分割して試合を高速で消化する。
なのでマサムネの場合は開会式終了直後に試合となり、ハグたんも後半ではあるが待ち時間はさほど要さないかもしれない。
次に、全員が優勝を競うライバルとなるということで、3人とも必然的に抱く疑問がある。
「私、どうせ1回戦負けだと思いますけど……でもこれ、仮にみんな負けないで準決勝まで進んだら、私とクロさんが試合するんですか」
「フフッ、愚問だな」
そう不敵に笑うクロの続く言葉は。
「仮にではない、必ず負けないだろうッ!」
「はっはいっ! 絶対にそこまで勝ち進みます!」
決めポーズを取りながら発破をかける。ハグたんの懸念や不安感を闇の彼方へと吹き飛ばすほど。
「そしたら決勝戦は、ウチとハグたんのバトルになるね」
「しれっと我が負ける前提で話すな!」
しれっと決勝戦まで勝ち進む気満々のマサムネ。
「私が、クロさんだけじゃなくマサムネさんとも戦うなんて……」
「そうだねハグたん、こわいよね。でもその時になったら……」
そうマサムネの続く言葉は。
「覚悟しといてね☆」
「うひいいいいいっ!?」
「言い方があるだろうこのたわけ!」
相変わらずふざけているのか、優勝を確たるものにするために今から出る杭を打つ計算高さか。
さて、バトルトーナメントブロンズカップのルールは簡単、持ち込める武器は1つ、カムイも自身の契約したもののみ。なおコロシアム内は死亡不可の処理がかかっているため、先にHPを0にされた選手の敗北。
バトルフィールドには選手2人の他、賄賂も洗脳も通じない身元のしれた1人のNPC審判による試合開始の掛け声で開戦し、決着がつくまで不正を見逃さないよう尽力するだろう。
「質問質問! 【自爆】みたいなのアーツで相手も自分もおっちんだ時はどっちの勝ちっすか?」
臆病風に吹かれたハグたんのためにマサムネは代わって受付で訊く。
「本大会の規定におきましては、勝者不在。つまり両選手共に敗退となります」
「マジっすか! ハグたん無理ゲーじゃん」
「私、やっぱり見学しておけばよかったです……」
ハグたんの試合は早くも暗礁に乗り上げられていた。
いつにも増して感情の揺れ幅が激しいハグたんだったが。
『ハグたん君、少し時間はあるかね』
その時、フレンドチャット欄から通知が下る。
送り主はユロク。消沈していた意気をなんとか誤魔化し、すぐに文字で返事を送る。
『まだトーナメントには時間ありそうですけど、どうしたんですか?』
『それに関わる一大事なのだ! なるべくでいい、至急この場所まで来て欲しい!』
文面からすると、この街で風雲急を告げる事件でも勃発しているのか。
添付されたこの街の地図と目的地も表示される。
確かに手番までの時間はあるが、まだ緊張を解きたく、迷いに迷ったハグたんだったが。
「マサムネさんクロさん、少しトイレ行ってきます」
「張り詰めていたか……ゆるりとせよ。そなたの試合開始前には戻るのだ」
事情を伏せたハグたんは軽く一礼し、その目的地へと一人きりでひた走る。
マサムネらには、どんなことであれ迷惑をかけたくないと誘おうとはせず、ユロクの元へ急行する。
程なくして、バトルフィールドへと続く扉の前へとやって来たNPCは声を張り上げ。
「開会式が終了しました。No.1〜16の選手はこちらの扉より入場して下さい」
そう促されると、控え室の勇士達が整然と列を作り出した。
No.3のマサムネもそれを聞き逃さない。
「よしきた! 記念すべき第一試合、ウチの優勝の第一歩!」
「その意気だけは良し。我も観客席から武運を祈っているぞ」
「だけはって何さ。それじゃ行ってくるね〜」
そうマサムネは陽の光が差し込む扉の先へ、クロは反対方向の扉へと背中合わせとなって進んでゆく。
そのまま1人になったクロは、本来2人で観客席へ進むはずだったことに改めて気づく。
「……それにしてもハグたん、手洗いならばその場でログアウトすれば済んだものを」
そんな思い返せば不自然さも甚だしい行動に訝しんだが、ハグたんのことなので深くは詮索せず、まずは幼馴染の応援を優先しようとクロは観客席に到着した。
次回、昼更新




