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14話 限りなく最強に近い最弱のカムイ

「さぁて覚悟はいいかしら? 峰打ちには手加減しか出来なくてよ」

「わ、私だってええっ!!」


 開戦の火蓋を切ったハグたんと女性の刀が、何度も激しくぶつかりあう。

 お互いに刀を下げては振り、刀を下げては振りといった単調な動きを一心不乱に繰り返す。


「マサムネ、竹刀も握った経験さえないようなハグたんに刀を使わせれば大惨事にならぬか?」

「それは大丈夫、あっちも傘とか箒で剣道ごっこもしたことなさそうなPS(プレイヤースキル)だったし」


 最早盆踊りもかくやのてんてこ舞いな殺陣演技と化していた。ある意味、太刀筋では互角の2人であろうが。


「惜しかったわ、あとちょっと踏み込められたら峰打ちしてあげたのに」

「ひぃ、ひぃ、たああっ!!」


 それを茶化せないほどには、両者の目つきが本気だ。


 アーツ峰打ちの衝撃を、ハグたんはマサムネの刀で受ける。

 武器で受け止める分にはプレイヤーはダメージを受けないものの、その分だけ装備品の耐久度の損傷は著しい。

 早くもマサムネのカムイの刀身はひび割れが全体にまで及んでいるが、相手のカムイは不殺であるが故に破損一歩手前で絶対に砕けはしない。


「クロさんのためにも、マサムネさんのためにも、絶対勝たなきゃ!」

「やってみなさい。わたしはあなたを殺せないし、あなたにわたしは殺せないわ」


 2人はそう意気込み、なぜだか笑みを交わす。

 特にハグたんはその頬に汗を流しながら、このPK戦を一生懸命となって、楽しんでいた。


 かくして、永遠にも続きそうなしのぎの削り合いは、火花を散らしながらの鍔迫り合いへと移行。


「峰打ちさえさせなければ、わたしがただの最弱になると思って?」


 この勝負で、2人の顔の距離が最も近づいた瞬間だ。

 鍔迫り合いなど剣道の達人であれば待ったをかけそうだが、初心者の2人は思考が一点特化するほどに白熱。


「ぜっ、全力っ!」

「ふふっ、健気な子。けれどもわたしに力比べを持ち込んだ時点で、残念だけどお嬢ちゃんの負けよ」


 そう逆刃刀に腕の力を込め、ハグたんの方へと徐々に押し込んでゆく。

 このまま逆刃刀がハグたんの顔にまで到達すれば、そこに峰打ちを発動し、勢いそのまま後ろの2人も峰打ちし、不殺なるカムイを解除しとどめを刺す腹づもりだ。


「ぬぬぬぬぬんっ!」

「あら、小さいのに頑張るわね。ならそろそろわたしも、平和的に本気出さなきゃっと」


 その顔を真っ赤にしてまで気張っているハグたんを一笑に付すが如く、腕の筋力に注ぐ力を全開にさせようとした。


「……おかしい、何かの間違いよ。そんなわけない」


 ところが、女性は己の不覚に今頃気づく。

 腕力の絶対の自信故に、既にもう本気の力を出していたことに。


「ふんんん! 負けないいっ!」


 むしろハグたんの方こそ、ようやく本気の出し方が掴めてきたほど。これでお互い100%のパフォーマンスを引き出す対等なる勝負となる。


 そして全力を尽くす鍔迫り合いの趨勢は、ハグたんの方が競り勝ってきていたのだ。


「おかしいわ、ちょっとやそっとの力量差で巻き返せるわけが……ねえ、お嬢ちゃん一体レベルいくつなのよ!」

「ヘイハグたん! そいつにレベル教えてあげちゃって!」


 待ってましたとばかりにマサムネの景気のいい声がハグたんの耳に通る。


「私、ついさっきの戦いでレベル16になったんです……」

「16って……わたしよりたった1高いだけじゃない!」


 ヒステリーを起こしかけるほどに現実が受け入れられていない女性。

 相手の方がレベルが高いならば結果もさもありなん……とは限らず、この女性のステータスビルドは一般的なプレイヤーとは異なり、少し特殊であったのだ。


 確かに、ちょっとやそっとの腕力の差では鍔迫り合いにせり勝てるはずだった。

 ましてや、いかにも『お任せ割り振り』だけしてそうな、流されがちな性格の子供なんかに――。


「なんでわたしが力負けするのよ! STR極振りしているこのわたしが!」


 その単語を聞いてピンときたハグたんが、俯いていた顔をゆっくりと上げる。


「私も、STRに全部割り振ってるんです」

「嘘でしょ」


 形勢逆転のコングが鳴った。


 ハグたんが全身に力を込めて刀を押しこむ。僅かだが確実なSTR差が鍔迫り合いにどんどん乗せられてゆく。

 マサムネが峰打ちの連打を食らっていた際、その相手とハグたんには最低10ポイントはSTRに開きがあると計算していたのだ。


 いくら【峰打ち】が不殺をリスクに途方もない威力を得たアーツだとしても、ダメージを引き出させるSTRがなければそれこそパワーバランスが成り立たない。

 峰打ちのアーツの凄まじい威力は性能そのものに由来しなかった。蓋を開けてみれば、STRの高さで誤魔化していただけの力技だったのだ。


 次に、この女性が恐れていた事態が、もう一つ目の前にあった。


「あ、ひっ! お嬢ちゃん、ここまでにしてくれないかしら。平和的に……ね♡ だってこれ以上せり負けたら……」


 女性は恐怖心で顔を青くさせる。逆刃刀のカムイの、逆さについている刃が自分の首元に迫っていることに。


 逆刃刀の構造上の弱点。刀の峰が敵へと向けているのならば、刃は自分自身へと向いている。

 鍔迫り合いに持ち込んだことで、むしろ不利になっているのは女性側だったのだ。もしこの女性がやられるとしたら、マサムネのカムイではなく己自身のカムイという皮肉になるだろう。


 マサムネが目の前で刀を使った謎の自決をした時に、ハグたんはヒントを得ていたのだ。


「あともうちょっとぉ……!」

「行け行けハグたん! 押せ押せハグたん! ほらクーちゃんも応援しなきゃさ! チアで」

「何故指定がある! 普通に応援させろ!」


 幼馴染コンビの声援を尻目に、ハグたんは腕の力だけでなく全神経を投入する。

 その極限の集中状態には、マサムネの応援も、平和を懇願する女性の声も、耳を通さない。


「やめてやめて、あっ、あっあっ、あああっ!!」


 とうとう女性は言語にもならないほどの恐怖の悲鳴をあげる。逆刃刀が自分の肉体に到達し、首に切れ込みが走った。


 ゆっくりとじわじわと、HPが1ずつ削られてゆく。

 ただしSTRに極振りし、最大HPが初期値の20しかないこの女性にとって、1ずつの目減りであっても死神の足音が目に見える速さで近づいてくるも同然。


「不殺なのに、誰も殺せないはずなのに! わたしだけが死んじゃうぅ!」

「もっと力を貸して下さい……マサムネさんマサムネさんマサムネさんマサムネさんマサムネさん」

「名前連呼恥ずいからやめぇ! もうちょっと格好いい念仏に変えてぇ!」

「だがなにはともあれ、白黒ついたな」


 全うする。ハグたんにしか出来なかった使命を。ハグたんにしか勝てなかったことを。


「きいいっ!! 嬢ちゃんなんかに負けるなんて……ユルサナイ!」


 残りHP1となった女性は、一か八かの賭けを敢行。


「へわわっ!?」


 女性はいきなり大きく体を仰け反らせ、そのせいでハグたんは勢い余って刀ごと転倒する。


「今よ! 【峰打ち】!」

「あ……!」


 唯一にして無双のアーツがハグたんを直撃。


「やられ……てはいませんけどぉ」

「そうそう! この刀が欲しかったのよ。はぁ〜ん、馬鹿みたいにがいっぱい血を吸ってそうな至高のカタナ」


 それに並行して、気絶の状態異常と化したハグたんが持つマサムネのカムイを奪い取ったのだ。


 ただ、ハグたんから武器での攻撃手段を失わせただけではない。

 限りなく究極に近い不殺の化身に、相手の命を害する手段が渡ったことを意味する。


「わたしが愚かだったわ。不殺だか平和なんかに拘ってたら、小さい子相手にも勝てっこないものねぇ!」

「大人げねぇぞてめー、子供のものぶん取るな! これが大人のすることかー!」


 何のつもりなのかマサムネから批判の声が鳴ったが。


「分かっちゃいないわねぇ。ちんちくりんな子供には考えもつかない、これが立派な大人の戦略よ」

「ダッセェッ!!」


 最早、開き直りも甚だしくなっていた。

 そのなりふり構わない勢いのまま、ハグたんへとマサムネの刀の刃を向ける。


「終わりよ! お嬢ちゃんの頭のカムイもろとも、はじまりの街に還りなさい!」

「やべーハグたんのー! そこはハグたんのー!」

「キャーハハハハ!」


 高笑いと逆転の勝利に陶酔し、マサムネがなにか叫んで伝えたがっているのを無視して、ハグたんの頭部を斬りつける。


 それが、女性にとって命取りであった。


「そこはハグたんの……なんかあったよね反撃のパッシブアーツ」

「ああ。巻き添えにならぬよう、我らは避難しておこう」

「キャハハ……ハヒッ……?」


 刀の切っ先が、ハグたんのカムイである爆弾の部分に触れていた。

 これにより、底まで減少してゆくHPと共に、とあるパッシブアーツの発動条件を満たす。


「すみません、【お触り厳禁! 爆金刑!】っていうみたいです」

「やだ、いやいや、嫌ああああああああっ!!」


 峰打ちよりも恐ろしく、凄まじく、不殺とは対極とばかりに殺意の結集体たるその反撃が爆炎となって襲いかかった。


 平和的な勝利を望むと嘯いた女性は、不殺と平和を捨てたがために皮肉な最期を遂げたのだった。


「うわああっ! 私、結局爆発オチぃ……」

「ってお嬢ちゃんまで死んでるの!? えぇ……」


 限りなく最強に近い最弱カムイは、限りなく最弱に近い最強のカムイによって爆発四散された。


 仮死状態の女性は3人で後始末し、かくしてようやく第二の街へと帰れたのであった。



○○○



「いやぁ、昨日は大変な一日でしたなぁ」


 マサムネが後ろに手を組みながら、第二の街デザントデザントの目抜き通りを練り歩く。

 クロもその真横に並んでマサムネの対話相手となっている。


「公式サイトによると、招き猫と逆刃刀のカムイ、例に漏れず下方修正をされたそうだ」

「まああれどう考えてもぶっ壊れ性能だし、むしろよくウチら勝てたってほどだよね」


 そう、たとえ負けても運営を責めていい戦いに3人は勝利したのだ。


 修正前の能力とはもうどんなプレイヤーにも戦えはしないので、物理的な意味で塗り替えられない恒久不滅の業績となっただろう。


「ひぇ……勝てるとしても、もう2度と戦いたくないです……」

「大丈夫、2度と戦わないよ。下方修正されたってことはそういうこと」


 そうは慰められても、まだまだ戦々恐々としているハグたん。

 その様子を見た2人は、アイコンタクトで思いを共有して頷く。


「ハグたんごめんね。ウチらが年上なのに、ハグたんに一番苦労かけさせちゃって」


 マサムネは申し訳なさそうにしながらも、ハグたんを優しく抱擁する。


「だが、そなたはよく頑張った。ハグたんこそが本物の勇者なのかもしれないな」


 クロは褒めたたえながら、ハグたんを強く抱きしめる。


「あっいえ、私の方こそ、2人が背中を押してくれたから戦えたわけでして」


 ハグたんもそれに驕らず、謙虚にも2人の健闘を称えながらハグを返す。


 雨降って地固まる。その友情の輪をも固くさせたであろう。


「……それで話変わるけどさ」

「急だな、よほど大事な話か」

「お二人さんレベルいくつよ」

「昨日勝ったおかげで17になってます」

「我は20だ」

「ウチもレベルハタチ……って危ねえええ!」


 突発的な大声で、ハグたんは鼓膜ごと魂が天に召される。


「貴様は毎回毎回急すぎるのだ! ハグたんをショック死させるほど重要な話であろうな!」

「バトルグランプリ・ブロンズカップ! 優勝賞金300万! それの参加資格がレベル20以下なんだよ知らないの!」


 そうマサムネは、新たな儲け話と戦いの臭いのある話を、そしてハグたんの友達の輪を広げられそうなイベントを提案したのだ。

 調整ミスレベルの能力相手に勝利したこいつらが、騒がれないわけないんだよなぁ


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