13話 限りなく不殺に近い必殺のカムイ
「さあ、峰打ちの連鎖はまだまだ終わりじゃないわよ!」
そうマサムネよりも気が昂った女性は、間断なく追撃。
「【峰打ち】【峰打ち】【峰打ち】!」
「どへぇっ! ぶへえっ! お手紙ちょうだい!」
「あはははっ! あはっ! あはっ! いつかましても凄いわぁ、あたしのカムイ。いくら攻撃しても全然死んでくれないんだから!」
峰打ちに次ぐ峰打ち、峰打ちが終われば峰打ち、アーツの連打は留まるところを知らない。
果てには、摩訶不思議なことに逆刃刀ではなく足で踏みつけをしても峰打ちが発動する筋金入りの不殺の常時発動。
「ぐえっ、なんじゃこいつ! いくつSTR割り振ってりゃこうなんの!?」
HP1のまま、体がまともに動かせないまま、何十回かはリスポーンされているほどの猛攻を食らっても仮死状態となることすら許されない。
これが詰み……というわけではなく、一応詰み回避のためのとある機能は全てのプレイヤーに用意されている。
「どうかしら、死なずの拷問の感想は? つい『死なせてくれ』って気持ちになってくるでしょ?」
調子に乗る側が逆転するほどの状況。
だがそこは、傲慢な目上や同輩に対する煽りをエネルギーとするあのマサムネ。これしきでへこたれるはずがない。
「……先輩ちゃんから、ハッピーに生きるコツを教えてあげんぜい。『死にたい』って思うくらいなら、『ぶっ殺してやる』って気概を持てってね」
「窮地のくせに生意気ねぇ」
舌を出しながら負けん気で突き返した。
これはただの痩せ我慢や負け惜しみではない。マサムネにはこの女性にはない優位点があったからだ。
「クロさん! あっちからマサムネさんの声がしました!」
「無事か! マサムネッ!」
親愛なる幼馴染と最大の友達の存在である。
成すがままにされている間にクランチャットから場所を伝え、合流が叶ったのだ。
逆刃刀のカムイや、峰打ちのアーツの効力までチャットで情報共有済み。マサムネはただでやられているわけではなかったのだ。
「クーちゃんにハグたん……あっしは無理よりの無事っすわ」
「あら、あなたのお仲間さんのようね。うふふ」
倒れたまま動きを封じられているマサムネから、峰打ちのターゲットを変更。
「我が降臨した以上、勝手な真似はさせぬ! 【蛮勇引力】!」
幼馴染の危機に声量を上げたクロは、唸る気迫でアーツを唱える。
つい先程、全ての攻撃を2倍にしてコピーするカムイすら貫通して音を上げさせたアーツだ。効果には絶対の自信があったものの。
「無駄な乱入、ご苦労さま。【峰打ち】」
「有り得ぬ……アーツが空間にさえ介入するとは!」
峰打ちは誰も殺せない。重力すらも殺せない。されど殺せない一点さえ目を瞑ればここまで万能なカムイがあっただろうか。
その逆刃刀をまるで水滴を払うかのように上空へ一振りすると、増幅したはずの重力はせいぜい羽虫だけが地に落下する程度まで弱化したのだ。
「まあ殆ど殺せても、不殺じゃ完全には重力を殺せなかったらしいわね」
「いきなりごめんなさい! 【自爆】!」
真横から飛び出したハグたんが、何故か謝りながらも十八番となったアーツを発動。
この作戦はクロが耳打ちしたものだ。女性は反応が遅れ、ハグたんからのアーツの直撃を食らう。
いつも通りならば、問答無用の決着となるはずだったが。
「驚いたでしょう、小さなお嬢さん。【峰打ち】って、防御にも使えるらしいの」
「どういう原理なんですかそれー!?」
これまであらゆる敵を一撃のもとに葬った爆風でさえ、峰打ちの一振り前には威力は限りなく低減され、額にちょっとした火傷程度しか通さなかった。
ダメージ無効化ではないにしろ、ショックでハグたんは膝から崩れ落ちる。反動でHPが0になっているのでどのみち倒れはするのだが。
そしてこれは、ハグたんが敵の真ん前で無防備な仮死状態になったことも意味する。
「やっべ、超やべ……このままじゃハグたんがやられちばぁ……!」
マサムネは体を張って庇いに向おうとしたが、向かえない。
足を動かそうとすれば手が動き、手を動かそうとすれば首が動くという文字通りの混乱の状態異常が晴れてないからだ。
ところが、女性は武器を振り下ろす寸前で動きが止まる。
「『自死』してくれないかしら」
「じし……?」
そう最終手段となる機能の使用を要求させた。
CCOには『自死宣言』という詰み防止を目的に実装された機能がある。
平たくいえば、任意で死亡状態になる機能。
宣言しておよそ10秒後に受理されれば、仮死状態を通り越して一気に死亡状態となり、経験値減少やリスポーン地点まで通常のデスペナルティ同様の処置が下る。
「わたし、平和的な勝利だけを求めているの。だからそちらが降参してくれれば、無駄に傷つけ合わずに済むと思うの」
「あっ、あわわわ……」
「ハグたん! そんなルロール剣真ごっこの言うこと聞いちゃダメっすよ!」
ハグたんは要求云々よりも、要求を呑まなかった後の想像により恐怖心に襲われていて返事どころではない。
対して勝利者らしい勧告をしている女性ではあるが、実際のところはある不都合なことを隠したいがためのハッタリ。
【峰打ち】のアーツの欠点、仮死状態の相手でさえデスさせられないことを隠し通したいため。
彼女は平和的に勝ちたいのではなく、平和的にしか勝てないのだ。
カムイを解除すれば不殺の縛りも解除されるだろうが、相手がまだ2人控えている以上、身を守るためのカムイを迂闊に捨ててしまう危険性が分からないほど彼女は愚かではない。
「自死なさい。早く、お願い早く」
「なっ、なんで焦ってるんですか?」
「へ? じょじょ冗談じゃないわ焦ってるわけないでしょう!」
相手の焦ってる姿さえ恐怖要素のハグたんと、指摘されてもないのに動転している女性の勘違い劇が巻き起こる。
その隙を逃さないクロ。
「ゆけ! マサムネがそなたを呼んでいる! 【小回復】!」
「あっ、ちょっと平和的な勝利は……」
「クロさんありがとうございますううっ!!」
HPが1回復された瞬間、クロに従いマサムネの倒れている場所まで全力疾走。
そのまま戦闘はクロがバトンタッチし、また相手側も回復役から潰した方が都合が良いと挑戦に乗ったため、ハグたんは無事退避。
「ぜぇっぜえっ、マサムネさん。あのカムイが最強でいいです……だからもうみんなで逃げるしか……」
「いんやハグたん、どうせ逃げるよりもウチのお願い、聞いてくれる?」
「はいいっ! 何なりとっ!」
まだ弱気が抜けきっていないハグたんが弱音を誤魔化すように勢いよく返事すると、そこにはまたもや想像以上の出来事が起こった。
マサムネはわざとらしく微笑むと、どういうことか自分の刀を首元に置き、鋸のようにそのまま引く。
自分自身を攻撃し、HPを0にしたのだ。
「びゃあああ! マサムネさんが、じししたあああっ!?」
「仮死状態だよ! オホン。ということで、勇者ハグたんにはマサムネ王からいいものを授けよう」
マサムネはいきなり王様気取りとなり、顎をしゃくって地面に突き刺さっている刀のカムイを指す。
「これを、どうすればいいんでしょうか」
「ウチの代わりにそれを使って、あいつに勝ってきて」
「ふぁー!? そんな無茶なー!?」
ハグたんは全力で拒否の意を示す。自爆しか取り柄のない自分がマサムネよりも刀を上手く扱えるものかと、ましてや人様のカムイに指紋を付けていいのかと。
しかしこれは、運営からも推奨されている歴とした常套手段。
マサムネはこれから、カムイバトルにおけるルールの一つを利用する。
それは、たとえプレイヤーが仮死状態となっても、持ち主が死亡しなければカムイは残り続けるというところ。
他者の手に渡ったカムイではアーツこそ発動出来ないものの、1人1つのカムイを実質的に2つ扱うことも許されるのだ。
だが裏を返せばカムイを敵に奪われた際も同様で、仮死状態では戻れ、神威が発動不可となるため、前述した『自死宣言』も選択肢に割り込んでくるだろう。
「ハグたん、自分を信じるのも大事。でもどうせならウチのことも信じてみない?」
「う、マサムネさん……」
珍しくシリアスなマサムネによる導くような言葉の感情に、嫌々だったハグたんは感化され恐怖心も氷解してゆく。
そうこうしている間にも、クロの戦闘は佳境を迎えていた。
「面白い! よもや今日一日で、我を墓場へ追いやるカムイに2度も相まみえるとは!」
「闇の禍球だったわね、なかなか強烈そうなアーツだったわぁ。1ダメージ以下まで峰打っちゃったけど」
攻撃魔法がまるで殆ど通じず、クロ自身にも幾度となく峰打ちされ、妄想の自分を演じ己を鼓舞するのがやっと。
女性の方も、殺しきれなかったダメージを回復すべくポーションをラッパ飲みし、クロの努力をものの一動作で帳消しに。
睨み合いを維持する両者だが。どちらが優勢かは火を見るより明らか。
「クロさん、私と交代して下さい!」
そこへ、ハグたんがクロの一歩手前へ参上した。
「くっ、我の心配は無用だ、そなたは下がっておれ」
「いいからっ!! あっタメ口すみません!」
「おっおい!? 無謀な真似を……!」
口下手さが暴発したハグたん。クロを強引に押し倒してまで退かし、相手の前に立つ。
「人のこと言えないけれど、なぁにお嬢ちゃんのそのへっぴり腰」
「わ、わたわた、私が相手ですっ!!」
マサムネから一時的に授かった刀に預けるように構え、なけなしの勇気を振り絞って。最強の称号を譲り受けたカムイの持ち主は、限りなく最強に近づいた最弱のカムイとの頂上決戦に臨んだ。
そんなあまりにもやけっぱちな行動をクロは心配そうに目を離さないまま、ハグたんへ入れ知恵を働いたであろう者の元へと下がる。
「このバカムネっ!! ハグたんに何させているのだああっ!!」
「決まっているじゃん、ウチらの代わりに勝たせるんだよ」
「ふざけ……あの臆病で貧弱で夜の闇に包まれるだけで泣きべそかくようなハグたんに向かって、貴ッ様はなんて残忍な所業を……!」
「クーちゃん地味に辛辣なとこあるよね」
その辛辣発言も、ハグたんへの愛護心の裏返しか。
「せめて、我も闇の禍球で援護せねば……」
「いや、クーちゃんはウチ守れるようにだけしといて。ウチの回復もナシで、ここからハグたんのタイマン見守ろ?」
「はぁ!? 最強の評すら生温い化け物との死闘中に、そんな相撲観戦のような……」
胸ぐらを掴みながらの言い争いになりそうだったが、そこにはマサムネのしたり顔。
それが真意となってクロに伝わる。
「はぁ、さてはマサムネ、昔のように相も変わらず悪巧みをしていたのだな」
「流石幼馴染!」
そう2人は、前方で相対している敵味方に視線を移す。
「ウチ、2つ気づいちゃったんだ。逆刃刀のカムイの不殺以外の欠点と、あいつとハグたんが似ているようでハグたんにちょっと負けているところ」
次回決着
夕方頃に




