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12話 『最弱』のカムイ

 同時刻。

 第二の街の東側の森でも、連盟主の差し金が1人のプレイヤーに接近していた。


「マサムネって名前の人なのかしら? それじゃあ『宣戦布告』と洒落込みましょ」


 袴姿の女性が指定した相手は、リアルの事情で一足遅くログインしたため幼馴染らと別行動中のマサムネ。


「ウチに宣戦布告!? うほおおお! ついにあっしも手合わせ申し込まれるくらいの有名人に……」

「いいえ、第二の街の近くにいるなら、相手は誰でもよかったの」

「あっそ。今回はご縁がなかったということで〜」


 一転して胸の高鳴りや興味を失い、面倒くさそうに立ち去ろうとするマサムネ。

 なおハグたんの待っている街から逆方向へと歩いているが、そもそもこんな森の中で彷徨いているほどにはマサムネは方向音痴なので仕方ない。



 『宣戦布告』の効力は永続、とはいえ指名相手から無視されればそれまでであり、しつこく付きまといでもすればGM(ゲームマスター)通報もやむ無しだろう。


「行かないで! 誰でもいいから戦って勝たなきゃ、わたしが身を寄せたい場がなくなっちゃうの!」


 縋るように追いかけての痛切な懇願、だったが、それが効いたのかマサムネの足が止まる。


「……ほほぅ、そのどんぐりな弱気、どこかの誰かさんを思い出させますなぁ」


 どうもマサムネは、1人の友達の顔がしみじみと目に浮かんでいたようだ。


「ちなみにレベルおいくつ?」

「まだ15よ、だって一週間くらいに始めたばかりのへっぽこだから」

「そんなとこまで誰かさんにそっくりどんぐり!」


 キャリアの短さまで、その友達と真横に並び立っていた新規プレイヤーの女性。

 自信なさげな顔が段々とその友達と一致してゆくマサムネは、投げ捨てたばかりの興味を利子付きで取り戻した。


「よしっ! ここはあっしが新規さんにひとつ手ほどきしてあげやすか! 『宣戦布告』!」


 ついにマサムネの方からも自らの首を絞めるだけにしかならない宣戦布告、いや、絞められるのではなくさすられる程度だと楽観視したのだろう。

 もはやしのぎを削るPK戦ではなく、実戦練習さながらの緩さである。


「で、でもできればお手やわらかにお願いしてね。だって……」


 女性はそう一拍置いて、何故PKを挑んだにも関わらずそこまで自虐的なのかを赤裸々に明かす。


「わたしのカムイはね、『誰も殺せない』『誰よりも平和的』『悪意なき神の威』『不殺のなまくら』そう囁かれてるくらいには、『最弱(さいじゃく)』なんだもの」

「ダレカたんのカムイとはまさかの正反対!」


 友達の個人名を半分漏らしてしまっているほど調子に乗りだしたマサムネ。

 相手も相手で、まるで非好戦的でありながら無理矢理戦わされているかのような面を垣間見させてばかり。


「まぁまぁ、最弱かどうかなんて、実際やってみなきゃ分かんないもんじゃん?」

「そうかしら……きっと、カムイを出させたことを後悔すると思うわ」

「じゃあさ、いっせーのせ、でカムイ出そうぜい。それなら怖くないっしょ?」

「ええ。なんだか童心を思い出させるけど、やってみましょう」


 先輩風吹かせながらのその提案は、どうやら女性の不安を和らげたようだ。


「「いっせーの――」」


 マサムネも、その女性も、まるで鏡合わせかのように武器系カムイを抜刀する構えとなり。


「「――来い、神威(カムイン・カムイ)」」


 両者共に、その鞘から滑らせるように、芸術的なまでに流麗に抜刀。


 煌びやかな名刀が現れたところまで共通していた。


「ウチとおそろのカムイじゃね!? でもウチ、刀のカムイ使ってて最弱だって思ったことないんだけどなー」

「待って、やっぱりちょっと違うわ。ほら、ここ見て」


 女性が指したのは、自身の持つ刀の刀身の部分。


 遠目では違いがないように誤解してしまいそうになるが、光の反射具合がマサムネの刀と反対を向いているのだ。


 そして女性は指をさすだけでなく刃にその指をなぞらせるという、切り傷は免れないであろう自傷行為まで始める。


「なにしてんの、最新のリスカ? って、お? よく見たら刃が逆さまじゃね」

「これで通じたでしょ。わたしのは『刀』のカムイじゃなくて『逆刃刀』のカムイなのよ」

「ははぁん、そういうことでやんすかぁ」


 逆刃刀から離した女性の指には、手品や錯覚などでなく傷一つたりともなかったことが、殺傷力の皆無さを物語っている。


 このカムイも、招き猫と同様に最近実装された新型。まさしく未知数。


「アーツはたった一つだけ、名前は【峰打ち(みねうち)】。字面通りに弱いし、しかも勝手に発動しちゃうし、そのせいで人もモンスターも倒したくても倒せなくなっちゃってばかり」


 マサムネの先輩面ながら気遣う態度に信頼感が芽生えたのか、女性はカムイに関する悩みをそう吐露していた。


「確かにこりゃ最弱だわぁ。まるで呪いみたいな話でんがな」

「呪い……そうかしらね。ふふっ」


 そう零すようにした上品な笑い。それは果たして自虐的な意味なのか。


「殺せないとか平和とか、どんなもんかウチに試しに全力で一回やってみてよ! ウチから宣戦布告もしてるし、お先にドゾー」


 マサムネのお調子者の性格も極まり、相手のカムイの安全性を判断し、先行まで譲るという太っ腹な先輩と化していた。


 その甘い言葉に甘え、女性は逆刃刀を構えてマサムネへと近づく。


「はあっ、はあっ、わっとと!」


 まだ数歩目なのに息切れし、よたよたと走っているのか歩いているのか曖昧な速度動きで近づき、逆刃刀を振るというより振り回されてそうなモーションで。


 見ているマサムネが心配になっている中で、ようやく逆刃刀の範囲内まで接敵し。


「うふふっ♡【峰打ち(みねうち)】」


 艶っぽく微笑し、逆刃刀のカムイによるアーツが炸裂。


「ダッハッハ! 剣閃ヒョロすぎて、こんなんイシスタにあげてもバズりやしなごっぱあああああああっ!!」


 果たしてそこには、マサムネの花畑な想像を真っ向から覆す、真に恐ろしいことが起こっていた。


 マサムネは「きゃん♡」だのあざとさの塊のダメージボイスの準備だけしている舐め具合だったがだけに、体感したことのないほど凄まじいまでに、頭が真っ白になるほどの威力を食らう。


 イシスタでのせる分にはバズれるかもしれないが、マサムネには到底笑えない事態でもあった。


「……やべぇ」


 戦う前は満タンだった残りのHPはピッタリ1だけ。

 白昼夢でも直面いるかのように、露骨なほど口数も激減している。


「ウチ、ギリギリ生きてるけど実質死んでるし……」


 立ち上がらない、というより立ち上がれなくなって事切れたかのように大地に身を預けるマサムネだが、それもそのはず。


 30秒間、体の操作が滅茶苦茶になる『混乱状態』。

 3秒間、仮死状態同様に一切の操作が出来なくなる『気絶状態』。


 と、二つの状態異常が付与されている。

 つまり現在、逆刃刀を握った相手から見下ろされているマサムネは、まな板の上の魚と同然の体。


「てかあと一撃でも食らったら死ぬ……」

「アンコール、【峰打ち(みねうち)】」

「はい食らったぁ! オワタオワタオワタッ! 辞世の句コレクションどれ詠むか決めてねぇのに〜!」


 そこまで有終の美を飾りたかったか見苦しく騒ぎ立てるマサムネ。

 ところがまたしても予想外の事態が。


「HP、減ってなくね?」


 確かにアーツを食らってはいた。

 女性が開示したアーツの説明が、嘘偽りない理由を知ることとなる。


「これで理解したでしょ。逆刃刀のカムイとアーツ峰打ちの組み合わせが、どれだけ最弱か」

「いやこれで最弱なんて嘘じゃん! こんなのチート! 最弱詐欺!」

「ええそうよ。だってわざと言い忘れていたんだもの」


 どこぞの友達のような弱々しさから一転して凄まれたため、思わずマサムネは怖気づいた表情と化す。


 峰打ちでは確かに誰も殺せない。

 だがデメリットを度外視したならば、誰をもデスの寸前まで至りしめる威力を持つ。


 限りなく必殺に近い不殺。これが逆刃刀のカムイの真骨頂にして女性の本性。


「私のカムイってね、とある凄く偉いプレイヤーさんから『()()』って目されていたりして!」

「冗談キツイっすよ旦那ぁ……」


 どれよりも悪意無きカムイと、飽くなき闘争心を秘めた本体。

 こいつには絶対に勝てないと、マサムネは体育会系口調になるほど慄くのであった。

次回は明日に

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