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11話 『最強』のカムイ その2

 攻防共に付け入る隙なし。

 まさしく、フィクションの世界広しといえでもここまでシンプルに強すぎる能力なんてありはしないだろう。


「最強か……確かに打破しようもない。少なくとも我のカムイを上回ったことだけは認めよう」


 そうクロは、観念したかのように相手プレイヤーに無防備な背中を向ける。


「だが、最強の称号、汝ごときに名乗らせるには井の中の蛙というものだな」

「負け惜しみかな? 逃げてどうする、それとも修行でもすれば僕のカムイに勝てると? いくら強くなろうと、倍返しされることに変わりないと思うけど」

「フッ、今だけは負けを認め、粛々と逃げおおせよう。だが、暫しそこで待っているといい」


 そう第二の街へと、大物感漂わせながらゆっくりと歩く。


「貴様から最強の座を簒奪する真の最強勇者、そのカムイの使い手をここに連れてくるのだからな! フハハハハ!」


 まるで敗者の姿を想起させない高笑い。

 現にクロは、無敵たる招き猫のカムイを真正面から攻略する手段を思いついていたのだ。


 それとニアミスで入れ替わるかのように、草むらに紛れて蛇行して迫る者、縞模様の猫の尻尾が位置を示すかのように伸びるその特徴的なプレイヤーが顔を出す。


「ニャホニャホ! 見事なお手前で! 招き猫のカムイの新規くん」


 そうニヤニヤと薄ら笑いを浮かべるプレイヤーと、少し遅れてもう1人。


「待ちたまえキャトル君! ああ、息が上がる……」


 ユロクが慌てながら遅れてやってくる。キャトルの自由気ままな猫らしさ満載のマイペースな移動に振り回されていたようだ。


 この2人の到来に気づいた男性は。


「連盟主の試験官達? 随分とご苦労だね」

「なんのなんの。だってキミに、加入試験合格の通知を届けに参ったんだからニャア」


 横へ縦へ、顔だけ出して、彼なりの身振り手振りで合格を祝しているのだろうか。


「仕留め損ないはしたっぽいけど、勝ちは勝ちだし大目に見てあげるニャン。ご恩は後の戦働きで構わないにゃよ」

「というわけだ。今日からよろしく頼もう」

「ちなみにこのオッサンは、君の研修がてら新しく所属するクランのリーダー、名前はユロクで――」


 突然、キャトルは口煩く喋るのをやめた。


 賑やかになっていた草原地帯は、1つの打撃音と共に静寂へと変貌していた。


「……なんにゃ? この足」

「テメェ様はぁ、目上に対する礼儀ってもんがなってないんじゃねえか? ブサネコが」


 寒気すら感じる声色のキャトルに対し、男性がいきなり罵声を浴びせる。


 しかも男性のその右足、キャトルの頬骨に蹴りかかっていたのだから。

 誰だって黙る、一触即発は免れない事態だ。


「何をしているのだね! いきなり暴力に暴言など!」

「偉っそうによぉ、頭が高すぎるぜぇ。ここはてめぇらが俺の召使いにでもなるってのが筋だろうが」

「あぁん? 何つった?」


 最早キャトルに、先程までのおどけた様子は完全にない。


「にゃあ、()()()()、おちょくってんのか?」

「おちょくってんだぜ、()()()。てめぇらまとめて『宣戦布告』だ」


 クラン云々の話は、その敵対宣言によって上書きされた。

 招き猫が挙げている右手が、ゆらゆらと手招きを始める。まさしく攻撃を誘う『受け』の体勢だろう。


「俺の最強のカムイに手も足も出ないザコ共、悔しかったら一発でも攻撃当ててみろや! ギャッハハハ!」


 いよいよ彼の増長と豹変が本格的となる。

 招き猫のカムイこそが最強のカムイだと自認したが故に、それを操る己自身も最強なのだと、有頂天となる。


 キャトルとユロクの2人は、最先端を征く上級者プレイヤーとしてのプライドを逆撫でされたのは確かだが。


「やれやれ、こんな身の程知らずな新規がいたとはにゃあ。合格は取り消しで」


 そこには怒りではなく、まるで完全に興味を失ったような態度で冷酷に宣告する。


 いきなり服従を要求してくるプレイヤーなど、仲間にさせる意欲がなくなっても仕方ない。


「……おい、話が違ぇぞ? 1人に勝てば合格って条件、大手クラン様が気分でその程度の約束さえ破るってのか?」

「アッホだにゃあ、それは条件じゃなくただおミャーのバトルが見たかっただけ。だってこの試験、()()じゃなく()()()()を審査してたんだから」

「んだと!?」


 不合格、その真意と真実を赤裸々に明かし、一杯食わされたとばかりに男性から動揺の声が漏れる。


 クラン連盟主とその傘下には、レベルが上限まで到達したプレイヤーなどごまんといる。元より実力の価値など今更無きに等しい。


 だから綺麗事抜きに新規プレイヤーは内側こそを重視して見定め、合否を下す。

 逆説的にもし試験者が勝てずじまいだったとしても、不屈の精神を披露し真摯に頼み込めば、何度だって再挑戦させてくれたであろう。


 自らが最強だからと、強さこそ価値観と驕っていた男性であったがために、言い返すための台詞の綴りが進まない。


「これにはキャトル君に同意だ。実力などいくらでも身に着けられるのがこのCCO。だが何億のモンスターを倒そうとも、黒ずんだ人格は磨き上げられぬもの」

「宣戦布告してからバトルするマナーだけは評価点だったにゃ。けど人間、見た目や力じゃなくて『中身』が肝心……」

「ッオラアアア! 勝手に都合よく話進めてんじゃねぇ!」


 堪忍ならぬと怒鳴り、脅してるつもりなのか地団駄を踏む。


「俺を見下してんだろ! ウダウダしてねぇで拳で語りに来いよ! どうせ倍にしてコピーされっから内心俺にビビってんだろ!」

「じゃあキミの方こそ、さっさとまた蹴り飛ばしに来ればいいのに、なんでさっきから駄々こねてるだけなのかにゃにゃ?」

「……チッ! うぜぇ」


 彼の最大の欠点とプライドに開けた風穴を穿ち、「にゃ」を増やした煽り口調がその切れ味を増す。


「ひ弱さ晒すだけだもんね。だってさっきのキミの蹴り、ぜんぜん痛くニャイ♡」


 そう自身を横蹴りしてきた男性の脚を、捕食者の目つきをして愛おしそうなほど丹念に舐めまわす。


 その薄気味悪い行動には、強がっていた男性が思わず引きつった笑みとなるまでに気圧されているほど。しかし男性は蹴り返せない。

 招き猫のカムイ発動中は、自身のステータスが1/10になるデメリットを負っているため。コピーに使用者のステータスは無関係とはいえ、このマイナス補正では自分からどう攻撃しても無意味と悟ってしまうのだ。


「毒にも薬にもならにゃい、子供騙しにも猫騙しにもならにゃい、にゃいにゃい尽くし。だァからキミのカムイは『()()』なんだよ」

「ゆくぞキャトル君。もう1人の加入希望者の成否も見届けねばならん」

「いんにゃ、好きにしとけにゃ。こっちがこれじゃ、あっちの方もどうせ期待なんて持てないニャア」


 2人は良好とも険悪とも言えないビジネス的な付き合いの雰囲気を醸しつつ、足早に立ち去っていった。


 これがサーバー04トップクラン、連盟主のプレイヤーとその仲間。能力を笠に実力行使で解決を強行するほど小物のプレイヤーはいないのだ。

 挑発をあしらい、名分があろうと争いをせず、精神を的確に揺さぶる言動で、あまつさえ最強と誇示するカムイを最弱だと評する大胆不敵さ。


 はじまりと第二の街でしか世界を知らない浅はかな新規プレイヤーとは、1枚も2枚も格が上手であった。


「……まあいい。よくよく考えりゃクランなんざ入らなくたって俺は最強だ」


 彼はしょぼくれた顔を起こす。

 「あいつらは手の出しようがないから逃げるしかなかった」と己に言い聞かせ、自負心を蘇らせる。


「何てったって、この招き猫のカムイさえあれば! 全てのクラン全てのプレイヤーが敵に回ったとしても、寝っ転がりながらでも返り討ちにしてやれるからなぁ!」

「思い上がりもそこまでだ! 貴様から最強の座を簒奪する必殺の最強勇者、此処に召・喚!」


 堂に入った演技のクロが意気揚々と再登場。


 何か召喚するような口ぶりだが、そんなことはなくそのプレイヤーはちゃんと後ろから走って着いてきていた。


「で? そいつが例の勇者……なのか?」

「ムリムリ無理無理むりいぃ!! 私なんかが勝てるわけないですううっ!!」


 例の勇者ハグたんは、大声で泣き叫びながらクロにハグした体勢のままテコでも動かないでいた。


「心配は無用だ。そなたは普段通りのがむしゃらな戦い方をすればよい」

「でもどんな攻撃でも2倍にコピーしてくるんですよね!? 私なんかがなにをどうしようと絶対やり返されますって!」

「我を信じよ。それとも、そなたは我を信じられぬのか?」


 クロは優しく抱きしめ返す。

 ハグたんが最も落ち着けるコミュニケーション。


「ま、まあよくわかんねぇがやる気なら『宣戦布告』だな。ドンとかかってこいや」


 男性側は、カムイの長所を最大限発揮する受けの姿勢だ。

 ちなみに宣戦布告を受ければパーティやクランのメンバー全員に名分が共有されるのでこの場合不要なのだが、まあ念のためという言葉もある。


来い、神威(カムイン・カムイ)。どうなっても知りませんからね、主に私が!」


 そう卑下しつつも男性に向けて走り出すと同時に頭を爆弾に変化。


 涙が視界を滲ませ、何度も転びそうになるどんくさい走り方だったが、相手が逃げも進みもせず悠然と待ち構えている以上、いつしか爆破範囲内まで着実に距離を詰め。


「【自爆】っ!!」

「へぇ、こいつはいかにもヤバい気配がプンプンするアーツだなぁ。【真似擬猫(キャットコピー)】」


 涙目のハグたんと、アーツをコピーした男性は両者同時に頭から一迅の閃光を走らせ、やはり全く同時に大爆発。


 ハグたん側も、見ている側が戦意を喪失しかねないほど十二分に大規模な爆発だった。

 されどやはり、火力も煙も2倍の爆発力と広がりを見せた男性。


「自爆すらアップグレード&コピーしたか……だが、これでよい」


 クロはニヒルに笑い、ハグたんの勝利を確信した。


 果たして、立ち昇る硝煙の中から爆発の衝突に吹き飛ばされた者は。


「うわああん! やっぱりダメでしたああっ!」


 舞い上げられたハグたんが涙を空中にポロポロ流しながら、HPが0となっていた。

 相手の爆発をまともに食らう前に吹き飛ばされたため、アーツの反動でHPが0になっただけなので仮死状態で済んではいる。


「クロさんの言う通りでしたぁ。私の自爆がコピーされちゃって……しかも相殺されちゃったから意味なんか……」

「なるほど、確かにコピーさせたのだな。ならばそなたの勝利ではないか」

「え……? それってどういう」


 回復魔法でハグたんを立ち上がらせ、その相手の様子を目視で確認させる。

 黒煙が晴れてゆき、巨大な爆破が巻き起こった現場の跡にいたその男性は、そう、ハグたんと同じことをした以上は――。


「あれぇ、あでぇ……俺、なんで死んでんだぁ……」


 それは間抜けたポーズのままHPが0。


 ハグたんとそれを知る者には、まるで既視感のある現象であった。


「汝のコピーは確かに完璧を上回る。だが、【自爆】の代償まで律儀にコピーしてしまったようだな」

「な、なんだって!?」

「己を知れど、敵を知らな過ぎたようだな。さて、汝が宣った最強のカムイの座、我が友達ハグたんに譲ってみればどうだ」


 クロは地味な部分で執念深いところがあった。


「認められるか……第一これ相打ちだろ! 俺もその子も勝ってもいなけりゃ負けてもいない!」

「いいや汝は負けたさ。倒れ伏し死にゆくのみの汝と違い、ハグたんはそこで立ち歩けているのだからな」

「ええと、クロさんの回復のおかげですけれども……」


 クロはハグたんの肩に両手を乗せた。

 友達同士の距離感がまだよく掴めていないハグたんは、地蔵のように固まって動けなくなってしまう。


 ともかく、クロが説得力を盛って語る勝因を一通り聞いた男性だったが。


「いや屁理屈だろそれ」

「呼ばば呼べ。だが最強と最強が激突した時、最強以外の人物の地力差で優劣が決まるのは必然の事」

「わ、私最強とか名乗った覚えないんですけど……」


 預かり知らぬところで話が進んでいたあまり、まごつくハグたん。

 それでもボルテージが最高潮となったクロは、もう止まらない。


「これこそが最強などでも引き裂けない『友情』だ! 即ち! 貴様の敗因は、個で自惚れ仲間を切り捨てたことだ!」

「……俺もクラン作ろっかな」


 そろそろ耳が痛くなってきた男性は、投げやりの結論を出して会話を終結させた。


 こうして、招き猫という最強のカムイの不敗伝説は、ほんの一刻で自爆して幕を下ろしたのであった。

 クロはレベル19、ハグたんはレベル16となり、勝利の盃ならぬ抱擁を再び交わす。


 ちなみに翌日、招き猫のカムイには下方修正が実施され、永続発動だったのが発動毎に10分もの長いクールタイムを充てられ、最強とは程遠い微妙なカムイとなってしまったとか。

 契約したカムイが下方修正に遭ったプレイヤーには、カムイ無料変更券が1枚進呈されます。


 次回、最強の皮を被った最弱のカムイが現れたということは(夕方更新)

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