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10話 『最強』のカムイ

 本作CCOは、一般的なVRMMOの例に漏れず、プレイヤーを攻撃し倒すことが可能。

 いわゆるPK(プレイヤーキル)である。プレイヤーを死亡状態にさせればモンスターと同じく経験値が手に入り、運が良ければアイテムも強奪という形でドロップ可能。


 ところが、詳細は省くが不法を働いたペナルティは目も当てられないほど重く、何よりPKなど、さも通り魔をするようで大多数のプレイヤーからは忌避される行為。


 なおクランやパーティのメンバーに攻撃してもペナルティは発生はせず(ただし見返りもない)各街の広場などペナルティを無視して対戦するための施設もあるにはある。


「……汝は、我に仇なす(プレイヤー)か?」

「いいや、あなたに恨みはないが、僕にはちょっとした事情がある」


 ちなみにPKの大前提の仕様として、通常プレイヤーを無用に攻撃した瞬間、攻撃側にキルペナルティが付与されるのに対し、攻撃された側はそのPKプレイヤー限定の『攻撃名分』というものが自動的に手に入る。


 アイテムではないがそれがあれば、たとえ襲撃してきたPKプレイヤーへ反撃したり返り討ちにキルしても、キルペナルティが付与されない。

 簡単にいえば正当防衛が成立するのだ。


 とはいえ、PKとは運営から正式に用意された遊び方の内だ。穏当な方法でPKが出来る抜け道だってある。


「クロノワールとかいうやつ、お前に『宣戦布告』を申し付ける!」


 それが宣戦布告システム。


 どのプレイヤーにも備わっている機能であり、これを宣言すれば指定したプレイヤーへ『攻撃名分』を与えられる。


 裏を返せば、この時点ではまだPKプレイヤーがそのまま攻撃すればペナルティだ。


 ではどういう意味があるのか。

 名分を受け取ったプレイヤーから攻撃を一度でも受けるなり状態異常やデバフを受けるなりすれば、ようやくPK側も大前提通り『攻撃名分』を獲得。

 これによりペナルティも後ろ暗さも無しのPK戦が楽しめるのだ。


 PKを申し込む側が先手を譲るという妥当なハンデの形でもある。


「フハハハハ! この我、クロノワール(略)に単騎で闘争を挑もうなど片腹痛い。こちらも汝に『宣戦布告』と洒落込もう!」


 先行の権利を捨てるだけになるが、スタートラインを同じくした公平なPK戦がしたければ『宣戦布告』を申し返せば良い。



 こうして、ハグたんと合流するために帰還中のクロと、始めたてホヤホヤの新規プレイヤーは第二の街の目の前で戦闘が始まった。


「さあ出でよ……闇に生まれ闇より出づりし闇より深く闇にまたたく闇の化身、来い! 神威(カムイン・カムイ)!」


 支離滅裂で頓珍漢な幼馴染と別行動中なだけあって、そのストレスを晴らすが如く思春期特有の妄想をひけらかしながら杖に闇の力を迸らせる。闇のカムイは装填完了だ。


「バトルの基本はカムイだったね。来い! 神威(カムイン・カムイ)!」


 対して相手側は、背中に携えている剣にもその身体にも変化はない。


 その代わり出現していたのは、陶器で作られたような猫の置き物。それが背後霊のように宙にゆらゆら浮いていた。


「ほう、さしずめ招き猫のカムイというべきか」

「なんか最近実装されたばかりのカムイとかなんとか。まあまだ手探り状態なんだけどね」


 険悪まではなさそうな対話を繰り広げつつ、クロは目で拾った情報で分析を済ませ、先手を仕掛ける。


「さて、我が重力や回復のみの補助役と思うな。【闇の禍球(イン・ザ・ダーク)】」


 クロが攻撃用のアーツを発動。

 闇のエネルギーがバスケットボール大ほどの球体と化しつつ質量を持ち、それを相手に放ちダメージを与える魔法だ。


「いいなぁそれ。その技、僕も使えたら面白そうだなぁ」


 高速で放出された闇属性のエネルギーに、相手は何を思ったか舌なめずり。


「僕も使いたいから、使うしかないなぁ。【真似擬猫(キャットコピー)】!」

「コピー……ふむ、コピーの能力か」


 クロはアーツの性能を予測しつつも、どこか予測のつかない不気味なものを感じ取っていた。


 闇の球が相手の懐へ迫った時だ。


「やはりコピーか」


 招き猫の両目から怪しい光が灯ると、クロの発動したアーツと同じアーツが、一つの闇の球が出現し急速に拡大されてゆく。


 まだクロは頭も心も冷静そのものだ。魔法系アーツの威力に関わるINTの高さで押し切るつもりだった。


 しかし、【真似擬猫(キャットコピー)】の聞きしに勝る真の恐ろしさはここから。


「そんな! 我の闇の力が模倣品などに呑まれるだと!」

「同じアーツの力比べ、どうやら僕の方に分があったみたいだね」


 男性が浮かび上がらせた闇の球は、コピー元であるクロの球よりも実に2倍もの大きさになっていたのだ。


 このぶつかり合いにて、クロの発動したアーツは相手の闇の球にまるで歯がたたず取り込まれる。間を置かずそのままクロへの反撃として巨大な闇の球が襲いかかる。


「クククッ、甘い! 【闇の禍球(イン・ザ・ダーク)】の真価は速射と連射。目には目を、倍には更にその倍以上の数で押し返すまで!」


 杖を正眼に構え、闇の球を一気に4つ顕現。

 残り使用回数に糸目をつけないその出力を行使し、4つとも相手の闇の球へと螺旋を描き殺到させる。


 そのまま衝突し、一息のままに破壊し、反撃を食い止めた。


「闇とは無形にして無限、あまねく闇を片端から司りしこの我に敵おうなどと――」

「いいなぁいいなぁ、そうこなくちゃなぁ」


 その行為を、相手は嗤った。


「そんな、ことまで!」


 クロは、このゲームで初めて絶望感を思い知らされる。

 今度もまた2倍の大きさの闇の球が待ち構えていた。しかも個数は4つ。

 これらも見かけ倒しではない。クロのアーツは全て吸収されるように消滅し、また相手の闇の球の反撃が容赦なく一斉に襲撃。


「どうかな、こうなるともう逃げられないよ!」

「ぐわっ、ぐああああっ!!」


 クロは死力を尽くして躱そうとしたが、半数が限界。

 威力も速度も倍の強化が施された闇の球が2発命中し、苦悶の声と共に吹き飛ばされる。


 辛うじてHPが僅かに残され倒れはしなかったものの、あと一撃でも食らえばクロの敗北は免れない。


「頼む、効いてくれ……【蛮勇引力(ヘヴィグラビティ)】!」


 迂闊な攻撃は返り討ちに直結すると見たクロは、自身に回復魔法をかけつつ慎重策をとる。

 万が一、いやもう確実だろうがコピーされてもダメージのないアーツで出方を伺うようだ。


「それもコピーしてやりたいなぁ〜、う……おっ!?」


 駄目元であった。内心諦めていた。

 だが確かに相手は体勢を崩し、招き猫のカムイでさえ重力に逆らえていない。


 重力のコピーによる跳ね返りは、まるで起こっていなかった。


「どうしたんだ招き猫! 早くコピーするんだ!」

「やった、やったのか!」


 思わぬ所からカムイの正体の手がかりを拾い、クロは妄想のキャラクターすら忘れて歓喜に打ち震える。


 ヘヴィグラビティは、標的ではなく指定した空間周辺の重力を増加させるもの。またキャットコピーは持ち主にダメージを加える攻撃のみに対し作動する。


 つまり、増幅した重力の範囲内にたまたま男性がいたまでであり、相手に直接攻撃していないために二重の意味でコピーは不可能だったのだ。


「フゥッハッハ! 闇を呑み、闇に呑まれて沈め! 【闇の禍球(イン・ザ・ダーク)】!」

「おっと! キャットコピーは永続発動だよ! どんな事故があろうとね」


 地面に大の字でへばりつく体勢であるにも関わらず、コピーした闇の球はやはり2倍の大きさへと拡大。永続発動のアーツの効力は肉体のコンディションに左右されないのだ。


「くっ、このままでは二の足を踏む……やむを得ん、戻れ、神威(カムアウトカムイ)


 闇の力が解除されたことにより、射出寸前だった闇の球も、発動中の重力も、全て無に帰す。

 同様に相手の闇の球もコピー対象がなくなったため、どうにかクロの目論見通り消滅。


 辛くも虎口を脱したクロだが、カムイは一度戻してしまえば一分間は再度の召喚は不可能になってしまう。

 つまりこうなればもう、打つ手がなくなったも同然だ。


「ハッ……ハッ……何故、我のアーツだというのに、敵の力がことごとく上回ってゆくのだ」

「何故って? クロノワール、きみ、ぴよぴよってゲームで遊んだことはあるかな?」


 男性は突拍子もない質問を繰り出した。

 相手のアーツはコピーであってラーニングではないためか、これ以上の追撃や闇の球は発動する気配さえもしない。クロはあえて話に乗っても危険はないと判断。


「『ぴよぴよ』は我もこよなく好んでいるシリーズだ。特に2作目の『痛』をやり込んでいたが、それがどうした」

「そうかそうか! 僕達気が合うのかもしれないね! 僕もそれがシリーズ最高傑作だと思っているんだよ」


 同じ色のひよこを四つ繋げて消す対戦型パズルゲームの話題へ、2人はシームレスに移り変わる。

 同じゲームを愛する者に敵味方の垣根が無いかのように、男性は気を良くしながら親しげに話しを続ける。


「ぴよ痛で僕が最もやり込んだのは、対戦モード。ガンガン連鎖してガンガンお邪魔ぴよを相手に送り込むルール、これがまた凄い連鎖が決まると爽快なんだ」

「あやつは連鎖など組まず乱雑に縦に積み上げるだけだったな……いやこっちの話だ、続けよ」


 懐かしくも纏わりつく記憶を払拭しようと何もない所に手で払う。

 クロが現実世界でマサムネとよく対戦し、何度か殴り合いの喧嘩に発展した、いい意味でも悪い意味でも友情の試されるゲームでもあったからだ。


 男性は、少し困ったような顔つきになる。


「そんな神ゲーだけども……たとえば腕前が全く同じ奴同士で対戦すれば、同じ積み方に同じ連鎖ばかりになってしまう。そうなればお邪魔ぴよは相殺(そうさい)されて一個も降らない千日手だ」

「戯言だな……さっきから何が言いたいのだそなたは!」

「とどのつまりだ!」


 それは全能の神にでもなったような心地で、己の絶対さを誇示するかのように、両手をバッと開く。


「同じ連鎖でも、同じアーツだとしても、僕だけ2倍のアップグレードで相殺しつつ、お前だけにきっちりダメージを食らわせる。攻防共に無敵、これが僕のカムイの能力!」


 『コピーは本物の劣化』『コピーは本物と同等』そんな不文律を過去にするように。

 招き猫とその男性は、勝ち誇って並び立つ。


「あえて今言っておこう。僕の招き猫のカムイこそ『()()』だとね」

「くっ……見かけによらぬと我に思わせたカムイは、汝の招き猫くらいなものだ……」

後半へ続く

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