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7話 はじめてのクラン

 ブクマ一件一件の重みと有難みを噛み締める今日このごろ

「おかえりなさいませ! カムイ使い様!」


 モダンチックな内装、いの一番に出迎えてくれたのは、燕尾服に身を包んだ髪の短い中性的な顔つきの女性NPC。

 やけに浮いている格好だが、これが冒険者ギルド従業員の正装である。


 なお、カムイはプレイヤーのみが所有する特殊な能力、なのでこの世界に住むNPC住民からは畏敬の念を込めてプレイヤーをカムイ使いと呼称し区別する。


「ねね、ここの冒険者ギルドってなんで男装執事喫茶みたいになってんだろ?」

「考察サイトを覗いたことがあるが、どうやら運営の誰かの趣味とされているらしい」

「へー興味ない。それはそうとハグたんどこいったん?」


 ギルドに入る直前までは確かに横並びでいたが、マサムネは前後ろを一瞥しても見つからない。

 ギルドの中央からは規則正しい列を作る冒険者達で混み合っているものの、その人だかりにいくら目を凝らしてもハグたんの姿がない。


 それもそのはず。


「ハグたんは、我の感じやすい所にいる」

「ヒトガタクサン……コワイ……」

「ありゃ、人見知りに戻っちゃったかー」


 ハグたんはクロに背中からハグをしたまま微動だにしなくなってしまっていた。


 仕方ないとは言え、こんなにも人がごった返す様では、対人恐怖症同然のハグたんはクラン登録どころではないだろう。

 なので2人とも無理矢理呼び起こすなどはしない。正しいことよりも優しいことを優先する。


「とりあえず、年長者の努めとして、クラン登録はウチに任せといてね」

「留年寸前だったくせして何が年長者だ。我がやらなければ、どんなふざけた事を書かれるか分かったものではない」


 そう軽口を叩き合いながら受け付けへと進む幼馴染コンビに、ずるずると引きずられるハグたんはというと。


「はわぁ……ここにいたいなぁ……ずっと」


 クロの体温を堪能し、肉付きあるマサムネとは違う引き締まった身体にしがみつき、フローラルな匂いが鼻孔を癒し、ここが故郷だと突飛な思い込み始めるほど色々限界だった。


「そっか、私、クロさんとも友達になったんだ……」

「こんちゃーす! あっしら3人クラン登録しに来やしたー! んじゃクーちゃんパス」


 マサムネのおふざけ発言など意に介さずに、ハグたんの世界はまだまだ続く。


「嬉しいな。こんなに頼もしくてかっこよくて、しかも優しいお姉さんが友達なんて……いやいや、2人ともこんなどんぐりな私のこと本当の友達だと思っているわけが!」


「なぬ、メンバーの名前は12文字が限界だというのか!? よもやクロノワール(以下略)の真名が人類の法理に馴染めぬとは……」


 クロが仰天する声などお構い無しに、ハグたんの世界は際限なく続く。


「私なんて場違いだぁ……お2人は幼馴染だし、仲もいいし、私なんて2人に比べれば妹程度。いや妹であることもおこがましい!!」


「5人でなければ本登録ができぬと、クランの名さえも決められぬだと!? ならば、我が前々から脳漿に温めておいたクラン名・ダークネスナイト・グルーム(以下50文字略)はどうなるというのだ!」


「クーちゃんチェンジ。こいつに任せたら恥ずすぎて顔面エンチャントファイアなクランに魔改造される予感しかねーし」


 クロがみっともない姿を見せてしまったが構わず、ハグたんの世界は続く。


「ハグたん、かわいいハグたんや……」

「悪化してる……娘ってまるで2人の子供みたいでもっとおこがましいじゃないですか!」

「なんかブツブツいっとる? 寂しかったのかな」


 マサムネ達が用件を片付けても、気づく素振りを見せずに続いてゆく。

 すると、するりとハグたんの腰辺りに手を伸ばすマサムネ。


「そろそろ起きてくれなきゃねぇ……よーし、くすぐり検定2級所持者のあっしの実力、いっちょ見せてやりやすか!」

「なんだそれは、よく分からぬがあまりやりすぎるな」

「めんそーれ! こちょこちょここちょこちょちょちょちょちょここここここ!」

「あひひひひひっ。マサムネさん!?」


 あまりに突然の刺激すぎて、まだ自分の世界から覚めきってないハグたんは。


「ひょえー! ダメな私を生ませてしまってすみません!」

「生んでないよ!?」


 驚きと奇言の果てに固まってしまったマサムネ。普段から振り回す側を振り回させるハグたんもよっぽどの大物の器である。


「というわけでハグたん、とりあえず仮登録はできたから、これで最低限の機能とチャットは使えるようになったよ」

「か、仮登録?」


 聞いていた話に少し劣るような単語に首を傾げる。


「そうだ、メンバー5人で本登録、つまり誰でもよいから後2人ギルドに加えなければならぬそうだ」


 であった。

 だが正式ではなくとも登録は済んだ以上、晴れて3人は離ればなれにはならない仲となった。


 一度本登録をすれば恩恵が盛り沢山。クランリーダーの選定、クラン名の入力、クラン昇格戦への参加権、エトセトラエトセトラ。

 プレイスタイルにもよるが、仮登録で甘んじていては高みへ登りつめられないだろう。



「なるほど、メンバー集め……それならマサムネさんやクロさんが適任そうですよね」

「ノンノン。ハグたんみたいな宿題漬けの未成年に、そんなビジネスっぽいシブシブな仲間作るわけないじゃん」


 マサムネが指を揺らして否定すると、その指をそのままハグたんへと向けた。


「メンバーじゃなくて“友達”、ハグたんにはハグたんが選んだ友達をクランに誘ってきて欲しいのさ!」

「ええっ!? 私なんかがメインになってませんかそれ!?」

「そうだけど? だって元々ハグたんの友達作りのためにクラン設立したんだもん」


 とにかく『友達』を強調した言い方だ。

 はじまりの草原で語ったハグたんの爆弾発言と切実な述懐は、マサムネの一見適当に造られてそうな心に真摯に響いて褪せていない。

 船長ハグたんの乗りかかった船には、とことん支援すると腹をくくったのだ。


「そうとも、我も同意した。ハグたんの目標への協力は友達として惜しまぬ」

「友達ってさ、ウチら以外も多い方がいいじゃん。いやでも、ピュアたんなハグたんにオモオモな独占欲向けられるのも乙な感じが……」

「空気を壊すなこの変態が! ハグたんが友達やめると言い出したら貴様の責任だからな」

「え、いえいえ絶対に友達やめません! むしろ捨てないで下さいぃ……」


 人の優しさや温かさに触れてもなお、自己肯定感が底の底たるハグたんは逆に言葉だけ不安なものばかり。



 そして3人は、仮登録とはいえクランを設立したことによりクエストが受注出来るようになった。

 プレイヤー達は、冒険者ギルドから採集やモンスター退治といった依頼をこなし、路銀を稼ぐのが本作の基本。倒したモンスターからお金を入手出来るといったRPGのご都合的設定はこのゲームにはない(換金可能なアイテムドロップはある)ので、これが金策の手段となる。


 仮登録では最下級のクエストしか受注出来ないが、これでレベリングにもやり甲斐が加味されるだろう。


「とりあえず、クラン結成の門出に良さげなクエスト拾ってきたよ」

「仕事が早いな。どれ、ハグたんにも見せてやれ」


 マサムネが1つの貼り紙をヒラヒラさせて2人に見せる。

 そこには、これから3人がクエストの内容が簡潔に掲載されていた。



 リビングアーマー討伐∶3体。

 出現地域∶デザントデザイア西の森(夜)

 報酬∶3000ゴールド、3000経験値、10名声PT。



 という黒くメタリックな色合いの紙に白い墨で文字が書かれている。名声PTは、現在はあまり関与するものがないので割愛。

 ちなみに通常のクエストは真逆の色合いなのだが、マサムネとてこの世界でのクエスト受注は初めての経験である。基準も手探り状態。


「マサムネ、やはり最初は薬草採取など簡単なクエストでよいのでは?」

「無理無理、余ってたのがこれだけだったから」


 そうギルドの盛況ぶりに肩をすくませる。


 折悪くクエストボードの前は人だかりがごった返しており、クエストの更新速度こそ早いものの、それ以上にプレイヤー達で賑わっているのである。

 クエストは一度に複数受注できるため、クリアする気がなかろうと片っ端から貼り紙を持ち出すプレイヤーが多いためだ。


「それにさ、ウチらの秘密兵器ハグたんがいれば、ちょっとくらい背伸びしても大体なんとかなる気がするって」

「はっはい! 精一杯頑張りますっ!」

「この楽観さが命取りにならなければよいのだがな」


 愚痴るように零したが、反対まではしないクロ。対等なる友人として、ハグたんの爆発力の信頼が勝っているからだろう。


 だが3人はまだ知らなかった。


 冒険者ギルドは危険なクエストほど報酬が多い。

 果たし合いで51万ゴールドをせしめたため金銭感覚がおかしくなっているが、この3000ゴールドという値はそれだけ高額でそれだけ甘くはない難易度だということに。



 そうして冒険者ギルドを後にし、第二の街を一巡りしつつ出立。


 そんな中マサムネは、クエストボードの隣にあった貼り紙、そこにあった夢の溢れる掲載面を思い返していた。


「現サーバートップクラン『連盟主(れんめいしゅ)』かぁ……。あっしらのクランも、いつかそんくらいビッグになりてぇ」


 先程までハグたんの目的に同調しつつも、個人的だが大いなる野望に火を灯していた。

次回、夕方頃から更新

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