6話 みんなでエリアボス戦
本編帰還
はじまりの草原にリポップするモンスターは、何もどんぐりこぞうだけではない。
「こんな雑魚チビゲッ歯なら、ハグたんに面倒かけさせるまでもないっ! とうっ」
鼠型モンスター・レスキューマウスをマサムネは一太刀の通常攻撃もとポリゴンへ変える。
これでモンスター撃破となり、貰える経験値はパーティ3人に分割されるのだが、その分量は倒したモンスターとの『距離』に応じて増減する。
もっとも通常戦っている分には誤差の範疇なのだが、「自分だけ安全な街にこもってパーティに倒させて貰う」などという不届きな発想をする者に経験値は1たりとも与えられない、と留意すればよい。
「うむ、この辺りのモンスターはマサムネ一人でも与し易くはなってきたな」
「あっ、レベルが14に上がりました」
分配された経験値が到達した実りを、ハグたんは淡々と報告する。
本日4度目のレベルアップともなると、流石に声は落ち着いているようだ。なおパーティの盛り上げ役はまだまだ絶好調のようだが。
「ハッピーレベルアップデーおめでと! いやぁハグたんもとうとうレベル14歳かぁ」
「12歳です……それで、本当に全部STRに割り振っていいんですか?」
「いいんだよいいんだよ。ハグたん軸の作戦が上手く回せてるし」
「わ、私そんなに頼られてたなんて、くすぐったい気分……」
初対面の時こそ縮こまってばかりいたが、今では円滑に談笑出来るほどに友達作りの成果が段々と現れている。
「ムフー! この調子ならエリアボスが来てもきっと楽勝!」
「言ってる側からというやつだ。来るぞエリアボス、構えよ!」
「あいあいさっ!」
後衛から周囲を見渡したクロの一声により、各々がカムイを構える。
その先に鎮座していたのは、モノアイ状の1つ目から赤い光を放ち、土煙をあげて重厚感のある体を2足で立ち上がらせた機械仕掛けのモンスター、アンティーク・マギア・ゴーレム。
第二の街へ赴く初心者プレイヤーの壁として立ちはだかり、このモンスターを倒せば第二の街へ戦闘無しで通行出来るようになる。
ちなみに、険しい道だが迂回すれば戦闘そのものを避けられたりするが、将来的な利便性を考えれば倒すのは必然。
「エリアボスだろうとラスボスだろうと、いつもの作戦で行くよ。初手クーちゃん!」
「フッ、我にひれ伏せ、【蛮勇引力】」
クロのアーツにより、相手を中心とした重力を強化。その巨体を地中に沈めんばかりであったが、そこは流石にボス系モンスター。
「効き目が悪い。十分に注意してあたれ!」
「十分モーマンタイ。それいけ、ハグたん!」
「ええと、はいっ!」
力強く頷いたハグたんは駆ける。体格差が大幅にある敵でありながらも真っ直ぐにひた走る。
不安はない、何故ならばマサムネが人任せな無責任発言とは裏腹に並走してくれているため。
敵の石礫による付け焼き刃な遠距離攻撃を刀で捌き、体を張って受け止め、ハグたんへのダメージは1つたりとも残らず請け負う。
「今だハグたん! 10まんアンペア!」
「そんな技覚えてないですけど……【自爆】っ!!」
ハグたんが跳び、力を込めてるつもりなのか体を丸めるポーズをとったと同時に、大爆発が巻き起こる。
自爆のアーツは持ち前の火力のみならず、攻撃範囲もかなりのもの。それだけ、ダメージ倍率にボーナスがかかる『急所』への範囲が含まれやすくなるし、実際のところクリーンヒット。
「撃破ああああああっ!!」
「えっ、もう勝っちゃったんですか!」
ハグたんにかかれば、エリアボスでさえ勝敗があっけなくなる決まるものだ。
相手の攻撃も石礫だけではないし、HP半分以下の行動パターンの変化なども隠されていた。
だがSTR極振りと爆弾のカムイのコラボレーションは、そんな細かく凝った設定を全部粉砕してしまう大味すぎる超火力を発揮していた。
こうしてアンティーク・マギア・ゴーレムはHPが0となり、起動停止。
自爆し終えたハグたんもHPが0となり、仮死状態として停止。
ついでに爆発の巻き添えになったマサムネもHPが0となり、開き直って寝転がる。
「や、やった! どんぐりこぞう未満の私が、やった!」
「ハグたんやるじゃん! エリアボスもワンパンって! いやぁやっぱ人間捨て身になれば何だって出来るもんだよねぇ」
横並びで地べたに峠をのり越えた爽快感を祝し合っている2人に、自爆範囲の外で備えていたクロが追いつく。
「パーティ3人中2人が捨て身になるなど……残された方の身にもなれ」
非常に合理的だが、常識的に考えるほど非人道的と罵られそうな作戦、その発案者マサムネの意外と冷徹な感性に参っているようだ。
クロが随伴しなかったのは、ハグたんの使い捨て爆弾を使い捨てにさせない役割をもつためだ。
「いいや、普通に考えて死なせるわけないっしょ。ウチにとって一番大事な存在を……」
「えっ、そうなのかマサムネ……」
どこにときめいたか、いつになくしとやかな様子となる。
今度はクロが目を合わせない側となったのを横目に、マサムネもまたいつもの角度から言葉を紡ぐ。
「だってクーちゃん……の回復魔法が一番大事だからね!」
「ばっ! このバカムネっ! よいか、この杖の回復魔法が使えるのはあと3回までだぞ!」
「なんで急に怒鳴んのさ」
照れ隠しに誤魔化しにと荒げる声の勢いのままに、倒れている2人に回復魔法【小回復】をかける。
なおこれはカムイの能力ではなく、装備している杖にセットされている汎用アーツである。
杖に触れている対象のHPを秒間4回復し、発動者及び対象者が別の行動をとると発動終了になる。文字通りの生命線。
なお使用回数が尽きればその装備は破損状態になってしまう。
そんなこんなで、リザルトを確認したハグたんは主張するように片手をあげる。
「あの、さっきのバトルで新しいアーツ覚えたんですけど」
「おっいいじゃん、自爆だけじゃワンパンワンパターンすぎて飽きちゃうもんね」
「そうなんですけど、その……とにかくこれを見てくれませんか」
何か伝えたいようだがまだ話をまとめるのが不得意なハグたんは、すぐさま共有モードで見せる。
アーツ【自爆】
(CT7秒)
効果∶爆弾のカムイの初歩となる技。
広範囲にSTRの777%の無属性ダメージを与え、その後自身のHPは0になる。
NEW! アーツ【爆煙幕】
(CT60秒)
効果∶残りHPを半分減らし、広範囲に任意の色の煙幕を張って目眩ましをする。
NEW! パッシブアーツ【お触り厳禁! 爆金刑!】
効果∶相手の攻撃がカムイに命中した瞬間、ダメージが少し強化された【自爆】で反撃する。(発動切り替え可能)
バッドパッシブアーツ【湿気はダメ! 死刑!】
効果∶カムイが水に触れると、120秒間自爆系のアーツが使用不可となる(常時発動)
と、ずらっと並んだ多種多様のアーツの中で、ハグたんが最も不安になっていたのは。
「これ、一番下、なんかこれ、悪い感じの効果なような気がして……」
そう指差した、明らかにデメリットとなるアーツのことであった。
「あーそゆこと。ハグたんの場合は水が弱点かぁ」
「気に病むことはない。あらゆるカムイは須く欠点がある」
2人だが、カムイの良し悪しには折り合いを付けなければならないことも熟知していた。
たとえばクロの闇のカムイは、迸る闇の属性の奔流が強力故に、酷使がすぎれば制御が利かなくなり闇の力が自身を蝕んでダメージを受けてしまう。
またカムイを纏った武器が敵に拾われれば、自分のカムイがそのまま敵に回ることも意味する。そうなれば最悪、カムイ解除するしかなくなるという武器系カムイ共通の弱点も付きまとわれている。
「じゃあ……カムイを出しっぱなしにしているのも考え物なんですね」
「おっハグたん賢い! いいねいいね」
「その調子だな。こうした細かい気づきが、カムイバトルの高度な駆け引きに繋がるのだ」
乱暴なマサムネだが、目下に対しては優しく接することができる。クロも、些細なことでも褒めるべき部分はちゃんと褒められるようだ。
そんな時、ハグたんの頭上からいきなり冷たい粒が当たる。
「あっ、雨」
CCOの世界にも天候はある。
雨が降る前に曇るという前兆こそあるので予測は容易だが、ともかくとしてハグたんらパーティにとってはこんな単なる雨でもかなりの大事である。
「やべぇ! ハグたんの弱点が降ってるじゃん!」
「主力を欠いたまま戦い続けられん。第二の街まで走るぞ」
「ひいいっ!!」
そう駆け出しの彼女らは、明かりが灯る街の門へと雨宿りがてらに駆け出した。
そんなハグたんは、今一度エリアボスへと振り向き。
「ゴーレムさん、対戦ありがとうございました!」
「何もたついてんのハグたん! 早くしないと置いていく……みたいなひでぇことしねぇけども!」
「ああっ、すみません!」
感慨に耽る間もなく急かされ、ピチャピチャと足音が鳴るようになってきた大地を走り去ってゆく。
なお、アンティーク・マギア・ゴーレムは倒されて暫くすると自動的にHPと体のパーツが自己修復され、元の位置に鎮座するようプログラムされている。
完全修復を終えたゴーレムのその1つ目から放たれるのは淡い緑の光であり、まるで自身を打ち倒したハグたんを黙して祝福するかのようにその背中を照らすのであった。
3人はどうにか戦闘を避け、第二の街・デザントデザイアに到達。
はじまりの街の面積を4倍広くしたような都市であり、それでも街の中は魔物が発生しないのでひとまずは。
木造りの扉の外からでも内の賑わいが伝わる冒険者ギルド。
「ねね、手前で集合写真撮ろ! なんとなく」
「なんとなく、で生きてばかりだな貴様。せめて記念にではないのか」
「ええっと、いいですね……?」
困惑しながらも了承。猫背を伸ばし直立したハグたんの両側で2人が少し膝をかがんで身長を近づける姿勢となり、フリー撮影機能を用いたマサムネがシャッターをきる。
ところで、この機能は盗撮対策のためにかなり大きめのシャッター音が鳴るようになっている。
「わぴゃ! ああああやっちゃったぁ!」
よってハグたんはそんなシャッター音にさえも驚いてしまうのだった。
おかげでその1枚の写真には、かわいこぶってウインクしているマサムネに、気取ったポーズを決めているクロと、目が異常に釣り上げこれでもかと大口を開け両平手をカメラに向けているハグたんの顔芸が並んでしまっている。
「すみませんでした! 私、変な顔になってますよね!?」
「マチマチ、あえて撮り直しナシでいい? こんな失敗みたいな写真ってさ、ウチらが何年かした後に見返したらエモい思い出になるもんだし」
「ふえぇ、そ、それもそうですね?」
「貴様にしてはらしくないような金言だな。それで、本音は?」
「撮り直すのめんどくせ」
マサムネという生き物は、クロに凄まれると本音を漏らすよう首輪で調教されていた。
されどこの写真でも、遥かな未来、3人が立派に育った時との比較で話の種となれるのもまた真理だろう。
この集合写真がいつかハグたんの増えた友達で窮屈になると夢想し、目的でもある冒険者ギルドへの扉を意気揚々と開けた。
次回、昼更新




