96.古代の建物
アイシャの魔法により泥の塊のようなものがモンスターの足を固めているようだ。
ウルファーグは雄叫びをあげると必死に足を引き抜こうとする。フォンゼルはすぐにウルファーグに向けて距離を詰める。
ウルファーグはロッククローという鉤爪を使った特殊な魔法を覚えていた。リゼは魔法を使われたら困るため、腕に向かってスキルを発動する。
「銀糸!」
ウルファーグは腕を含めて糸でがんじがらめになった。アラクネからコピーしたスキルだ。何に使えるかと考えていたが、こういう使い方があるとリゼは感動した。これなら魔法を発動できない。
「素晴らしい」
フォンゼルは糸を破壊しないように一閃。そして細かいステップで背後に回るとさらに切りつける。ウルファーグは体力の少ないモンスターだ。膝をついた。駆け出していたアイシャの切りつけとリゼのウィンドカッターが同時にヒットしてウルファーグは倒れた。
「すごいスピードでしたね……でもまさかお嬢様がこのようなスキルをお持ちだったとは。もしかしてスキルアブソーブを?」
「そうなの……アラクネからね」
「スキルアブソーブとはなんですか?」
フォンゼルが疑問を口にしてきた。そういえば話していなかったとリゼは簡単に説明しておくことにする。
「あー、スキルをコピーする魔法のようなものですね……!」
フォンゼルは驚いたようで感嘆の声を漏らした。
「流石ですね。神に選ばれし者は次元が異なる……。リゼ様、あなたがブルガテドの剣術を身に着けた暁には私のスキルを是非コピーしてください。卒業記念にどうでしょうか? そこそこ使えるスキルがいくつかありますよ」
「それはありがたいです……!」
未だにフォンゼルがどのようなスキルを持っているのか戦闘ウィンドウで確認していなかったが、そういうことなら楽しみにしておき、確認するのはその時にしようと考えるのであった。レベル差があってそもそも読み取れないかもしれないが。
するとフォンゼルが再度口を開いた。
「それにしても、北方未開地のダンジョンである意味で良かったかもしれません」
「えっと……あ! 私、すっかり失念していました……」
「私もふと思ったことですので、面目ありません。ゼフティアにおいてもブルガテドにせよ、ダンジョン攻略には法律がありますからね」
「ですよね……北方未開地で助かりました。他の国にも法律などがあるでしょうし。見たところ、他にもダンジョンが沢山ありますから、北方未開地のダンジョンを攻略していきたいですね」
リゼはすっかりダンジョンに関する国の法律を失念しており、危なかったと内心で思った。ゼフティアでは発見したら国に届け出る必要がある。ブルガテドでは領地を管理する貴族が攻略しなければならない。今後、転移したらワールドマップウィンドウで確認が必要だと再認識した。
モンスターを倒したため、リゼたちは引き返すことにする。
しかし、引き返す途中であるものを見つけてしまった。建物らしきものだ。いや、塔だろうか。ダンジョンの穴から少し森の中を歩いたところにあるようだ。
「皆さん、ちょっとあの、あれです。あの塔みたいなもの……寄ってみませんか?」
「分かりました。周囲の警戒はお任せください」
フォンゼルが同意してくれたので向かってみることにする。アイシャは当然問題ないと態度で示してきていた。ダンジョンの穴を横目に塔へ向かって歩いてみる。塔にはすぐに到着した。だいぶ土で埋まってしまっているが、城の塔だと思われる。それに、ところどころで城壁が地面から突き出ていた。
「これは……元々、街と言いますか、お城があったのでしょうか」
「お嬢様、あれを見てみてください」
城はかなりの部分が土に埋もれてしまっているが、アイシャの指し示すところを見ると、塔に窓枠があった。窓ガラスが割れてなくなっているが、あそこから中に入れそうだ。
(中に入って、広かったら困るかも。でもなんとなく気になるのよね、この塔。また探索できるように、転移石を置いておきましょうか。転移石の転移術式を唱えられるような人はここには存在しないでしょうし、置いておいても問題ないはず。千万ポイントに下がってくれていて良かった)
リゼは交換画面より転移石を交換すると、片割れを塔の近くに埋めた。近くに銀糸で目印を作っておいた。
「これでまた来れますね!」
「そうね。時間を取れるタイミングで転移して中を探索してみましょう」
それから三人はダンジョンへ戻ると、穴を魔法で崩落させてこれ以上はモンスターが外に出られないようにしておく。思ったよりも時間を使ってしまったため、最短ルートで宝箱の部屋へと向かうことにした。
宝箱部屋はエイガーウェスペというモンスターが五匹ほど出現した。大きな蜂のようなモンスターだ。銀糸を羽に巻きつけると飛べなくなったが、針を飛ばしてくる可能性があるため、気をつけつつ三人で倒すのだった。針の部分には銀糸を大量に巻き付けた。エイガーウェスペをアイテムボックスへと収納し、部屋へと入る。
宝箱を確認する。中身は指輪だ。火属性魔法への耐性が向上するらしい。リゼは間に合っているため、アイシャにあげるのだった。
そしていよいよボス部屋前までやってきた。
「いよいよです。お二人共、気を抜かずに行きましょう」
「分かりました!」
「承知です」
扉を開け、扉が閉まらないように固定をしておき、まっすぐと進む。一定の距離を開けて前進していくことにした。中央部分に差し掛かったところで石板が割れ、ボスモンスターが出現した。
リゼたちは真剣な表情で剣を構えたが、姿をあらわしたのは帽子を被った小さい猫のようなモンスターであった。すぐさま確認する。
【名前】アルプ
【レベル】12
【ヒットポイント】290/290
【加護】なし
【スキル】なし
【武器】アルプの帽子
【魔法】フォーススリープ、トラウムアングリ
しかし、一瞬にして姿が見えなくなってしまった。リゼは危険だと察知して自分たちを囲むように結界を張る。結界を張った直後、結界に振動が伝わった。やはり魔法で攻撃してきていたというわけだ。
「フォンゼルさん、アルプという名前に聞き覚えはありますか?」
「一瞬であのモンスターを判別していたとは流石です。ウルファーグ以上に珍しいモンスターでしょうね。私は戦ったことはありませんし、伝承で読んだことがある程度の知識しかありません。眠らせて、その隙に攻撃魔法で獲物を狩るようです。あの帽子のようなものが体を離れると真の姿が実体化すると言われています」
「となると、お嬢様。その帽子を引きはがす必要がありますね」
こうして話している間にも結界に振動が伝わっている。何度か魔法で攻撃してきているようだ。おそらくフォーススリープが眠らせるモンスター専用魔法だろう。結界への影響はまったくないが、念のため内側にもう一つ結界を展開しておいた。
「私たちの右側面に魔法が命中しているから、そっち方向にいるのは確かね。とはいえ、遠くに居たらアイスレイはきかないし、結界を解除したらあの魔法が当たるかもしれない。なんとかする方法があれば良いのだけれど」
「一つ宜しいでしょうか。私のスキル、魔力感知によれば、右方向、ここから三メートルのところで左右に飛びながら魔法を詠唱しているようです」
「す、すごいです……! でもジャンプしているんですね。当たるかちょっと微妙な気がして……あ!」
リゼはアイテムボックスに手を入れると一つの本を取り出した。メリサンドを倒したときに手に入れた『アビザル・サンクチュアリ』だ。これは周りに水を大量放出するスキルであり、アルプもまったく予想していないスキルだろう。発動すればアルプを水で押し流して帽子を吹き飛ばすことも可能だ。手をかざしてスキルを取得しようかと考えたが、アイシャに覚えてもらってスキルアブソーブでコピーすれば二人共覚えられるのではと考えたリゼはアイシャに手をかざしてもらう。
しかし、アイシャが手をかざしてもスキルの習得は出来なかった。
(なぜ? 通常は特定の人物に紐づかないはず。だからダンジョンのスキルの本は高値で取引されるのに。そうではない場合もあるのかな?)
理由が不明であるため、一度アイテムボックスにしまった。
どのように対処するかもう一度冷静に考えることにする。




