88.報酬
三人はボスを倒せた達成感もあるが、入り口で見張りをしている騎士たちをあまり待たせるのは申し訳ないということで早々に奥の小部屋へと向かう。
そして、宝箱にエリアスが手をかける。
「開けますね?」
「お願いします」
エリアスが宝箱を開けると魔法の本と見られる本が一冊あるのだった。初級ダンジョンでの報酬は基本的に一つだ。中級が二つ、上級はそれ以上となる。
「リゼ、この本について何か分かりますか?」
「これは……ロックショットですね。それなら……」
「そうですね」
リゼとエリアスはアイシャに本を渡すのだった。
「え、えぇ! 良いのですか?」
「もちろんよ」
「アイシャさんの活躍、素晴らしかったです」
「そうよ。最後のマジックキャンセル、カッコよかった。だから受け取って!」
「ありがとうございます……!」
アイシャは喜び本を抱きしめる。そんなアイシャを見て二人は顔を見合わせて頷きあうのであった。
こうして出口を出た三人は騎士たちが目印として焚き火をしていたので、煙の方向へと歩いて合流した。
その後、馬車で揺られること一時間、三人は疲れて眠ってしまっていたので、気づいたらちょうどランドル伯爵邸の目の前に到着した。
「今日はコンビネーションに磨きがかかった気がします。リゼとの狩猟大会、楽しみにしていますね」
「私も楽しみです。今日はお誘いありがとうございました」
エリアスを見送り、屋敷に戻るリゼとアイシャ。すぐに夕食となる。
「それでリゼ、ダンジョンはどうだったのかな」
「初級ダンジョンでしたので、特に危険もなく……といった感じでした。あ、でも、聖遺物ダンジョンということもあり、汎用ダンジョンと比べると危険だったかもしれません」
「そうか……なんにせよ、無事で安心したよ。本当は行ってほしくはないが、中級ダンジョンを攻略したリゼならば初級ダンジョンであれば大丈夫だろう……それでも注意しなさい」
「そうよ、リゼ。あまり危険なことはしないようになさいね? また劇場でもいってきなさい?」
ほっとした伯爵と、戦闘以外の趣味を勧めてくる伯爵夫人。まさか娘が率先してダンジョン攻略をするなどとは思ってもいなかっただろう。
「お父様、ありがとうございます。お母様、そうですね。今度また行ってみようかなと思います。前回は悲しいお話でしたので、明るい話だと良いのですが……」
「私も劇場に行ってくれた方が、話も分かりますし……剣だとかは学園にいる時に私も学びましたけど、よくわからないのよ……まあ、あなたが楽しそうにしているから、続ければ良いのだけれど」
「ありがとうございます。護身術として役立ちますし、日々努力しようと思っています」
夕食はそれから王位継承権問題に関する政治の話などになった。ルイ派が妙に静からしい。
私室に戻ったリゼがお風呂の準備をしていると、アイシャが感謝してくる。
「お嬢様、今日はありがとうございました。私はなかなか実戦の機会がありませんでしたが、上達していたんだと感じることができたので……」
「私も楽しかった。また行きましょう」
「是非お願いします。お嬢様をずっとお守りするために頑張ります。仮にお嬢様が帝国に行かれるのでしたら私もついていきますから。常におそばに居てお守りできるようにしますね」
「ありがとうアイシャ。そうなのよね……ヘルマン様に子爵領のこと、よく聞かないと……何をすれば良いのか分かってないから……。そうそう、帝国の皇帝陛下に仕えて何かあったら馳せ参じる……みたいなことはなしという特権付きなのよね……だから、本当に領地管理というのが主な役割になるのかも……」
と、ヘルマンからは聞かされていた。基本的に招集があれば、命に従う必要があるのだが、免除されている。特例だ。しかしその分、他の帝国貴族からどう思われるかは分からないところである。
「なかなか詳しく聞かないと分からないですね……」
「狩猟大会が終わったら一度訪問しましょう。国交が復活したことで王都から転移石を利用して帝国に行けるようになったみたいなの。使えるのは昼間だけで、行き来できる人はあまりいないみたいだけれど。普通の人は陸路になるのよね。私たちは転移石で行けるみたい。アイシャやお父様、お母様は。お兄様は登録されてないかもしれないけれど……」
「それはめちゃくちゃ便利ですね……!」
「予約制で、帝国に訪問する予定のリストを一ヶ月ごとに送って、指定された時間に転移石で帝国に行くみたい」
アンドレやテレーゼのこともあり、ブルガテド帝国とは転移石で行き来できるようになっていた。なお、転移石は大きいものを利用しているため、一度に十人を転移させることが可能となる。転移先は帝都であり、アンドレの祖父、ヘルマン・フォン・ブットシュテット大公の屋敷にはそこから馬車で二日程度かかる。当然ながら帝都から転移石で領地まで転移可能だ。
帝都にも屋敷はあるのだが、本邸は当然ながら領地にある。
アイシャに寝ると告げて、一日を振り返る。
(さて……今日は二度目のダンジョンを攻略した。初級だったこともありなんとかなったけれど、また襲撃を受けて上級ダンジョンなどに転移させられたりしたらそこで終わり。常に警戒しておかないといけないよね。普通に考えれば、黒幕はエリアナか、ルイ派か……よね。悪役令嬢であるエリアナを避ければ悲惨な運命は回避できるかと思っていたけれど、襲撃されたことで物事はそう甘くないということを思い知った。交換画面のおかげで使えるようになったアブソリュートゼロがあれば、よほどのことがない限り、なんとか逃げることくらいは可能だと思うけれど……。もし今後、窮地に立たされたら帝国に行くしかない。とにかくまずはヘルマン様に領地の話を聞いたり、帝国のことをもっとよく知らないと。それから、インフィニティシールドは想像以上に強かったなぁ。未だに壊されたことがないのよね。そうだ、ステータスウィンドウを見ておきましょう)
リゼはステータスウィンドウを表示してみた。
【名前】リゼ=プリムローズ・ランドル
【別称】フォルティア
【性別】女
【年齢】十二才
【レベル】9
【職業】伯爵令嬢(ゼフティア王国)、子爵(ブルガテド帝国)
【属性】風属性、氷属性、無属性
【称号】運命の開拓者
【加護】大地の神ルークの祝福(大)、芸術の神ミカルの祝福(大)、武の神ラグナルの祝福(超)、叡智の神アリオンの祝福(小)、水の加護、土の加護、風の加護、火の加護、ブリザード・エスポワール、人魚の祈り、竜羽の盾
【スキル】ルーン解読(固有)、毒耐性(レベル1)、衝撃耐性(レベル1)、毒検知、燕返し、マジックキャンセル、銀糸
【状態】健康
【所持金】120000エレス
【ポイント】233460000
【メッセージ】「なし」
レベルが上がり、スキルアブソーブの効果でコピーしたスキルを習得していた。
「えっと、銀糸ね。あのときは咄嗟にとりあえずコピーしてみたのだけれど、どういうスキルなのかな。見たことがないスキルね」
詳細を確認してみることにする。
『銀糸 備考:上質な銀色の糸を射出し、対象に当たると巻き付きます。任意に解くことが可能』
リゼとしては(なるほど)と言ったところだ。ダンジョンで確かに自分の足に巻き付いていた。基本的に直線上に伸びていくようだ。どういう原理なのか、手から糸が出て少しだけなんとも言えない気持ちになった。
試しに結界に向けて発動してみたところ、巻き付きはせずに壁に粘着した。どうやら壁のように大きすぎるものには巻き付かずに粘着するようだ。粘着部分は糸の先端の部分のみであるため、それ以外は手触りの良い糸といった感じである。
(あ、一つ良いことを思いついたかも。これってなかなかに手触りが良いし、丈夫そうだから服とかを作れたりするのかな。レーシアで切るときにそれなりに力を入れる必要があったから普通の服よりは耐久力がありそう! 先端さえ切り離せば普通に糸として使えそうよね。今度お願いしてみましょうか。着色すれば色もつけられる!)
眠くなってきたため、寝ることにする。ダンジョンでは想定外の事態が起きたが良い経験になったのであった。




