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81.本来の婚約者

 アンドレと狩猟大会について話していると補足してくれた。


「ちなみにリゼは私のお披露目会で相手をつとめてくれたから、組むべきパートナーとしての優先度は高いらしいよ」

「そういえば、お披露目会のダンスパートナーってそういう感じに受け取られるのでしたよね……でもパーティー以外の狩猟大会でも同じなのですね……」

「そうみたい。そういえばリゼのお披露目会の相手は?」

「私のお相手は海を隔てたところにある伯爵領の……隣の領地の方でした」


 アンドレは「なるほどね」と返事をするが、相手のことが気になるようだ。ランドル伯爵家の隣の領地ということは、それなりに関係が近しい可能性があるからだ。


「そうなんだね。ちなみにその方から連絡とかは?」

「ない……ですね。一度しか会ったことがないです。わざわざ王都まで来てくださいました。私、生まれてからまだ伯爵領に行ったこともなくて……なので、なかなか会うこともないかなと」

「なるほどね。年齢は?」

「同い年ですね。誕生日がたまたま近かったのと、領地が隣という縁もあって合同で開きました。会ったことがあるのはそのときの一回です」

「……そうか」


 通常、自分と相手のお披露目会で相手をつとめると、どちらかが正式に婚約をするまでの間、社交会ではパートナーとして動くというのがこの国の常識だ。要するに、パーティーなどでは一緒に組むことになる。しかし、狩猟大会でもその風習が適用されるとは思ってもいなかった。

 エリアナとルイはお互いのお披露目会でパートナーの役割を担い、ジェレミーはミュレル侯爵令嬢がその役目を担った。そして、リゼにもそのような相手がいたということが分かり動揺するアンドレであった。


(ダニー=レグ・マッケンジー……。本来の私の婚約者になるはずだった人。ゲーム開始の段階では彼の父が亡くなってしまい、すでに爵位を継いでいた。彼もエリアナの命令で悪さをするのよね。ゲームにおける私はエリアナに逆らえずにやっていた感じだったけれど、彼は嬉々としてレイラを攻撃していた印象がある。絶対に関わらないようにしないと)


 リゼのお披露目会の相手はマッケンジー伯爵令息であった。最後に会ったのはリゼが前世の記憶を〈知識〉として、思い出す前のこと。海を隔てた島の方に住んでおり、リゼの運命はいままでの行動の数々によって本来とは異なるものになりつつあるが、彼の運命はどうだろうか。


(そういえば、アンドレの式典には来ていたのかな? 人が多くて気づかなかったけれど)


 連絡をしてこないということは、リゼに興味がないのかもしれないが、気を付けることに越したことはない。リゼは警戒を強めることにした。

 

 その翌日、ついにキュリー夫人の授業が再開された。キュリー夫人は勉強部屋に入ってくると同情してくれる。


「リゼさん、ここ最近色々とあったようですね……まさかアンドレ王子と……驚きました。それに神託も……」

「そうですね……授業をかなり延期していただいて申し訳ないです」

「それは構いません。それなりに先取りしていましたので。ダンジョンからよく生き延びましたよ。あなたの努力の結果ですね。さて、今日は魔法について学んでいきましょう。魔法を詠唱すると足元にそれぞれの属性に応じた魔法陣が展開されるのはすでに知っておりますよね?」


 リゼは相槌を打つ。いつも見ている上に、魔法陣は古代魔法の習得で散々学んだため、なじみがある。


「しかし、剣術大会の場では魔法陣が展開されないのはご存知ですか?」

「いいえ……一度しか出たことがないのですが気づきませんでした……」

「今度是非見てみてください。原理としては特殊な土属性魔法が展開されていて魔法陣が視覚で判別できないようになっているのです。ちなみに学園入学後の剣術大会のルールは二対二が基本となりますが、同様です。魔法陣が展開されると、魔法の詠唱が来ると分かりますからね。分からないようにして奥の深い戦いとなるようにしているのです」

「確かに剣術大会では思い返してみると足元に魔法陣が展開されていませんでした。なので、手の動きですとか口の動きで判断するしかなかったです」

「素晴らしい着眼点です。今後、もし何かに巻き込まれたときは、手の動き、口の動き、足元、それから目線なども確認すると良いでしょう。とくに目線は重要ですね。仮にの場合ですが、街で襲われたとします。それが二人組だったら、どうしても仲間の位置を一瞬でも目で確認しがちですからね。そういうところを見逃さないようにしましょうね」


 キュリー夫人はダンジョンに巻き込まれた件があったので、こうして対策方法をそれとなく話してくれているのかもしれない。リゼは感謝するしかなかった。


「キュリー先生、ありがとうございました。ちなみに氷属性魔法は、古に北方に存在した魔法帝国で使われていた……という話を風の噂で聞いたのですが、北方の魔法帝国って何なのでしょうか? あくまでも噂なので、適当な話かもしれませんけれど……」


(交換画面で見た情報だけれど……)


 リゼの質問にキュリー夫人は少し考えてから答えてくれる。


「それは私も聞いたことがないですね。北方というとブルガテド帝国があり、アレリードがあり、それよりもさらに北方には……深い海の先に未開地があるという話です。とても危険なところで訪れたものは帰ってこないという噂があります。深い雪に覆われた山々に針葉樹林が生い茂り、危険な地域だと言われています。ダンジョンから出てきた強力なモンスターもいて誰も足を踏み入れないのです。ダンジョンが生成され、何かの拍子に入口の扉が開いたり、地震などでダンジョンの通路が露出すると、そこからモンスターが出てきますからね。南方の未開地でも同様です。南方ではデルナリ国という国がモンスターを捕獲して痛めつけ、調教して販売しているという噂もありますね」

「そうなのですね……北方の魔法帝国はもしかしたら、かつての北方未開地が関係しているのかもしれませんね……。ブルガテドだとは考えづらいですし、アレリードも違うでしょうし。そういった魔法帝国というものが実際にあったとしたらの話ですけれど」

「その通りですね。もし実在する、実在したのであれば、謎に満ちている北方未開地と何かしらの関係があるのかもしれません」

「気になりますね……でも行くのは難しいですよね。船もないですし」


 キュリー夫人はうんうんと頷きながら、リゼに発破をかける。


「難しいと思います。ですが、諦めない気持ちが大切ですよ。まだ今の年齢では難しいかもしれませんが、成長すればあなたならモンスターとも戦えるでしょう。その時は協力します。よって、引き続き、調べていきましょう。氷属性の真相を追求すること、そのためにはリゼさん、あなたが新しい魔法を習得していく必要があります。頑張りましょうね」

「はい!」


 氷属性はもしかしたら太古において北方未開地で使われていた魔法なのかもしれない。メリサンドが知っていた時点でこの世界に存在したはずだ。しかし、真相は大地の神ルークのみが知る話である。

 リゼは、一応、アンテナは張り巡らせておいて(真相を解明出来たら……)と考えることにした。

 北方未開地へはアレリードからが一番近いが、入国するのは困難であるため、ブルガテドから行かなければならない。しかし、船がトラブルでアレリードに流れついてしまったら非常にまずい。すぐに襲いかかってくるはずだ。そういった危険性を考慮すると、すぐには行けないだろう。


「他に何か質問はありますか?」

「えっと、加護について教えていただきたいです」

「加護ですね。わかりました。加護とはその人物にのみ与えられる恩恵、力のことを指します。非常に稀ではありますが生まれながらに備わっていることもあれば、ダンジョンでボスを倒して手に入ることもあり、加護が付与された武器の持ち主となることでその加護を得る場合もあります。大抵は貴重な武器を手に入れることでその恩恵を得られるケースのことを指すかと思います」


 加護の説明を聞き納得するリゼ。生まれながらに得る加護、ダンジョンで手に入る加護、武器に付与されていて受け継ぐ加護。加護はそう簡単に得られるものではないということが分かる。元々、加護がなかったリゼとしては、現状の加護は神々のおかげである。


「実はメリサンドを倒したことで加護を得られました」

「なんと。メリサンドは強敵ですし、遭遇することは貴重で加護を得られることがある数少ないモンスターですね。確か『人魚の祈り』という名前でしたよね。ただし、加護を得るには条件があります。昔読んだ本によると三人以下で討伐できた場合に加護を得られたはずです。リゼさん、あなたは二人で攻略したと聞いていますから、あり得るかもしれません」

「キュリー先生、様々なことにお詳しいですね……」

「そうでもありません。ただ、学園は主席で卒業しましたし、長らく教育の場におりますから、少し変わった知識も持っていることはたしかです」


 キュリー夫人は謙遜しつつも、得意顔だ。だが、様々な知識を持っていることから尊敬できるし、リゼにとっては良い教師であり、味方となる大切な人物だ。


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