80.王子たちからのお誘い
アイシャから色々と話を聞いたリゼであったが、展示していた絵についてはちょうどアルベール商会と明日話すことにしていた。おそらく絵の買取先が見つかったのだろう。ついでにアンドレと相談した結果、メリサンド以外のモンスターも売却してエレスは二人で分けようという話になっていた。売却先はアルベール商会とする予定で手紙を送ってある。
そして、アイシャと二人で歓談していたリゼのところにジェレミーがやってきた。
「久々だね、リゼ」
「ジェレミー……久しぶりですね。今日は練習に?」
「いや、話しておきたいことがあってね〜」
「話……ですか。どうしたのですか?」
リゼは(まさか恋愛の話にまたなるのかな)と緊張する。ジェレミーはアンドレに先を越されないように急いで来たこともあり、本題に入る。
「実はさ、王宮主催で狩猟大会をやることになってね」
「狩猟大会……ですか?」
「そうなんだよね。貴族も参加できるみたい」
「そうなのですね。狩猟大会って何をするのでしょうか……」
狩猟大会と言えば、貴族の子息たちにはなじみ深いものではあるが、この国で貴族の子女はほとんど参加しないため、リゼも何をするのかいまいち分からない。
「国で管理している森で動物狩りをやって、一番強い珍しい動物を狩るか、同じ動物なら数の勝負って感じかな〜。で、優勝すれば何か王宮から賞品もあるみたいだ。もしかしたら宝物庫から何か景品が出るかもしれないなぁ」
「それは面白そうです! 出ようかな……悩ましいですね」
「まあ大した動物は出ないと思うから、肩慣らしには良いんじゃないかなぁ。それで二人一組にもなれるんだけど、どうかな? まあ、アンドレも指名してきたら組めなくなるんだけどね……」
と、ジェレミーは若干緊張しつつ、リゼを誘ってきた。
「えっ? すみません、アンドレが何か? よく聞こえなくて」
「一緒に出られるかどうか考えておいて欲しい。で、リゼをアンドレが指名したら被ってしまうからその場合は、父上が決めたルールのせいで問答無用で僕やアンドレは別の人を探すか一人で出ることになる。念のためそういう可能性を考慮してリゼも候補を考えておいた方が良いよ。ちなみに十二歳限定で、招待された貴族しか出られないらしい。ラウルはドレ公爵が統括する第一騎士団が警護をする兼ね合いで招待はされずに警護として扱われるかも」
「そんなルールがあるのですね。アンドレからは……誘われるかもしれませんね……。私、あまり友達がいないので困りましたね。一人で出るのも良いのかな……エルがどうするのか聞いてみないと。それかローラね……」
二人一組で狩猟大会には参加できるが、アンドレとジェレミーの申し込みを重複した場合は、リゼとは組めないルールとなっている。
「二人の方が優勝には近づくと思うよ〜」
アンドレが誘いにくるのは明白であるため、リゼはジェレミーやアンドレ以外の参加者を見つける必要がある。一人で出ることも可能であるが、優勝できる可能性は効率面が格段に低下する。リゼはどうしようかと考える。
(あの告白の後だけれど、ジェレミーと普通に話せた。なんだかんだいって、ここ数ヶ月、ほとんど一緒にいたから、一緒にいるのが当然という感じで……。やっぱりそう簡単に友達としての空気が変わることはないよね)
ジェレミーはリゼとしばらく話をし、少し剣術の練習をして王宮に戻っていった。なお、メッセージウィンドウでメッセージのやり取りを出来るようにしておいた。また、ジェレミーはリゼからサンドイッチをもらったのだった。
◆
王宮に戻ったジェレミーは王妃に呼び出されていた。
「ジェレミー、それはなんです?」
「あー、母上。これはリゼからもらったお土産。何か食べ物を作ったみたいでね」
「そう。あの子ね。料理をするとは変わったところがあるのね。この前、話しましたけれど、思っていたよりも可愛かったわね」
「でしょう? アンドレが出てきたのが困ったものだよ。それまでライバルはラウルとエルだけだったのに。本当に困るよ。それとなく縁談の話もしていたというのにさ」
ジェレミーはもらったサンドイッチを見つめ、溜息をつく。どうしてこんなことになったのかといったところであろうか。
「テレーゼと話をしましたが、あの方やアンドレは随分と酷い境遇を過ごしてきたようね。あの王に振り回されて屈辱を受けたのは私と同じ……。でも、あの二人には悪いけれど、なんとしても勝ちなさい、ジェレミー。王になるのよ」
「そうは言ってもね~」
「縁談の話はどうするの? あれだけ、早くあのリゼという子が良いなら話を進めなさいと言ったわよね。強引にでも進めるべきだったわ。流石にルイも婚約したことですし、派閥をより強固にするために、あなたも相手が必要よ。どうしてもあの子にしたいならアンドレが話をする前に動かないとまずかったわね。とはいえ、まだあれは正式な婚約ではないはずよ。動くならいまよ」
「父上がランドル伯爵と話すって。強引な婚約はダメだって~……」
王妃はリゼを相手にしたいのであれば、さっさと話を進めるようにジェレミーに促す。息子の悲しむ姿を見たくないというのもあるかもしれない。しかし、王が強引な婚約は不可とした。
ジェレミーはリゼの事情を分かっているし、正式に縁談の申し込みをして断られたらもう終わりだ。現状、アンドレの相手というイメージがついてしまっているため、下手な動きは避けた方が良いだろうと考える。やはり学園まで引き延ばすしかないのだ。
「まあ……そういうのに巻き込みたくはないんだよなぁ」
「そうなるとミュレル侯爵令嬢と縁談の話を進めるわよ。あなたのお披露目会のお相手はあの子でしたし、ジェレミー派の筆頭貴族だものね」
「ぐ……乗り気になれないなぁ。王になるためのやる気も削がれちゃうよ」
ジェレミーはなんとかはぐらかすために最終手段である、王になる気がなくなるかもよという話をにおわせた。
「まあ……もう少し待ちましょう。ただ、例の狩猟大会は試しにミュレル侯爵令嬢と出てみなさい。他の女性を見てみるのも重要よ。あなた、親しい女性は今のところあの子しかいないのでしょう? 比較対象となる子がいないからこそ、あの子に執着しているのかもしれないわよ。これはお願いではなく……」
「命令…………ね……。まあ、確かに比較するのは大事かもしれないよね。気持ちが変わることはないと思うけど。アンドレがリゼと組むのは避けたいから対外的にはギリギリまではリゼということにしておいてよいかな?」
「えぇ。狩猟大会は……ルイはさておき、アンドレにも勝てるわね?」
「もちろん。負けるわけがないよ」
ジェレミーのお披露目会の相手はミュレル侯爵令嬢というジェレミー派貴族であった。ジェレミー派の中では序列が一番高い家系だ。ジェレミー派といえばゲームにおいても策略を行い、ルイ派を陥れようとする過激派が多いのだが、発端となる貴族たちは剣術大会の一件で、すでにジェレミーが追放してしまっている。よって、現在は過激な行動は控えめになっているようだ。
「サンドイッチ、おいしいね。はぁ。どうするのが良いのかなぁ。リゼの気持ちは尊重してあげたいけど、このままだとまずいんだよなぁ」
ジェレミーはとにかく苦悩する。
◆
同日、予想通り今度はアンドレがランドル伯爵邸にやってきた。アンドレは馬車を降りると急ぎ足で練習場へと向かう。
「リゼ!」
「アンドレ? 珍しいですね。アンドレが来るのは」
「それだけの用事があるからね」
「狩猟大会のことですか?」
「早耳だね。まさかジェレミーが……」
急いで来たのだが、それでも先を越されたかと悔しそうな表情を浮かべるアンドレだ。なんとなく二人の仲は微妙なのかもしれないとリゼは感じるため、控えめに答えることにする。
「さっき……」
「そう……それなら話が早い。私と出てくれないかな?」
「それがジェレミーからも誘われていてどうすれば良いのか……」
「やはりか……リゼに選ばせるというのは酷だからね。そうなると強制的に他の人を探すかソロで挑むしかなくなるんだよね……仕方ないか」
アンドレは心底残念だといった感じでうなだれる。
「はい……そうみたいですよね……」
「困ったルールだよ。ちなみにリゼは参加するの?」
「そうですね。色々と試したいこともありますし、メリサンドよりも強い動物なんて出ないでしょうし、練習がてら出てみようかなと思っています。招待状が届けばですけれど」
「また一緒に戦えたら今度は命がけではないし、楽しめそうだよね。一応、考えておいてくれる? ジェレミーが他の人と出ることにした場合に限ってのことで良いからね」
エリアスに負けず劣らずグイグイと来る。攻略キャラに選ばれるだけのことはあるのだった。
「分かりました……」
リゼは困ってしまうが、一応返事をしておく。王子を天秤にかけるなど、荷が重すぎる。




