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78.王位継承の課題

 リゼが取り出したブリュンヒルデをアイシャは驚いて凝視した。


「えっと、お嬢様。その光る剣は一体……?」

「これは……まあ、色々あってね」

「なるほど。これまた神々からの何か……ですよね。これは強そうです。では試してみましょう!」


 アイシャはもうあまり驚かなくなってくれているのでリゼとしては助かる展開だ。

 リゼとアイシャは結界を何回か攻撃してみた。しかし、なかなか壊れない。そもそも内側から攻撃しても一切ダメージが入っている気配がない。一度、結界を消滅させて壁型にしてみた。

 何度か二人で攻撃する。壁を叩くと、振動のようなものが伝わるため、ダメージ自体は入ってるようだ。しかし、何回か攻撃しても壊れる気配がないため、今度アブソリュートゼロを打ち込んでみようということで話が落ち着いた。なかなか壊れない結界を同時に三枚まで展開できるため、それなりに生存率があがっているのではと少し安心させられる。あと試したいのは結界を展開した後に距離をおいて、どこまで離れたら消滅するのかという検証も今度してみようということになるのだった。


「では続いて、もう一つの魔法を試してみませんか? スキルをコピーするのですよね」

「そうね。では対峙してみましょう」


 リゼはアイシャと向き合うと、戦闘ウィンドウを起動してみた。しかし、アイシャが覚えているスキルは『マジックキャンセル』しかないようだ。エリアスのように、汎用スキルを覚えているわけではなさそうだ。


「アイシャ、マジックキャンセルをコピーするのは気が引けるのだけれど……何か汎用スキルを覚えてもらって、それを試しにコピーするとかで私は大丈夫」

「これ、お嬢様も覚えられるなら覚えておいたほうが良いと思いませんか? 二人で何かに巻き込まれたとして、二人とも使えたほうが絶対に良いかと」

「確かにそうね……でも……」


 アイシャの意見も一理ある。ただ、アイシャの祖父がわざわざ送ってくれたスキルをコピーするのは気が引けるのも確かだ。それに交換画面においても同じようにスキルを無効にするスキル・エクソシストというものがあったが二億ポイントだったはずだ。同じくらいの価値があるスキルなのかもしれない。もしかしたら苦労して手に入れて孫に贈ったのかもしれないスキルをコピーするのはかなり気が引けてしまう。

 リゼはやめようと食い下がるがアイシャがどうしてもと引かないため、仕方なく了承することにする。


「そこまで言うのなら……分かった。今度、アイシャのお祖父様にお礼をお伝えさせてね。よし、ではいくね。コピーするスキルはマジックキャンセル! スキルアブソーブ!」


 リゼが魔法を詠唱すると、結界と同じような半透明の光がアイシャに向けて発射される。アイシャはリゼから事前に言われていたため、右方向に走り出した。リゼとしては、スキルアブソーブは応用すると追尾するそうであるため、試したかったのだ。

 魔法はぐいっと曲がってアイシャを追尾し、命中した。反動のようなものはないらしく、アイシャは何事もなく走り続けているため、リゼは合図した。そして、ステータスウィンドウを表示してみる。


【名前】リゼ=プリムローズ・ランドル

【別称】フォルティア

【性別】女

【年齢】十二才

【レベル】8

【職業】伯爵令嬢(ゼフティア王国)、子爵(ブルガテド帝国)

【属性】風属性、氷属性、無属性

【称号】運命の開拓者

【加護】大地の神ルークの祝福(大)、芸術の神ミカルの祝福(大)、武の神ラグナルの祝福(超)、叡智の神アリオンの祝福(小)、水の加護、土の加護、風の加護、火の加護、ブリザード・エスポワール、人魚の祈り、竜羽の盾

【スキル】ルーン解読(固有)、毒耐性(レベル1)、衝撃耐性(レベル1)、毒検知、燕返し、マジックキャンセル

【状態】健康

【所持金】120000エレス

【ポイント】175760000

【メッセージ】「なし」


 どうやら成功したようだ。詳細を確認してみる。


『マジックキャンセル 備考:三十メートル以内の魔法を一度完全に無効化します。再発動には時間を要します』


 内容も確認できた。連続して使うことは出来なさそうであるので使い所は重要になるが、完全に無効化できるというのは優れものだ。


「アイシャ、成功したみたい。それにしてもキャンセル系のスキルって珍しいからすごいかも」

「良かったです! そういえば、お嬢様。なんだか火の加護というものが私にもついているようでして……お嬢様の近くにいたから、神のご加護のような形で私も会得できたりしたのかもしれませんね?」

「あー、近くにいたから……確かにそれはあるかも」


 アイシャは納得したようで自分のステータスウィンドウを眺めていた。納得してくれているようなのでとくに何も言わないことにした。

 ここで試してみたいと考えていたことを一つ提案してみることにする。


「アイシャ、一つ試したいことがあるのだけれど」

「なんです?」

「あのね、これを試してみたくって」


 リゼはアイテムボックスより『モンスター投影石』を取り出した。黒色の小さな石だ。

 詳細説明をふと思い返してみる。


『モンスター投影石 備考:モンスターをランダムで投影し、実際に模擬戦が可能となります。モンスターからのダメージは受けず、鍛錬に最適。なお、この石はいかなる方法を用いても破壊できません』


 そして石を見つめると、使い方が思い浮かんできた。困ることがないように、分かるようにしておいてくれたのかもしれない。

 見たことがあるモンスターを投影するか、見たことがないモンスターを含めてランダムで投影するかを選択出来るようだ。さらにレベルや数も指定できるみたいなので、設定してみる。

 石を置き、設定を話せば良いらしい。


「えっと、ノーマルスケルトン、レベル十五。一体、投影!」


 リゼが設定を話すと、ノーマルスケルトンが一体現れた。開始と宣言しなければ、襲ってこない。

 ノーマルスケルトンはカタカタと音を立てながら歩き回っている。


「うわぁ、これがノーマルスケルトンですか。怖いですね……」

「そうなの。でもノーマルスケルトンは剣のみを装備していて、上位種は鎧とかも装備しているのよね」

「ふむふむ。この石はお試しで戦えるとかそういう感じですか?」

「うん。やってみましょう! 魔法も好きに打てるように、大きめの結界を展開して……」


 庭園や建物が近くにあるため、インフィニティシールドで結界を展開する。

 これで周囲を気にせずに好きなように魔法を詠唱できるようになった。

 そして、アイシャを見ると頷いてくる。


「開始!」


 すると、ノーマルスケルトンは剣を振り上げて駆け出してきた。アイシャは剣を構えるが、指示を仰いでくる。


「お嬢様! ど、どうすれば!?」

「サンドシールドか、型で対応よ!」

「はい!!」


 アイシャはノーマルスケルトンの攻撃を待つのではなく、前進して距離をつめに行った。そして剣を振り下ろしてきたタイミングを見計らってサンドシールドを発動させ受け止めると、側面から足を切りつけた。ノーマルスケルトンはバランスを崩した。リゼは戦闘ウィンドウを起動してみた。


【名前】ノーマルスケルトン

【レベル】15

【ヒットポイント】73/89

【加護】なし

【スキル】なし

【武器】ノーマルスケルトンの剣

【魔法】なし


(モンスターが相手だとヒットポイントが表示されるみたいね。そして、ノーマルスケルトンの剣は沢山アイテムボックスにあるのだけれど、銅製の剣よね)


 リゼがそのようなことを考えていると、倒れたノーマルスケルトンの剣を持つ腕を足で押さえながらアイシャが攻撃しており、みるみるうちにヒットポイントが減っていき、消え去ったのであった。

 ノーマルスケルトンは剣を持つ手を押さえられていたせいで何も出来なかった。

 あまりにも強引な戦い方であったのでリゼは驚いてしまう。


「あー……そういう戦い方もあるのね……」

「はい! 噛み付いてくるようなモンスターではなさそうでしたので、試してみました」

咄嗟(とっさ)に思いついたの?」

「いえ、本で読みました。モンスターごとに対応策の指南みたいな内容が書かれていまして。グレンコ帝国で発売されている本みたいですね。貰ったものです」


 アイシャは何かあった時のために本を読んでいたようだ。最初は焦ったようだが、戦う中で内容を思い返したのかもしれない。ゼフティア王国の本ではないようであるため、戦い方の考え方が異なるのだろう。


「すごい……グレンコ帝国の戦いはゼフティア王国とは異なる視点で見ているということはわかったかな……。そういえば、セルギウスさんに帝国の剣術について教えてもらいたいね」

「確かにそうですね。日々鍛錬が必要とのことで、騎士たちの練習場にいらっしゃるかもしれません」

「いきなりだと申し訳ないので、今度日時を決めてお願いしておきましょう」


 フォンゼル・セルギウスはヘルマンの部下でリゼの護衛だ。いきなりお願いするのは申し訳ないので、近いうちにお願いすることにした。

 ひとまずリゼはモンスター投影石のランダムモードを試してみたりしつつ、練習の日々を送ることにした。



 それから数日ほど経ったある日のこと。王宮では王に王位継承権についての検討案が提出されたのだった。ゼフティア王はしばらく検討案を読んでいたが、読み終えると紙を置いた。


「なるほど。我が国は、ここ最近で落ち込んでいる軍事力の強化を長期的な目標として考えているからな。過去においては定期的に領土も広げてきた。王はやはり強い人物であるべき……か」

「おっしゃられる通りです、陛下。帝国とはアンドレ王子やテレーゼ様、ブットシュテット大公のおかげで国交も復活し、北方はしばらくは安泰です。しかし周りには敵国となる国もありますゆえ……強い王が必要かと。それに辺境領域は領土とはいえ安定しませんからな。近頃はならず者が増え、統治する貴族も苦慮しているとのことです」

「そうだな……。では、この案について説明せよ」


 王は忠臣から渡された紙を指しつつ、説明を求める。忠臣は「あくまでも案ですが」と前置きをして説明を始める。


「王宮主催で狩猟大会もしくは剣術大会を開くのです。狩猟大会の場合は……例の森で多くの動物を狩るというよくある通常のルールです。剣術大会の場合は個人戦ではなく学園で採用されている二対二のパターンでいかがでしょうか。もちろん、今回だけで決まるものではなく、何度も他の企画を行います。なお、投票制度はそのまま残します。投票結果とそれまでの実績を考慮して総合的に評価していく……というのはいかがでしょうか?」

「ふむ。それならば久しぶりに狩猟大会としよう。王子たちだけではなく、一部の貴族たちにも参加させよう。今の時点でどのレベルに達しているのか広く見ておきたい」

「わかりました。それでは各派閥の貴族および王族から参加者を厳選し、招待状を出します。二週間で参加希望者を締め切り、そこから一ヶ月後に大会を開催。しかし王子たちの評価以外に何か優勝賞品が必要ですね……」

「それは考えておく。王子たちを呼ぶのだ」

「承知しました。検討案にも記載いたしましたが、狩猟大会の護衛は第一騎士団にて担っていただきましょう」


 王は概ね問題ないと判断したのか、王子を呼びに行かせようとする。しかし、忠臣たちの一人が声を上げる。


「少々お待ちください、陛下に皆様。王子たちの実力差は明白、これは公平とは言えないのではないでしょうか?」

「そうです。アンドレ王子はメリサンドを倒しているのですぞ。全くもって不公平です」


 反対の者たちが声を上げ始める。ルイ派貴族たちだ。しかし、その意見に反論する者もいる。


「何を言う、常日頃から訓練をしていれば良いだけのこと」

「それはおかしいですな。本来、剣術などは学園に入学してから習うもの。それならば学園に入学してから実施するのが本来のあり方ではないのか。いまはまだ十二歳ですぞ。到底、狩猟大会などをできる状態では……」

「これはアンドレ王子だけが好都合ではないですか」

「この国の王になるべき人物は常に強者であろうとするはず。そのような意見は(まか)り通りませんぞ」

「いい加減にせぬか。くだらない争いはいますぐにやめるのだ」


 王は言い争いを始める忠臣たちにやめるように警告する。貴族たちは何とか自分の意見を少しでも反映させたいのか、食い下がろうとしてくる。


「陛下……しかし…………」

「ジェレミー派の意見が上がらなかったが……お前たちはどうだ」

「良いと思います。ジェレミー王子は日頃から鍛錬をしていると聞きますし、難なく優勝できるでしょう。まあ一部の、すでにそこそこのレベルにある貴族が参加するのであれば苦戦はするかもしれませんが……良いところまでは確実に行きます。それにしても反対意見はルイ王子派のみというわけですね」

「……よし、決まりだな。ルイが日頃どれだけ訓練しているかは定かではないが、ある程度は健闘するだろう。ルイ派の言いたいことも分からなくはないが、日々、油断なく生活することが重要だ。では狩猟大会を開催することとしよう。年齢は公平に行うため十二歳のみ。見届け人はここにいるものたちとする。よいな?」


 ルイ派にとっては不満が残る流れになっているが、王が有無を言わせない雰囲気で決定してしまったため、王の決定に従うほかない。バルニエ公爵は口を開こうとしていたが、とある人物に目を向けられて押し黙った。


「わかりました……」

「御意」

「承知しました」

「では王子たちを呼ぶのだ」


 王宮主催の狩猟大会の開催が決まり、呼び出されたのは王子たちだ。


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