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74.初めての挑戦

 喫茶店を後にして、馬車に乗り込むとアイシャが一つ提案をしてきた。


「そういえばお嬢様」

「ん?」

「一つ妙案が。新しい挑戦として料理などをしてみるのはどうです?」

「料理……」


 料理と聞いて思い浮かぶものと言えば、朝や夜の食事だ。そして昼の軽食も食事である。あのようなものを作れるのだろうかと少し不安そうな顔をするリゼにアイシャが提案した理由を説明してくれる。


「先ほどの妄想話で思いついたんですよ。国を追われた場合の話ですね。もしものとき、例えばですけど、ダンジョンですとか、森ですとか、どこでもよいのですが、遭難したときに、食べられるものとそうではないものを見分けられたら良いと思いませんか? うまく加工したりという料理知識があれば食べることには困らないかもしれませんよ」

「たしかに……」

「ということで料理の勉強をしてみるのはいかがでしょう?」

「……うん。それはありかも。帰ったら早速教えてくれる?」


 アイシャの言い分に一理あると感じたリゼは料理の練習をすることにする。毒スキルで毒キノコなどを食べても死ぬことはないかもしれないが、どうせならキノコでも草でもおいしく食べたいところだ。 

 日々、ジャガイモの芽やアジサイの葉をそのまま食べているが、基本的に息を止めて食べているため、少しでも美味しく料理できるなら願ったり叶ったりだ。

 調味料や必要なものはアイテムボックスに入れておけば、いざというときに使えそうだ。さらに火属性魔法を覚えておけば完璧だ。


「そういえば明日、アンドレ王子に何か作って持っていってあげたら喜ぶかもしれませんよ?」

「確かにそうね……! ダンジョンの時のお礼も兼ねてそうしましょう!」


 さりげなく、実際に役には立つと思われるが、リゼの戦闘イメージを和らげるための趣味を提案したアイシャはうんうんと頷いていた。そして、二人は仲良く帰路に着く。

 屋敷に到着すると、早速厨房に向かった。ジャガイモの芽を手に入れるために幾度となく忍び込んだことのある場所であるが、まだ陽が沈む前にここに来たのは初めてである。料理長はリゼの来訪に驚いていたが、場所を空けてくれた。その他の料理人は床などを急いで掃除している。


(待って。料理を始めたとなると、ここに怪しまれずに来られるし、食糧庫にも簡単に入れるのでは……毒関連スキルはまだレベル1だし、これは好都合かも……)


 なんだかんだスキルのことを考えてしまうリゼだ。

 てきぱきと準備を進め終えたアイシャはいつものように食糧庫に入ろうとしていたリゼに声をかける。


「さてお嬢様。こちらへどうぞ。何か料理をしたことはありますか?」

「ないです……」

「承知です! では基本的なことからいきましょう」

「うん」


 自然と食料庫へと足が向いていたところでアイシャに声をかけられドキッとしつつ、急いでアイシャの元へと向かうが、料理をしたことがないという事実を実感した。並べられた食材や調理道具を見ても何をどうすればよいのかまったく分からなかった。リゼがいままで読んできた本にも料理の場面など登場しなかったし、貴族のご令嬢は料理をしないため、普通のことではある。


「これは何ですか?」

「パンね」

「ではパンを切ってみましょう。サンドイッチに挑戦します」

「そうなのね。分かった、やってみる」


 リゼはパンと包丁を渡された。サンドイッチを思い返す。食べやすいサイズに切る必要がある。


(サンドイッチということは薄く切ればよいのよね)


 リゼはこなれた手つきで包丁を持つと、パンに切り口を合わせてスパッとさばいた。アイシャはその手つきに苦笑している。


「……どうかな?」

「完璧です。流石に刃物を使うのはお得意ですね……?」

「…………そうかも」

「では次です。この卵を割ってみましょう」


 次に卵を渡してくるアイシャ。リゼは卵を手に持ち固まっている。卵を見つめつつも、どうすればよいのか分からないのだ。


「え、これを割れば良いの? これってあの、爬虫類や鳥類が生まれてくるときに内側から割れるものよね? どうやって割れば……」

「あ~、そうですね。お持ちの卵からは生まれてきませんが、細かいことはおいておいて、一応、外側からも割れますよ! 殻の中身は料理に使いますから、殻をきれいに割る必要があります。見ていてくださいね。こうして軽く机で叩くとヒビが入ります。そうしたら割ります。以上です」

「卵ってこういう仕組みだったのね。知らなかった……。やってみるね。えっと、机で軽く叩く……あれ、ヒビが入らない……力が弱すぎたのかな。もう一度、あっ!」

「どうです? これは……」


 アイシャの手本を見たのだが、強くたたきすぎて割れてしまうのだった。その卵は料理長が「これは我々がまかない用に使うのでお気になさらず!」と回収していった。


「ありがとうございます。えっと、アイシャ、ヒビが入るというより、割れちゃった……」

「軽く何度か叩く感じでいってみましょうか。ではあと四個くらいいきましょう」

「うん。さっきよりも少し弱めに……あ、見て! こんな感じ?」

「まさにそんな感じですね! あとは指でうまく割りましょう」


 リゼはうまくヒビをつけられたため、得意顔だ。


「ヒビを少し広げて、殻を左右に広げる……うまくいったかも!」

「素晴らしいです。才能があるかもしれませんよ」

「といってもまだ卵を割れただけだから……残り三個も割ってみるね」


 こうして卵を割れるようになった。普通は料理などをしない貴族としては成長の一歩かもしれない。料理長や料理人たちは拍手をしてくる。リゼは、「あはは」と笑いつつも、応援に感謝する。


「次に焼きます」

「卵を?」

「そうです。ですが、まずはフライパンを熱します。それから油を入れて先ほどの卵を入れます。そして焼きます。試しにやってみますよ」


 アイシャが手本を見せようとするが、リゼは疑問点を口にする。


「なぜ最初にフライパンを熱するの?」

「卵がフライパンにこびりつくのを防ぐためですね。細かい話をすると……いえ、いまは置いておきましょう。説明が長くなってしまいますからね。ではいきますよ…………………………」


 アイシャはフライパンを熱し、卵を入れ、目玉焼きを作るのだった。


「という感じです。やってみましょう」

「まずはフライパンを熱します……といっても、もう十分熱くなっていそう……それから油を入れてフライパンの上でなじませる……そして割った卵を慎重に入れる…………あとは焼く!」

「正解です。さすがお嬢様、飲み込みが早いですね」

「そして、ひっくり返してまた焼く……目玉焼きの完成! まさか目玉焼きに色々な過程があるなんて思ってもいなかった……」


 リゼの人生で初めての目玉焼きが完成した。なかなかの自信作だ。


「簡単そうに見えてやるべきことがそこそこありますからね。ではさきほど切ったパンにバターを軽く塗り、レタスを乗せてその上に目玉焼きを乗せてみましょう」

「分かった。バターを塗って…………レタスを乗せて……目玉焼きを乗せる……こんな感じ?」

「そうです。あとはさらにレタスを乗せて、もう一つのパンで挟めば……サンドイッチの出来上がりです」

「レタスを乗せて挟むっと。できた!」


 アイシャの指示通りに進めていくと、サンドイッチが完成するのだった。「おめでとうございます、お嬢様」とギャラリーと化している料理長たちも歓喜する。


「シンプルなサンドイッチですが、どうですか感想は」

「私、まさかサンドイッチを作るのにこんなに考えることがあるとは思ってなかったから……感動している……かな。皆さんも見守っていただいて、ありがとうございます」

「良いですね。では食べてみましょう」

「うん。いただきます。……あ、なかなか美味しいかも!」


 初めて作ったサンドイッチをおいしくいただいた。この感動は一生忘れないだろうとリゼは感じ、料理への熱意が沸いてくる。


「とても良い出来栄えです。では残りの四つも作ってみましょう」

「分かった!」


 こうしてシンプルなサンドイッチを作ることができるようになった。アイシャの指示なしでも作れるようになったため、成長を感じているようだ。作ったサンドイッチは伯爵たちに振る舞ったところ嬉し涙を流して喜んでくれたので、アイシャの提案に乗ってよかったと心の底から思うのであった。


 そして、机に向かうとマジックウィンドウを開いた。

 神々の加護の動作チェックはこれまで取り組んできたが、叡智の神アリオンの加護である魔法の応用についてを日記に書いていなかったことを思い出したのだ。なお、スキルはすべて記してある。


『エアースピア 備考:風を前方に勢いよく噴射します。(応用:軌道を細かく調整可能となります)』

『ウィンドプロテクション 備考:風のシールドを発生させます。強度の高くない攻撃を一度のみ防ぐことが可能です。(応用:幾重の風を身にまとうことで強度の高い攻撃を一度防げます)』

『ウィンドウェアー 備考:風をまとうことで動きが俊敏になります。持続時間は五十秒です。(応用:移動速度を向上させ、持続時間をニ分とします)』

『スノースピア 備考:複数の氷の粒を噴射します。飛距離、粒の大きさは属性熟練度に比例します。(応用:噴射する数を大幅に増加させ、氷の粒を矢じりの形とします)』

『アイスレイ 備考:地面を氷結させ、敵を足止めします。一定時間経過するか、破壊されない限り相手は身動きできなくなります。(応用:強固に凍結させます、凍結時間は一分となります)』

『インフィニティシールド 備考:自己もしくは他者、もしくはその両方、あるいは指定した場所に結界を展開できます。壁型の結界。(応用:結界の形は自由に変形可能とします。無詠唱可能)』

『スキルアブソーブ 備考:相手の習得しているスキルをコピーできます。相手のレベルが高いと失敗しますが、熟練度が上がれば成功率が上がります。(応用:相手を追尾します)』


 リゼは格段に強化された魔法たちの情報を書き写すと、満足して頷いた。

 とくにいままで少し曲げることしか出来なかったエアースピアは二度三度と軌道を曲げることができるようになっているし、スノースピアなどもそれなりに攻撃力が増している気がした。


(初級魔法の初期魔法ですら、かなり強くなってるのよね……このままいったら中級魔法や上級魔法はどうなるのか……インフィニティシールドとウィンドプロテクションは守りに使える魔法だけれど、インフィニティシールドはどのような形でどこに展開するかという思考が一瞬入るから、咄嗟(とっさ)に守るには何も考えずに済むウィンドプロテクションを使うことになりそうね。でも、ウィンドプロテクションは相手の攻撃を受け止めるというよりは軌道を逸らすという感じだから仲間と一緒にいるとそっちに飛んでいってしまう可能性がある……臨機応変に使い分けないと)


 この日は初めて料理をした喜びと魔法についてを日記に記し、眠りについた。


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