72.再び喫茶店へ
アンドレの式典から数日ほど経ったある日のこと。
やっと訪ねてくる貴族がほとんどいなくなり、リゼはホッとしていた。
アンドレ騒動や神託により一種の興奮状態で突然訪ねてきたものの、会うことは出来ないし、失礼であったと理解できたのだろう。
バタバタとした雰囲気で疲れが溜まっており、少し落ち着いてきたため、リゼはアイシャに喫茶店へ行きたいということを伝えることにした。外に出れなかったため、外出したい気分であった。
「今日の午後はこの前の喫茶店に行きましょう」
「あの店に行くのですね。わかりました」
(現状、どこでも交換画面を見れるのだけれど、少し落ち着きたいし、喫茶店でゆっくりしましょう)
リゼは近頃の度重なる危険な状況を考慮してスキルを手に入れることにする。二人は出かける準備をし、馬車へと乗り込んだ。
護衛は前回よりも増えたが、これは確実にダンジョン事件の影響だろう。あれからまだ時間が経っていないのでまた襲ってくるかもしれないと、ヘルマンが部下の一人をリゼの護衛として屋敷に残したのだった。騎士というよりは身軽な装備の初老の剣士だ。名前はフォンゼル・セルギウス。アレリードのならず者討伐で大公と共に戦ったことがあるらしく、物静かだが、ただならぬオーラを纏っており、手練れでありそうだ。彼が居てくれれば少しばかり安心できるし、今度練習に付き合ってほしいと考えていた。
街に出ると、アンドレの似顔絵が描かれた紙が街の掲示板などに掲載されているようで人だかりができていた。
「なんというか、アンドレの話で持ちきりね……」
と、アイシャに話し掛ける。
アンドレの似顔絵の横にはどうやらリゼと見られる似顔絵も貼り付けられていたが、それは無視しておいた。
「母親であるテレーゼ様が平民としての生活が長く、その影響をもろに受けていて、アンドレ王子が王になれば平民の気持ちを理解してくれそう……と盛り上がっているみたいですよ。と言いつつも一応、住まいは離宮だったのですよね。よくいままでバレないで来ましたね……」
「確かになんでバレなかったのかな。うーん、まあうまく立ち回っていたのでしょう……! それにいまでもウィッグを付けてカイとして街に出たりしているみたいだし、良い王になるかもしれないね。もちろん私服の護衛付きだけれど」
「しかしお嬢様も大変ですね」
唐突にアイシャが呟いた。ダンジョン事件から今に至るまで、大変なことがありすぎるため、どれのことだろうか。リゼは「?」と疑問を浮かべる。
「アンドレ王子のお相手はランドル伯爵令嬢か……という話でも盛り上がっているみたいですよ」
「あー、そうなのね……でも仕方ないかも。結構注目を集めながらの……告白、だったし……。でも、私は学園入学まではいままで通りの生活をしていくつもりよ。自分一人でも危機を解決できるようにならないと。いまのままでは複数人に襲われたら殺されちゃうし!」
「お嬢様……なんと言いますか、流石ですね……」
アイシャは苦笑いしながらも、うんうんと頷いていた。
そして、アイシャに土属性の古代魔法を今度調べてみるというような話を繰り広げていると、いつの間にか例の喫茶店に到着していた。
馬車を降り、喫茶店へと入る。店員もリゼたちのことを記憶しており、一番奥のゆっくりと落ち着けるテーブルに案内されるのだった。そして、いつも通りティーセットを注文すると、しばらくして運ばれてきたため、早速交換画面を表示する。
(よし。出てきた交換画面。とはいえ、いつも通りの手順を踏んでしまったけれど、もう必要ないのよね……。なんというか色々ありすぎて久々な気がするなぁ。アイシャはいつも通り本を読んでくれているし、ゆっくり慎重に見ていきましょう)
今日は日記を持ってきており、色々とメモをしながら考えるつもりだ。日記を開くとどうするか考える。なお、メリサンドを倒して得られたスキルは『アビザル・サンクチュアリ』であった。メリサンドが使っていた自分の周りに激流を発生させるスキルだ。それなりに勢いのある水であるため、囲まれた際などに発動すれば混乱を招くことが出来そうだ。
(まずは【属性】よね。以前に見たけれど、もう一度おさらいのために詳細を見ておきましょうか。聖属性については色々と因縁めいたものが今後出てきそうだし……)
【属性交換画面】こちらは属性交換画面です。ポイントを消費して属性を得ることが可能です。
【氷属性】200000000
【雷属性】200000000
【聖属性】100000000
(氷属性がまたラインナップに並んでいるみたい。復活することもあるのね。それにしても、うわぁ。なんだか聖属性、安くなりすぎじゃない……? 前回は五十億ポイントだった気がするのだけれど、もはや一億ポイントって……。そういえばルーク様が手に入れたほうがよいものは格安にしておいたと仰っていたっけ)
安くなりすぎた聖属性を見て驚きつつも、詳細を確認してみる。
『氷属性 備考:古代魔法属性の一つ。かつて古において北方に存在した魔法帝国の遺産』
『雷属性 備考:古代魔法属性の一つ。ゴーレムなど、鉱物や無機物の敵以外には無類の攻撃力を発揮する。全体的に再詠唱に少し時間がかかるのが難点』
『聖属性 備考:聖女用の属性。全属性の魔法が使用可能となる。ただし、雷、氷属性魔法は使用不可』
リゼはメリサンドが氷属性魔法を知っていたことをふと思い出した。
気を取り直して聖属性の説明をよくよく読んでみた。
(確かに強い。でもキュリー先生が『聖属性は聖女となるべき者に付与される特別な属性で、生涯王国のために生きる運命を背負ってもいる』ともおしゃっていた。流石にそんな運命は背負いたくない……。三年後に聖女が出現するという件。結局、同じように誰かが転生して属性を交換するか、聖女として生を受けている方がどこかに人知れずにいるか、どっちかしかない気がする。とにかく敵か味方か……まだわからない。次は、【その他の交換画面】ね)
【その他の交換画面】こちらはその他、特殊な効果の交換画面です。ポイントを消費して獲得することが出来ます。
【ダンジョンマップ】10000000
【魔力ダウン】8000000
【交換代行】20000000
【複製機能】500000000
リゼとしては『ダンジョンマップ』は不要になった。すでにミカルの加護でダンジョンマップウィンドウを手に入れている上に、索敵機能などがついた優れものでもある。しかし、『魔力ダウン』や【交換代行】という見覚えがないものがあった。
『魔力ダウン 備考:武器に付与可能。相手の魔法の威力を低下させます』
『交換代行 備考:ポイント交換ウィンドウにおいて交換を実行する際に特定の人物を選択出来るようになります』
『複製機能 備考:製造ウィンドウにおいて所持してるアイテム、武器を複製することができるようになります。複製にはポイントが必要であり、必要なポイントは対象の価値によって異なります』
詳細を確認したリゼは考え込む。
(えっと、まずは『複製機能』だけれど、ブリュンヒルデを二本に出来たりということよね。でも五億ポイント……うーん、欲しい。でももう少し悩む……。続いて、『交換代行』だけれど、今までは、触れ合っていないと交換した加護などをアイシャに渡せなかったはず。これを交換しておけば、交換画面における交換時にアイシャなど特定の人物を選べるようになるということよね? 二千万ポイントは高いけれど……みんなにも色々と付与することになると思うから必須ね。これってなかなか危ない機能よね。聖属性魔法を交換して誰かに付与したらその人が聖女として扱われることになるのだし。今後、私以外に転生者が出てきて、同じ加護をいただいたとしたらそういうことも出来てしまうのよね……。そして、『魔力ダウン』というのは、もしかしたら製造ウィンドウで使えるものかな? 相手の魔法の威力を低下させる……。結構使えるかも。念のため、製造ウィンドウをおさらいしておくことにしましょうか)
そう考えるとリゼは一度交換画面を閉じ、製造ウィンドウを開いた。
最初に何をするのか選択することが可能だ。出来ることは製造・強化だ。製造は素材を元に新たに武器などを生成するもので、強化は既存の武器などを強化することができる。なお、製造は武器とアイテムをかけ合わせることも出来るため、今度ノーマルスケルトンの剣を使って色々と試してみるつもりだ。
そして強化については、対象を選択後、既存の効果を強化するのか、追加するのかを選ぶことが出来た。追加効果を保持していないため、既存の効果を強化することしか現状は出来ない。おそらくは、『魔力ダウン』を入手すれば追加効果として追加することが出来るのだろう。なお、一つの武器に対して効果は三つまでは付与出来るようで、上書きは可能なようだ。
試しにレーシアを選択し、既存の効果を強化するという項目を選んでみたところ、レーシアの効果は『敵対対象に攻撃する際に、体内へのダメージを相手に蓄積させる』であるため、どうやらダメージの量を増やせるようだ。要求ポイントは二十万ポイントとなっていた。案外安いと感じた。
(これって、きっとダメージ蓄積量の上限みたいなものがあって、何度か強化していって強化できなくなったら限界値まで達したということになるのよね)
リゼとしてはいますぐに使うかどうかは分からないが、念のため『交換代行』と『魔法ダウン』は交換しておくことにした。前者は誰かしらに加護をつけたりする際に有用だ。また、後者は魔法を何度も使ってくるようなモンスターや刺客に有効かもしれないからだ。




