200.友人とお茶会
リゼが「きっと大丈夫だと思います。少し前まではローラのことをどう思っていたかは分からないですが、私のことよりはましな印象だったはずです!」と伝えるとローラは笑った。
「ふふ、リゼったら。確かにそうかもしれないわね。会うのが楽しみになってきたわ」
それからお茶会の会場に移動してエリアナを待っていると集合時間にやってきたため、リゼは応接室に迎えに行った。若干の緊張をしている様子である。
「エリアナ、昨日は壮行会に参加いただいてありがとうございました。そして今日も来ていただいてありがとうございます。このあと、お友達を紹介しますね!」
「とても良いタイミングでしたわね。参加できて良かったですわ。リゼのお友達のあの三人はアンドレ王子のお披露目会もとい式典の時にリゼとお茶会をしているのをお見かけしましたが、私はきちんとお話したことがないので会うのが緊張しますわ……」
「大丈夫です。みんな良い人たちですよ。でも、緊張する気持ちは分かります。すでに仲の良い人たちと会話するのは緊張しますよね……私も帝国騎士学院で途中から編入になるのでドキドキしています。フォローしますね……!」
リゼの言葉にエリアナが深く頷いてきた。リゼの帝国騎士学院のことを考えると同じだと思ったのだろう。エリアナとしてはローラとは二言三言くらいは話したことがあるはずであるが、その時のお茶会でリゼに絵を踏めと命じたため、印象が悪く思われているとも感じていそうだ。
エリアナを安心させようと話しているとお茶会会場に到着する。三人は立ち上がって待っており、エリアナに会釈をした。エリアナは緊張気味に会釈をすると、みんなで席に着いた。
リゼがフォローしようと口を開ける前にローラが先に話し始めた。
「ごきげんよう、エリアナ嬢。ローラ=エレミー・スプリングよ。お久しぶりね」
「お久しぶりですわ。スプリング侯爵令嬢、いえ、ローラ嬢。あなたには私が主催したお茶会で嫌な思いをさせてしまい申し訳ありませんでしたわ……いまはあのときの行為を恥じていますわ……」
「大丈夫よ。ああいうのは黒歴史になると思うけれど、思い出したくないことは誰にでも程度の差はあれあるものよ。あ、今後は敬称なしで呼び合いたいわね」
「分かりましたわ、ローラ」
ローラは非常に硬かったジェレミーやラウルがエリアナと遭遇した時と比べると友好的な態度でエリアナに接していた。
続いて、エリアナが一切交流のなかった中立派の二人が自己紹介するようだ。まずはコーネリアだ。
「エリアナ嬢、ごきげんよう。コーネリア=ルアン・ラングロワです。いままでお話したことはなかったですよね。趣味はリゼの影響もあり、剣術や魔法、そして料理です。いままでは一人お茶会でまったりするのが好きだったのですが、少し変わってきました」
「あっ、コーネリア嬢、初めましてですわ。旧ミリア大帝国の首都を領地とする由緒正しいお家柄でしたわよね。それくらいの知識しかなくて申し訳ないですわ」
「そうですね。旧ミリア大帝国はいまの聖ルキシア国となりましたが、昔の首都は私の家の領地にあります」
正直、リゼも知らなかったので驚いた。ローラは知っていたようであるが、アデールも知らなかったのか目を丸くしていた。
「コーネリアの家、すごすぎますね! 教えて欲しかったです!」
「首都があるというだけで、特別なことはないですし、なんとなく言う機会がなかったですね」
「でも知れてよかったです! 私はアデール・マシアです! 商会をやっていますので、何かあればなんでも言ってくださいね。最近は親たちが私がお友達が出来たことを喜んでくれていまして、何かと融通してくれると思います! 私、元々は読書が趣味のおとなしい性格だったのですが、最近元気になったというのも喜んでいるみたいですね!」
元気なアデールに少し圧倒されるエリアナだ。こういうタイプはエリアナの取り巻きには居なかった。おそらく自分で思っているだけで元からおとなしくはなかったんだろうなという共通認識をリゼ、ローラ、コーネリア、エリアナは感じていた。
「アデール嬢、初めましてですわ。もしかしたら剣などをお願いするかもしれませんわ……モチベーションにもなりますので。皆さま、私はエリアナ=ジェリー・メルメですわ。元々はバルニエ公爵家という家柄の娘だったのですが、ご存知の通りでいまは母方のメルメ伯爵家の一員になりましたわ。個人的には良かったと思っていますわ。人生において何が大事なのかを認識し、目が覚めました。最近は剣術と魔法をリゼのアドバイスに従って練習していますの。お祖父様が剣術や魔法を少し詳しい方ですので、厳しく指導されていますわ。でも楽しいですわね。始めてよかったと思っていますわ」
エリアナも挨拶をした。挨拶も済んだところでいよいよお茶会開始だ。
お茶会のお菓子はリゼが作ったクリームブリュレ、フールとコーネリアが作ったクッキーとなる。
かなりの好評でコーネリアと喜びあった。
「そういえば、私たちってブルガテド帝国にいけるのでしょうか?」
コーネリアが疑問を口にしてきた。そこは裏でヘルマンとやり取りをしているため、リゼは現状を伝えることにする。
「いまはまだ無理なのですが、いま申請中です! おそらく近日中には許可されると思いますし、是非遊びに来て欲しいです。帝国騎士学院を案内しますね……!」
「行きたいです! リゼの領地にも行ってみたいです!」
アデールがそんなことを言い出した。それには他のみんなも賛同しているようだ。みんな気になるのだろう。
「実は私も行ったことがないのですが、行きましょう。案内できるように詳しくなっておきますね」
「あの、私もブルガテド帝国に行けますの……?」
「エリアナのことも申請したので行けると思いますよ。ヘルマン様から問題ないと返事が来ていました」
「良かったですわ……!」
それからしばらく雑談を楽しんだのち、ローラ的に彼女が気になることを聞いてきた。
「そういえばリゼ、気になっていたのだけれど、アンドレ王子とは婚約しないのかしら? リゼはまだその気がなくてもアプローチなどは……?」
「あー、たまに……そういう話になったりしますね……とはいえ、考えるのは学園に入学してからというのは分かってもらえていると思います」
「そういえばふと思ったのですが、私とルイ王子が婚約破棄になってからルイ王子と特に会話がないですわね……私のお父様が悪いのは分かるのですが、こういうのって普通のことだと思います? 私も泣きついたりしてもしかしたらルイ王子を怒らせてしまっていたかもしれないなと思っているのだけれど……」
エリアナの話にリゼたちは顔を見合わせてしまった。
どうしようかというところでコーネリアが手を挙げた。
「それはルイ王子が淡白というか、ちょっと一言くらいは欲しいですよね。流石に仮にエリアナにも問題があったとしても、一言くらいはないものなのでしょうか。私だったらお別れの一言くらい言いますけどね」
「確かにそうかもしれないわね……」
コーネリアとローラは辛辣にルイ王子を批判し始めた。
「めちゃくちゃ失礼な話かも知れませんけど、婚約破棄になって良かったのではないですか!? きっと結婚しても楽しくないですよ! 長い人生、やっぱりリゼみたいに恋愛結婚をしたほうが幸せになれると思うんですよね。エリアナがルイ王子を好きではなく婚約したのだとしたら、あんまり幸せな結婚生活にならなかったかもしれないですし、良かったと思いませんかね!? 流石に婚約していたのに一言も連絡や手紙がないのはおかしいような気もしますし」
アデールはロマンス小説のような恋に憧れているのか、エリアナに意見を口走った。リゼはまったく相手を気にすることない意見を繰り出す彼女たちの話を聞いて(大丈夫かな?)とエリアナを見るが、彼女は『なるほど』といったように手を一度叩いた。
「確かにそうかも知れませんわね! よく言ってくださいました! ルイ王子とは仲良くなろうと色々と……まとわりついたりしたのですけれど、相手にされなかったですわね……新鮮な意見でなんだかスッキリしてしまいましたわ……! でもこちらから迷惑をかけたことがあると思いますし、その謝罪と感謝を伝えたいと思いますわ」
「そ、そうね! それにしてもアデール、なかなか際どいところを攻めるわね……!」
ローラは少し動揺しながらリゼに話しかけてきた。リゼは「あれです! あの、何でしたっけ……忖度と言いますか、気を使わないで意見を言い合えるというのは良いことだと思います!」と答えておいた。
そこから、いままでもわりと気を使わずに話してきたが、完全に気を使わずに話そうと言うことで話が落ち着いた。
その後、練習場へと移動すると、型の打ち合いなどを楽しんだ。リゼの思っている以上に真剣にみんな取り組んでいるようで驚いた。続いて魔法の詠唱を行うがそちらは初期魔法しかみんな使えないが、練習はしているようで、マジックウィンドウの熟練度も日々上がっているとのことだ。
そして、お開きになる。エリアナはローラたちと馴染むことが出来た。リゼの想像以上にローラ、コーネリア、アデールが言いたいことを直接的な表現で言うため、一気に距離が縮まった可能性がある。リゼもいままで以上に彼女たちと仲良くなれたと実感するのであった。
さらにエリアナをフォローしようと思っていたが、特に問題は発生しなかったため、安心するのであった。




