199.秘密とお友達と
アイシャの足元には魔法陣が展開された。驚いたアイシャはジャンプして驚いた顔でリゼを見てきた。
「あのー、お嬢様。何か起きたみたいなのですが……お嬢様です!?」
「説明するね。マジックウィンドウを見てみて!」
アイシャはマジックウィンドウを確認すると、「これは……!」と呟いた。
リゼが付与した魔法を見たのだろう。
「お嬢様、驚きました……どういうからくりなのですか? いまお嬢様に欲しいとお話した魔法などがあるみたいで……」
リゼは少し考えていたのだが、そろそろ良き機会だ。いままで明言は避けてきたのであるが、アイシャにはある程度は知っておいてもらうことにする。なぜなら、家族を除けば一番身近な存在でもあるし、一緒に戦ってくれるということにもなっているからだ。
「いままで隠していてごめんね、アイシャ。アイシャのことは信用しているし、明かすね。私、実はちょっと特殊な加護があって……というのはもしかしたら察しているかもしれないけれど……特殊な加護があってね」
リゼが話し始めるとソファに居たリアも立ち上がって近づいてきた。
リゼはステータスウィンドウを開き、共有することにする。
【名前】リゼ=プリムローズ・ランドル
【別称】フォルティア
【性別】女
【年齢】十二才
【レベル】13
【職業】侯爵令嬢(ゼフティア王国)、子爵(ブルガテド帝国)
【属性】風属性、氷属性、無属性、聖属性
【称号】運命の開拓者、聖女
【加護】大地の神ルークの祝福(大)、芸術の神ミカルの祝福(大)、武の神ラグナルの祝福(超)、叡智の神アリオンの祝福(小)、水の加護、土の加護、風の加護、火の加護、ブリザード・エスポワール、人魚の祈り、竜羽の盾、ガルムの目、聖女の加護、女神の祝福
【スキル】ルーン解読(固有)、毒耐性(レベル2)、衝撃耐性(レベル2)、毒検知、燕返し、マジックキャンセル、銀糸、火傷耐性(レベル2)、ソードゲネシス、モンスターテイム、アビザル・サンクチュアリ、ウムブラ・ネビュラ、ルミナス・イグニス、グラース・エクレール(固有)、ゼラ・グラディウス(固有)
【状態】健康
【所持金】270120000エレス
【ポイント】2072950000
【メッセージ】「なし」
アイシャはしばらく共有したステータスウィンドウを見ていたが、リゼの方を見てきた。
おそらくポイントやメッセージといった項目は表示されていないはずだ。
「お嬢様、なんだか想像以上にすごいことになっていますね……。とくに神々の加護みたいなものがありますし、しかも一人の神ではなくて、複数の神々の……それに無属性魔法というのも聞いたことがないです……」
「そうなの。ちょっと色々あって、非現実的すぎて信じがたい話かもしれないけれど、聞いて。お父様とお出かけした日に馬車に乗っていたはずなのだけれど、ふとした拍子にいきなり教会のようなところに居て、そこで神々から加護をいただいたのよね……。その時はルーク様、ミカル様、ラグナル様で。それで加護を使って氷属性を会得したりして、そこからダンジョン転移事件の後にアリオン様からも加護をいただいて。そして、神器を手に入れたあとに神器と神々の加護を連携して魔法やスキルを作れるようになったのよね。魔法やスキルは私以外の人にも付与できるからアイシャに付与したの。無属性魔法というのはいつも使っているインフィニティシールドとかスキルアブソーブっていうスキルをコピーする魔法が該当する魔法ね」
「そういうことだったのですね。でもちょっとそういう能力のようなものをお持ちなのかなとは思っていましたので、そこまで驚きはしませんでした! お嬢様のお近くにいると加護などを得ていることが多かったですし。それにしても大地の神ルーク様の大神官様たちがお嬢様のことを崇拝していたじゃないですか。あながち、正しい行動かもしれないですね。だって、神々とお会いしたことがあるなんて、普通は無理ですよ。聖女とかそういうレベルの次元ではありません! 崇拝対象として正しいですよ!」
アイシャは興奮気味だ。リアは特に驚く素振りはなく、何度か頷くとソファへと戻っていった。
「まあ、私も何故……私に加護をくださったのかは分かっていないのよね」
リゼは(そこだけは本当に分からないのよね。ルーク様が転生させてくださったわけだけれど、それだけでこんなに加護をくださるとは……他に何か意味がないか考えたりはしている……)と思うのだった。
「そこは何か使命みたいなものがあるのではないですか!? 私はお側でお支えしますよ」
「あー、ありがとう! これからアイシャを強化していくと思うから、魔法やスキルの良い案があったら教えてね」
それからアイシャは驚きつつも、「考えておきます!」と言い残すと部屋を退室していった。
「ご主人さま、アイシャにも話したのは良いことだと思う。何かあった時に素早く察してくれるかもしれない」
「そうよね。ずっと秘密にしているのはちょっとつらかったから、スッキリしたかも」
すると素早くアイシャが戻ってきて、コーネリアの来訪を伝えてきた。
すぐに応接室へと向かう。
「コーネリア、お久しぶりです!」
「お久しぶりですね、リゼ。ちょっと早めに来たのは理由があるのです。これを」
リゼはコーネリアから茶色のバスケットを受け取った。
中身を覗き込むと、クッキーが入っていた。
「私もリゼを見習って料理を始めてみまして。クッキーを焼いてきました」
「美味しそうです、コーネリア。料理って楽しいですよね」
「えぇ、それに剣術や魔法なども結構頑張っています」
「そうなのですね! 是非、手合わせを今度しましょう!」
どうやらコーネリアは剣術なども始めたようだ。彼女は元々一人お茶会をするなどが趣味なおとなしい性格であったはずだが、リゼと知り合って趣味趣向が変わってしまったらしい。
それから少しばかり趣味の話などで盛り上がっているとローラやアデールが到着したらしく、応接室へとやってきた。
「ローラ、アデール、ようこそお越しくださいました!」
「先日お取引の件以来ですね!」
「リゼ、会いたかったわ。今日の話はバルニエ公爵令嬢の話なのよね?」
ローラは挨拶をしつつも、即座に本題に入ってきた。アデールやコーネリアも気になっていたのか、リゼを見つめてくる。
「バルニエ公爵令嬢といえばあのお茶会で、あなたにジェレミー王子の絵を踏めと命じていたわよね」
「そうですね……確かにあれはひどいことでした。ただ、先日謝っていただいて、仲直りしました」
リゼはエリアナは何でも思ったことを口に出してしまうような性格であること、ジェレミーにも謝罪したこと、他にも迷惑をかけた人々に謝ることになっていることなどを説明した。
「そう、私は別に特に害を受けていないからリゼや王子たちが許すというのなら問題ないわ。ただ、バルニエ公爵令嬢はあれね、今後どうするつもりなのかしら」
「それは……出来れば私たちのグループといいますか、お友達に入れられませんかね……皆さんが宜しければ」
ローラやアデール、コーネリアを控えめに見つめるリゼである。正直、断られる可能性があるため、若干の緊張が走る。
だが、ローラたちは頷いてくれた。
「リゼがそうしたいのであれば、私は受け入れます」
「私も問題ないですよ!」
「そうね。私は嫌われていないかだけが心配だわ」
それぞれが思い思いを口にしてきた。コーネリアやアデールはあまりエリアナに興味がなく、リゼの敵くらいの認識であっただろうし、ローラもリゼが思っているほど気にしてはいなかったようだ。
ローラのことは当時はお茶会で自分になびかず、さらにルイ派を離脱した裏切り者だと思っていた可能性は否定できないが、いまとなっては大丈夫だとリゼは思い、その旨をローラに伝えるのだった。




