197.壮行会の夜
リゼは用意されていた飲み物を飲む。
(ラウル様はルーク様に教えてもらって知ったけれど、リッジファンタジアが始まる前に殺されていた……。知り合えて良かったと思う。今の私があるのは……剣術を学ぼうと思ったのもエリアナのお披露目会で練習に誘ってくださったラウル様のおかげ。魔法は自発的に学び始めたけれど、それだけではきっとダンジョン転移事件の時に生き残れなかったと思う)
ラウルはリゼの相手としてエリアナのダンスパーティーに参加しなかった場合、大地の神ルーク曰く、殺されていたはずだ。よって、リゼとしては良い流れになったと心の底から思うのであった。
ジェレミーはわざわざリゼが飲み物を飲み終わるのを待ってからラウルに対して反応する。
「なるほどね〜。最初にパーティー会場で見た時はなんだこいつと思ったものだけど、まさかこんな日々を共に過ごすことになるとは思ってなかったよね」
ラウルとはそれなりに友情が芽生えているようだ。ジェレミーはエリアスに目で合図を送る。
「次は僕ですね。そうですね、僕の場合はあの剣術大会の途中で自分の実力を発揮できないまま負けていたでしょうし、色々と恨みの感情を募らせていたかもしれません。きっとこの国のことも好きになれなかったでしょうし、この国の人たちとは距離を置いて生活していたと思います」
エリアスは少し遠い目をしながら話した。
(エルはそうなるのよね。そして戦争ルートへと突入することに。エルとは本当にたまたま遭遇したので剣術大会に出てよかった……)
おそらくエリアスは〈知識〉通りの人物になっていただろう。一番危険な人物であった彼ではあるが、ゼフティア王国の子爵としての立場がすでにあり、カルポリーニ家は伯爵家となっており、リゼの剣として生きるとまで言ってくれており、随分と運命が変わったものだ。
「あれは印象的だったなぁ。エルにちょっかいを出していた貴族たちが僕の派閥だったのは申し訳ないよ。でも、彼らには注意しておいたからね」
アンドレはジェレミーがコメントを終えると口を開く。彼だけはラウルやジェレミーとは一切関わり合いのないところで知り合った特殊な出会い方であった。
「さて、最後は私だね。リゼと知り合わなかったらきっと国から認知はされているものの、離宮で過ごすことだけが認められた状態で完全に放置されていただろうね。母は病気で亡くなり、まさか帝国の大公家の血を継いでいるとは誰も思うわけがないからルーツのことも気づけなかったと思う。それに剣術も学ぼうとは思わなかったから仮に出自を知れたとしても、王位継承権に立ち向かう力はなかったと思うな。特に母の病気を治してくれたのは本当に大きいね。感謝だよ、リゼ」
アンドレはリゼにウインクしながら言う。リゼとしてはテレーゼの命を救うことが出来たという点でアンドレとは十二歳の段階で知り合っておいてよかったと、とにかく実感するのだった。
「そう言っていただけると嬉しいです!」
「はいはーい、ということで、リゼの門出を祝ってプレゼントをそれぞれ渡そうか〜」
ジェレミーが発言するとそれぞれ別室に置いていたプレゼントを持ってくるようだ。どうやらプレゼントを密かに用意してくれていたみたいである。なお、エリアナは急遽参加したため、何も持っていないがそこは仕方がない。が、彼女は代わりにリゼと約束をすることにする。
「リゼ、私からはそうですわね……プレゼントはないので約束を。必ず途中で投げ出さずに剣術も魔法も極めることを誓いますわ」
「ありがとうございます……エリアナ、色々ありましたけれど、応援していますし、何かあれば手紙を書いてくださいね!」
リゼとエリアナは握手する。別室から戻ってきた他の面々が拍手した。
まずはジェレミーがプレゼントを渡してきた。
「僕はこれ。すごいものだから後で開けてみてね。手紙も入っているからね〜」
「ありがとうございます。何でしょうね……?」
ジェレミーは硬い箱を渡してきた。以前にペンダントをもらっているため、少し趣旨を変えてきたらしく、アクセサリーなどではなさそうだ。
「次は僕から。いままで何も渡せてこなかったからこれを。これは珍しいものでね。髪留めなんだけど、加護付きなんだ」
「加護付きの髪留め……ですか? 宝物庫にもありませんでした……」
「物理的な攻撃に対しての耐性があがるよ」
「ありがとうございます! 剣で切られたりした時に効力を発揮するのですね」
リゼはラウルより、見た目的には特に変哲のない髪留めを受け取るのだった。あとで内容をチェックする必要がある。続いてエリアスの番だ。
「僕はこの本を。スキルの本ですね。解読できないのですが、リゼなら解読できるかと思います。うちの家って元々別の帝国が分裂した国の一貴族という立場だったので、つまりミリア大帝国の一部だったわけです。未開拓地を開拓していたらこれを見つけました。これははるか昔の大帝国時代のものみたいですよ。おそらく剣にまつわるものだとは思うのですが、リゼにぴったりだなと!」
「スキルの本……!」
エリアスはスキルの本を渡してくる。開くとルーン文字で書かれていた。詳細までは詳しく見ないと分からないが会得できそうだ。
「ありがとうございます! なんとか会得して有効活用しますね。大切にします!」
今晩には取得しようとリゼは心に決めた。
「最後だね。リゼ、これを」
「ありがとうございます。こちらは、ハンカチですか。あ!」
リゼはハンカチを貰ったのだが、刺繍がしてあった。プリムローズやバラの花が刺繍されている。
「プリムローズにバラの刺繍が……!」
「私が刺繍してみたんだ。結構頑張ったよ」
「嬉しいです! いつも持ち歩きますね」
「ありがとう」
よくよく見ると、リゼのイニシャルも刺繍してあった。慣れないことだったのだろう、少し文字がズレたりしているが、だいぶ頑張ってくれた痕跡となっている。
こうしてみんなから再度応援され、壮行会は幕を閉じた。
その日の夜遅くのこと。
ジェレミーからのプレゼントとエリアスのプレゼントを確認することにする。
(ジェレミーがくれたものは……まず箱を開けて……これは……手紙とさらに小さい箱? まずは手紙から……)
リゼはジェレミーからの手紙を開いた。
『リゼへ
帝国騎士学院への入学おめでとう。僕も入学したかったけど、母上の故郷で剣術の腕を磨こうと思う。さて、唐突だけど、僕も何か自分で手に入れたものをリゼにあげたくなったから、一昨日、ヴィッセル公国に転移してダンジョン攻略をしてきたよ。中級ダンジョンだけど、リゼやアンドレがどういう状況に陥ったのかも知っておきたかったし、よい機会だった。騎士もいたから何とかなったけど、二人で攻略したのはすごいと思う。プレゼントは聖遺物として手に入れたマントね。使い道は色々あるはずだよ。剣術大会でリゼに勝ったことで僕は慢心していたと思う。公国の学園では本気で取り組んでみるよ。僕が本気を出したらきっとすごいことになると思うから、期待しておいて。毎週手紙を書くよ。返信を書いてね。
ジェレミーより』
プレゼントのマントを広げてみた。白色のマントだ。効果を神器に聞いてみる。
『このマントは突きや切り裂きに対して、耐性があります。羽織れるように留め具もついていますね』
確かにマントには留め具があり、羽織ることが出来るようになっていた。
リゼはジェレミーからのプレゼントをアイテムボックスへとしまった。狩猟大会などに参加する際につけておけば安心できそうだ。心の中でジェレミーに感謝した。




