186.城へ
フォンゼルたちに聞けばよいのだが、帝国の人たちと試しに話してみたくなってしまったため、通行人に聞くことにした。
「あの、すみません。神官と呼ばれる方についてご存知ですか?」
「うん? 神官様? もちろん知ってるよ。パレードなどで皇帝陛下の横に立っている人だ。あと、大神殿にもいらっしゃったかな」
武器をベルトから下げ、坊主頭の肩を出した服を来ている傭兵らしき人物に質問したところ、頷きながら答えてくれた。
「ありがとうございます! 神官様は何をされる方なのでしょうか?」
質問した後に、(あっ! 聞きたいのは神官様についてではなくて、どうやって聖女の力を使っているのかだった……)と気づくが、傭兵はすぐに驚いた様子で口を開いた。
「おいおい。あんた、外国人か? あ、いや貴族様っぽいな。そこら辺には疎いのか。神官様といえば聖女様の力を宿した宝玉を管理する偉い方々だ。年が経つにつれて宝玉の力は弱くなる一方らしいがな。宝玉は力を使わなくても年々、聖属性魔法の力が放出されて力が弱くなるらしいから、それならば宝玉の力が無駄にならないようにと力を使って病気を治したりされているらしいよ。なんかほら、神官様がお持ちの杖みたいなやつの先についている石で宝玉にふれると、石に力が溜め込まれる。んで、その石で病気のやつに触れるとあら不思議。完治ってわけだ」
「理解できました。ありがとうございます!」
「おう。貴族様、ランマース傭兵団をよろしくな」
思わぬ情報を得ることが出来た。そして、ランマース傭兵団といえばゼフティアでエリアスと共に行った武器の展示イベントで護衛をしていた傭兵団であることをふと思い出した。
なお、神官は聖女の宝玉に溜め込まれた力を使って病気を治しているようだ。実際にその場を見てみたい気もするが、ひとまず謎はすぐに解けたため、喫茶店で休憩することにする。こじゃれた喫茶店に入ると、丁寧に出迎えられた。その後、いつも飲んでいる帝国の茶葉を使った紅茶を注文した。
「お嬢様」
「うん?」
アイシャが真剣な面持ちで話しかけてくる。
「さっきの話ですけど、例のお嬢様が使われている治癒系の魔法、キュアでしたっけ? 聖属性魔法の治癒系の魔法ですし、神官の宝玉と何か似たような感じだったりするんですかね?」
「たぶん、そうよ。ヒールであったり、治癒系の魔法をその宝玉に向けて詠唱すれば治癒の力が溜め込まれるのかも。神官様はその溜め込まれた魔力を使っているのでしょうね」
「宝玉の力が弱まってきてしまっているのであれば、お嬢様がキュアを宝玉に詠唱したら回復するかもしれませんね!」
アイシャの言う通りかもしれない。むしろ、キュアは交換画面でしか手に入らないヒールといった魔法の上位互換らしいため、宝玉の蓄積量を一気に回復できるかもしれない。
「そういえばそうよね。病気の方々にとってはきっと役立つでしょうし、それはありかも!」
「ですよね。助けてあげるのが良いかと。それにしてもまたお嬢様、随分と特殊な魔法を覚えましたね……」
リゼは苦笑いした。
(そういえばアイシャには聖属性魔法を会得したことを話しておこうかな?)
リゼはアイシャにこっそり、「実はね、聖属性を会得したの」と話したところ予想に反してあまり驚かれなかった。アイシャは「やはり! お嬢様はいつか会得されるのではないかなと思っていたんですよ。これでお嬢様も聖女ですね!」と喜んだ。まだ秘密ということだけは伝えておいた。
それから二人は装備屋に向かう。武器は沢山あるため必要ないが、狩猟大会で胸当てによりかなり助けられた経験もあるため、装備は充実させておいた方が良い。
「いらっしゃい。何かお探しで? 失礼。貴族様でしたか。気になるものがございましたら何でもお言いつけを」
「ありがとうございます。少し見させていただきますね」
坊主頭のこわもての店主に挨拶をし、二人は店を見て回ることにした。この店主も肩を出した服装をしており、鍛え上げられた腕の筋肉をあらわにしていた。先程の傭兵もほぼ同じ風貌であったため、流行っているのかもしれない。ゼフティア王国では考えられないような佇まいであった。
「私も何か戦闘になったときに活かせるものを買っておいたほうが良いでしょうかね……」
「宝物庫の指輪があるとはいえ、もう一つあった方が絶対に良いと思う。例えばこのブレスレット、効果は火魔法への微々たる耐性って書いてあるけれど、この耐性のおかげで命拾いするかもしれないから」
「そうですよね。何が良いでしょうか……」
リゼはアイシャにブレスレットを勧めるようだ。確かにこうした少しの効果でも命拾いにつながる可能性は十分にある。
「戦闘で使われる魔法属性の割合で考えると、土や風が多いかな。その二つは会得している人の数が多いから。でも土属性は攻撃魔法を覚えるまで行く人がほとんどいないので、風魔法への耐性をつけるのはどう?」
「なるほど……じゃあこれになるわけですね。加護付きの装備はやはり高いですね……」
「あ、それは気にしないで。これは私がプレゼントします」
「え! 流石にそれは申し訳ないですよ……」
おそらく下級ダンジョンで取れたものだろうか。百十万エレスだ。リゼはプレゼントするというが、アイシャは恐縮する。
「スキルマジックキャンセルをコピーさせてもらったこともあったし、日々のお礼も兼ねてプレゼントさせて」
「食い下がっても買われるんですよね……? 分かりました。ありがたくいただいた方がお嬢様はお喜びになるんですよね? では是非お願いします」
「うん!」
リゼはアイシャに加護付きのブレスレットを購入した。
(神器さん、このブレスレットですが、全属性魔法への大幅な耐性向上に調整をお願いしたいです)
神器曰く、必要なポイントは二千万ポイントであったため、即座に実行した。そして、アイシャにプレゼントすると、喜んでくれた。
それから二人は屋敷に戻り、明日に控えた皇帝への謁見に備えるために、早く寝ることにした。なお、夕食も王国との違いを実感したのであった。
こうして翌朝、皇帝との謁見に向けて支度を整えた。この日のために仕立てておいたドレスを身にまとい馬車に乗り込む。特に緊張しなかったため、リチャードやアンドレ、テレーゼと話をしたりして楽しく過ごした。
城に到着すると馬車で門を抜け、橋を渡り、さらに門を抜けて入り口に到着した。騎士は入れないため、馬車と共に別の場所へと移動していった。リゼは先に馬車で到着していたヘルマンと合流し、彼に案内され城に足を踏み入れた。
謁見の時刻は割と迫っているため、直接応接間へと向かうことになった。横を歩くアンドレに話しかける。
「お城も王国とは建築様式であったりが違うのですね……」
「さすがリゼ、目の付け所が良いね。ゼフティアの建物は低く優美に、ブルガテドは高く威風堂々という違いがあるね」
「勉強になります! 絵も……王国にあるものとは少し異なりますね」
「そうだよね。基本的にこっちの絵は民衆や風景というよりは皇族や伝承の中の人々が描かれることが多いかな。ゼフティアだと風景画などもあるけどね」
アンドレと盛り上がりつつも、絵画に注目して歩いているが、民衆や風景を描いた写実主義的な絵はなかった。今までブルガテド帝国とゼフティア王国はせいぜい商人が食物などの輸入や輸出を行う程度の交流しかなかったため、王国で盛んな芸術的な文化は伝わっていないのだろう。




