179.とある魔法の本
エリアスが続いて説明してくれる。
「そうなんですよ。本棚の上に置いてありました。たぶんどの属性とも関係がないから誰かが上に置いて放置してあったのだと思うのですが。少し読んでみましたが中身は訳の分からない文字で書かれていてよく分かりませんでした。それにいつ置かれたのか、すごく埃をかぶっているので誰も覚えてないものかもしれませんね。僕は魔法よりスキルにしようと思いますのでリゼにあげますね。必要か判断してみてください」
「ありがとうございます。ちょっと見てみますね」
エリアスから古びた本を受け取った。本を開くとリゼとしては見慣れた文字が目に入る。
(えっと……これは……! ルーン文字ね。内容は……)
リゼは内容を読んでみることにした。パラパラとページをめくるが、最初の方のページは絵や図が描いてあったりするがダミーのようだ。まったく意味がなく『この魔法陣、すごく美しくないでしょうか?』といった無意味な話が続いていた。それからさらには『ここからは私が独自に作った文字で日記を書きます』と日記のようなものが続く。ルーン文字に非常に似ているが、まったく読めない。だが念のため一ページずつめくっていくと、三十ページ付近でこの本の目的らしき説明がルーン文字で紛れて書いてあった。
溜息を付きつつ、(すごい隠し方ね……)と思ってしまうが、説明を読むことにした。
この本の作者の作った文字だが、本当にルーン文字に酷似しているため、注意深く見ていなかったら気づかなかっただろう。
『よく我慢強くこの記載を見つけました。私もこういうパターンの本は真面目に細かく見ていくタイプなのであなたとは気が合いそうね。さて、この本はセイントガードを習得可能です。セイントガードは聖属性魔法の一つで、私の編み出した魔法を後世に残しておきたく、この本を作成しました。魔法の説明をしておきますね。この魔法は聖なる光を体を守る鎧としてまとうことが出来ます。発動すると美しい魔法だと自画自賛になりますが、銀色に輝く鎧をまといます。とはいえ、自分からは見えません。でも例え見えなくとも体の周りには鎧として存在しています。なお、相手からは見えます。私の魔術式が間違っていなければ、聖属性を含む魔法属性の攻撃を受けた際にダメージを大幅に軽減することができます。また、傷を負っても魔法の効果が切れる前であれば治癒効果もあります。回復速度はとても優秀です。魔法の効果持続時間は十分です。作成は私、聖女ティレーシアにて。以降に魔術式を記載しますね。魔術式は四ページに渡って言葉で書きますので、指示通りに魔法陣として完成させてください』
リゼ的には自分のことを聖女と呼ぶこの本の作者に少し驚いてしまったが、かなり便利な魔法であると感じた。
(うまく隠してあったけれど、セイントガードという魔法、かなり強いのではないかな。聖属性なのね。記載されている日にちを見る限り、いまから二千年も前みたい。その間、ずっと忘れ去られてきたのかな……そして、ルーン文字で書かれているせいで誰も読めなくて何の本だったのか分からなくなったのかもしれない)
リゼは念のため、案内人に確認を行うことにした。
「あの、すみません。この本について何かご存知ですか?」
「これは……見たことがありません。残念ながら何の本か分かりません……」
案内人も見たことがない本のようで、忘れられた本なのかもしれない。
「ありがとうございます。本棚の上に置いてあったそうなのですが……これを選んでも大丈夫ですか?」
「禁書庫の魔法書、もしくはスキルの本を一冊選んで良いというお達しなので、何かは不明ですがそちらをお選びいただいても構いません」
「わかりました!」
この本を選んでも良いとのことだ。
(どうしよう。結構便利な気がするのよね。生成しても良いのだけれど、ルーン文字で書かれているせいで誰も読めなくて放置されるのも悲しいし、これにしようかな……。聖女ティレーシアさんも誰かが会得することを想定して書かれているし。よし、決めた!)
リゼは聖女ティレーシアという人物が書いた本をもらうことにした。聖属性の光を鎧として纏うということで、相手の魔法に対してかなり有用そうであるためだ。
「エル、この本にしようと思います」
「それにしたんですね。よく分からない文字で書かれていましたがよく読めますね。何か良い魔法だったんですか?」
「あー、そうですね……! 後で話しますがかなり良い魔法だと思います!」
リゼはまだ誰にも言っていないが聖属性魔法を会得済みだ。魔法陣を完成させて手をかざせば魔法を会得できるはずである。
「分かりました。僕もスキルの本をちょうど選びましたので習得しちゃいましょうか」
「そうですね! あ、この本は家に帰って魔法陣として完成させる必要があるのでした……」
「それであれば、家に帰ってゆっくり会得するのが良さそうですね!」
エリアスは先に本を開き、手をかざして、スキルを習得した。習得後の長居は出来ないようでエリアスは彼の案内人と共に先に禁書庫を出ることになった。リゼの案内人がエリアスに「非常に申し訳ないですが、少しフォルティア様にはお伝えしなければならないことがありますので、お先に応接室にてお待ちいただけますと幸いです」と伝えていた。
リゼは「?」と状況を理解できない表情だ。
二人が退室すると、案内人が声をかけてくる。
「えーリゼ様。少しよろしいでしょうか。実は陛下と王妃様が話し合われまして、リゼ様にはサービスをすることになっています」
「サービス、ですか?」
「はい。禁書庫の本ですが、あと二冊ほどお持ちいただいて構いません。これは公式のお話ではないので、あくまでも内密にとのことでした。二冊の本はリゼ様のお持ちのアイテムボックススキルをお使いになって収納いただければと思います」
案内人は静かな声でリゼに告げてきた。どうやら王妃が気を利かせてくれたのかもしれない。
「え、良いのですか……?」
「もちろんです。陛下たちより許可をされていますのでまったくもって問題ございません。沢山ありますので、ごゆっくりとお選びください」
リゼは「ありがとうございます」と返事をすると、また考えることにする。
(ありがとうございます、王妃様。おそらく王妃様が国王陛下と調整くださったのだと思う。えーっと、どうしようかな。スキルはあまり良いものがなかったのよね。そうなると魔法、なのかな。パッと見た感じでは、さっき見た魔法たちが良さそうだったけれど……エアソードとグラビト・インモービリスにしておきましょうか。エアソードは神器さんにお願いしてもう少し強くしないといけないけれど、重力で相手の動きを制限する魔法は良いかも。ひとまずはもらっておいて、会得はまた落ち着いてやりましょう)
案内人に二つの本を見せた後に、アイテムボックスへと収納した。
そして案内人にお礼を言って禁書庫を出る。もう来ることはないかもしれないが、良い魔法を習得できた。
「あの、ありがとうございました。すごい場所に入れて光栄でした」
「きっと武器や魔法もリゼ様に使っていただけるのであれば、嬉しいことだと思いますよ。それに今後も陰ながら応援しています! アンドレ王子との今後を!」
「えっと……?」
「実は、アンドレ王子の式典、もといお披露目会には参加させていただいたのですが、あの時のリゼ様がかわいらしかったので二人の幸せを願っています!」
リゼとしては「あはは、ありがとうございます……」としか返すことが出来なかった。そして、実のところファンだったということで色々と話をされ、最後には握手までお願いされてしまった。




