171.裁判
それから数日後、いよいよ裁判および狩猟大会の景品授与、もとい表彰式の日となった。リゼはバルニエ公爵が起こした王族暗殺未遂事件の関係者としてランドル伯爵と共に裁判に招集された。エリアスとも合流し、席に着くリゼたち。
「リゼ、絵が届きましたよ。素敵な絵をありがとうございました。大切にしますね」
「喜んでもらえて嬉しいです。良い息抜きにもなりました。それにしても、狩猟大会の景品って何だと思いますか?」
「それがまったく予想できないんですよ。聖遺物とかですかね……」
それからエリアスとスキルを用いた戦闘の立ち居振る舞いなど、戦いの話をしているとついに裁判が始まるのだった。被告である公爵は逃亡したが、手下は捕らえられているため、連行されてきた。そして、周りを見るとうつろな表情でうつむくエリアナが目に映るが、表情には悲壮感があふれている。エリアナの隣にはバルニエ公爵夫人の姿も見られた。執事らしき人物に付き添われており、顔色がかなり悪い。
ゼフティア王が入場してきたため、いよいよ裁判が執り行われる。裁判と言っても形式的で結局のところは王が話を聞いて判決を下すだけである。弁護人などはいない。
「本日は陛下や王妃殿下、ルイ王子殿下、アンドレ王子殿下、ジェレミー王子殿下暗殺を企てた疑いでバルニエ公爵の罪に関する裁判を行います」
進行役と見られる貴族が宣言する。この裁判には王や王妃、テレーゼ、王子たち、忠臣など、様々な人物が参加していた。
早速、手下への質問が始まる。
「あなたは王族を暗殺するため、調教済みのモンスターを輸入し、王族の殺害を企てる計画の連絡役だったと自白しました。相違ありませんか?」
「はい」
「暗殺の目的はバルニエ公爵が国家転覆を図り、邪魔な王族たちを一掃しようとした。相違ありませんか?」
「結果的にそうなるんでしょ。俺は言われたことをやっただけですが。真の目的はそれとなく公爵が話して、俺の認識ではさっきの話の通りですけど。狩猟大会で襲いかかる際に、娘の……あそこに座っている公爵令嬢のことは殺さないようにと指示がありましたね」
「分かりました。被告人は全ての罪を認めました。また、バルニエ公爵家からはモンスターの売買に関する書類が見つかっています。これはバルニエ公爵の罪を裏付ける証拠となります。これに見覚えはありますか?」
淡々と裁判が進められていく。バルニエ公爵の手下は判事が持つ書類を見て、頷いた。
「ありますね」
「この書類にはサイクロプス、オルトロス、ワイバーンとありますが、バルニエ公爵もしくはあなたがモンスターを指定して送るようにと依頼したのですか、それともこの三匹は先方からの提案ですか?」
「提案ですね」
「賊については何か知っていますか?」
手下は「いや、それはおそらくバルニエ公爵が直接指示をされたんじゃないですか。俺はモンスター関連のみですよ」と返答した。
「……では質問を続けます。それから、屋敷からこのような書類が出て来たのですが、見覚えは?」
「それがなぜ……ランドル伯爵令嬢をダンジョンに転移させるために公爵から預かった指示書です。燃やしたはずでしたけどね」
「燃やしたはずでも、きちんと燃えなかったということでしょう。質問を終わります。それでは、バルニエ公爵およびその配下について罪状を述べます。王族暗殺未遂、危険モンスターの違法輸入、危険モンスターの放棄、ランドル伯爵令嬢暗殺未遂、聖遺物ダンジョンの入り口破壊工作、聖遺物ダンジョン発見時の報告義務違反、それから間者の毒殺となります。判決は王に委ねます」
会場にいる者たちは静かに罪状を聞いていた。エリアナの泣きじゃくる声だけが響いている。
王が立ち上がった。
「逃亡中であるがバルニエ公爵はあまりに罪を重ねすぎた。爵位剥奪の上、見つかり次第即座に拘束、処刑とする。なお、逆らう場合は拘束せずとも処刑することを許可する。次は転移石で逃げられないように騎士団は対策せよ。公爵の配下である貴様も命令とはいえ、国家転覆に加担した罪は大きい。処刑とする。そして、バルニエ公爵の娘、エリアナ=ジェリー・バルニエとルイの婚約は破棄とする。バルニエ公爵の妻と娘は尋問した結果、無関係と判断したため、妻側の親族に籍を戻すことは許可する。以上だ」
会場からは拍手が巻起こった。リゼはこの裁判で裏切り者がいないかと、忠臣などを注意深く戦闘ウィンドウも用いて観察していたが、怪しそうな人物はいないのだった。ただし、団長クラスのレベルは高く、詳細を見ることが出来なかった。
こうして裁判は幕を閉じた。判決を聞いたエリアナは泣いていた。まさか婚約破棄になるとは思っていなかったのだろう。泣きじゃくるエリアナを見てリゼは少し気の毒に思うのだった。ルイを見るとたまたま目があってしまったが、即座に目をそらされた。落ち着いている様子であるため、事前に話を聞いていたのだろう。
バルニエ公爵夫人は静かに目をつぶっていたが、動揺は見られない。ある程度は予想していた様子だ。
その様子を見ながらリゼは考える。
(まさか十二歳の段階でルイとエリアナの婚約が破棄になるなんて……。本来は学園における終盤での出来事だったはずなのに。これでまた一つ歴史が変わることになる。もうエリアナにはレイラをいじめ倒すだけの基盤がない。取り巻きはあくまでもエリアナの地位を利用するために取り巻きをしていたと思うし。平和な学園になりそうね。あとはリッジファンタジア関連のまずい出来事を考えると……エルが戦争を起こすことはないと思うし、王位継承権問題に注意してさえいれば良いってことよね。よし、ここまでの立ち回りのおかげで、サブキャラである私がエリアナに命令されたりして罪をなすりつけられて断罪されるという展開は回避できたと思う!)
まさか婚約破棄になるとは思ってもいなかったため、リゼは驚いてしまった。
そして、ここまで長いようで短かったが、思っていたよりも早く、リッジファンタジアにおける共通ルートの断罪展開を回避できたことを喜ぶのだった。
(でもヘルマン様のお話では、黒幕がいるはずということだった。バルニエ公爵は手駒にすぎなかったのかも。ということは、またジェレミーたちは狙われるかもしれない。王位継承の派閥争いとかでそういうことがある可能性が。いえ、王位継承権とかと関係なくゼフティアの王族を殺したい人がいるのだとしたら……よろしくない状況なのかな。仮にジェレミーやアンドレが狙われるとしても、今回のバルニエ公爵の件をみんな目の当たりにしたでしょうし、暗殺みたいなことは……なくなる……かな? 失敗したら処刑されるのだし、警備も厳重になるでしょうし。しばらく平穏に暮らせそう!? えっと、あとはエリアナがレイラのことをいじめることはないでしょうけれど、仲違いしている私としても……もはやエリアナ関連はあまり気にしなくてもよいよね。確かエリアナのお母様は伯爵家出身だからエリアナもきっとあまり偉ぶれなくなるはず。王子の婚約者ではなくなったのだし)
リゼはまだ危険はあると認識しつつも少しは平穏な時を送れるのではないかと考えた。そして、エリアナ関連はもはやルイ王子の婚約者でもない彼女には何かを企む力などないため、気にならなくなるだろうとも考えるのだった。
むしろ、この状況になると、きちんと婚約している訳では無いが、アンドレ王子の相手として筆頭候補のリゼのほうがゼフティア王国内の立場は断然上だろう。
神々の加護、そして前世の記憶の一部を〈知識〉として得られたおかげで、リッジファンタジア一作目の自身が巻き込まれる危険な展開を回避できたリゼは続編で語られる真の展開に対処すべく頑張ろうと心の中で誓うのだった。
この後は、狩猟大会の優勝者であるリゼたちへの景品授与が行われることになる。




