169.攻略キャラからの依頼
部屋に入るとロイドは真面目に椅子に座っていた。
「失礼します。お待たせして申し訳ありません。改めまして、リゼ=プリムローズ・ランドルです。先日はありがとうございました。その前にも確か美術館でお会いしたかと存じます」
「よろしくな。俺はロイド=カイル・パーセル。呼び方はこの前も話したが、ロイドで良い。アンドレとはあいつが離宮で何とも言えない生活をしてる時からのダチだ」
「あ、そうだったのですね。仲良しだとは思いましたが、まさかそんな昔からだとは。えっと、ロイド……今日は何か私に用事があるのでしょうか?」
「ああ。この前、一緒にサイクロプスと戦ったよな。それにその前にミュレル侯爵令嬢を軽くいなしてただろ。賊のことも殲滅していたし、なかなかの実力者だと思ってな。つーことで、試したくなった。一つ依頼だ。一戦やろうぜ。頼む、胸を貸してくれ!」
ロイドは持参してきたのか、立てかけてある大きめな剣を指さしながら手合わせを申し入れてきた。
(なんだか最近、戦ってばかりいるような。王妃様とも戦ったし……。えっと、ロイドといえば戦闘は強いけれど、型をきちんと覚えていない自己流の使い手。ゼフティア王国では公式戦の場合、型の打ち合いがあるから、型が使えないことで失格となり過小評価されている人物でもあった。どうしよう……)
少しリッジファンタジアでのロイドのことを思い出し、黙っていると、ロイドが口を開いた。
「練習試合だから軽めにやろうぜ。それならいいだろ。な! 頼む!」
どうするか少し考えるリゼにロイドは、どうしても戦いたいのか、手を合わせてお願いしてくる。
「あー、そうですね。それなら……」
「いいね。どこでやる?」
「えっと、練習場があるのでそこでお願いします。審判はラウル様にお願いしますね。ちょうど一緒に練習していましたので」
「問題ないぜ」
それから練習場に再びやってきたリゼとついてきたロイド。ラウルはリゼから審判を頼まれて快く引き受けた。
「俺は自分の剣は持ってきたからそれを使うつもりだ」
ロイドの剣はいわゆる大剣に分類される剣で非常に大きい代物だ。サイクロプスに対してもなかなかのダメージを与えていた剣だ。
「私は模擬剣でいきます」
「やわな剣だと折れるぜ」
「……それなら、私はこれで」
リゼはアイテムボックスより伯爵からもらった家宝の剣を取り出した。ラウルがルールを説明する。
「じゃあ、練習用の魔法石を使って試合を行う。型の打ち合いは彼からの要望によりなし、いきなりフリー戦闘とする。魔法やスキルの使用はあり。両者相違ないね?」
「すまないが一つ追加させてくれ。リゼ嬢、いや、リゼ、申し訳ないのだが、あの本みたいなものは使わないでくれないか。リゼが強いことは十分理解してる。あの本を使わなかった場合に勝てるかどうかを見極めたいんだ」
「わかりました」
ラウルも頷いた。ロイドは神器なしでの勝負を挑んできた。
ロイドは「助かる」と言い、剣を肩に置き、試合開始の合図を待っている。リゼは剣を構えた。
(ロイドはきっと剣術とファイアーボールを使って私に勝てるのかを試したいということなのだと思う。では上級魔法も使わないでいきましょう。練習用の魔法石は三回ヒットさせれば勝ち。最初から全力でいく!)
ラウルが二人を交互に見つめ、準備ができたことを確認した。手を上げて開始の合図を行う。
「では開始!」
開始の合図と同時にロイドはトップスピードで距離を詰めてきた。
「アイスレイ!」
ロイドは読んでいたのか、ジャンプしてかわそうとするが、片足に魔法が命中し、その場で動けなくなる。心なしか思っていたよりも威力がある。片足どころか腹のあたりまで凍っている。本来は膝くらいまで凍るのだが、もしかするとマナの核が増えた影響かもしれないとリゼは瞬時に考えた。
「ウィンドカッター!」
リゼは速攻で畳みかけに行く。二つの風の刃が左右からロイド目掛けて迫る。ロイドは剣で切り裂くが、きちんと耐えることが出来ず、剣が吹き飛ばされそうになった。そして二つの風の刃の両方を対処できるはずもなく、一撃のヒットを許した。魔法石がダメージを吸収してくれたため、怪我はない。
刃の大きさ、勢い、速度、すべての性能が向上していることを実感する。
(初級魔法なのに、威力が段違いに……! マナの核が増えたことにより本当に強くなったかも)
少し考え事をしている間にロイドは何度も凍結した体や足を剣で殴りつけ、なんとか氷を破壊した。
「ちっ!」
ロイドは強引に氷を叩き壊して抜け出すと距離を詰めてくる。しかし、アイスレイの追加効果もあり、トップスピードではない。
(一撃与えてアドバンテージがある。ここは剣で勝負)
リゼもロイドに向かう。ロイドは横から薙ぎ払おうと剣を振ってくる。リゼは剣で攻撃を受けるが、ロイドの一撃は威力があり、堪えきれずそのまま後ろに飛ばされる。しかし、リゼはバランスよく着地すると迫り来るロイドに向かい剣を構えた。ロイドは上から剣を振り下ろしてくる。リゼはその攻撃をかわすと間合いに入り、切り付けることにした。ロイドはジャンプして後方に回転しながら攻撃を避ける。そして着地するとすかさず間合いを詰め、剣で下から攻撃を仕掛けてくる。
片足を下げ、うまく体を逸らしてギリギリ攻撃をかわしたリゼは、再度間合いに入り切り付けに行く。
「ファイアーボール!」
「ウィンドプロテクション!」
ロイドは間合いに入られるのを防ごうと魔法を詠唱した。リゼは手の動きを見て予測していたため、冷静に火の球を弾き飛ばした。そして、側面から切りつけた。
「なるほどな。強すぎるぜ」
ちょっと返答に困ったところで、ロイドは「ファイアーソード!」とスキルを発動した。
ロイドがスキルを使用すると剣が炎に包まれる。燃え盛る炎で包まれた剣で左側面からリゼを攻撃しようとしてきた。避けるのは無理だと判断したリゼは魔法を発動する。
「エアースピア!」
突風が吹き荒れ、ロイドが吹き飛ばされる。ロイドはうまく着地できずにフィールドに転がり壁に激突した。
(エアースピア、本当に強くなったよね……)
ロイドの手から離れた剣を包み込んでいた炎は完全に消え失せた。
リゼとしては動かないロイドを心配して駆け寄ろうとするが、ロイドは手を上げて止めてきた。
それからなんとか立ち上がると剣を拾った。そしてすぐに突進してくる。
ロイドは剣を勢いよく横に振り払ってくる。
「燕返し!」
リゼはスキルでロイドの横払い攻撃を上方に弾くと連続して左右から攻撃をヒットさせるのだった。
「勝負あり! リゼの勝利!」
「模擬戦、ありがとうございました」
リゼはロイドにお礼を言う。魔法やスキルありの勝負であれば、リゼからすると有利でしかなかった。初級魔法だけで勝負をしたが、初級魔法でも中級魔法に近いレベルの威力に向上しているからだ。
ロイドは少しの間、沈黙していたが悔しそうに呟いた。
「負けたぜ。くっそ、こんなことになるなんて……初めての負けだ」
「えっと?」
よく聞き取れなかったため、聞き返してしまった。
「いままで負けたことなかったんだよな。お前は……リゼは負けたことあるのか?」
「ありますよ。ジェレミーに負けました。それにラウル様とはきちんとした試合はしたことないのですが、負けると思います」
「マジかよ。ということは俺よりもあいつの方が強いのか。それにえっと、ラウル……だっけ、あんたもそんなに強いんだな」
ロイドはラウルに目線を向けると、興味を抱いたようで話しかけた。ラウルはウインクしながらさらっと返答する。
「リゼに勝てる気はしないけどね。でも追い抜かれないように必死に練習しているよ」
「あー! 俺、くっそ恥ずかしいだろこんなの……同い年の中では一番強いと思っていたんだ、こんな体たらくでな……。どうやら真面目にやるしかないってことか、お前らに勝つには。また勝負してくれ。自信を失っちまったが、強くなれたと思えたときにまた再戦させてくれ。俺は必ずお前らを超えて見せる」
そう言い残すとロイドは風のように去っていった。




