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164.過去の出来事

 王妃はリゼの(王妃様って戦闘出来るタイプの方だったのね……)という心を読み、静かに語りだした。


「まさか私が戦えるとは思ってもいなかったわよね。私はもし家族が危機に瀕したら刺し違えてでも戦う覚悟というものを幼少期に植え付けられてきたわ。私は本気であの王を、そしていつか生まれてくる子供を守ろうという覚悟を持ってゼフティアにやってきて王妃として必要な教育を三年間に渡って受けたの。十二歳から秘密裏にね。国交が当時なかったヴィッセル公国の出だから誰一人として味方はいなかった。教育を担当した者たちのあたりも強かったわね。そんな中で死に物狂いでゼフティアの歴史や文化、王妃の役割を身につけたわ。ここだけの話、毒を盛られて意識が朦朧(もうろう)とすることもあった。快く思わなかった勢力がいたのでしょうね。だいたいの察しはついているけれど。服を汚されたり、突き飛ばされたり、食事に虫を入れられたりもされたわ。毒を盛られたら一通り苦しんだ後に食事に解毒薬が混ぜられて治るということの繰り返しよ。虫を入れられた食事も文句を言わずに食べたわ。実家から持ってきたお気に入りの服を燃やされたときが一番堪えたかもしれないわね。とにかく酷い毎日だったわ。そして、いよいよ三年が経過して正式に次期王妃として公表されるというタイミングでいままでの努力が踏み躙られた……」


 王妃はゼフティアの闇をリゼには知っておいてもらいたいのか静かに語り続ける。


「唐突にね、前王妃を王が連れてきたの。まあ、色々あって私は第二夫人ということになった。でも、王妃としての公務、仕事を学んでいない前王妃は病弱のふりをしてめんどくさい仕事は全て私に押し付けてきたわ。それに、前王妃はジェレミーが生まれたら髪色についてもゼフティア王族の基本である金髪ではないことを揶揄(やゆ)してきたり、とにかく苦痛だったの。自分の子供がそんなことを言われて我慢できると思う? 無理よ。でも第二夫人の立場で王妃に物申せるわけがないわよね。とにかく日々疲れていったわ。そしていつしかジェレミーがルイを出し抜いて王位についてくれれば報われると考えるようになったの。前王妃が事故で亡くなってからもその考えは変わらなかった。あの子には可哀想なことをしたと思うわ。帝王学を半ば強制的にやらせた分、それ以外の時間は好きにすることを許したの。そうしたらなかなか大胆な……悪い言い方をすれば我儘な子になってしまったのよね。それで、色々と各所で問題を起こすようになって頭を抱えていたところであなたと知り合って随分と変わったのよ。そして先日、あの子が命の危険にあったことで目が覚めたわ。私の復讐など、どうでも良いことに。あの子が無事でいてくれさえすればそれで良い……と。それに無理やりジェレミー派の子女を婚約させるのも違うのではないかとも思うようになった。同時にあの子を救ってくれたあなたには感謝してもしきれない感情が湧き上がってきて……私の考えを改めさせてくれたのはあなた……少し抱きしめさせてもらってもよいかしら?」


 王妃の話を聞いて「はい」と答えるしかない。王妃はリゼを抱きしめると静かに涙を流しているようだった。しかし、次第に嗚咽をあげて泣いてしまった。動揺するが抱きしめ返した。王妃はこれまで溜め込んできたものを吐き出すかのようにしばらくこの状態を続けるのだった。


 そして泣き止むと立ち上がった。


「あなたと勝負をしてね、ここに嫁いでくる前の私を取り戻したくって。こんなことをお願いしてしまって申し訳ないわね」

「私は大丈夫です。それに……私などがこのような話をするのはおこがましいと思いますが、王妃様はとても辛い状況の中でも折れずにここまで……その、そういう気持ちを外にも出さずに……お強い方だと思います」

「ふふ、ありがとう、リゼ嬢。私が男だったらあなたに恋をしていたかもしれないわね。さて、それでは勝負よ」


 王妃は魔法石を渡してきた。魔法やスキルは使わずに一発当てた方が勝ちというルールだ。彼女の武器はエリアスが以前に試していた両剣となる。持ち手の左右に刃がついている武器だ。

 リゼは双剣でいくことにした。王妃が壁際に伸びている紐を引いて合図をすると、外に合図を出来るようになっているようで扉より近衛騎士らしき一人が入ってきた。審判役だろうか。


僭越(せんえつ)ながら審判を務めさせていただきます」

「彼は私が十二歳でこの国にやってきたときから仕えてくれている信頼のおける近衛騎士よ。当時十五歳だったかしらね。あの苦痛の日々をリゼ嬢に話していたのよ」

「あの日々を……少し明るい表情になっていらっしゃいますね」

「吐き出したおかげかもしれないわね。誰にも話したことがない葛藤のようなものを初めて話してしまったわ。では、始めましょうか」


 王妃は距離を取るため、離れていった。審判を務める近衛騎士はリゼにだけ聞こえるように話してきた。


「王妃様はとても心優しくも凛々しい方でした。平民の出の私にも差別なく接してくださっておりました。しかし、あの苦悩の日々が王妃様に与えた影響は絶大だったのです。王妃様は随分と心が晴れたご様子……ありがとうございます。ランドル伯爵令嬢様」


 リゼが返事をする間もなく審判も距離を取っていった。リゼは王妃と見合う形となる。

 審判より「はじめ!」と合図があり、リゼはじわじわと距離をつめていく。王妃は冷静にリゼを眺めていた。そして彼女はゆっくりとリゼに向かって歩いてきた。

 リゼは素早く間合いに入ると王妃の持つ両剣に向けて右手に持つブリュンヒルデを上から振り下ろしつつ、レーシアで側面より切りつけに行く。王妃は冷静に身を引くとかわし、素早くリゼの右側から刃で切りつけに来た。勢いがあるため片手では防ぎきれないかもしれないと考えたリゼは、両手に持つ剣を使って防いだ。しかし、即座に左側から剣が迫ってくる。リゼはバックステップでかわす。


「どうやらこの状態では不利かもしれないわね」


 王妃はそう呟くと両剣の真ん中にある留め具を外し、双剣とした。二人共が双剣、つまり二刀流という状態になった。そして王妃は即座に前進し、左右から攻撃してくる。リゼは後ろにステップを踏んでかわす。しかし、連続で攻撃を繰り出されるため、剣で受けたり、ステップでかわすしかなく、徐々に壁際へと追い詰められてしまう。


(王妃様はゼフティア出身ではないから剣術の型などは度外視の変則的な攻撃方法で来ている。それに突き攻撃は一度もない。きっと、隙が生まれるからね)


 リゼは分析しつつも、攻撃を繰り広げられ続けているため、なかなか攻撃に出ることが出来ない。そして、いよいよ壁際に追い詰められてしまった。こうなると背後にステップで避けることは不可能だ。

 ここで右側から攻撃してきた。おそらく左側に誘導してタイミングを見て一撃を加えてくるつもりだろうと予測する。リゼは攻撃を上方に打ち上げ、右方向に向けて大きくジャンプし、地面を転がると素早く体勢を立て直した。


「やはりあなたはゼフティアの型を使った戦い方とは少し異なるのね。いまの場面だと、ゼフティアで学ぶ一般的な対処法ならまず剣を受け止め、受け流したところで私のもう一つの剣でトドメをさされるところよ。オフェリー嬢と戦っている時にも思ったのだけれど、あなたの剣はなんとなく嗜みとしてやっているわけではないようね」

「ありがとうございます、王妃様。生きるか死ぬかの問題として日々練習しています」

「そう……」


 ここで審判が終了の合図をしてきた。両手で剣を持つ、所謂双剣と戦ったのは今回が初めてであり、良い勉強になったリゼだった。従来であればリゼが一方的に連続攻撃を繰り広げることがあるのだが、一方的に連続で攻撃されるというのは初めての経験だった。慣れていないせいで攻撃に転じる事ができず、成す術がなかったため、分析しようと心の中で誓うのだった。


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