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157.突然、机の上に

 リゼは彼らが治ってよかったと微笑むと部屋を後にした。


「お嬢様、何かしたのです? きっとしましたよね……?」

「ちょっとだけよ」

「いやー、あれをちょっとだけとおっしゃいますか……」


 扉の側で話を聞いていた副団長は「申し訳ありません。少し先程の部屋を確認してきます」とリゼに伝えると素早く部屋に戻りすぐに出てきた。


「……この度は部下たちのこと、感謝いたします。聖女様」


 と、頭を下げてきた。


「決して聖女ではないです! 色々あってお力になれる魔法を覚えましたので使わせていただきました。このことは秘密でお願いしますね……! バレたくないのです……」

「聖女とは二つの要素があると思っています。聖属性魔法が使えること。それから人々を救い導いてくれる方です。私は地方に伝わる噂や言い伝えなどを集めるのが好きなのですが、聖女が『ヒール』という治癒に特化した魔法を使うと、ある村の言い伝えで聞きました。記録などにはきちんと残っていない話なのですが、この手の話はある程度の信憑性があると思います。あなた様がお使いになられたのはその類の魔法だと私は推察します。そして人々に希望を与えてくださる方でもあると考えています。よって、私にとっては聖女様なのです。そして、もちろん他言いたしません」


 熱い語りを聞かされたリゼであるが、良い返答がなかなか出てこなかった。


「困らせてしまい申し訳ありません。ですがお伝えしておきたかったのです」

「あの、お考えには納得しました……。国のために頑張る皆様、とても素敵です。皆様がいらっしゃるため、王都の治安は守られていると思いますし、感謝です。少しでもお力になれましたら私としては嬉しいです」


 これは本音である。いざその時が来たら命をかけて戦うのだ。アイシャから聞いた話なのでその場面を想像するしかないが、慣れない実戦で犠牲者を出しつつも敵を倒そうと頑張ったはずで、仲の良い騎士を失った人もいたことだろう。それなのにすでに外では剣を振っているものもいる。前を向いているのだ。すごいなと感じていた。

  

 屋敷に戻ることにする。馬車に乗り込むと静かにしていたエリアスが「ちょっと良いですか?」と聞いてきたので耳を傾けることにする。


「さっきの魔法、すごいですが、あれは一体……?」

「あれは……昨日の夜に覚えた魔法ですね。治癒効果がある魔法みたいでして」

「もしかしなくても、聖属性魔法、ですよね。やはりリゼが聖女……」

「違いますよ?」


 速攻で否定しておいた。エリアスはリゼの否定を聞いているようで聞いていなかったのか考え込んでいるようだ。アイシャを見ると何度か頷いてきた。聖女以上の存在ですとでも言いたげな表情だ。


(はぁ……でもひとまず戦った皆さんのことを回復出来たし良かったかな。ラウル様に上級ポーションをいくつか渡そうかと思っていたのだけれど、実際に王国の騎士団の方々がどういうところで日々の訓練をしているのか見られたし、少し交流もできたりして、来てみて正解だったと思う。さて、あとは家に帰ったら……あれを渡しましょう!)


 リゼは家に戻るとエリアスと少し剣の練習をした。そして、庭園のベンチで休憩することにした。以前、縁談の話し合いになったときも庭園のベンチに来たことをふと思い返す。

 エリアスも同様だったようで話を振ってきた。


「リゼ、懐かしいですね?」

「そうですね。私もちょうど同じことを考えていたのですが、あまり時間が経っていないのにも関わらず、懐かしく思えてきました」


 それから特に話すわけでもなく、庭園を眺めて過ごした。リゼとしてはあれからアンドレと美術館で知り合って絵画の話で盛り上がったり、ダンジョンに飛ばされたり、帝国の子爵位をいただいたり、エリアスと共にダンジョンを攻略したり、北方未開地に行ったりと色々な出来事を思い返していた。

 ふと我に返り、アイテムボックスよりあるものを取り出した。


「あのエル、ちょっと良いですか?」

「どうしました?」


 同じように庭園の花を眺めていたエリアスがリゼの方を見つめてきた。


「昨日はありがとうございました。特にサイクロプスとの戦闘でみんなを先導していただいたり、悪い人たちと戦ったり、オルトロスと戦ってくださったり。本当に助かりました。こちらはお礼です」


 リゼは『劫火(こうか)の宝珠』と『五芒星のブローチ』を渡すのだった。赤い丸色の手のひらサイズの宝石と、金色のブローチだ。エリアスは驚きながらも手に取った。


「ありがとうございます! 一生大切にします!」

「喜んでいただいてよかったです。赤色の宝石は『劫火(こうか)の宝珠』と言いまして、火属性魔法が上級まであがり、さらに熟練度が最大値に達したときにさらに上のランクに到達することが出来るものです。そして、ブローチはお守り代わりと言いますか、きっとエルが持っていると良い効果が現れるかもしれない可能性を秘めています……!」


 エリアスはだいぶ喜んでくれているようで、胸にブローチを取り付けた。


「どうでしょうか、リゼ。似合っていますか?」

「はい、とても似合っています」


 ブローチを指でなぞるとエリアスは頷いた。そして、立ち上がると跪いた。


「リゼ、君の剣として生きると決めていたけど、改めて宣誓させてほしいです。僕の剣は生涯、敬愛するリゼ=プリムローズ・ランドル嬢、ただ一人のために振るうということをここに誓います」


 唐突な出来事に何事かと思ってしまうが、エリアスを見ると頭を垂れている。これは騎士の誓いとは別のもので、エリアスなりの覚悟を示してきているのだろう。どうすればよいのかと一瞬考えてしまうが、エリアスの頭を抱きしめることにした。


「エリアス・カルポリーニ様。私もあなたが苦しい時、悩める時、必ず力になると誓います」


 しばらくしてエリアスから離れると、「ありがとうございます、リゼ」と見上げてきた。それからしばらく一人で考えたいようで、部屋へと戻っていった。エリアスは明日、領地に騎士と共に戻るらしい。


 リゼも部屋へと戻ることにした。部屋に戻るとソファでリアが寝ていたが、リゼの姿を見るなり立ち上がった。リゼは(何か話でもあるのかな?)とリアを見つめる。リアは机の方を指さしてきた。


「さっき、机が光り輝いて何かと思ったら手紙が置いてあった」

「あー、そうなのね。何かな……」


 リアはまたソファに寝転んだ。毎度のことであるが寝るのが好きなようだ。

 机の上を見ると確かに手紙が置いてあった。光が発せられて手紙が現れるなど、ただことではない。戦闘ウィンドウで念のため見てみるが特に反応はなかった。


「うーん、そういえばミカル様から手紙をいただいたことがあった。あの手紙はアイテムボックスに入っていたのだけれど。同じように誰かしらが手紙をくださったのだったり……?」


 読んだら消えるかもしれないので日記をアイテムボックスより取り出すと神々のメッセージや手紙の内容を記載しているページを開いた。そして手紙を開封する。


『やぁ、フォルティア。ぼくを覚えているかな? 叡智の神、アリオン!』


 この手紙は叡智の神アリオンからの手紙らしい。相変わらず元気だ。続きを読んでみることにする。


『覚えているかな? ぼくがあげた加護の効果のこと! 非表示のステータス値を表示可能というものを授けたんだけどね? あれ、全然活用していないよね。せっかくあげたのに使わないのはひどいよ~!』


 心の中で(ごめんなさい……)と謝るしかない。リアやキュリー夫人と話した結果、人にはそれぞれ到達できる限界値があり、さらに能力に個体差があるということまでは一応考えたのだが、それ以上考えることを止めてしまっていた。どうやって使うのか、まだ分かっていない。


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