155.夢について
ふと目を覚ます。まだ早朝なのか陽の光がうっすらと部屋にさしている。
「いまの妙にリアルな夢は一体……? ……待って。重要な気がする。書き出してみましょう」
リゼは起き出して机に向かうとアイテムボックスより日記を取り出して広げた。まだ夢を鮮明に覚えている。リッジファンダジアのエリアスルートのグッドエンドを見たこと。タイマーが作動したこと。リッジファンダジアのファンディスクの裏面に『ルイの真実が遂に明かされる』と書かれていたこと。アプリ版リッジファンダジアでエリアスルートのグッドエンド条件達成報酬の受け取り処理をしたことなどだ。
「ゲームが二十八本あったこともメモしておきましょう。見たところシュリンクされているものはなかったから全部開封していてプレイ済みなのよね……? 自然と口から出てきたシュリンクという言葉、きっと前世の言葉だと思う。透明な袋みたいなものでパッケージを覆うあれ……。まあ、それはさておき、なんだったのかな。きっとあれは私の前世の部屋、よね。部屋にあったものをうまく説明出来ないのだけれど、脳内の映像を見る限り、便利な世界だったみたいね」
しばらく考え込む。このような夢を見るということは何かの意味があるだろうからだ。普通の夢とはまったく違っていた。そんな夢を見るということは神々が絡んでいそうだと感じていた。
なにか変化がないかウィンドウシステムを順番に見てみるが変化はなかった。
ふとアイテムボックスを開いて見ると、夢の中で受け取り処理をしたものが格納されていたのだ。聖属性魔法とアイテムが一つずつである。
(やはり……なんとなくあの報酬を得られたのではないかと思っていたのよね。意味のある夢だったようね)
アイテムボックスから聖属性魔法を手を使って取り出すことは出来ないため、アイテムボックスの一覧表示から選択すると『加護を使用して習得しますか?』と表示されたので『はい』を選択した。すると魔法陣が展開され、ほどなくして消えるのだった。
「マジックウィンドウを確認ね」
リゼはマジックウィンドウを表示してみた。
【属性熟練度】
『風属性(初級):0940/1000』
『氷属性(初級):0942/1000』
『無属性:0101/5000』
【魔法および魔法熟練度】
『エアースピア(風):100/100』
『ウィンドプロテクション(風):097/100』
『ウィンドウェアー(風):084/100』
『ウィンドカッター(風):067/100』
『スノースピア(氷):100/100』
『アイスレイ(氷):099/100』
『アイスランス(氷):064/100』
『アブソリュートゼロ(氷):058/100』
『インフィニティシールド(無):1367/2000』
『スキルアブソーブ(無):1050/2000』
『セイクリッドスフィア(聖):059/100』
『キュア(聖):050/100』
リゼが知らない魔法があるため、新しい魔法を習得したようだ。
「えっと、これ、かな? キュア。詳細を見てみましょうか」
『キュア 備考:ヒール及びヒーリングの上位魔法。対象の傷、病気、マナ枯渇、状態異常を回復します。(応用:無詠唱も可能となり、効果範囲を拡大します。また、人間以外にも有効となります)』
説明を読み、かなり気分が高揚してきたリゼである。所謂、世界樹の葉を魔法にしたようなものだ。世界樹の葉は胸の上に置くという作法が必要であり、緊急時にはあまり向いていない。だが、この魔法は無詠唱で発動でき、何かの動作が必要というわけではない。どのような状況でも対応でき、非常に便利だ。
「すごい! これは……すごい! ありとあらゆる場面で使える最高の魔法よ。つまり、アブソリュートゼロを発動してもすぐにキュアを使えばマナ欠乏状態からすぐに回復出来るのよね。もしかすると、この魔法ってあれかな。聖属性魔法を会得しても普通は覚えられないタイプの魔法なのでは……わざわざ報酬とするということは、きっとそうよね。それに人間以外にも使えるということは、リアにも使えるということに!」
だいぶ興奮してしまっているが、少し落ち着きを取り戻すとアイテムボックスの中身を見てみた。火属性魔法のクラスアップアイテムもあるはずだ。
『劫火の宝珠(火属性) 備考:上級魔法から最上級魔法へのクラスアップに必要となります』
『五芒星のブローチ 備考:エリアス・カルポリーニが装備することで効果を発揮するブローチ』
無事に手に入っていた。これはエリアスのグッドエンド条件達成記念のアイテムなので、エリアスにプレゼントするのが良いだろうと判断するのだった。
また、エリアス専用のアイテムは五芒星のブローチというものだった。これもリゼが持っていても仕方ないし、エリアスのために使ってあげたいため、お礼としてプレゼントすることにする。
「それにしても、私、リッジファンタジアのストーリーを断片的にしか思い出せていないことになるのよね。エリアスのグッドエンドなどのように思い出せていない展開があるかもしれない。覚えていないということは何かしらの地雷を踏む可能性がある。気をつけないと……。もしかすると、段階的に思い出していくのかも。そうであってほしい……。あとあの部屋で覚えていることって何かな……よくよく思い出すのよ、私」
リゼはとにかく集中して部屋の映像を振り返る。机の上の日記にはアンドレの絵が描いてあった気がした。前世の自分が気に入っていたのかもしれないと思った。それから書いてあったのはゲームの記録のようなものだった。攻略サイトのようなものを見ないで攻略しようとしたようで、地道に自身のパラメータ変化や好感度の推移をメモしているデータのようなものだったはずだ。各キャラごとに数字などが書かれていたのだが、ルイのところだけは異様に沢山書き込まれていた気がしていた。
「ルイだけ攻略するのが大変だったということ、かも? 結構、数字がマイナスされていたりしたから、一つの言葉や行動で好感度が下がりやすいということかもしれない。クローゼットの中はコートとかワンピースとかベレー帽が入っていたっけ。とくに重要な要素はないはずよね。机の上のポストカードはクロード・モネという前世の世界の画家の絵だった。私が好きな印象派を創設した方。でも、あまり意味はないはず。まあ、実際の絵を見てインスピレーションは湧いたからありがたいことではあるよね。えっと、あとは棚の中のゲームは二十八本あったっけ。一つ思い出したのはリッジファンタジアを発売したブランドって他のゲームも出していたのよね。その事実だけは思い出すことが出来た! つまるところ、リッジファンタジアはルーク様が作ったゲームなので、他にもゲームを作っていたことになる。同じ世界の別大陸の話だったりするのかな。ワールドマップウィンドウでこの世界を見ると海を隔てたかなり遠いところにも大陸があったりするのよね。何も思い出せないのがつらいところね……」
するとアイシャが部屋に入ってきた。リゼの独り言が断片的に聞こえてきたのか笑顔で話しかけてくる。
「お嬢様? 何だか盛り上がっている感じですか?」
「実はそうなの」
独り言を聞かれており、ちょっと恥ずかしくなったリゼだ。
「楽しそうで何よりです! それにしても昨日は大変でしたね。日々練習していなかったら色々とまずかったかもしれませんね……」
「そうね……。そういえば、昨日の狩猟大会で陛下を襲った賊に対して、フォンゼルさんたちが何をしたのか教えてくれない? 国王陛下がそういうような話をしていらして、気になっていたのよね」
昨日はそこまで頭が回らなかったが、アイシャの顔を見て「ランドル子爵の騎士、メイド」が賊を倒すのを手伝ってくれたというような話を思い出したのだ。まだその話を聞いていなかった。




