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153.誓い

 少し紅茶を飲んで落ち着いたところでエリアスが口を開いた。


「今日はリゼと共闘出来てよかったです。そして、そうですね……成り行きとは言え命を奪ってしまったことをずっと考えていました。彼を殺さずになんとか出来なかったのかと。でも、一瞬でも妥協すればリゼの命が奪われたかもしれないと思うと、四連斬りを発動したのは間違っていなかったと僕は思います。同じ状況がまたあれば、同じように発動するでしょう。彼に家族がいるなら恨まれると思いますし、そういった責めは負う覚悟です」


 リゼもそのことはヘルマンから連絡をもらう前にベッドで天蓋を見つめながら考えていたことだ。フォンゼルから「安心してください。きっと真の修羅場に遭遇すればいずれは割り切りが出来るようになるでしょう。今は戦場に出たわけではないので仕方ないかと思います」と言われたこともあったが、いまは修羅場というものを実感していた。


「そうですね……私もそのことは考えていました。この問題は今後、時間をかけて考えていきたいと思っています」


 まだあの時にどのように立ち回れば正解だったのか答えは出せていない。かといって、手加減をすればこちらがやられるという感覚は今回のことで理解できた。そして、この問題にどのように向き合っていくのかは時間をかけて考えていくことにしようと思うのだった。まだまだ答えを出すことは出来ない。二人はしばらく静かに紅茶を飲んだ。それからエリアスに夜風にでも当たりましょうと言われたのでベランダに出て風に当たった。


「そういえば、リゼに一つ聞きたいのですが、いまのリゼは何のために強くなろうとしているのですか? 貴族令嬢が身を守るのには十分すぎる力を得ていると思いますので、何か目指していることがあるのかなと」


 予想の斜め上をいく質問にリゼは少し驚いた。しかし、友人であるエリアスには話しておこうと決意する。元々はリッジファンタジアの展開通りになった際に対応できるようにというのが行動原理であるが、いまは少し異なるものになってきている。


「エルは今後この平和が続くと思いますか? 推測ですけれど、この世は試練の神アレス様によって定期的に試練をかされているのです。話すと長くなるのですが、私、実は北方未開地に転移して、色々あって領地になりました。北方未開地には昔、帝国があって、当時の書物に試練の神アレス様の試練についてが書かれていまして、その時はある方の活躍によって試練はクリアされたようです。そして……これは信じていただけるか分かりませんが、ルーク様から災害のようなことが起こると……あー、お聞きする機会が過去にありまして……。さらに神官様より『全ての扉が開かれる』という秘密の神託をアンドレの式典の時に聞いていたのです。なので、その扉が開かれるというのは試練の神アレス様による試練なのかなと推測しました。その試練に対抗するために強くならないといけないと思っています。アイシャやリアはその時が来たら一緒に戦ってくれると約束してくれたので、みんなで北方未開地のモンスターを狩ったりしてレベル上げをしています! あ、北方未開地にはモンスターがいるのです。ダンジョンから抜け出てきたようでして」


 ルークから聞いた話を人にしたのは初めてだ。今日は戦いなどがあって、少し思い切りが良くなっているのかもしれない。エリアスはうなずいた。


「そういう事情があったのですね。理解しました。一つ約束しましょう。僕もその時が来たら共に戦いますよ。それまでに強くなります。僕の領地は南方未開地が近いので渡航してみようかな……。とにかく、その試練というものがどれほどのものかは分かりませんが、勝ちましょう! 力を合わせればきっと大丈夫ですよ」


 エリアスが一緒に戦ってくれると宣言してくれる。リゼは感動してしまった。まさかそうなるとは思っていなかったためだ。


「エル、なんて言えば良いのか……すごく嬉しいです。ありがとうございます!! おかしな話をしてしまいますが、私の予想では人々を導く方がいらして、その方を中心に戦うことになるのだと思います。私は少しでもお役に立てればと考えています」


 おそらくレイラが先導して立ち向かってくれるのだろうと考えているので、少しぼかして話してみた。


「リゼ以外に試練に立ち向かおうとする人物がいるのですか? おそらくきっと、何か予感めいたものがあるのですよね? 信じます。僕たちはその人が驚いてしまうくらい強くなってしまいましょう。どんな人が出てきてもリゼが協力するなら僕も協力します。リゼのおかげで僕は足を踏み外さずに済みました。何があってもリゼの味方であると約束します。改めて……僕の命は君に捧げさせてほしい。僕は君を守る剣として生きていきたい」


 真剣な表情で手を握ってきた。リゼはまた驚いた。だが、とにかく嬉しさが大きい。

 真剣なエリアスに対してリゼは微笑んだ。日々、練習をする中で試練や未来に関しての一抹の不安というものが心の片隅にあった。だが、こうしてエリアスが仲間になってくれたことで勇気づけられた気がするのだった。

 それに最後の言葉はなぜか懐かしさを覚える台詞であった。自分のために命を捧げてほしくはなく、命を大事にしてほしいと考えてしまうが、試練に立ち向かうためにはお互いにそれくらいの覚悟が必要だと認識した。


「ありがとうございます。私もエルの危機には必ず駆けつけますし、何かあれば全身全霊を持ってエルに協力します。ここでエルに会いに来た理由を思い出したのですが、今日はありがとうございました! とても危険な状況でしたが二人だったのでオルトロスと戦う時に安心感がありました。危険かもしれないのにすぐに駆けつけてくれて嬉しかったです。あ、あとバルニエ公爵が失踪したみたいです。私とアンドレをダンジョンに転移させたのもバルニエ公爵だった証拠が見つかったみたいで驚きました。あの事件の少し前に転移石を購入していたと……」

「こちらこそありがとうございました。バルニエ公爵が……でも犯人が判明してくれてよかったですよ。実はうちの騎士の何人かには王都で聞き取り調査などを密かにさせていたのですが、何も分からない状況が続いていて歯痒い思いをしていたので」


 エリアスはそれとなく話をしてきたが、リゼとしてはまさかそこまでしてくれていたとはまったく思ってもおらず、感謝しかない。


「あの、本当にありがとうございます……! 騎士の皆様にもお礼を伝えたいです……!」

「当然ですよ。リゼが思っているよりもリゼのことが大好きですからね、僕は。リゼに危害を加えようとした者のことは許せないのでなんとしても見つけてやろうという気持ちでした。騎士は今度連れてきますね」


 リゼは自分の知らないところで色々な人たちに助けられているのだということを改めて感じていた。そういう人たちに少しでもなにかしてあげられたら良いなとも思うのであった。

 ふと先程からずっと手を握られているということにも気づいて急に緊張もしてきた。


「そういえば北方未開地について知っているのは誰なんですか? 一度行ってみたいですね」

「あー、最初に転移したのは私とアイシャとフォンゼルさんです。その後はリアも。あとはラウル様も転移する際にお会いしたことで一緒に転移されました。あとは家族とヘルマン様ですね」

「ほとんど誰も知らないわけですか。僕としてはアンドレ王子よりも先に行きたいですね!」

「そこは勝負的な感じになるのですね……いまから行きますか?」


 エリアスは是非とも行きたいということだったので、念のためリアに念話で北方未開地に行くことを伝えた。そして、私室に向かうと、アイテムボックスより転移石を取り出し、エリアスと共に転移するのだった。

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