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151.尋問

 そんな話が繰り広げられている最中、リゼたちは屋敷に到着した。


「今日はとんだ災難だったな……。処置が遅かったら死んでいたかもしれない。オルトロスの前足には毒があるそうだからね」

「この胸当てをつけておかなかったら、傷が深くなって致命傷だったかもしれません……」


 前足で殴りつけられたわけであるが、胸当てのおかげで死ぬような致命傷は受けていない。だが、胸当てが破壊されており、少し服が切れ、血の跡がある。毒耐性スキルや衝撃耐性スキルによって致命傷にはならなかったと思われるが、スキルなどを知らない伯爵たちは深刻に事態を捉えていた。なお、上級ポーションによって傷はなくなっている。


(たぶんスキルのおかげね……毒耐性で毒を解毒して、衝撃耐性で諸々のダメージを吸収したというか……)


 リゼは胸当てを外した。改めて見ると完全にひしゃげているし、爪で抉られた跡が残っていた。


「防具は身を守るためにあるのだから、やはりつけるべきだということが分かった日になったようだね。それで、話を整理しておこうか」


 リゼは伯爵たちに謎の集団やサイクロプスやオルトロスについての詳細を話して聞かせた。


「なるほど。これはあれだな。国家として非常事態とも言える事態になってきたね」

「そう思います。このような露骨なことをして国が黙っているとは思えません。それと私には何か別の意図があるような気がしてならないです。殺せなくても最低限、混乱させられれば良いといいますか……実は強そうな人が私と戦わずに転移したのです」

「うーむ。単純に逃げただけの可能性もあるが……その場の空気感などは分からないのでなんとも言えないけど、リゼが直感で何かを感じたのであれば陛下には伝えておこう。とにかく娘が危険な目にあったわけだから、今回の件について説明はしてもらわないとね。その時にでも伝えてみよう」

「ありがとうございます。警備を担当していたのはドレ公爵様なので、そこに追及がいくようなことにならないと嬉しいです……転移石を第一騎士団が警備する前に置かれてはどうしようもないですし……」


 今日はラウルとはメッセージでやり取りをしたが会えなかった。きっと宜しくない状況になっているはずだ。紅茶を飲みつつ、ラウルにメッセージを送っておく。


『ラウル様、私もエルも無事でした。ジェレミーたちも。ラウル様は大丈夫ですか?』


 いつも瞬時に返信してくるラウルが返信してこないということは調査などで追われているのかもしれない。


 ◆


 狩猟大会の会場では、捕虜の尋問が続けられていた。魔法を発動できなくする聖遺物の鎖で数珠繋ぎにされている。

 尋問を担当するのは第二騎士団だ。


「皆さん、ご苦労さまです。それでは……続きは私が実施いたしましょう。えーと、なるほど。まずあなたたちは全員冒険者だということのようですね。嘘ではないか確認したいので、ステータスウィンドウの共有をお願いします」


 誰も動こうとしない捕虜たちを見て、第二騎士団の団長が一人の男の足に剣を突き立てた。

 捕虜は悲鳴を上げた。突き刺されたのは弓でジェレミーやリゼを襲った男だ。


「勘違いされているようですが、私の言葉はお願いではなく、全て命令ですからね」


 男は剣を抜き、もう一度突き刺した。刺された男は痛みに震えながらステータスウィンドウをすぐに共有した。

 他の捕虜たちもすぐさまステータスウィンドウの共有を行った。結果的に分かったことは、全員が冒険者であるということのみだった。出身国はゼフティア王国、アレリードなどである。そして、ジェレミーをいたぶった男のように残虐な性格のものもいたようであるが、全員が雇われたから殺そうと思ったという話をした。


「そうですか。それで、そちらの隊長さんにお聞きしたいのですが……」


 男はサイクロプスを連れてアンドレを狙って襲ってきたグループのリーダーに顔を向けた。

 この男はリゼと一対一で戦ってウィンドカッターによってやられた者だ。


「俺も雇われたんだ。詳しいことはわからん」

「アンセル・ベイルさん、質問する前に勝手に答えるのは止めてくださいね。次はないですよ。さて、お聞きしたいことはどこで誰に雇われたのですか、ということですね」

「ゼフティアのクラヴェル領だ。ダンジョンがあるという話で領内に入って、酒場で仲間と一杯やっているところでな。まず最初に話しかけてきたのは若い女だ。そいつに連れて行かれた先にはフードを被った男が居て、そいつから報酬の話を聞いてやることにした。顔はよく見えなかった」

「なるほど」

 

 その後、男は腕に剣をあてられると勢い良く切り裂かれた。男は痛みで顔を歪める。


「これは先程、勝手に話を始めた罰です。今後はお控えくださいね。皆さんもお願いしますね。私とて、このようなことはしたくないのですから」


 それからしばらく尋問が続けられた。

 そして、報告を聞いた王は苛つきを隠せない。


「つまり、何も分からぬということではないか。誰が命令したのか、それが重要だ」

「申し訳ございません、陛下。ですが、もう少し締め上げれば何か吐くかもしれません」

「ゼフティア王よ。このような事をしでかすにはそれなりの資金力が必要だ。転移石は安くないしな。おそらくモンスターはデルナリ国で調教されたものなのだろうし、三十人の暗殺部隊を編成してということは裏でそこそこの金が動いている。だいぶ大掛かりに準備されたものだろう。金を持っている貴族か商人しかおらぬな。少し二人で話せるか?」

「ブットシュテット大公、分かりました。全員下がれ」


 ヘルマン以外の者たちは退出していった。


「おぬしの怒りは十分に理解できる。わしとて孫が襲われたのだ、到底看過出来る話ではない。だが、一度落ち着く必要がある。混乱しては黒幕の思うつぼであると思わんか? 事態は深刻だが、幸いにも王子たちは無事だ。わしが思うに黒幕をあの捕虜たちからたどることは難しい。有象無象の冒険者共は金のために話に乗っただけで詳しいことは聞いていないだろうからな。そして肝心の黒幕、あるいはその関係者が貴殿の側近に潜んでいる可能性もある。あの捕虜どもに下手な入れ知恵をし、混乱を招こうとするかもしれない。捕虜の尋問は終了とし、これ以降捕虜が何をほざいたとしても無視するのが良いだろう」


 ヘルマンはあくまでも私見を伝え、一度冷静になれという旨の話をした。ゼフティア王は自身が開いた狩猟大会をめちゃくちゃにされて怒りに満ちていたが、少し冷静になったようだ。


「左様ですな……。しかし、側近に何かを企むものがいるとしたらどうすればよいのか……」

「そういう輩は信用させて自分の考える方向に物事を誘導しようとするはずだ。よって、側近の話を注意深く聞くことが重要だ。わしの考えであるが……この危険な状態になりうる狩猟大会を誰が企画したのかということまで振り返ってみるのが良いだろう」

「原案では剣術大会もしくは狩猟大会ということでした。狩猟大会を選んだのは私ですな……平和ボケしすぎていたかもしれません。原案では騎士を伴わないとなっていたのですが、よくよく考えずに許可をしてしまった。十二歳の者たちのみで騎士を伴わずに参加させるというのは、愚かでした。それが付け入る隙を与えてしまった。あなたの孫であるアンドレを危険な状況に陥らせたことを謝罪させていただきたい。なお、原案を作った者の一覧はすぐに分かると思います」

「そやつらの直近と今後の動きを調べるのが良いだろうな。場合によってはアリバイを証明させる必要がある」


 その後、王は原案を考えた者たちの一覧をヘルマンと確認するため、狩猟大会の会場をあとにする。


「捕虜の尋問は一度停止する。あとは近衛騎士に王宮まで運ばせるため、お前たちは明日まで森の中に転移石がないか確認せよ」

「承知いたしました。お任せくださいませ」


 会場を出る前に王は第二騎士団に対して命令をした。

 それから王たちは王宮へと戻ると原案を作った貴族を早急に呼びに行かせるのだった。

 しかし、バルニエ公爵が行方不明になっているという件がここで明るみになった。


「ゼフティア王、その公爵とやらは確かルイ王子の婚約者の家系であったな。このタイミングで居なくなるというのはどうもおかしい。作戦が失敗した故に逃亡したのかもしれない」

「なるほど。ではすぐに捜索させましょう」


 その後すぐに、バルニエ公爵邸の捜索が行われたが、夕方あたりにバルニエ公爵邸の執務室で出火があり、部屋の中身はほぼ燃え尽きていた。かろうじて燃え残った手紙を精査したところ、デルナリ国と調教済モンスターについてやり取りがあることが発覚し、指名手配されることになるのだった。捕え次第、裁判を執り行うこととなる。また、リゼが巻き込まれたダンジョン転移事件の数日前に転移石を購入していることも発覚した。

 エリアナや公爵夫人は判決が出るまでの期間、王宮の騎士による監視対象となった。


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