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149.狩猟大会、終了

 リゼはふいに目を覚ます。


(あれ私、どうなったのだっけ……確かオルトロスを倒してロイドたちが来て……)


 どうやら寝かされているようだ。少しばかり頭が痛む。目を開けると心配そうに見つめるジェレミーとアンドレがいた。すぐにアンドレが話しかけてくる。


「リゼ……大丈夫?」

「ジェレミー……にアンドレ……?」

「良かった……目を覚ましてくれて」

「あれ、眠ってしまっていましたか……?」


 アンドレが「だいぶぐっすりと眠っていたよ」と答えてきた。

 押し黙るジェレミーとは裏腹にアンドレはリゼの手を握り、笑顔を見せてくる。


「そうですか……目をつぶってそのまま寝てしまったのかもしれません……あの、お二人は大丈夫なのですか?」

「うん。おかげさまでなんとかね。危険な状況でリゼを追いかけられずに気を失ってしまったことは一生の恥だと思っている。もっと強くなるよ。ロイドに殴られたくらいで気絶していては君を守れないからね」

「ふふ、きっと私など相手にならないくらいに強くなりますよ。ジェレミー……さっきから静かですけれど……?」

「……私は少し席を外しておくよ」


 アンドレはすでに目を覚ましているが、リゼと同じように寝かされているエリアスの元へと向かった。彼も眠ってしまっていたのかもしれない。エリアスはリゼが目を覚ましたと聞いて喜んでいる。


「あの、ジェレミー、静かですがどうしたのですか? 無事で安心しました。とてもひどいことをされていましたし、私、少し怒りで何も考えられなくなりました」

「いや」

「はい?」

「……」


 ジェレミーは悲痛な面持ちで下を向いている。


「怪我はしてないのですか?」

「……ごめん」

「急にどうしたのですか」

「僕としたことが……しくじったよ」


 急に膝をつき地面を殴りつけるジェレミー。珍しく涙も見える。初めて見たジェレミーの涙にリゼは唖然としたが声をかけた。


「あの男の人たちとの戦いのことですか?」

「そう。僕が倒しきれなかったせいでリゼに危険が及んだ」

「私は生きていますから、そんなに自分を攻めないでください。それにミュレル侯爵令嬢を守りながらの一人での戦いだったのですよね? 私はエルと二人で対応しましたから……あの人数を相手に一人では難しいですよ……それよりも、一人で持ちこたえたことを誇るべきです……!」

「……とにかく反省だよ。また気持ちを整理したら話そう。それと、ありがとう、リゼ。命の恩人だよ」


 ジェレミーは落胆しつつ、リゼを一瞥(いちべつ)するとその場から離れていく。だいぶ責任を感じているようだ。入れ違いのように、エリアスが担架に乗せられてやってくる。彼の騎士がエリアスをここまで運んできたようだ。


「リゼ! 無事でよかった……」

「エルも……! 大変な戦いでしたね。エルも眠ってしまっていたのですか?」

「はい。気づいたら意識がなかったです」

「思えば今日は大人の殺し屋のような人たちからモンスターと連戦でしたよね……疲労もあって体が動かないです。上級ポーションを飲んだはずなのに……」

「ははは、僕もですよ」


 体を動かそうとしてみるが、うまく動かない。怪我などはないため心配はしていないのだが、冷静に戦闘を振り返ると衝撃耐性のスキルがなければ、あの前足の薙ぎ払い攻撃を乗り切ることは出来なかったかもしれないと考えた。


「生き残れてよかったですよね。しかし、ランドル伯爵たちに何て言えば良いか……」

「そうですね……。お父様たちには……きっとリチャード経由で伝わっていると思います。あと、エルのおかげで生き残れましたって言いますよ。また危ないモンスターと戦ったのかとは言われてしまうでしょうけれど……」


 それから二時間ほどが経過し、いつの間にか夕方になる。安静にしていたこともあり、リゼもエリアスも立ち上がることは出来るようになっていた。


「色々とあったが……」


 重々しい空気の中、主催者である国王が話し始める。


「まず、謝らなければならない。安全なはずの狩猟大会にあのような賊やモンスターが出現したこと。しかし、この森にはワイバーンやサイクロプス、オルトロスといったモンスターが出現するはずがないのは確かなことであるし、前日の夜から騎士たちが配備についていた。どうやらそれよりも前に転移石を配置されたのだと推察される。この件は捕らえた者どもを尋問し、すぐに調査する。死者は騎士五名、賊二十二名だ。それから狩猟大会に参加した者たちは難を逃れた。そして、賊五人への対処を行ってくれたブットシュテット大公、ブルガテド帝国の公爵、それからランドル子爵の騎士、メイドには感謝してもしきれない。さて、混乱もあってそれどころではないと思うが、優勝は……賊十人を相手にし、オルトロスを討伐したカルポリーニ子爵令息、ランドル伯爵令嬢のグループとする。なお、次点はサイクロプスにトドメを刺したパーセル伯爵令息とアンドレという結果だった。優勝者たちへの景品の件はまた別途連絡する。皆、優勝した二人に敬意を」


 誰しもがそれどころではないという雰囲気であるが、参加者たちから拍手が送られる。解散だ。

 いつの間にかリアが近くまで来ていた。


「ご主人様」

「リア、アンドレのことありがとう。屋敷についたら泥人形をあっちに転移してもらいたいのだけれど、お願いしても大丈夫?」

「分かった。任せて」


 泥人形をどのように屋敷まで運ぶべきかなと考えながら泥人形のところへと向かうと、近くには王妃が立っていた。


「リゼ嬢。ジェレミーの窮地を救ってくれたこと、感謝してもしきれないわ……きっと、あなたがいなければ息子は死んでいたでしょう。命の恩人……ね。あなたには恩が出来てしまったわね」

「王妃様、こちらのテントも襲われたと聞きましたのでご無事で何よりです。ジェレミーは私にとって初めてのお友達なので、救出することが出来て本当に良かったです」

「お友達、ね。とにかくあなたには別途お礼がしたいのだけれど、また連絡させてもらうわね。あ、そうそう。ジェレミーの話ではある日に突然会得した加護のお陰で即死しなかったのかもという話だったわ。加護って重要なのねと知ったわ」


 さらに王妃は「この者たちはあなたの魔法なのよね、ランドル伯爵邸まで運ばせるわね。カルポリーニ子爵令息、あなたにも感謝よ」と言うと、リゼが感謝をする間もなく素早く王妃はまだ建てられているテントの方へと歩いていった。

 テント内では王、テレーゼ、ヘルマンが深刻そうな顔をして話をしていた。

 アンドレがやってきてヘルマンの伝言を伝えてきた。


「リゼ、帰るんだよね? お祖父様がまた別途感謝させてほしいとのこと。とても深く感謝していたよ。ブルガテドの騎士も増員して屋敷まで送り届けるから安心してほしい」

「ありがとうございます! アンドレも気をつけてくださいね。とくにいきなり襲われたり、毒などを盛られたりしないように……!」

「そこは大丈夫。毒見役が毒耐性スキルを持ったお祖父様の忠実な部下なんだ。それと騎士は増員するらしい。お祖父様曰く、ゼフティアの近衛騎士だと頼りにならないかもしれないとのことでね……」

「安心しました……! なるほどです……」


 それからアンドレと少しだけ話をした。どうやらテレーゼはリゼが目を覚ます少し前まで近くで看病をしてくれていたようだ。テレーゼがこちらをチラチラと見てきているが、深刻な話をしているため、こっちには来れないようである。リゼは彼女に会釈をし、エリアスと共に家族たちの元へと向かうのだった。

 

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