147.決戦、上級モンスター
リゼは戦闘ウィンドウでオルトロスを確認する。
【名前】オルトロス
【レベル】20
【ヒットポイント】651/651
【加護】なし
【スキル】スティールウィップ
【武器】なし
【魔法】ダークフレイム・インフェルノ
ふと〈知識〉の情報が頭の中に浮かんできた。エリアスのレベル上げのために潜ったダンジョンで遭遇したことがある。
(上級ダンジョンの道中に出てくるモンスター! 上級ダンジョンの道中に出てくるモンスターは中級ダンジョンのボスモンスター並みかそれ以上に強い!)
リゼが対応策を考える時間など与えてくれるわけがない。オルトロスは駆け出してくる。想像以上に素早く、そしてリゼたちを飛び越えてジェレミーに攻撃しようとする。
「ひっ……ぁ……きゃあ!!!」
オフェリーの叫び声が響き渡った。
「させません! アイスランス! 形状変更!」
氷の槍がオルトロスの腹に命中する。ジャンプが失敗し、オルトロスは落下した。角度が悪かったのかアイスランスが突き刺さりはせず、致命傷にはなっていない。セイクリッドスフィアの光線も命中する。そしてリゼは神器を剣の形へと形状変更した。伯爵からもらった剣と剣の形となった神器を両手に持っている状況だ。
「ウィンドカッター! フォーススリープ!」
オルトロスが体勢を整える前に追撃を加える。しかし、オルトロスは思ったよりも素早く、二つの風の刃をかわし、睡眠魔法は尻尾の蛇が炎で打ち消した。そしてオルトロスも他のモンスターと同様にセイクリッドスフィアの球体を忌々しく見つめてきた。
獲物を狩る弊害になると認識したのか、リゼとエリアスを二つの犬の頭が威嚇してきた。魔法に対して警戒心が強く避けられると判断し、エリアスに対して頷くとウィンドウェアーを発動して素早く切りつけに行く。エリアスも後ろから続く。オルトロスは左の頭で噛み殺しに来た。
「燕返し!」
リゼのスキルが発動し、オルトロスの左の頭は上方へと突き上げられ、さらに左右から剣で攻撃を受ける。しかし怯むことなく、すかさず尻尾の蛇が炎で攻撃してくる。口を開け、炎をためる。
「ウィンドプロテクション!」
吐き出された炎をギリギリのところで防ぎ、爆散させる。また、エリアスには右の頭が噛みつこうとするが、彼はバックステップでかわした。そして素早く突き攻撃で突き刺した。
更にリゼは「ソードゲネシス」と叫ぶと、紫色の剣が二本出現し、オルトロスの胴体に突き刺さりダメージを与えると剣が消滅する。左の頭が痛みの叫び声をあげる。リゼとエリアスは後方に下がり距離を保つ。
(攻撃は当たっているけれど、尻尾をなんとかしないと、いずれタイミングがずれてやられる……! 近距離戦は危険ね。魔法攻撃に対しては随分と警戒しているようだけれど、私が覚えている魔法攻撃で牽制して避けて隙が出来たところで神器の上級魔法を当てましょう!)
「アイスランス! ウィンドカッター!」
「ファイアーボール!」
「エアースピア! スノースピア!」
連続で攻撃をする。エリアスも同じように魔法で攻撃してくれた。オルトロスはソードゲネシスのダメージが思ったよりもあるようで、避けきれないのかリゼの放った魔法が予想外にすべて命中する。氷の槍は相手の左足を吹き飛ばした。
「アイスレイ!」
魔法が命中し、オルトロスの注意が逸れたところでアイスレイで動きを止めた。
「セイクリッドスフィア!」
もうすぐ魔法の効果が切れてしまうと考えたリゼは念のためセイクリッドスフィアをもう一度詠唱した。
アイスレイで身動き取れないオルトロスに対して容赦なく浄化の光線が五つの球体より放たれる。オルトロスは左足を失っていることもあり、光線を避けようとする度に体勢を崩して避けきれずにダメージを受ける。
だが流石は上級ダンジョンのモンスターであろうか、尻尾の蛇が火を吐きアイスレイを強引に破壊すると、スキルを発動してきた。尻尾の蛇が固くなり、リゼたちを薙ぎ払いに来る。ギリギリのところで結界を展開し、攻撃を防いだ。
ふとオルトロスの背後を見ると、狩猟大会の参加者らしき男女が座り込んでいるのが見えた。恐怖のあまり腰が抜けて動けないらしい。神器で一方的に攻撃して倒そうかとも思ったが、避けられた場合に彼らに命中する可能性もある。こうなっては仕方がない。危険だが先程と同じように近距離戦を仕掛けることにする。この時、犬が口を開け、黒い炎がリゼたちに放たれた。オルトロスが覚えているダークフレイム・インフェルノ、特殊上級魔法だろう。
全てを焼き尽くすと言われている黒い炎はリゼたちの周りに円を描くように展開され、前後左右からまるで生き物のようにうねりながら迫ってくる。
オルトロスは勝利を確信したのか雄叫びを上げた。
「アビザル・サンクチュアリ!」
リゼはエリアスに抱きつきつつスキルを発動した。メリサンドが使っていたスキルで自分を中心として大量の水を周囲に激流として放出させるものだ。そして自分たちを囲むように結界も展開した。黒い炎と激流が衝突し、水が一気に蒸発した。黒い炎もかき消された。
「いきます!」
リゼはエリアスに合図をするとオルトロスへと距離を詰めにいく。オルトロスはしぶといリゼたちに苛立ちを隠せずリゼには右足の攻撃を仕掛け、エリアスには頭で噛みつこうとする。
「させない! ウィンドカッター!」
リゼは風の刃の軌道をうまく調整し、カーブを描きながらエリアスに噛みつこうとした頭に風の刃を命中させた。そして、オルトロスの右足の攻撃をかわし、間合いに入ったリゼは右の頭に神器で下から攻撃する。さらに右手の剣で切り裂いた。エリアスはすかさずスキルを発動させる。
「四連斬り!」
素早く左の頭に四連続で攻撃を加える。右の頭がリゼに噛みつこうとしてくるが、エリアスがジャンプして、上から剣を叩きつけると、頭は地面に叩きつけられた。リゼも追撃することにする。
しかしその時、尻尾の蛇がオルトロスの体の下から攻撃してきた。口を閉じ体当たりを仕掛けてきたのだ。それがエリアスに命中し、一瞬気が逸れたところで強烈な前足がリゼを後方に打ち付ける。
エリアスは木に打ち付けられるとその場に崩れ落ちた。リゼも地面に叩きつけられつつ、後方に転がった。
咄嗟の攻撃が当たってしまい二人とも起き上がることができない。リゼもエリアスも攻撃の衝撃と叩きつけられたことにより出血し、剣も手元から離れて転がっている。オルトロスはそんな二人を確認しつつ、今度こそ勝ったと雄叫びをあげると、勝ち誇りながらジェレミーを仕留めに歩き出す。アイスレイの効果で少し歩く速度が遅いものの、オフェリーは盾を持っていたが全てを諦めたのか盾を取り落とし、手で顔を覆うしかない。
「……」
リゼはうっすらと目を開ける。ぼんやりと見えるのはジェレミーに向かい悠然と歩み寄るオルトロスと必死に剣を取ろうと手を伸ばしているエリアスだった。エリアスは地面を這いながら、ファイアーボールをオルトロスに向けて放った。オルトロスはまるで小蠅を叩くかのように尻尾でエリアスを叩きつけて気絶させる。さらに前足でジェレミーたちの方へと蹴飛ばした。そんなオルトロスを見てオフェリーは意識が飛んだ。
(ありがとう、エル。おかげで私への注意が逸れている。衝撃耐性のおかげで、血は出ているけれど、持ちこたえられた。胸当てとスキルがなかったら死んでいたかも。うん、神器は少し離れていて取っている時間はなさそう。あれしかないよね。いまオルトロスの後方には狩猟大会の参加者もいない。避けられても大丈夫。絶対に当てるけれど)
リゼは上級ポーションをアイテムボックスより取り出す。そして地面に突っ伏しながら飲み干し、立ち上がった。リゼが立ち上がったことを左の頭が目視し、小馬鹿にしたような鳴き声を浴びせてくる。




